「はたらいて、笑おう。」をブランドスローガンに、国内外70社を超える企業群で構成されるパーソルグループ。そのグループ企業の一社であるパーソルファシリティマネジメント株式会社は、ファシリティの変革によって新しいワークスタイルの一つである「ABW(Activity Based Working)」を日本企業に定着させる取り組みに力を注ぎ、その一環としてパーソルグループのオフィス改革も進めてきた。ABWの文化醸成に役立つオフィス空間とはどのようなものなのか──。当事者に話を聞いた。

「会社がつまらない」は当たり前のことじゃない

パーソルグループは「人と企業の成長創造インフラへ」をグループビジョンとし、人材派遣から、人材紹介、求人広告、ITアウトソーシング、設計開発など多岐にわたる事業を展開している企業群だ。2016年に働く人の成長を支援し、輝く未来を目指したいという思いを込め、人は仕事を通じて成長し(PERSON)、社会の課題を解決していく(SOLUTION)を語源に現グループブランド「PERSOL(パーソル)」が始動した。

そんなパーソルグループが、自社の働き方を見直して生産性を高めるために取り組んでいる一つが、「ABW(Activity Based Working)」だ。17年設立のパーソルファシリティマネジメントが、グループ各社へのABW定着で中心的な役割を演じている。

その名称からも想像できるように、パーソルファシリティマネジメントは、“ファシリティマネジメント(FM)”のコンサルティングを専門に手掛ける企業だ。同社の基本戦略について、代表取締役社長の槌井紀之氏は「働くことや働く場所を、楽しいこと、楽しい場所に変えること」としたうえで、その戦略とABWとの関係を次のように説明する。

「例えば、日曜日の夕方になると、日本の多くのビジネスパーソンが“明日からまた会社か……”と憂鬱になり、その繰り返しが当たり前のことだと思い込んでいます。ただし、それは決して当たり前のことではなく、本来は、あってはならないことです。仕事にやりがいがあって、会社が楽しい場所であれば、日曜日の夕方に憂鬱になんてならない。当社はそんな楽しいワークプレイス作り、「はたらいて、笑おう。」を体現できるワークスタイルの創出を目指しており、そのための手法の一つとして追求しているのが、ABWです」

画像: パーソルファシリティマネジメント株式会社 代表取締役社長 槌井紀之氏

パーソルファシリティマネジメント株式会社 代表取締役社長 槌井紀之氏

ABWとは、仕事の内容に合わせて、働く場所、ツール、時間などを自由に選べる働き方を指す。オランダから始まった働き方でグローバル企業を中心に採用するケースが増えている。ABWに類似した概念として、フリーアドレスやリモートワークなどが挙げられるが、ABWは働き方に決まりがなく、働き手による選択の自由度が高いという特徴があるという。

「働く時間や場所に一切の制約がなく、自分の生産効率が最も上がると思えるスペースを選択しながら働くスタイルがABWです。ですから、働く場所としてオフィスにこだわる必要もなければ、逆にオフィスにこだわってもいい。また、昼食後に仮眠をとっても、それが自分の生産効率の向上につながるなら、まったく問題はないわけです」(槌井氏)

言うまでもなく、このような働き方が可能になった背景にはITの進化がある。今日では、モバイルPCなどの性能が上がり、社外のどこにいても、オフィスの自席にいるのと変わらない感覚で業務が行える。また、ともに働くチームのメンバーが離れた場所にいても、メールやチャット、Web会議などのツールを使い、必要なコミュニケーション/コラボレーションを進めることができる。

「このように考えていくと、ABWという新しい働き方の中で“オフィスはどんな役割を果たすべきか”という問いが浮上してきます。これはすなわち、従業員が場所と時間を選ばずに仕事ができる時代に、どうしてオフィスが必要なのかという問いかけです。私たちはその一つの答えとして、仕事には“知恵の交流”が必要だからという結論を導き出しています。

