アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。米国で人気の書籍「Culture Fix: How to Create a Great Place to Work」の著者であるコリン・D・エリス氏が、自己を正しく認識することの大切さを説く。執筆の補佐を、ライターのジェイミー・オースチンが務めている。

本稿の要約を10秒で

  • 人間がヒトとして進化するうえでは、自己を深く認識することが必要とされる。
  • チームのメンバー各人が自己認識を深めることに取り組むと、チームの文化が進化するという効果が生まれる。
  • 自己認識を深めるための手法は3つに分かれ、本稿ではその3つの手法を紹介する。

私は職場の嫌われ者だった

自分(エリス氏)のキャリアを振り返ると、職場の中で私は実に傲慢で、扱いにくく、軽蔑的だった。チームの利益よりも自分の利益を常に優先し、結果として、チームに不利益を被らせたこともある。

ところが、当時の私は、そんな自分の行動にほとんど気づいていなかった。仮に、気づいたとしても、それを無視していた。周囲から自分の身勝手さを指摘されたこともあるが、頑固さと傲慢さが妨げとなり、何も変えようとしなかったのである。

解雇通告が自己を見直す契機に

そんなあるとき、私は目を覚ますきっかけを得た。2000年代初頭、私は会社から解雇されたのだ。その衝撃から、私は「自己をどれだけ理解しているのか」「チームの成功に貢献してきたのか、それとも成功を妨げてきたのか」を自問した。

2013年、研究者のゼス氏とランディス氏は「業績不振に苦しめられている企業の従業員は、ROR(Return on Revenue/ネット利益率)の高い企業の従業員に比べて、自己を認識していない確率が79%高い」と指摘した。また、自己を認識している従業員の割合が高い企業は、低い企業よりも総じて優れた業績を上げているという。

加えて、職場では、一人の自己認識の低さが全員に悪影響を及ぼす。ゆえに、チームワークのパフォーマンスを向上させたいならば、まずは自分自身を知ることから始めるのが良策といえる。

あなたはどれだけ自己を認識しているか?

「過去を記憶できない者は、それを繰り返す運命にある」── ジョージ・サンタヤナ

人間がヒトとして進化するうえでは、自己と自己の性格に対する深い理解が必要とされる。実際、自己認識を深めることで、自身の得意分野と改善点が明確になる。また、他者からのフィードバックも、自己を変革するうえでの助けになる。

チーム全体がこうした自己分析に取り組むと、大きな副次的効果が生まれる。それは、職場の文化の進化だ。

私はこれまで、外部の力やツール、最新の方法論によって組織文化を変えようとするチームの例を数多く見てきた。しかし、チームの文化を変革する最も効果的な方法は、メンバー各人が自己を認識することである。また、自己認識が深まると、他者への有効なフィードバックや助言を提供できるようにもなる。

チームにおける問題は、メンバーの多くが自己を深く認識しておらず、フィードバックの授受が困難な点だ。これが職場文化の進化を阻み、チームパフォーマンスの向上を妨げている。

先に触れた目覚めから約20年が経過した今日、私は組織の文化変革を支援する仕事をしている。その中で、働く個々人の自己認識不足を常に目にする。ただし同時に、この問題に正面から取り組めば、大きな変化が生まれることも知っている。自己認識は、従業員各人の幸福感や組織文化への帰属意識だけでなく、会社全体の目標にもプラスの影響を与えるのである。

自分の性格を理解する方法

現在市場に出回っている「性格診断テスト」ツールのほとんど(米国では年間5億ドル以上が、これらのツールの使用に費やされていると推定される)は、1920年代におけるカール・ユング氏の人間の性格と行動に関する研究にもとづいている。ユング氏は、人間の性格特性は、その人の行動を説明するために用いられる、個人の安定した特徴であると説明している(Hirschberg, 1978参照)。これを言い換えれば、我々は特定の行動を無意識のうちにとっていることになる。ユング氏は、これらの行動特性が以下の3つの要素に依存していることを突き止めた。

  • 情報収集方法(感覚か直感か)
  • 意思決定方法(思考か感情か)
  • 社会的状況に対する反応(内向か外向か)

私は、これらをベースにしながら、人間の性格特性を「詳細型(Detailedタイプ)」「行動型(Actionタイプ)」「人型(Peopleタイプ)」「社交型(Socialタイプ)」の4つのタイプに分類している(下図参照)。

