アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのMike De Socioが、「習慣」の効力について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 習慣とは、何らかのトリガーによって引き起こされる行動のルーチンである。
  • 習慣が持つ潜在的なパワーは大きいが、何らかの目的の達成に貢献しないかぎり本質的に有用ではない。
  • 本稿では、ワークライフの改善に役立つ良い習慣を身につける方法について紹介する。

「習慣」の力は本当にすごいのか

ここ最近になって、米国では「習慣」に対する注目度が高まっている。例えば、ジェームズ・クリアー(James Clear)氏による2018年の著書「アトミック・ハビッツ(Atomic Habits)」は、米国ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストに260週間連続でランクインしている *1

習慣にフォーカスしたこうした書籍——1989年に刊行され世界的なベストセラーになったスティーブン・リチャーズ・コヴィー(Stephen Richards Covey)氏の「The 7 Habits of Highly Effective People(邦題:7つの習慣 人格主義の回復)」 *2 を含む——は、習慣が人のプライベートライフやワークライフを変革する鍵だとしている。そして、良い習慣を身につけることが、人生を最適化する有効な手だてであると訴えている。

果たして、本当にそうなのだろうか。確かに、心理学の専門家たちも、習慣が人生に永続的な変化をもたらす強力な手段であると認めている。だが一方で、習慣は「魔法の杖」ではなく、日々の習慣から一定の成果を得るには「意図」や「規律」、そして多くの「時間」が必要であるとの声もある。

そこで以下では、ワークライフの真の改善につながる、習慣に関する専門家のアドバイスを紹介したい。

習慣とはそもそも何か

米国イェール大学認定のウェルビーイング学者であるアリー・マイヤーズ(Ally Meyers)氏 *3 は「習慣とは、特定のトリガーに反応して自動的に繰り返されるルーチンである」と定義している。同氏は、この習慣が形成される原理を、以下の3つの要素を使って説明している。

①トリガー:トリガーとは、ルーチンを開始させるきっかけとなるものだ。トリガーには「職場などの特定の場所に着くこと」「特定の人と一緒にいること」「時計が特定の時刻を指すのを見ること」などがある。

②行動:習慣となっている行動は、トリガーによって自動的に引き起こされる。

③報酬:ここでいう報酬とは、特定の行動の後に訪れる心理的な心地良さを指す。この報酬によって同じトリガーに対して再び同じ行動をとりたくなる。

こうした習慣の例は無限にある。例えば、「毎晩歯を磨く」という習慣があるだろう。これは、就寝時間をトリガーとするルーチンであり、その行動を終えたときに相応の満足感が得られることになる。また、職場では毎朝上司に何らかの報告を行うという習慣があるかもしれない。これは、出勤してデスクに着くことがトリガーとなって、上司の部屋に立ち寄って報告を行うという行動が引き起こされる。これにより、1日の良いスタートが切れたという満足感が得られるのである。

こうしたトリガーと行動、そして報酬のループは、それが幾度も繰り返されるうちに、脳が、一連の経路を容易に辿れるようになることで機能する。

ただし、これらの習慣は「依存症」のようなものとは異なる。マイヤーズ氏によれば、依存症とは、自身では制御が不能になった、他者と自身に害を及ぼす習慣を指しているという。また、主要な医療機関は依存症を慢性的に再発する脳疾患と定義している *4 。つまり、単純な習慣を超えた強迫行動が依存症であるということだ。

習慣が仕事力のアップに役立つ理由

多くの人が職場で大きな成果を上げたいと望んでいる。昇進を目指す人もいれば、野心的なプロジェクトを完遂したいと願う人もいるだろう。そうした成果は、良質な習慣によってもたらされることが多い。

この点について、マイヤーズ氏は「仕事上の成功は、単発の行動から生まれるものではありません」と述べたうえで、「日々のルーチン、つまりは無数の小さな習慣の積み重ねが成功を生み、大きな船を動かす原動力になるのです」と続ける。

例えば、規則正しい睡眠を習慣化したとしよう。その習慣は、ワークライフをしっかりと支える土台を成すものだ。つまり、規則正しい睡眠、ないしは休息は、大きなプロジェクトに取り組み、良質な成果を上げるためのエネルギーを継続的に生み出す源泉となるのである。

習慣は手段にすぎない

習慣が持つ潜在的なパワーは大きいが、何らかの目的の達成に貢献しないかぎり習慣は有用ではない。マイヤーズ氏は「習慣を築いて維持することは大切ですが、それ自体を目的にしてはなりません」とアドバイスする。つまり、習慣は何らかの目的を達成するための手段にすぎず、特定の習慣が自分の望む結果と一致しているかどうかを定期的にチェックすることが重要であるというわけだ。

習慣を巡っては、特定の期間内で同じ行動を繰り返せば、自動的に身につくという誤解もある。現実はもっと複雑であり、マイヤーズ氏は「習慣の形成に成功するかどうか、あるいは、その形成にどの程度の期間を要するかは、ケース・バイ・ケースで異なります。例えば、特定の習慣について、自分の周囲が類似の習慣を持っているなら、その習慣を身につける期間は短くなります。逆に、身につけたい習慣と競合する要素が周囲に多くあるなら、その習慣を身につける期間はかなり長くなります」と指摘する。

ちなみに、南カリフォルニア大学の心理学者ウェンディ・ウッド(Wendy Wood)教授によれば、自分で自身の意志力を高める環境は構築できるという(参考文書(英語))。ゆえに、習慣の形成に役立つ何かを自分の周囲に置くことは、その習慣を身につけるための有効な手だてとなりうる。例えば。毎朝のジムトレーニングをサボる言い訳をなくすために、ジムバッグを詰め込んだまま玄関に置いておくといった古典的な手法がそれである。