ITのツールがいくら発達しても、自宅などの社外で働くときは、基本的に一人で物事を考え、仕事を進めるのが通常で、“知恵の思わぬ交流”による気付きはなかなか得られません。一方で、オフィスでのオープンなコワーキングでは、自分で想定していなかったような、さまざまな知恵との出会いが期待できます。ですから、知恵の交流を活発化するような空間づくりが、これからのオフィスのキモだと考えています」(槌井氏)

画像: 南青山オフィスでは、社員のための仮眠室や卓球台などを備えた「チャージフロア」を地下1階に配置

南青山オフィスでは、社員のための仮眠室や卓球台などを備えた「チャージフロア」を地下1階に配置

ハードウェアが育む“知恵の交流”

では、槌井氏の言う“知恵の交流”を活性化させるオフィスとは、どのようなものなのか──。その一例としては、18年11月に南青山に移転したパーソルホールディングスの本社オフィス(パーソル南青山ビル)が挙げられる。同オフィスのフロア設計を槌井氏とともに手掛けたパーソルファシリティマネジメント PM第二グループ長の白井紗奈子氏は、新オフィスで目指したところを次のように説明する。

「南青山オフィスには約800人の社員が働いていますが、各人が業務内容や目指す成果に応じて働く空間を選べるよう、機能別にフロアを設計しています。目指したのは、社員が自分の働き方を自律的にデザインし、アウトプットを最大化できる空間です」

画像: パーソルファシリティマネジメント株式会社 PM第二グループ長 シニアプロジェクトアドバイザー白井紗奈子氏

パーソルファシリティマネジメント株式会社 PM第二グループ長 シニアプロジェクトアドバイザー白井紗奈子氏

では、槌井氏の言う“知恵の交流”を活性化させるオフィスとは、どのようなものなのか──。その一例としては、18年11月に南青山に移転したパーソルホールディングスの本社オフィス(パーソル南青山ビル)が挙げられる。同オフィスのフロア設計を槌井氏とともに手掛けたパーソルファシリティマネジメント PM第二グループ長の白井紗奈子氏は、新オフィスで目指したところを次のように説明する。

「南青山オフィスには約800人の社員が働いていますが、各人が業務内容や目指す成果に応じて働く空間を選べるよう、機能別にフロアを設計しています。目指したのは、社員が自分の働き方を自律的にデザインし、アウトプットを最大化できる空間です」

この言葉通り、南青山オフィスでは、役員陣との近い距離でのコミュニケーションや難易度の高い課題を可視化して解決するスペースを集中させた「オーセンティックフロア」や、新規事業の立ち上げといったプロジェクトワークに特化した「イノベーションフロア」、カフェやダイニングキッチン、ミーティングテーブルを配置し、社員同士の交流や開かれた空間でのワーキングを主目的にした「KNOT UNITED SQUARE(コミュニケーションフロア)」、仮眠・休憩用の「チャージフロア」など、機能別にフロアが分かれ、社員一人ひとりの目的に応じて最適な環境が選択できるようになっている。

画像: 南青山オフィスの「オーセンティックフロア」では、社長室前にフリーアドレス席が設置されているほか、スタジアム型ミーティングスペース、難易度の高い課題を可視化して解決するスペースなどが集中的に配置されている

南青山オフィスの「オーセンティックフロア」では、社長室前にフリーアドレス席が設置されているほか、スタジアム型ミーティングスペース、難易度の高い課題を可視化して解決するスペースなどが集中的に配置されている

画像: 南青山オフィスの「KNOT UNITED SQUARE(コミュニケーションフロア)」では、障害者が活躍するカフェやコミュニケーションダイニング、子ども連れで仕事ができる「DAD&MOMルーム」、ITトラブルに対応するサポートデスクなども設置

南青山オフィスの「KNOT UNITED SQUARE(コミュニケーションフロア)」では、障害者が活躍するカフェやコミュニケーションダイニング、子ども連れで仕事ができる「DAD&MOMルーム」、ITトラブルに対応するサポートデスクなども設置

