アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。アトラシアンのHead of AIであるシェリフ・マンスール(Sherif Mansour)が、シドニー本社でPeople Teamのメンバー180人を前に、通常の話し言葉をオーストラリア英語のスラングに変換する「Aussie Lingo Buddy」エージェントをRovo上で組み上げてライブ実演した場面を題材に、たった一度の“やってみせる場”がRovoの利用率を一気に押し上げ、チームのAI活用マインドをどう動かしたのかをひもとく。
本稿の要約を10秒で
- リーダーが自分の仕事に紐づけてAI活用を「やってみせる」と、メンバーのAIへの抵抗感が下がり、日常業務に組み込みやすくなる。
- うまくいった例だけを見せるのではなく、誤りや限界も含めてオープンに扱うことで、現実的な使い方が腹落ちする。
- 具体的な宿題や次の一歩を提示することで、各自の行動変化へとつなげられる。
なぜリーダーによるAI活用の「やってみせる」がこれほど強い効果を生むのか
多くのチームはいまだに、仕事の場でのAIについてどう向き合うべきかを模索している。
アトラシアンのAIコラボレーションレポート*1によれば、AIの使い方を見せる取り組みは一定の効果をもたらしているものの、それだけでは本格的な導入や社員全体の意識変革につながらない場合もある。
職場でどのように協働するか、その「雰囲気づくり」を担っているのはリーダーである。新しいことにどれだけ前向きに試してみるかというリーダーの姿勢は、チームメンバーの取り組み方にも影響し、変化を促す力を持っている。
自分のマネージャーやリーダーがAI活用の実例をその場で見せる様子を見た人は、
- 1日を通してAIを使って仕事をする可能性が4倍高く、
- 「戦略的AIコラボレーター」(単なるお試しではなく、仕事を良くするために意図的にAIを活用する人)である可能性が3倍高かった。
これらの結果は十分に説得力があったが、私たちは「本当にそうなのか」を確かめるため、さらに詳しく分析することにした。
複数のグループ間で週次アクティブユーザー数の推移を追跡したところ、この期間中、すべてのアトラシアン社内組織でRovoの利用は少しずつ増加していたが、その中にひとつだけ大きな「例外」があった。
シェリフのデモを見たPeople Teamでは、Rovoの利用がなんと90%も増加していたのだ。
研究者やデータ分析の専門家が集まった私たちとしては、このような「打ち上がり方」を目にして、思わず歓喜した。

リーダーは「これってずるいのでは?」というためらいを取り払う
AIを自社で開発しているような会社でさえ、多くの人が心の中ではひそかにこう考えているものだ――「これは本当に自分のためのものなのだろうか?自分の仕事に使ってしまって本当に大丈夫なのか?これって……ずるいことなんじゃないか?」と。
リーダーがAIの使い方を見せることは、こうした疑問を払いのけるうえで大きな効果を発揮する。シェリフのAI活用を見せる場でも、彼は参加者をわくわくさせ、場の緊張をほぐしていた。しかし、その後にRovoの利用が急増した背景には、尊敬されるリーダーとして彼がそれまでに築いてきた信頼があった。
マネージャーやシニアリーダーがチームの前でAIを実際に使ってみせると、そこには明確なメッセージが込められる。「AIを使うことは“許される”どころか、あなたの仕事の取り組み方そのものを変革しうるものだ」ということだ。
リーダーが人材評価の準備をしたり、戦略資料を要約したり、組織変更の案内文を書くためにAIツールを使っている姿を見れば、AIはチームを支える一員なのだという見え方に切り替わる。
行動科学の言葉でいえば、これは社会的証明である。「自分と同じような立場にいて、自分が信頼している人たちも、これを当たり前にやっているのだ」と感じられるからだ。
「“だから何なの?”問題」に立ち向かう
たしかに、どんなAIツールが動いているところを見ても、それ自体は十分に印象的だ。家族の写真をスタジオジブリ風のアニメに変えてみたり、リビングに敷くラグの候補をいくつも試してみたり――そんなことはできるかもしれない。だが、それが自分の仕事と一体どんな関係があるのだろうか。
リーダーが、実際の業務にAIをどう使えるのかをチームに示すと、人は単に感化されるだけでは終わらない。長い目で見て、行動そのものを変えるようになる。
それは「だから何なの?」という感覚を、「自分なら何ができるだろう?」という発想へと切り替えてくれるのだ。
リーダーがチームにAI活用の具体例を示す4つの方法
シェリフが見せたような良い「やってみせる」の場は、AIを完璧で絶対に間違えない存在だと装うことではない。むしろ、その粗さや限界も含めてさらけ出し、人間の判断がどこで必要になるのかをきちんと語り、「どんどん試してみていい」というメッセージをはっきり伝える。そうした要素の組み合わせが、シェリフのRovo活用を見せたあとの利用データのうえにも、はっきりと表れていた。
1. チームが「つらい」と感じている仕事をあえて選ぶ
きっと、もう心当たりがあるはずだ。
