アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、チャット活用にまつわる“迷信”について概説する。

チャットツールの有効活用に向けて

チャットツールは、社内のコミュニケーションを効率化し、楽しくしてくれる魅力的なITである。ところが、チャットツールのビジネス活用を巡ってはいくつかの「迷信」があり、そのせいでチャットを使う利点が損なわれることが間々ある。

以下では、そうした迷信の中から代表的な5つを取り上げ、それがどのような問題を引き起こすかについて概説する。ぜひ、今後の参考にされたい。

迷信1:プライベートチャンネルを使うとコミュニケーションの効率性が上がる

結論から先に言えば、会社組織のチャット環境において、閉鎖的なプライベートチャンネルを持とうとするのは明らかに間違いである。それによってコミュニケーションの効率性がどう変化しようと、プライベートチャンネルを持つのは避けるべきと言い切れる。

チーム単位でプライベートチャンネルを持つのは誤りである。そうすることで、チーム外の同僚たちがチームの活動を他人事として受け止めるようになり、チームの課題解決に協力しようと考えなくなるからである。

このように、チャットチャンネルのプライベート化は、従業員同士、あるいはチーム同士のつながりを希薄化し、すべての物事を閉ざされたコミュニティによる独断で決めようとする動きを助長する。これによって組織の一体感は失われ、混乱が引き起こされる可能性が大いにある。また、チャットチャンネルのプライベート化によって「情報のサイロ」が乱立し、組織の生産性が低下していくことにもなる。

こうした問題は、すべてのチャットチャンネルをオープンにすることで解決できる。これは実にシンプルな施策だが、チャンネルのオープン化に当たっては留意すべき点がいくつかある。それは以下の3点だ。

  1. オープンチャンネルにはそのチャンネルの特性を端的に表す名前を付ける。これにより、場違いのメッセージがチャンネルに投稿されるのを未然に防げるようになる。また、「#help-」「#team-」といった社内共通の接頭語を用意しておくと、チャンネルの特性に対する社内的な理解が早くなる。
  2. チャンネルのトピックを決めて明記する。こうすることで、誰向けのチャンネルなのか、またチャンネルで対話すべきトピックを一定に保つことができる。
  3. 古いチャンネルはアーカイブするか、名前を更新して使い続ける。これにより、チャットの履歴をしっかりと保管できる。

もちろん、個人のプライバシー保護やコンプライアンス、あるいは情報セキュリティ上の理由から、プライベートチャンネルを使わざるをえないような場面もある。ただし、それ以外のケースでは、チャットチャンネルはすべてオープンにすべきであり、その原則に従うことを組織内で徹底することが大切である。

迷信2:「絵文字」を仕事上の対話で使うのは適切ではない

果たして、この迷信は誰が言い出したことなのだろうか。あきれるほどナンセンスな指摘である。

絵文字は、組織内でのコミュニケーションをスピードアップするうえで、極めて有効なツールだ。実際、ビジネスパーソンの中には、文章で自分の想いを正確に表現するのが苦手な向きがいる。そうした人でも、絵文字を使うことで、適切かつスピーディに自分の想いを相手に伝えることができる。しかも、絵文字は“愉快”であり、それを使った対話には組織の結束を強める効果も期待できる。

もちろん、絵文字の中には、ビジネス上の対話で使うのに不適切なものもある。例えば、自分の両親とのチャットで使えないような絵文字は、同僚とのチャットでも使うべきではない。

迷信3:チャンネルに対する参加/離脱の際には、毎回それを宣言する

特定のチャンネルに初めて参加する際にメンバーの全員に挨拶するのは良いことである。ただし、参加/離脱のたびに挨拶する必要は特にない。例えば、議論の途中でチャンネルから離脱するにしても、「皆さん、さようなら」といった挨拶は不要であり、それは雑音にしかならない。

迷信4:テキストベースの対話は仕事には向かない

チャットをビジネスで使う最大の利点は、コミュニケーションのスピードアップにある。例えば、ミーティングの時間に間に合いそうもないときに、「on my way!(今、向かっているところです!)」と入力する代わりに、「omw!」と入力して同僚たちに送る。これだけで同僚たちは、会議に遅れている私の状態を知ることができる。

また、同僚のジョークに対して、「LOL!」と返せば、その同僚は、私が「大笑いしている」ことを理解する。こうした略語(頭字語)によるスピーディなコミュニケーションは、テキストによるチャットだからこそ実現されるもので、他の手段では成しえない。

こうした英語文化で一般的な略語が公開されているので、興味のある方は参考にされたい。

迷信5:チャンネルにいる全員に通知される「@channel」は多用すべきではない

確かに、チャットのチャンネル全体にメッセージを送ることになる「@channel」を使う際には慎重さが要求される。ただし、メンバー全員に伝えるべきことがあるのであれば、ためらうことなく「@channel」を使うのが合理的だ。

