『THE TEAM 5つの法則』
著者 :麻野 耕司[著]
出版社 :幻冬舎
出版年月日:2019/4/3
学術的な知見を駆使して「チームの法則」を提示
本書は、そんな麻野氏が、“チーム作りのプロ”としての知識・経験をフルに活かして書き上げた一冊だ。その最大の特色は、タイトルが示すとおり、優れたチームを作り上げるための手法を「法則」としてまとめ上げている点にある。
チーム作りの法則化を目的にしているため、本書では、チームをチームとして有効に機能させ、優れたパフォーマンスを発揮させる方法が、単純な精神論や経験則ではなく、経営学・心理学・社会学・言語学・組織行動学・行動経済学など、さまざまな分野の学術的な知見に基づきながら論理的に解説されている。しかも、平易な数式や図を使って「チームの法則」が明快に、かつ再現性・汎用性のあるかたちでまとめられているので、ビジネスパーソンのみならず、学生でも応用がきくかもしれない。
また、法則の実用例として、サッカーや野球、駅伝、柔道などのスポーツチームや「AKB48」といったアイドルグループ(チーム)などが取り上げられているので、法則に対して読み手が納得感を得るのも早いはずである。
「法則」の実践で売上げと時価総額が10倍に
本書に記されている「チームの法則」は、「Aim(目標設定)」「Boarding(人員選定)」「Communication(意思疎通)」「Decision(意思決定)」「Engagement(共感創造)」の5つに分かれ、それぞれを解説した各章(計5章)は、「Method(法則)」「Episode(具体的事例)」「Action checklist(チェックリスト)」という3つの要素で構成されている。そうした各章の概要は次に示すとおりだ。
- 第1章「Aim(目標設定)」:チームの目標をどう設定するべきかを解説。「行動レベルの目標設定」「成果レベルの目標設定」「意義レベルの目標設定」のそれぞれについて、実例を交えながら、メリット/デメリットを明らかにしている。
- 第2章「Boarding(人員選定)」:「環境変化の度合い」と「人材の連携度合い」の大小に基づいてチームを4タイプに分類。それぞれに必要な人材の選定方法を実例に基づいて示している。
- 第3章「Communication(意思疎通)」:チームメンバーの意思疎通を、効果的なルール作りと効率的なコミュニケーションによって実現する方法を取り上げている。具体的には、「ルールの設定粒度(What)」「権限(Who)」「責任範囲(Where)」「評価(How)」「確認頻度(When)」の4W1Hによるルールの決め方を提示し、メンバーのモチベーションやスキルを活用するコミュニケーション方法についても詳しく解説している。
- 第4章「Decision(意思決定)」:「独裁」「多数決」「合議」といった意思決定の方法について、それぞれのメリット/デメリットを明らかにしながら、適切に使い分けていく方法を提示している。ここで重要なのは、複数の選択肢に対して、選択基準を明確化し、優先順位をあらかじめ決めておくことであるという。
- 第5章「Engagement(共感創造)」:チームの成功には、何よりもモチベーション(動機づけ)が重要だとして、チームメンバーの「Engagement(エンゲージメント)」を生み出す方程式を掲げる。その方程式とは、「エンゲージメント=報酬・目標の魅力(やりたい)×達成可能性(やれる)×危機感(やるべき)」というもので、本章では、この方程式を基にエンゲージメントを最大化する方法を解説している。また、金銭報酬や地位報酬でだけでなく「感情報酬(理念への共感、仕事のやりがい、仲間とのつながりなど)」が重要だと強調する。
そして、巻末の最終章には、これら5つの法則を導き出した「Theory(学術的背景)」が紹介されている。具体的には、「私たちの運命を変えたチームの法則」として、著者のチームが「チームの法則」の実践によって、売上げを10倍に、社員の退職率を従来の10分の1に、会社の時価総額を10倍にした例が紹介されている。
何が重要かという「優先順位」の理解がミソ
言うまでもなく、「法則」は、そもそも再現性や普遍性がなければならず、その意味では、本書に書かれている内容を実践することで、どのような組織においても、優れたチームが出来上がるはずである。
ただし、人(ヒト)によって構成されるチームは、常に法則どおりに動くとは限らず、本書に書かれている内容を機械的に適用したとしても、チームが成功するかどうかは分からない。また、現実の世界では、法則が法則どおりに機能するような条件を整えるのも、なかなか難しいと言える。例えば、「Boarding(人員選定)」にしても、実際の企業の中で、本書に書かれている内容どおりに適切な人材を集められるケースはそう多くなく、大抵の場合は、会社から“与えられた人材”だけでチームを組織し、活動しなければならないのが通常だろう。また、人員を配置する際にも、人間関係やしがらみによって適所に配置することが困難なケースもある。
とはいえ、本書が示す法則には、ハイパフォーマンスなチーム作りに求められる要件が網羅的にカバーされており、そこからは、チームのパフォーマンスが何によって支えられ、高められるかの原理は理解できる。それを理解しておけば、少なくとも、チームの運営においては、それほど大きな間違いはおかさずにすむのではないだろうか。その意味で、チームの舵取りに悩むすべてのミドルマネジメントにとって、本書が有益な一冊であることは間違いなさそうである。