どのチームにも、嫌悪感を抱くタスクや一連の作業が存在する。チームが常に不満を漏らすような、手間で頻繁に発生するタスクを選ぶのが良い。もしそれが誰かの週次タスクリストに載らない、あるいはチーム全体から忌み嫌われているわけではない場合、引き続き探すべきである。
いくつかのアイデア
- 長文ドキュメントをブリーフィングに変える
PeopleOpsリードが6ページのポリシーページをRovo(もしくは別のAIツール)に放り込み、こう指示する。
「マネージャー向けと業務委託向けに、それぞれ3つの箇条書きで要約せよ。」 - プロジェクト計画やステークホルダー向けアップデートのたたき台を作る
マーケティングリードがキャンペーンブリーフを用意し、こう促す。
「このローンチの内容を、150語以内で要約してSlack投稿案として#cm-announce向けに作成せよ。」 - 顧客フィードバックやサポートチケットを要約する
プロジェクトマネージャーがNPSコメントを貼り付け、こう尋ねる。
「顧客が挙げている主な懸念は何か。上位3つを、平易な言葉で示せ。」
狙いは、「なるほど、これなら自分の仕事が楽になるかもしれない」とチームに思ってもらうことだ。
2. その場で一緒に手を動かす
リーダーがAI活用を見せる場は、必ずしも完璧である必要はないが、きちんと練られていることが重要だ。作り込まれたスライド資料にこだわるのではなく、少し肩の力を抜いた雰囲気や、多少の粗さ、リアルタイムなコラボレーションを優先するべきである。
リアルタイムなコラボレーションのアイデア
- 画面を共有しながら、自分が何を考えているかを言語化する。
どこをクリックしていて、なぜそうしているのかを、そのまま見せる。「このリーダーとのタレントレビューに向けて準備をしていて、この一年の情報を簡潔に把握したい」といったように、自分が何を達成しようとしているのかを声に出して伝える。 - その場で、プロンプトをチームから募る。
「ここでRovoにはどうプロンプトを投げるだろう?」と問いかける。ビデオ会議や会場から出てきた案をその場で試してみる。もしイマイチな結果に終わっても、それもまた有用な学びである。 - 全員に一緒に手を動かしてもらう。
メンバーそれぞれに、自分なりのバリエーションを試してもらう。成功の条件はシンプルで、「自分の仕事に関係するプロンプトを、誰もが少なくとも一つは実際に試してみた状態で場を終えること」だ。大事なのは、小さな一歩を積み重ねることである。
自分の役割は、「発表者」ではなく「みんなで行う実験を進行するファシリテーター」だと考えるべきである。
3. 限界を正直に伝える
どれだけ入念に準備した見本の場であっても、完璧さを装おうとすると、かえって逆効果になることがある。どんな道具にも弱点があるように、AIにも弱点がある。実際に自分たちがどう使っているのかを見せるつもりで、やり直しやブラッシュアップに加え、ときには起こりうるおかしな誤解や幻覚の例までも含めて見せる場として活用するべきである。
AI活用の「つまずきポイント」を一緒にほどく
- その場でレビューして手直しする。
「この一文は少しあいまいだから、もう少し締めたい」「この部分はチームの四半期目標のニュアンスを拾えていないので、書き足す」といったことを、その場で口に出しながら直していく。 - ツールの間違いは、そのまま指摘する。
AIツールも完璧ではない。Rovoが古いポリシーを引っ張ってきたり、リスクを軽く扱ってしまったりしたら、ちゃんとその場で指摘する。事実をどうダブルチェックするのか、どんな場面ではAIだけに頼らないのか(例:評価決定、法的な約束ごとなど)も合わせて説明する。
この率直さは、完璧に作り込まれた台本よりも大きな信頼につながる。完璧さを目指すのではなく、AIと一緒に考えるとはどういうことかをチームに教えることに集中するべきである。こうしたアプローチには、根強いAI懐疑派の一部を前向きな姿勢に変えていくという副次的な効果もある。
4. 試しながら、次に取るべき一歩まで示して締めくくる
「何か質問はありますか?」で締めくくらず、具体的な進め方と、できればちょっとした宿題までセットで示すべきである。
- 「今週は、AIツールを一度だけでいいので〇〇に使ってみてほしい。たとえば次のスプリントアップデートやポリシー要約などだ。次回のスタンドアップまでに、“うまくいったこと”か“イラッとしたこと”を一つ持ち寄ってほしい。」
- 「今週試せるAI活用のアイデアを一つ考えてほしい。どんなに小さくても構わない。来週、うまくいったこと/うまくいかなかったことを一緒に振り返ろう。」
こうした具体性こそが、「ちょっとすごいデモ」を、実際の行動変化へとつなげるカギである。リーダーとして築いてきた信頼と影響力を生かすことで、組織全体に長く続く変化を生み出すきっかけになりうる。
まとめ:オープンなリーダーシップこそが成果を生む
リーダーがAI活用の場をつくって「やってみせる」ことには、大きな効果がある。
優れたマネージャーは、AIの見せ方において、創造性や実務への応用に加え、ほどよい謙虚さも織り交ぜている。
メンバーのことを第一に考えて丁寧に設計すれば、チーム全体を次の(もっとすばらしい)ステージへ導くきっかけになる。
出典・参考文書