画像: 自分の性格を理解する方法

それぞれの性格タイプの行動特性は下記のとおりだ。

  • 詳細型(Detailedタイプ):1人仕事やペーパーワークを好み、メソッドを重視し、メールで物事の詳細を伝え、品質チェックを得意とし、考えてから行動し、時間に正確でファクトを大切にする。
  • 行動型(Actionタイプ):物事をすぐに完了させたがり、フォーマルなミーティングを好み、直線的に行動する。変革に果敢に挑み、行動してから考える。物事をドライブし、権威やロジックを重視し、リスクテイクを厭わない。
  • 人型(Peopleタイプ):他者との協調や雑談、他者へのコーチングを好み、対人関係の構築・維持や家族的な付き合いを重視する。ルールには厳格でロイアリティを大切にし、正当な理由のもとで、すべての物事が行われることを追求する。
  • 社交型(Socialタイプ):相手の状況に応じて迅速に決断を下す。社交的なアクティビティを好み、構想を描いたり、ストーリーを組み立て、伝えたりするのを得意とする。楽しみを追求し、ワークショップを好み、柔軟性があり、創造性や新しいアイデアを追求する。

人間は、これら4つの性格タイプのどれか1つだけを持っているわけではない。ゆえに、上図のどれか1つの円の中に人を押し込めて「これが君だ」と決めつけることはできない。人間は複雑な存在であり、大抵の人は、4つのタイプの性格を、何らかの割合ですべて有している。ただし「世界をどう見るか」「どう決断するか」「社会的な場面でどう振る舞うか」を決定するのは、4つのタイプの中で支配的な位置にある要素となる。

いずれにせよ、人々が自分の性格特性について詳細な理解を持ち、それを常に意識できるようになると、ときどきの自分の感情を認識してコントロールできるようになる *1 。そしてそれが自己認識を深めることの効果といえる。

自己認識を深めることで、人々は「自分自身から一歩離れる」能力を向上させ、他者の言葉に耳を傾け、共感し、良質なコミュニケーションが取れるようになる。つまり、自己を深く認識している人は、人と話す前に考えて、相手への敬意を持って異論を述べることができ、かつ人の言葉に真剣に耳を傾けようとする。また、学びと遊びの時間をバランスよく確保することもできる。

つまり、自己を深く知る人は、常に周囲にとって「最善の人間」であるよう実践し続けるわけだ。このような人間になるためには、しなやかな回復力や勇気、内省が必要とされるが、そのための努力は自分自身とチームに多くのメリットをもたらすのである。

自己認識を深めるための3つの手法

ここで、自己認識を深めるための具体的な手法について紹介しておきたい。その手法は以下の3つに分けることができる。

手法①自分の性格特性を深く知る
先に紹介した4つの性格タイプと、過去に受けたことのある性格診断の結果を照合したり、新たな診断手法である「CliftonStrengthsアセスメント」 *2 などを試したりして、自分の性格に関する洞察を得る。

性格特性を理解するプロセスにおいては、個人の心理的な特徴や行動の傾向などを総合的に分析し、体系的にまとめる「性格プロファイリング」が非常に有効である。性格プロファイリングを行うためのツールや手法はさまざまに存在するので、活用することをお勧めしたい。

いずれにせよ、自分の性格について真に把握すべきは「自分が最も得意なことは何か」「楽しんでいることは何か」、そして「どうすれば、その性格特性が強調できるか」である。

手法②他者との関係について定期的にフィードバックを求める
自己認識を深めるうえでは、自分に関するフィードバックを他者に求めることも必要とされる。このとき、防御的にはならず、フィードバックのすべてを真摯に受け入れることを忘れてはならない。

手法③さまざまなコミュニケーションスタイルを実践する
一般的な社会人であれば、自分なりのコミュニケーションスタイルをとっていても、他者との意思疎通はおおむね上手くいくだろう。ただし、相手が情報をどう受け取りたいかを考慮しないでいると、コミュニケーションに問題が生じるリスクがある。このとき、先に触れた4つの性格タイプを理解しておけば、相手の性格特性に合わせたコミュニケーションがとりやすくなる。

なお、チームのマネージャーやリーダーは「自分たちを含めて、チームの全員が自己を十分に認識しているわけではない」ということを前提に行動すべきである。

つまり、自分を含めたチーム全員の性格や対人コミュニケーションの深い分析に焦点を当てながら、必要に応じて改善を促し、チーム文化の改革、ないしは進化に取り組むのである。

ちなみに、こうした取り組みを重視しなければならない背景には、いわゆる「優秀だが嫌な奴」を容認する文化は、もはや許されないということでもある。人間の性格はさまざまだが、チームで働く以上、誰もが自己改革に対してオープンな姿勢であるべきである。

とはいえ、人に対して自己認識を強要することは難しい。ゆえに、チームのマネージャーやリーダーにとって、メンバーたちを自己認識へと導くコーチングが助けとなるだろう。また、チーム全体が自己を見つめ直すことを是とし、その取り組みに率先して参加したり、サポートしたりしようとするモチベーションを発揚することも大切だ。

我々は、自己認識の旅路で互いに助け合う必要があり、それには相応の努力がいる。ただし、その努力を補って余りある価値が個人とチームにもたらされるのである。

* 本稿の筆者であるコリン・D・エリス氏 *3 は米国のベストセラー書籍「Culture Fix: How to Create a Great Place to Work」の著者であり、世界中の組織が働き方を変革する支援を行っている。

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