「理想の上司」の条件
この調査はITmediaビジネスオンラインの協力により、2018年6月にオンラインアンケート形式で実施した。ホンネを示してもらう目的で匿名制を敷いた。
調査の目的は、直属の上司(以下、単純に「上司」と呼ぶ)に対する部下たちの評価を明らかにすること。部下たちは上司のどこに不満を持ち、どこを評価の対象にしているのか──。それを問うアンケートに対して725名から有効回答を得ている。そうした回答者の基本属性については稿末の「参考:本アンケート回答者の基本属性」を参考いただくとして、気になる結果からご覧いただきたい。
まずは、「理想の上司の条件」である。725人の回答結果は下図のとおりだ。
ご覧のように、理想の上司の第一条件は、仕事上のゴールを明確に示して、適切な指示・指導が行えること。要するに、部下が成すべきことを明確なゴールと目的を持って示せる能力の高さが最も重要であるようだ。それに加えて、仕事上の知識/スキルが高いこと、人に責任転嫁をしない誠実さ、熱意、公正さも理想の上司の大切な条件らしい。
これを逆にとらえれば、部下・チームに対して明確なゴールが示せず、適切な指示・指導が行えず、知識・スキルに乏しくて責任転嫁のズルさがあり、熱意に欠け、依怙贔屓(えこひいき)が激しく、人を色メガネに見るような上司は、理想の上司とは真逆の「ダメ上司」ということらしい。
この辺りは、昭和の時代──いや、古来より変わらぬ上司のあり方といえるかもしれない。
上司に不満と満足は半々
では、上司の理想を上記のように考えている部下たちは、現在の上司に満足しているのか、いないのか──。その問いに対する回答結果は下記のとおりである。
見てのとおり、「不満(「大いに不満」、「不満」)」が「満足(「大いに満足」、「満足」)」をやや上回っているものの、両者の間にそれほど大きな開きは見られない。
この結果をどう見るかは、人によってさまざまであろう。ある人は、「満足が想像以上に多い」と感じ、『日本の上司と部下の関係もまんざら捨てたものではない』と思うかもしれない。その逆に、『こんなに不満が多いのか』とショックを受ける方もいるだろう。
いずれにせよ、満足・不満の回答者数に大きな開きがない以上、データに強い示唆はないと言える。ただし、上司に対して「大いに不満」と答えた回答者が全体の14%を超え(人数にして100人余)、「大いに満足」の倍以上いるというのは気になるポイントではある。というのも、日本人は、こうした選択式の問いに対して、「大いに不満」「大いに満足」といった両極の項目を選ぶことが総じて少ないからである。
それを加味すると、上司に対して、かなりの憤懣(ふんまん)をため込んでいるビジネスパーソンが相当数いるとも考えられる。
また、「どちらでもない」と答えた方の、上司に対する見方・意識も気になるところだ。そもそも上司に関心がなく、「どちらでもない」と回答した方が多いのであれば、それはそれで問題だろう(ただし、今回はそこまでの追跡調査はしていない。その点はご容赦いただきたい)。
バブル世代と団塊ジュニア──部下の満足度はどちらが上?
