アトラシアン本社の情報サイト『Inside Atlassian』より。Teamwork Labシニア・プリンシパル・リサーチャーのコナー・ドネガン(Conor Donegan)が、最新の調査データをもとに、職場でのAI利用を正直に明かした社員がかえって不利益を被る"正直者が損をする"構造を明らかにし、その偏見を解消するために組織文化をどう変えるべきかを論じる。
本稿の要約を10秒で
- AI利用率94%の今、課題は導入ではなく「正直に言えるか」に移っている
- 同じ成果物でもAI利用を明かすと"怠け者"と見なされ、推薦意向が大幅に下がる
- 「チームのため」という伝え方で偏見は和らぐが、根本的な解消には至らない
- リーダーが率先しAI活用を称賛する文化をつくることで、烙印は消すことができる
アトラシアンのTeamwork Labによる最新の調査が、職場におけるAI活用の核心的な矛盾を浮き彫りにした。AIの利用そのものはほぼ当たり前になったにもかかわらず、それを受け入れる意識は大きく後れを取っているのだ。
主な調査結果
- 職場でのAI利用はほぼ当たり前になっており、社員はその事実を驚くほどオープンにしている。米国のナレッジワーカー(知識労働者)の94%が仕事でAIを使っていると回答し、そのうちおよそ4人に3人が上司や同僚にAI利用を公言している。
- しかし、AI利用を明かすと大きな代償を払うことになる。米国のナレッジワーカー約1,000人を対象とした比較実験では、AI利用を公言した架空の同僚に対し、被験者は10倍「怠けている」と評価し、注目度の高いプロジェクトへの推薦意向も24ポイント低下した。アウトプットの質がまったく同じであってもだ。
- 伝え方で差は出るが、黙っているほうがまだ安全。AI利用を「チームのため」と説明した社員は、「自分の効率化のため」と説明した社員に比べ、努力の評価が11ポイント、推薦意向が8ポイント高かった。しかし、どちらのグループもAIに一切触れなかった社員よりはるかに低い評価にとどまった。
- 本質的な解決策は組織文化にある。AI活用を積極的に称賛する企業では、"怠け者"の烙印はほぼ消滅し、AI利用を公言した社員はむしろ公言しない社員より効率的だと評価された。
正直者が損をする時代
職場でのAI利用を隠す時代は終わった。ナレッジワーカーの94%が先月AIを使ったと回答し(うち3分の2は日常的に利用)、しかもそれを隠していない。約80%が上司や同僚に対して完全にオープンにしている。
図1:ほとんどの社員はAI利用を隠していない
職場でAIを使う際、上司・同僚にどの程度オープンにしているかを示す。
- 積極的に公言(Vocal or open):上司に対し79%、同僚に対し76%
- あまり話さない(Quiet):上司に18%、同僚に22%
- 隠している(Hidden):上司に3%、同僚に2%
→ 大多数がAI利用をオープンにしており、隠す人はごく少数。

しかし調査の結果、AI利用を明かすことには大きな職業的代償が伴うことがわかった。まったく同じ成果物を評価する場合でも、同僚はAI利用者を10倍「怠けている」と見なし、注目度の高いプロジェクトへの推薦意向は24ポイント低下した。AI利用を隠す風潮は薄れつつあるが、偏見は依然として根深いことを示している。
図2:AIペナルティ
AI利用を明かした場合と明かさなかった場合の評価の差を示す。
- ネガティブ評価(怠け者に見える):開示あり30% vs. 開示なし3%
- ポジティブ評価(注目プロジェクトに推薦する):開示あり47% vs. 開示なし71%
→ AI利用を明かすだけで"怠け者"認定が10倍に跳ね上がり、推薦意向は24ポイント下落する。