もっともここで、一つの疑問が浮かび上がってくる。それは、社員が働く場所を自由に選びながら、他者と意見やアイデアを闊達に交わすような“風土”“文化”がなければ、フロア設計がどうであろうと、“知恵の交流”、あるいはABWは実現しないのではないか、という疑問だ。この疑問に対して、「それはむしろ逆で、社内の風土や意識の改革は、そのための物理的な空間がなければ始まらないんです」と槌井氏は語気を強め、こう続ける。

「働き方改革の最大の障壁は心の内にあり、それを取り払う最も効果的な方法がオフィスというハードウェアを変えてしまうことです。思い出してください。東西ドイツの統一のとき、あれほど早くドイツ国民の心が一つになれたのは、“ベルリンの壁”を市民たちが打ち壊したからではないでしょうか。それと同じく、チーム間の壁のないオープンな組織を作りたい、あるいは、組織の壁を越えた人材の交流を活発化したいと考えるなら、まずは“島型の机の配置”を変えたり、会議室を全廃したりすることが重要です。そんなふうにハードウェアが変わると、そこで働く従業員のメンタルモデルが変わり、行動も変わっていきます」(槌井氏)。

実際、パーソルにおける働き方改革の取り組みも、オフィスの「カタチを変える」ところからスタートしたという。

例えば、ABWの採用に先立つ7年前には、旧グループ本社の会議室をほぼ全廃した。「それを提案して遂行したのは私ですが、当時は周囲から猛反発を受けました。『部外者に内容を聞かせたくない会議もある。会議室の全廃なんてありえない』と。ところが実際にほぼ全廃してみると、会議室を取り合う時間や無駄な労力が劇的に減り、業務の進行がスムーズになり、かつ、オープンなマインドの醸成につながっていったんです」(槌井氏)。 

この会議室全廃ののち、『目的に応じて自分の働く場所を変える自主選択型の働き方』を取り入れた。これが現在実施しているABWのベースになっている。その後、経営統合などによってグループ各社の本社機能はいったん11カ所に分散したが、『異なるバックグラウンドを持つ企業同士のシナジーを強化する』という狙いの下、現在の南青山オフィスにグループ各社の本社機能を統合し、それを機にABWを本格的に採用することになったという。

画像: プロジェクトワークを組成することに特化した南青山オフィスの「イノベーションフロア」

プロジェクトワークを組成することに特化した南青山オフィスの「イノベーションフロア」

ABWの実践と効果

オフィス空間の変革を起点にしたABW──。その実践によって、どのような効果がもたらされているかも気になる点である。

現在、パーソルでは主に2つの指標を使って、ABWの取り組みの効果を計測している。1つは、1日の中で、どのくらいコワーキングをしているかの割合を示す「コワーキング比率」であり、もう1つは誰に、誰から刺激を与えたか/受けたかを数値化した「相互刺激人材」だ。ここでいうコワーキングとは、複数人が共同で行う作業のことで、ミーティングなども含まれるという。

南青山ビルは、ABWの取り組みを本格的に始めてから間もないこともあり、具体的な数値の分析は済んでいないが、先行してABWの取り組みを進めた外苑前オフィスの結果がある。それによれば、ABWの取り組みを行う前のコワーキング比率は33%だった。これは1日の業務時間のうち、3分の1はコワーキングの時間に当てられていたという意味だ。

「この環境でまず、机の配置やフロアデザインを変えました。その直後に計測したコワーキング比率は55%でした。つまり、オフィスのハードウェアを変えただけでコワーキング率が20%も上昇し、知恵の交流が活性化されたわけです。個人的にはハードウェアの力はもっと強いと思っていますが、この結果によって、少なくともハードウェアには人の行動を変える力があることは実証できたと考えています」(槌井氏)

こうしたハードウェアの変更の次に取り組んだのは、制度やルールの改善、新しい仕組みの導入といったソフトウェア面での変革である。

槌井氏によれば、ABWには、コワーキングの活発化を阻害しかねない欠点もあるという。なかでも最大の欠点と言えるのは、社員全員が働く場所を自由に選べるがゆえに、「誰が、どこで何をしているのか」「その社員は、どのチームに所属し、どんなスペシャリティを持ち、どんな職務を担っているのか」といった点が分かりにくくなることだ。