今回のアンケート結果をもとに、上司の年齢(世代)で切って部下の満足度を調べてみることにした。ターゲットにした世代は、日本企業の「上司」の中で最も人数が多いと思われる40代上司と50代上司である。その部下の満足度を比べると下図のようになった。
この結果は、50代上司にとってはショックかもしれない。
上図のとおり、40代上司については、「満足(大いに満足、満足)」と評価される割合が、「不満(大いに不満、不満)」を大きく上回っている。ところが50代上司はその逆。もちろん40代上司は部下たちとの年齢が50代上司よりも近いうえに、仕事上のスキル・経験も50代上司と変わらぬレベルになっているはずである。
そう考えれば、部下の満足度が50代上司よりも高くなるのは当然と言えるが、これだけの差がつくのには、世代の特性が作用しているとも考えられる。
現在の40代は、団塊ジュニア世代に当たり、50代はバブル世代──。ご承知のとおり、バブル世代は、若手のころに「セールスすれば、した分だけ稼げる」「作れば作っただけモノが売れる」という時代を過ごし、それを成功体験として持つ人が多いとされる。
一方の団塊ジュニア世代は、バブル崩壊後の失われた20年の中でキャリアを積み、苦労を重ね、ビジネスの前線で活躍していたころにリーマンショック(2008年)による混乱も経験している。その辺りのバックグラウンドの差が、現在の部下の満足度の違いになって現れているのかもしれない。
10年後には団塊ジュニア世代も50代になり、代りにデジタルネイティブとされるミレニアル世代(2000年以降に成人を迎えた世代)が、日本の上司たちの中心を成す。そのときに同じ調査をしたら、どのような結果になるかも見てみたいところだ。
部下の不満のありどころ
もちろん、部下たちが上司に何に対して不満を抱いているかを知れば、50代、40代といった世代とは関係なく、自己に対する部下の満足度を高める一手が打てるはずである。
では、上司に不満を抱く部下たちは、上司のどこを問題ありと見ているのだろうか──。
それを示すアンケート結果が下図である。
ご覧のとおり、本稿の最初に示した「理想の上司の条件」を満たしていない点が、部下の不満のありどころであることがわかる。とりわけ、指示・指導・目標設定の曖昧さや自分なりのビジョン/意志の欠如は、部下から大きな反感をかうらしい。
ちなみに、上司への不満点を聞いたこの質問項目に対しては、フリーワードで上司に対する不満も多く寄せられた。そのいくつかを以下に紹介しておきたい。
『対話しているフリ、人の話を聞いているフリがイヤ』
『会社の愚痴や他人の愚痴を部下にする』
『上ばかりを気にしていて、部下のほうを見ていない』
『上長にいわれたからやるとか、自分の意思が存在しない』
『部下の功績を自分の手柄にする』
『チームを育てる意識が低い』……
言うまでもなく、上司が部下の満足度を高めるには、上図4に示した項目やフリーワードで指摘されているような行動、あるいはリーダーとしてのあり方を(仮に、心当たりがあるなら)改めることが必要だ。また、部下が自分に対して何をして欲しいかを理解しておくことも大切である。
ということで、今回のアンケートでは、自分のパフォーマンスを高めるために、上司に何をして欲しいかについても尋ねてみた。結果は、下図のとおりである。
ここでも、部下のミッションやゴールを明確に示すことの重要性が示唆されている。また、組織の上下・左右の関係を意識せず、誰もが自由に意見が出し合えるオープンな風土作りも、部下たちのパフォーマンスを引き出すうえで大切なことであるようだ。
所属チームの自己採点と課題解決のアプローチ
アンケートでは、回答者の所属チームのパフォーマンスについても尋ねている。回答結果は下図のとおり。
ご覧のとおり、「非常に高い」と評価する回答者は全体のわずか3%程度。「高い」と思う向きも全体の4分の1程度で、残りは「普通」か、それ以下の評価。所属チームのパフォーマンスをネガティブにとらえている回答者が非常に多い。
また、所属チームのパフォーマンスの悪さを、上司の問題と見る向きも多いようだ。実際、所属チームのパフォーマンスが「低い」「非常に低い」とした回答者の30%近くが上司に「大いに不満」を抱き、「不満」と合わせると66.4%に達している。
では、こうしたチームのパフォーマンスを向上させるには、どうすればよいのか。そのヒントとなりうる結果が下図である。
これは、所属チームのパフォーマンスが「低い」「非常に低い」とした回答者が、パフォーマンスを高めるために何が必要かを回答した結果である。
ご覧のとおり、チーム各人のミッション/ゴールの明確化、公正な評価、トレーニング、オープンな風土の醸成、情報の共有などを求める声が多い。
これらすべての実現が、上司の責務というわけではない。だが、チームパフォーマンスを高めるための重要なアプローチであることは間違いないと言える。
以上、本稿ではアンケート結果を基に、上司に対する部下たちの評価を見てきた。チームを率いる立場の方には、ぜひ参考にしていただきたい。
とはいえ、部下たちの一方的な意見だけでは組織の本質はとらえられない。またそもそも上司たちにも言い分があるはずである。ということで、このアンケート調査企画の後編として、部下に対する上司の満足度・評価を示すことにする。ご期待されたい。