これらの知見は、米国のナレッジワーカー961人を対象とした比較実験と、AI導入・意識に関する1,006人規模の定点調査(パルスサーベイ)を並行して実施した結果に基づいている。実験では、被験者にまったく同じ文章を評価させた。主な変数は、その文章の作成にAIが使われたと伝えるかどうかだけだ。AI利用が明かされた場合、評価者は作成者を「明らかに怠けている」「信念がない」「推薦に値しない」と判断した。
これらのデータが示しているのは、AIの導入スピードに組織文化が追いついていないという現実だ。会議でどこまで共有するか、いつ上司をCCに入れるか、成果をどうスマートに自分のものとするか——こうした従来の職場規範は、長い時間をかけた観察と暗黙の学習によって形成されてきた。しかしAIには、そうした助走期間がない。社員たちはまったく新しいマナーをリアルタイムで手探りしている状態であり、データが示すとおり、判断を誤れば実際に代償を払うことになる。
「これはテクノロジーの問題ではなく、社会と文化の問題だ」と、Teamwork Lab責任者のモリー・サンズ(Molly Sands)は語る。「企業は社員にAIを使えと言っておきながら、社員同士はAI利用を正直に明かした人を罰している。リーダーが文化を変えない限り、それはAI戦略ではない。AI矛盾だ。」
"怠け者"の烙印は確かに存在する。だが、消す方法はある。
AI利用は「自分のため」ではなく「チームのため」と伝える
「時間の節約になった」と説明した社員に比べ、「チームやクライアントのために活用した」と伝えた社員は、努力の評価が11ポイント高く(45%→56%)、推薦意向も8ポイント上回った(43%→51%)。しかし、どちらのグループもAIに一切触れなかった社員の評価には遠く及ばなかった。
組織文化こそが真の差別化要因である
AI活用を積極的に称賛する企業——同僚やリーダーが率先して使い、成果を共有する文化がある職場——では、"怠け者"の烙印はほぼ消滅し、AI利用を公言した社員はむしろ公言しない社員より効率的だと評価された。
図3:称賛する文化がペナルティをプラスに変える
AI文化が「中立」→「称賛」に変わったとき、各評価指標がどれだけ改善するかを矢印で可視化。
- 誠実さ、専門性、成果物の質、チーム優先、推薦意向などはすべて大幅に改善(ただしゼロ以下=非開示者より不利な領域にとどまる項目も多い)
- 「仕事が速い」「怠け者に見えない」の2項目はプラス圏に到達し、AI利用を明かした社員がむしろ有利に評価される
→ 文化の力でペナルティは大きく縮小し、一部の指標では逆転して"ボーナス"になることを示している。

アトラシアン自身の調査*1をはじめとする先行研究が一貫して示しているのは、AI活用を称賛する文化はまだ一部に集中しているということだ。テクノロジーに積極的な業界や、AIツールの導入歴が長い職種に偏っている。つまり、ある職場では信頼を得る行動が、別の職場では疑いの目を向けられるのだ。
「職場間の格差は、多くの人が思っている以上に大きい」とサンズは言う。「私のようにテック業界で働いていると、AIをまったく使っていない人のほうが説明を求められる。でも今回の調査結果を見れば、私の経験はあくまで例外だとわかる。大多数の社員は、同じオープンさがリスクになる環境で働いているのだ。」
まとめ
企業のリーダーたちは何年もかけてAI導入の課題を解決しようとしてきたが、その戦いはすでに決着がついている——ナレッジワーカーの94%がAIを使っているのだ。今、はるかに難しい新たな課題となっているのは、文化的な副作用である。企業が「大切だ」と掲げる正直さそのものを、社員が実践すると罰せられる環境だ。
これは単なる士気の問題ではない。戦略上のリスクだ。AI利用を正直に明かせば"怠け者"扱いされると学んだ社員は、合理的な判断として口を閉ざすようになる。そしてAI利用が水面下に潜った組織は、そこから学ぶ力も、うまくいっている手法を広げる力も、問題を早期に発見する力も失う。
「社員の努力だけでは解決できない」とサンズは言う。「『チームのためにAIを使っている』と伝えれば偏見は和らぐが、消えはしない。本当の解決策は文化だ。リーダーが率先してAIを使う姿を見せること、チームがAIを近道ではなく共有ツールとして扱うこと、そして組織が見た目ではなく成果を評価すること。それに尽きる。」
調査方法
本調査は、2つの補完的なデータソースに基づいている。
- 比較実験:2026年3月30日から4月7日にかけて、米国のフルタイム勤務のナレッジワーカー961人を対象に実験を実施した。全参加者に、同一の架空の同僚が作成した同じ成果物(ビジネス提案を要約したメール)を評価させた。唯一の変数は、その成果物がどのように作成されたかを説明する短い注記——AIへの言及なし(対照群)、またはAI利用の開示(詳細度や動機の説明を変えた複数パターン)——だけだった。参加者はその同僚を、努力度、能力、怠惰さ、注目度の高いプロジェクトへの推薦意向など複数の観点で評価した。また、自分のチームにおけるAIの規範意識——「禁止」から「称賛」まで——についても回答を求め、組織文化が"怠け者"の烙印を緩和するかどうかを検証した。
- 定点調査(パルスサーベイ):2026年4月24日から5月6日にかけて、米国のナレッジワーカー1,006人を対象に、AI導入状況、利用パターン、開示行動、意識に関する二重盲検調査を実施した。回答者は業界、職種、役職、世代を横断している。調査では、AIの利用頻度、統合の深さ(単発利用からチーム全体の標準ツールまで)、上司や同僚に対するAI利用の公開度を測定した。
出典・参考文書

