アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのジェネヴィーヴ・マイケルズ(Genevieve Michaels)が、チームや個人が日々の仕事を「何のためにやっているのか」という目的と結びつけ続けるために、プロジェクトドキュメントや目標設定、ふり返りの習慣をどのように設計し、実践していけばよいのかを説く。
本稿の要約を10秒で
- 仕事の「何のために」を全員で共有し、日々の仕事の選択や優先順位とつなげ続けることが大切。
- プロジェクトドキュメントやタスク、目標を、常に目的やゴールとセットで記述することで、迷いを減らせる。
- 定期的な振り返りで、成果だけでなくトレードオフや失敗も言語化し、次の判断材料にする。
- 完璧さよりも、「目的に近づく一歩」を積み重ねることにフォーカスする。
すべての仕事には目的がある。企業は遊びで何かをつくっているわけではない(たとえ、ときどきは楽しみながらつくっていたとしてもだ)。だが、その目的は世界を変えるような壮大なミッションである必要はない。端的に言えば、5年後でも、次の四半期でも、今週末まででもいいが、「達成しようとしている成果」のことだ。
難しいのは、その目的(なぜ)とのつながりを保ち続けることだ。だがそれは不可能ではないし、そうすることで、チーム全体は単に生産性が上がるだけでなく、より自律的に動けて、仕事の充実感も高まる。
「なぜ」から始める理由
もし自分の会社を一艘の船だと考えるなら、「目的」は北極星にあたる存在だと言える。北極星があるからこそ、乗組員や航海士、船長といった全員が、同じ目的地に向かって進み続けられる。その指針がなければ、どの航路を取るべきかをめぐってチーム内で議論や対立(最悪の場合は反乱)すら起きかねないし、「どこへ向かって航海したか」ではなく、「何マイル進んだか」という距離ばかりに過度にこだわってしまうかもしれない。
私は同じパターンを何度も目にしてきた。たくさんリリースしているのに「なぜそれをやるのか」という目的がはっきりしていないチームは、立派なチェンジログだけが増え、ビジネス指標は横ばいのままになりがちだ。その一方で、四半期ごとに2~3つの成果を定義し、すべての仕事をそれらの成果に紐づけているチームは、より良いトレードオフができ、燃え尽き感も少ない。「納期に間に合わせるための仕事」ではなく「目的にかなった仕事」だと感じられるのだ。
— アトラシアン プロダクトマネジメントエヴァンジェリスト アクセル・ソリア(Axel Sooriah)
それでは目的地にたどり着けないだけでなく、その道のりの仕事もひどくつらいものになってしまう。
対照的に、「目的(なぜ)」を起点にリードするとは、次のような状態である。
- より速く、納得感のある意思決定ができる: 人が惰性で仕事をしていないとき、自分たちの目標にかなうのであれば、すばやく方向転換したり柔軟に対応したりできる。「何をするか」だけでなく「なぜそれをするのか」という(なぜ)を理解しているので、目的地にたどり着くために必要なことを自分たちで判断して動ける。
- 仕事がより満足度と充実感の高いものになる: 人はミッションドリブンな会社(明確な使命に基づいて動く会社)で働くときのほうが、幸せだと感じやすい*1。よく分からない巨大な仕組みの「歯車」として動かされている感覚ではなく、「目標を支えている実感」を持って働けるほうが、はるかに充実感が高い。
- 優先順位付けがより明確で、ムダが少なくなる: 明確な目的がなければ、「次に何に取り組むべきか」を判断するのはずっと難しくなる。「自分たちの『なぜ』」がはっきりしていると、どこに時間や人・お金といったリソースを割くべきかの判断が、ぐっとしやすくなる。
- チーム横断のコラボレーションがしやすくなる: 他のチームが「実際には何を達成しようとしているのか」が分かっていると、コラボレーションは一気に効率的になる。逆に、「何をしているか」だけで「なぜそれをしているか」を共有できていないと、同僚は本当の意味での全体像を把握することができない。
これらすべてが積み重なって、ビジネスの成果が向上していく。先ほどの例で言えば、もし自社の最優先事項が顧客維持であれば、オンボーディング(サービスやプロダクトの導入・初期体験)に注力することになるだろう。逆に、オーディエンスの拡大や需要創出に力を入れているのであれば、ブランドへの投資に時間やリソースを割くのが理にかなっている。
目的(なぜ)が見えなくなるとき
