人材コンサルタントとして活躍し、話題の書籍『シリコンバレー式 最強の育て方』の著者でもある世古詞一氏が、日本のチームリーダーに向けて「ぜひ、知っておいて欲しいこと」を2つのテーマに沿って伝えてくれる。最初のテーマは、20代の若手社員と上手に付き合い、彼らの能力を引き出す方策である。

アドバイザープロファイル
世古詞一(せこ のりかず)
株式会社サーバントコーチ代表取締役/VOYAGE GROUPフェロー。
1973年生まれ。人事コンサルタント。早稲田大学政治経済学部卒後、日本企業を経て株式会社VOYAGE GROUPの立ち上げに参加。同社で営業本部長、人事本部長、子会社役員を務め2008年に独立。フェローを務めるVOYAGE GROUP社は、調査機関Great Place to Work ® Institute Japanによる「働きがいのある会社」に2015年~2017年の3年間、中規模部門第1位に選ばれる。著書に『シリコンバレー式 最強の育て方 ~人材マネジメントの新しい常識 1 on 1ミーティング~』(かんき出版/2017年9月)がある。

マネジメントの常識はもはや通用しない

「20代社員の価値観がまったく理解できない」──。そんな嘆きの声が日本企業のチームリーダーの間から漏れ聞こえてきます。確かに、今の20代の若者たちは、上の世代とは大きく異なる価値観を持っています。私自身、彼らと自分との価値観のあまりの違いに驚かされ、「ジェネレーションギャップ」を痛感させられることがよくあります。

そんな彼らには、これまでのマネジメントの“やり方”“常識”は通用せず、チームリーダーが戸惑いを覚えるのも当然と言えます。

とはいえ、仕事に対する価値観と能力の高低とは別問題です。また、20代社員を部下として招き入れた以上、チームのリーダーは、彼らからの信頼を得て、個々の能力を引き出さなければなりません。そのためには、自らの意識を変え、マネジメントのあり方を変え、ジェネレーションギャップを乗り越えていかなければならないのです。

画像: 株式会社サーバントコーチ代表取締役 世古詞一氏

株式会社サーバントコーチ代表取締役 世古詞一氏

20代部下は「社員」ではなく「賢い消費者」

20代部下に適したマネジメントを考えるうえで、まず覚えておいていただきたいのは、20代の若者たちは「賢い消費者」であり、それは会社の中でも同じということです。

今日の20代の多くは、少子高齢化が進む日本社会の中で大切に育てられ、自分の欲しいものなら、何でも与えられるような環境で過ごしてきました。結果、“賢い消費者”として自分にとってメリットのある何かを「選ぶこと」に長じていますが、一方で、「選ばれること」には価値や喜びをあまり感じなくなっています。

こうした20代社員にとって、仕事も上司も「選ぶ対象」です。自分にとって価値がないと判断した仕事や上司には関心を示さず、そうした上司からの意見を請うこともしなくなります。自分にとって無価値な「忖度(そんたく)」もしないので、「仕事上の付き合いだから」と飲みに誘ってもきっぱりと断ったりします。仮に“ノミニケーション”の場に来たとしても、手酌前提で上司のコップにビールを注ぐようなことは(強制されないかぎり)まずしないはずです。「それって、何の意味があるの。面倒だよねお互いに」と考えるのが、彼らです。

そうした態度は「完全利己主義」とも言えますが、常に賢い消費者であり続ける彼らは、自分の会社の商品/サービスに対しても、一切のフィルターをかけず、消費者視点で優劣を見極めます。その感覚と能力は上の世代にはないものと言え、それを最大限に活かすことができれば、会社の事業を変革できる可能性があるはずです。

以下、そうした可能性を踏まえながら、20代部下と上手く付き合い、彼らの能力を引き出すうえで留意すべきポイントについて紹介します。

ポイント①働く意味と目的を常に明確にする

賢い消費者である20代社員は、自分にとって意味のない物事や自分の目的と合致しない物事に関わりたくないという意識が強くあります。ですから、働くことにも意味や目的を強く求めます。「なぜ、この仕事を自分がやらなければならないのか」「それにどんな意味があるのか」「それは自分にとってどんなメリットがあるのか」といった具合です。

上司はこの問いかけに対して、明確な答えを持っていなければなりません。「上から言われたことは、とにかく素直にやれ」といった、古き時代の仕事のさせ方はまず通用しません。それをしたとたんに「自分の上司の言うことは意味がわからない」と判断され、信用・信頼を失いかねないのです。

ポイント②成長を実感させる

仕事に意味を求める20代は、自分の「成長」を目に見えるかたちで示してもらうことも望みます。それは昇給・昇格を意味しているのではありません。例えば、ゲームの世界で自分のステージが上がっていくのに似た感覚を、仕事でも得たいと望んでいます。

この感覚を彼らに持たせるうえでは、これまでできていなかったことができた際に、上司がそれをはっきりと承認すること──つまりは、言葉で明確に伝え、成長を実感させることが大切です。

ポイント③真っ向否定は禁物。「ドラクエ」の「村人」が理想と考える

20代部下の成長を促す際には、彼らの仕事のし方や考えを真っ向から否定するのは禁物です。というのも、今日の20代は、SNS世代でもあり、周囲から否定されることを極度に嫌う、あるいは恐れる傾向があるからです。

ところが、日本の上司は、部下の話を本当の意味で聞くことが総じて苦手で、聞いているふうを装いつつも、頭の中では「違う、違うそうじゃないって」と、否定のチャンス、指導のチャンスをうかがっていたりします。