ちなみに、「Slack」や「Microsoft Teams」などの広く利用されているチャットツールには、メッセージ着信の通知音を、着信時刻に応じて自動的にミュートする機能が備わっている。こうした機能を活用することで、業務時間外のメッセージ送信について、それほど気にする必要はなくなる。

一つ注意点として、会社組織の中には、職務上、常時“オンコール”の状態を保ち、緊急メッセージの通知音をオフにできない人もいるはずである。こうした相手には、緊急の要件ではない限り、彼らの眠りを妨げるような時間帯に「@channel」や特定の相手をメンションするメッセージを送信するのは避けたほうが無難である。

いずれにせよ、チャットツールの機能を使い、どのようなかたちで自分のメッセージを送出するかは、個々人の裁量に委ねられている。ゆえに、同僚たちも、@メンション機能を適切に使いこなしてくれると信じることが大切である。仮に、その使い方に間違いがあったとしても、それは彼らの責任であって、自分の責任ではないと割り切って考えたほうがいい。

迷信6:仕事用のチャット環境はFacebookとは違う。個人的な写真を共有してはならない

確かに、社内で使うチャット環境は、Facebookとは異なる。ただし、だからと言ってプライベートの写真の共有を禁ずる必要は一切ない。

そもそも、社内コミュニケーションの役割の一つは、従業員同士が互いのパーソナリティを知り、相互理解を深めることにある。したがって、チャットを通じて、プライベートな写真を同僚と共有するのは、社内コミュニケーションの正しいあり方であり、チームメイトとのつながりを強める効果的な手法と言える。

もっとも、チームの中には、自分たちのチャンネルでの対話を、仕事に関する話題のみに限定したいと考えるところもある。もし、あなたが所属するチームが、そのようなチームである場合には、趣味や娯楽に関するチャンネルを別のところで立ち上げ、参加者をオープンに募ればよい。こうすることで同僚たちのパーソナリティに対する理解が深まるはずである。

旧来の教えから学ぶべきこと

以上、チャット活用を巡る迷信について説明した。これらの迷信は、チャットに対する古い考え方から生まれた間違った活用のマナー、あるいは教えでもある。

ただし、旧来の教えの中にも、正しいものがいくつかある。本稿の最後として、その正しい教えについても紹介しておきたい。

【教え①】チャットの対話は電話のそれとは違う。ゆえに、「やあ、元気!?」と述べて、いったん話を区切り、相手の反応を待つようなことをしてはならない。「やあ、元気!?」という挨拶は、テキストチャットの世界ではまったく無意味な発言であり、そう言われた相手は、何の対話が始まったのかが理解できず、どう返答していいのかがわからない。そして結局は、「やあ、元気!?」のあとに続く相手の発言を待つことになる。これは、時間の浪費でしかない。
同様に、スピーディな対話が必要なときに、メッセージを一行ずつ送るようなこともしてはならない。たとえ、複数の段落に文章が分かれるとしても、チャットでの対話では、伝えたいメッセージを一気に送るべきである。

【教え②】ときとして、長い話し合いになりそうなトピックに招待されることがある。このとき、長い議論に対応できる時間があれば問題はないが、そうではないことが往々にしてある。そんなときには、まずはフラグを立てて、チャットに対応できない旨を相手に伝え、時間が作れた段階でチャットに戻るようにすればよい。こうすることで、議論の途中で、その場から解放してもらうという難度の高い作業をしなくても済むようになる。

【教え③】チャットによって業務が妨げられるのを防ぎたければ、自分のステータスを常に明示することが大切である。そのための有効な手段がない場合には、自分の働く時間を開示するだけでも構わない。
ちなみに、アトラシアンが行ったユーザーテストによれば、「DO NOT DISTURB(作業中です。邪魔をしないでください)」といった掲示は、周囲からあまり信じてもらえないらしい(要するに、少しぐらい邪魔をしても大丈夫だろうと思われがちとなる)。ゆえに、「会議中です」、あるいは「重要な業務に没頭中です」といった具体的なステータスを示したほうが有効であるようだ。また、自分のステータスを示すときには、自分のパーソナリティやユーモアを含ませたほうが、周囲に与える印象は良くなる。

当然のことながら、チャットによるコミュニケーションにも限界はある。例えば、テキストチャットでは対話する相手の表情や声がとらえられない。そのため、互いの考えや意図が思うように伝えられず、誤解を生むことも間々ある。そうした誤解を避けるためのツールとして絵文字は有効だが、すべてのビジネスパーソンが絵文字の扱いに慣れているわけではない。チャットによるコミュニケーション変革の道のりは、意外と長いのである。

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