もっとも、マイヤーズ氏によれば、習慣を一日休むことは致命的ではないという。むしろ、1カ月内(30日中)で27日程度、同じ行動を継続できたならば、習慣づけのプラクティスとしては成功であるようだ。

習慣化のカギを握る脳の能力とは

脳レベルで新しい習慣を形成する鍵は「神経可塑性」という脳の能力にある。

心理学者のジェシカ・ケーラー(Jessica Koehler)博士は、神経可塑性を「学習や行動の変化に応じて新しい神経接続を形成し、脳が自らを再編成する能力」と説明している *5

人間は、新しい習慣を形成する際に、この神経可塑性を利用している。この点について、マイヤーズ氏は、次のような比喩的な説明を加えている。

──初めて訪れた森。その外側からは、森の向こう側に通じる道は見当たらない。そこで適当な場所を選んで、木々の枝に相当邪魔をされ、傷つけられながらも、何とか道を切り開き、向こう側にたどり着く。次に同じ森に近づくと、前に通った道がぼんやり見えてきて、その道筋をたどろうとする。その際、木々の枝に多少は邪魔をされても、初回ほどではない。やがてその道は踏み固められ、容易に、そして労なく進めるようになる。

「これはある意味で、新しい習慣を形成する過程に似ています。最初は困難に感じても、何度も繰り返すうちに脳内の神経経路が強固になり、その行動をとるのが容易になるのです」と、マイヤーズ氏は述べる。

ここで、先に触れた「トリガー」「行動」「報酬」のループを思い起こしていただきたい。このループが形成されるのも、「時間の経過とともに、脳がトリガーと報酬を結びつけて行動を自動化するからです」とケーラー博士は述べている *6

良い習慣の身につけ方を知る

仕事において身につけたい良い習慣は数多くある。例えば、集中力を高めるために特定の時間をブロックしたり、上司との定期的な進捗確認を行ったりする習慣がそれだ。そうした習慣を身につける方法は以下のとおりである。

①習慣を特定する:身につけたい習慣を明確にする。

②トリガーを選ぶ:習慣のループを開始させるきっかけ(トリガー)を設定する。

③行動する:実際の行動を起こす。

④報酬を実感する: 行動を完了させた際に心地良さ(=報酬)を感じる。「ここでは、自分自身との約束を守ったことを認識することが重要です」と、マイヤーズ氏は付け加える。

この手法を使って、集中作業の習慣を身につけたい場合には、次のような流れになる:

①トリガーを作る:毎朝、仕事を始める前にスケジュールを確認し、集中作業に使える時間帯を見つけて、カレンダーに記入する。

②行動を起こす:割り当てられた時間がきたら、周囲とのつながりを断ち、ブロックした時間内で自分のタスクに集中して取り組む。

③報酬を感じる:自分のタスクが前に進んだことで達成感を得る。これにより、これからも同じ行動を繰り返す可能性が高まる。

以上のとおり、特定の習慣を身につける手順はかなりシンプルであり、かつ、必要に応じて柔軟に調整することもできる。

加えてマイヤーズ氏は、報酬については内発的なもの(生産性を感じたときの体内でのドーパミン放出など)にとどめることを推奨している。つまり、行動を終えたのちに、例えば「チョコレートバーを食べる」といった外発的な報酬を得ようとするのは避けるべきということだ。ただし、習慣を継続させるための付加的な動機づけとして、ときおり、外発的報酬を取り入れるのも有効であると、マイヤーズ氏は述べている。

悪い習慣を断つ方法

良い習慣を身につけるのと同様に、悪い習慣を断つことも重要である。その方法は、以下のとおりだ。

①断ちたい習慣を明確にする。

②不必要な行動を起こさないよう、行動に抵抗を与える。

③望ましい代替行動を創出する。

④不必要な行動を回避できた瞬間を祝い、それを報酬とする。

マイヤーズ氏には、自身のスマートフォンを無目的にスクロールしてしまう悪い習慣があった。同氏は上記の方法の実践によって、その習慣を断つことに成功したという。

「私には、退屈なときにスマートフォンを無目的にスクロールしてしまうという習慣があり、これを断ちたいと考えました。そこで、特定の状況でスマートフォンの電源を切るなどして、行動に抵抗を与えました。そして、望ましい代替行動として、手帳を常に持ち歩き、退屈な瞬間には手帳を取り出してToDoリストの進捗を振り返るようにしたのです。これにより、スマートフォンをスクロールするのと同様のドーパミンの放出が得られるようになりました」(マイヤーズ氏)

マイヤーズ氏によれば、いまでもときおり、スマートフォンを無意識のうちにスクロールしていることがあるらしい。それでも、退屈時に手帳を見る頻度は確実に高まっているとしている。

良い習慣のメニュー

どんな習慣を身につけるかで迷っている人も多いだろう。そこで、マイヤーズ氏が推奨する習慣 *7 をいくつか紹介する。

  • 睡眠スケジュールを作り、厳守する:マイヤーズ氏はこれを「基幹習慣」と呼んでいる。つまり、より意欲的な習慣に取り組むためには、十分な休息を確保することが大切であるということだ。
  • 1日の始まりに独りの時間を作る:朝の独りの時間は、自己反省や自身のニーズへの対応を助ける。
  • 毎日3つの優先目標を設定する:邪魔が入る前の静かな時間に、その日の優先事項を3つ決めておく。
  • 1日の終わりに、その日の成功を祝う: 1日の終わりに、うまくいったことを祝い、自分の進歩を認める時間をつくる。
  • 寝る前の「スクリーンフリー」を習慣化する: 就寝前はスマートフォンやPCの画面を見ないようにする。こうすることで睡眠のリズムを整え、より良い休息が得られる。

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