このような態度で、20代の考えを半端なかたちで聞き流し、彼らの否定から指導を行おうとするのは絶対に避けるべきでしょう。大切なのは、まずは彼らの意見に本気で耳を傾けて、共感できる部分を探して肯定から入ること。そのうえで、「キミの意見も確かにそうだし、あとはこんなやり方もあるんじゃないか? どう思う?」といった具合に「提案」のかたちで、一つの方向性を示しながら、成長へと上手に導くことです。例えば、ロールプレイングゲームの「ドラクエ」に出てくる「村人」のように、「勇者」のレベルアップをサポートする絶妙なヒントを与え続けることが理想と言えるかもしれません。

ポイント④自分のほうが上という意識を捨て、教えを請う姿勢を貫く

上述したようなかたちで、部下の成長をサポートするのは簡単なことではありません。特に、部下よりも自分のほうが上で、経験・知識が豊富という意識が強いと、難しさがさらに増すことになります。

確かに、業務経験では上司が、部下よりも上である場合が多いはずです。ただし、変化の激しい今の時代では、過去の経験、知識、成功体験が意味を成さないことがよくあります。ですから、上司は業務上の経験・知識で部下よりも上との考えを捨て去り、常に部下から教えを請い、縁の下の力持ちとして、部下の活動をバックアップすることが大切です。

このことは、20代部下に対しても同様に言えることです。実際、20代部下は、上の世代の上司が知らないこと、あるいは理解できないことを数多く知り、理解しているはずです。ですから、上司は素直な気持ちで、彼らの教えを請いながら、新しい時代や20代部下への理解を深め、20代部下に活躍してもらうために自分はどう振る舞うべきかを考え抜くことが重要です。

ポイント⑤可愛いわが子は千尋の谷には落とさない

古い世代の人は、幼いときから聞かされてきた「獅子はわが子を千尋の谷に落とす」「可愛い子には旅をさせよ」といった故事成語・格言に意外と強く影響を受けています。そのため、少し見どころのある部下に対して、スキル、経験、能力以上の仕事を意図的に背負わせ、それによって飛躍を促すという人材開発の手法が使われることが間々ありました。これは、「役職が人を育てる」という考え方にも通じるものです。

実を言えば、私も創業期のVOYAGE GROUPで、20代で営業部長という能力以上の任務を背負うことになり、もがき苦しみながら、自分を成長させていったという実感があります。

ただし、仮に、私がどこかの会社のチームリーダーで、今の20代の部下にスキル・能力以上の仕事を任せるかと問われたとすれば、おそらく「ノー」と答えるでしょう。理由は、今日の20代は打たれ弱く、頑張りの限界点も低めだからです。ですから、能力やスキルを超えた仕事を任せると、相当のサポートをしない限り、当人がつぶれてしまう恐れがあります。「可愛いわが子は千尋の谷には落とさない」──。個別に観察をして、丁寧に育てていくことが重要です。

ポイント⑥人当りの良さに油断するのは禁物

今日の20代の若者が、上の世代から「行動が読めない」とされる大きな要因の一つに、内心とは裏腹の「人当たりの良さ」があります。

先に触れたとおり、今日の20代はSNS世代で、周囲から糾弾されること(要するに、「炎上」すること)を極度に恐れます。そのため、20代の多くに、「周囲に波風を立たせることは極力避けたい」という意識が強くあり、それが「人当たりの良さ」につながっていると考えられます。

ただし、そうした人当りの良さは、あくまでも表面的なものです。心の内側では「意味のわからないことはしたくない」といった意識が常に働いています。ですから、彼らの人当たりの良さに油断して、意味や目的の説明がないままに仕事を不用意に振ると、表面的には「承知しました」との快諾を得ながら、実際には仕事への対応を拒否されるという、上の世代の人間にはまったく想定できない行動を取られて愕然とする場合があります。

ですから、彼らの「人当りの良さ」を、上の世代が思う「社会性」であるとか、「大人の対応」とはき違えてとらえてはならず、常に内なる心の動きを慎重に見定めることが必要とされるのです。

信頼関係の構築がすべて

以上、20代部下の成長をサポートするうえでの留意点についてさまざまに述べました。これをお読みになり、「甘やかし過ぎではないか」と感じる方がいるかもしれません。

確かに、ビジネスの世界ですから厳しさを知ってもらうことも大切でしょう。ですが、小中高、あるいは大学に至るまで、常に消費者でいられた──つまりは、「お客様」でいられた彼らにとって会社組織というのはまったく異質な世界です。その世界に強制的に慣れさせる、あるいは、その世界の価値観を押し付けようとするのには無理があります。

ですから、企業が顧客との取引・付き合いにおいて、まずは信用・信頼を得るところから始めるのと同じように、20代部下に対しても、彼らの考え、要望に真摯に耳を傾けながら、仕事をすることの(彼らにとっての)意味・価値を明確に示し、信用・信頼を積み上げていくことが何よりも大切です。また、こうして20代部下との信頼関係が構築できれば、彼らもチームの一員として、それぞれが持つ能力をいかんなく発揮してくれるようになるはずです。

このようなマネジメントスタイルを貫くことは、大変な作業であるに違いありません。ただし、今日における20代の下の世代も、さらにその下の世代も、今の20代と同じような環境で育ち、同じような価値観を持って会社に入ってくる可能性が大きくあります。つまり、現在の状態は、これからも長く続くはずなのです。その意味でも、30代・40代のチームリーダーの方が担う役割は極めて大きく、これまでの常識を捨て、意識を変えて、20代のマネジメントに取り組む必要があります。またそれができるのも、30代・40代のチームリーダーの方しかいないのです。


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