北極星が見えていないからといって、チームがいい仕事をしていないという意味ではない。全体像としての大きな目標をはっきりさせることは簡単ではないし、その明確さは必ずしもチーム自身のコントロールの範囲内にあるとは限らない。
目的はたいてい経営層から示されるものだが、もし航海の海が霧に包まれているような状況でも、チーム側で見通しをよくするためにできることはいくつかある。
- シニアマネジャーは、経営層と直接話せる場で目標の明確化を求めたり、四半期ごとのアラインメントミーティングを提案したりできる。
- マネジャーは、これから挙げるようなプラクティスを試すことができ、チームメンバーも「見通しがない」と感じるときには、それらの実践を求めることができる。
- 個人としては、自分が把握している範囲の目的や目標に照らし合わせて、仕事や成果、進捗報告をできるかぎり位置づけて説明するように努めることができる。
目的(なぜ)をチームで共有する7つの実践
意図して取り組めば、目的(なぜ)を常に身近に保つことができる。そのための方法は決して謎めいたものではなく、小さく、繰り返し実践できる取り組みを積み重ねていくことに尽きる。こうした習慣を、自分たちの船を北極星に向かって進ませ続ける羅針盤だと考えてほしい。
取り組み1: アウトプットではなく、成果で考える
アウトプットは「何を作っているか」に焦点を当てる一方で、成果は「なぜそれを作っているのか」に焦点を当てる。自分たちは何を達成しようとしていて、それは会社にどんな価値を生み出すのか?
期日どおりにある機能をリリースすることは、「チームとして達成する」と合意した具体的なタスク、つまりアウトプットだ。一方で、「よりよいユーザー体験を提供すること」は成果であり、たとえばサポートチケットの減少といった指標で測ることができる。
目的が曖昧だと、「成果重視のパラダイム」から「アウトプット重視のパラダイム」へと、知らないうちにずれてしまうのは簡単だ。アウトプットが重要ではない、という意味ではない。ただし、生産性や成功を測るうえで最適な指標ではない、ということだ。
取り組み2: ゴールは、人に伝わるシンプルな言葉で表す
ゴールは、ビジネス用語や専門用語を多用したかたちで書かれることがよくある。しかしそれは、かえって「何のためにやるのか」という目的を見えづらくしてしまう。なぜその指標や成果を達成しようとしているのか?
ゴールを共有するときは、できるかぎり平易で分かりやすい言葉を使おう。どうしても指標や専門用語を使う必要がある場合は、それが何を意味し、なぜ重要なのかをきちんと説明することが大切だ。
たとえば、「プラットフォーム効率を15%向上させる」のように書く代わりに、「お客さまがサポートに頼らずに、自分で問題を解決できるまでの時間を15%短くする」といった表現にしてみるとよい。
チームとして、ゴールを自分たちなりの言葉に言い換えるのも有効だ。そのほうが、日々どこに集中すべきかを意識しやすくなる。ただし、その際には元のゴールの意図をきちんと捉えられているかを必ず確認してほしい。
取り組み3: ゴールをOKRとして整理する
OKR(Objectives and Key Results:目標と主な成果)は、ゴールを「測れる成果」に落とし込むための優れたフレームワークのひとつだ。アトラシアンでもOKRを採用しているが、その理由は、大きくて野心的な目標を、状況に応じて調整可能なタクティカルなマイルストーンへと分解するのにとても効果的だからである。
目標(Objective:なぜ)
- 自分たちが何を達成したいのかを示す、明確でインスピレーションを与える、期限付きのステートメント。
- 野心的でありながら現実的で、アトラシアンのミッションと長期的な計画にきちんと整合していること。
- タスクではなく、「望ましい成果」を描写する定性的な内容であること。
主な成果(Key Results:どう分かるか)
- 目標が達成できているかどうかを示す、定量的な指標。
- 具体的・測定可能・期限付きであり、「攻めているが現実的」で、検証可能であること。
- つねに成果ベースで書くこと(例:6月30日までに平均レスポンスタイムを48時間から24時間に短縮する。「マーケティングキャンペーンをローンチする」のようなアウトプットベースの書き方は避ける)。
取り組み4: 「何のためか」を軸に優先順位をつける
目的がはっきりしていると、優先順位やトレードオフを議論するときの「北極星」のような存在になる。議論の場では、つねにゴールを参照するようチームに促そう。たとえばプランニングの場なら、次のような言い方が考えられる。