「そこで取り組んだのが、社員同士がお互いを知るためのコミュニケーション会(ゲーム大会や映画鑑賞など)の実施や、業務での困りごとや悩みごとを管理職にすぐに相談できる時間の設定です。管理職には1日のうちに30分などフリータイムを作ってもらい、必ず特定の場所にいてもらう。また、なんとなく同僚と一緒に集まるための時間と場所を決めておく。このようにハードウェアとソフトウェアをセットにして提供することで、67%にまでコワーキング比率が上昇しました」(槌井氏)

一方、相互刺激人材は、島型の机の配置などによる上意下達式のコミュニケーションを変えるための指標になるものだ。上意下達のコミュニケーションでは、指示やアイデア、経験の伝達といった「刺激」は、上司から部下への片方向で与えられるものだった。そこで、「誰から刺激を受けたか」を数値化し、割合を均一化していくことで、上司も部下から刺激を受けたり、社員同士で刺激を与え合ったりするような環境を目指していくという。

画像: ABWの実践と効果
画像: 白井氏が社員向けに作成した「ハッピーニューワークスタイル」

白井氏が社員向けに作成した「ハッピーニューワークスタイル」

ABWを成功に導く要件

ABWによって社員一人ひとりの働き方が変わるのであれば、当然、チームマネジメントの在り方も変えていかなければならない。そうした中で、大切にしてほしい考え方があるという。 

「とりわけ重要なのは『Go Ahead』と『Reach Out』です。この2つのスピリットを簡単に言えば、“ためらわずに突き進む”“どんどんアウトプットを出す”ということです。マネジメントは社員のそうした行動を、具体的な業務にまで落とし込んでサポートすることが大切です」(槌井氏)

業務への落とし込みとは、前述した管理職者と部下との対話の時間を設けることやコミュニケーション会の実施などを指しているという。この点について、メンバー7人を部下に持つ白井氏は次のように話す。

「私の場合、毎週月曜日にメンバー1人につき30分時間をとって1 on 1ミーティングを行っています。特に新人の場合、自分の意見を発信したり、質問を投じたりすることにためらいを感じがちです。そうしたためらいを察知し、『質問をするのは悪いことではない』『発信することを恐れてはならない』と明確に伝えていくことがチームリーダーの役割と感じています。メンバーの課題や悩み事にしっかりと向き合うのは、相応の時間を要しますが、パーソルグループでは誰かに協力したことで自分のタスクが遅れたとしてもそのことは責められません。また、人の課題に対応することで知恵の貸し借りも生まれやすくなります。そうした文化を企業として醸成していくことが大事ではないでしょうか」(白井氏)

以上のように、パーソルグループでは、ハードウェア面での施策によって、従業員の意識や行動に変革の波を引き起こし、制度やマネジメント、さらにはITのツールなど、ソフトウェア面の施策によってABWを社内に根づかせるという戦略を推進している。この取り組みはすでに成果を上げ始めているが、今後も改善・改革を重ねていくという。その点を踏まえながら、槌井氏はABWを成功に導く要件を以下のようにまとめ、話を締めくくる。

「ABWで忘れてはならないのは、この取り組みは従業員やチームの生産性を最大化してもらうための施策です。ですから、オフィス整備というハードウェア面での施策を含めて、取り組みのコスト対効果をしっかりと計測し、PDCAのサイクルを回していくことが大切ですし、オフィス整備ではファシリティのコストを徹底して適正化できる知識と選択眼を養うことも大切です。そのうえで、ハードウェアの施策も、ソフトウェア面での施策も、効果が出なかったら、何度でもやり直すといった思い切りが必要でしょう。

ABWの実現に会社組織の未来があると私は信じています。パーソルグループだけではなく、日本のより多くの会社にABWに取り組んでいただきたいと願っています」(槌井氏)


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