「お客さまの摩擦を減らすという私たちのゴールを踏まえると、たとえ少し時間はかかっても、B案のほうがより合致していると思います。」
「なぜ」を共有できていないと、優先順位づけは声の大きい人や、もっとも立場の高いステークホルダーに引っ張られてしまいがちだ。目的がはっきりしていれば、議論は「この特定のお客さまの、この特定の摩擦をもっとも減らせるのは、どの選択肢か?」という問いにシフトしていく。
— アトラシアン プロダクトマネジメントエヴァンジェリスト アクセル・ソリア(Axel Sooriah)
優先順位づけのフレームワークとして、次のような考え方も使える。
インパクト・エフォートマトリックス
Impact(インパクト)と Effort(工数・コスト)の組み合わせでトレードオフを整理する、シンプルなフレームワークだ。特に、テクニカルなチームとノンテクニカルなチームのあいだで議論するときに有効である。
RUFピラミッド(Reliability, Usability, Features)
ユーザーのニーズを満たすソフトウェアプロダクトは、信頼性(Reliability)、使いやすさ(Usability)、機能(Features)の3要素から成り立っている。まずは「信頼できて、使いやすい」コアプロダクトが必要であり、そのうえで新機能が「ケーキの上のアイシング」のように価値を高めていく。
取り組み5:目的を軸にプロジェクトドキュメントを作る
目的は、戦略資料や計画書の中だけに閉じ込めておくべきではない。プロジェクトページ、ダッシュボード、ワークマネジメントツールなど、あらゆる仕事のドキュメントに「目的」を織り込もう。Jira Product Discovery のようなツールの中には、各タスクやワークアイテムがどのゴールを支えているかを紐づけやすくしてくれるものもある。
たとえば、プロジェクトページの冒頭に、つねに表示される一文を入れておくことができる。
「このプロジェクトは、不明瞭なドキュメントが原因で発生するサポートチケットを減らすために存在します。」といった具合だ。
特に、マイルストーンや進捗アップデートは、目的とつなげるうえで重要なポイントになる。完了したタスクをただ列挙するのではなく、「ゴールに対してどんな前進があったのか」を説明しよう。そのための問いとして、チームには「これは、私たちを何に近づけているのか?」と考えてもらうとよい。
たとえば、
「新しいオンボーディングフローをリリースしました」と言うだけではなく、
「新しいオンボーディングフローをリリースしました。来月、その結果として初期離脱率がどれだけ下がったかを分析します。」のように、目的とのつながりと次の一歩まで含めて伝えてみよう。
取り組み6:振り返りの習慣で「何のためか」を思い出す
日々の業務のリズムの中に、「自分たちはゴールに向けて順調に進めているか」を定期的に確認する時間を組み込もう。ときには優先順位そのものが変わっていることもあれば、同じ優先順位を維持しつつも、その達成方法を見直す必要が出てくることもある。
こうしたチェックインは、「何のためか」という目的を思い出し、必要であれば進め方を切り替えるための機会になる。ときには、会社全体の優先順位そのものが変わっている場合もあれば、ゴールは変えずに計画だけを調整すべき場合もある。
ゴールをふり返り、必要に応じてアップデートするサイクル(リズム)を決めておこう。おすすめは、90日に一度ゴールを大きく見直す*2ことで、その間に毎月の小さなチェックインを挟むやり方だ。この時間は、これから先のゴールに向けた進捗を話し合い、ここまででうまくいったことをふり返り、必要に応じてこれからの進め方を調整するための場だ。
いくつかのポイント:
- 振り返るときは、うまくいったことだけでなく、トレードオフや失敗についても必ず話そう。そうすることで、今後、現実的なトレードオフや方向転換をどう判断するかを学べる。
- 何に取り組み、それがどんなゴールに貢献したのか、できるだけ具体的に言語化しよう。たとえば「Yではなく Xを作ることに決めました」ではなく、「リテンションのゴールをより支える信頼性に集中するために Xの優先度を下げました」のように表現するとよい。
目的を優先して、完璧を求めすぎない
何よりもまず、「目的」は旅のようなものだということを覚えておこう。会社の「なぜ」は、時間とともに常に揺れ動き、進化し続ける ─ それに合わせて、チームもまた、その目的地への最善の行き方をくり返し再発見していくことになる。
お互いの声に耳を傾け、情報をシェアし、「目的」を日々の習慣の中でいつもそばに置き続けることで、ビジョンに一歩ずつ近づいていける。

