アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのケリー・マリア・コーデュッキ(Kelli María Korducki)が、従業員が忙しさを装う「タスクマスキング」の要因と、その要因を取り除く方策について考察する。

本稿の要約を10秒で

  • 「タスクマスキング」とは、実質的な生産や成果とはあまり関係しないタスクによって忙しさを装うナレッジワーカーの行動を指している。
  • 職場にタスクマスキングが蔓延してしまう要因は、個人のタスクや生産性を重視する組織文化にある。
  • タスクマスキングを一掃するには、組織文化をコラボレーションやイノベーションを重視するものへと転換することが重要となる。

米国の新しいバズワード「タスクマスキング」とは

「タスクマスキング」は、米国で流行する新しいバズワードだ。これは「自身の生産性を高くみせかける偽装行動」を指す言葉だ。要するに、実質的な「生産」や「成果」とはあまり関係しないタスクを意味なくこなし、それによって「自分はとても忙しく、かつ生産性の高い人材である」と見せかける行動がタスクマスキングと呼ばれている。例えば、大きな音を立ててキーボードを連打したり、不必要な会議に多く出席したり、メールのスクロールに長い時間を費やしたりといった行動が、タスクマスキングに当たる。

多くの場合、こうした偽装行動は、職場における「タスク重視の文化」、あるいは「個人の生産性を重視する組織文化」が生み出したものだ。その逆に、コラボレーションとイノベーションを重視する組織文化(参考文書(英語))のなかでは、タスクマスキングのような行動は生まれない。つまり、タスクマスキングは、個人のアウトプットを組織全体の成果よりも優先させる文化(参考文書(英語))がもたらした症状といえるのである。

タスク重視が陥りやすい「可視性の落とし穴」

従業員各人のタスクや生産性を重視する文化は、大抵の場合、「従業員の働く姿を可視化することへの執着」(参考文書(英語))につながる。そしてリーダーたちは、従業員たちが「忙しく働いていること」と「仕事がうまくいっていること」を混同するようになる。これにより、従業員たちは、忙しく働いている姿をリーダーに見せようとする意識を強く持つようになる。

タスクマスキングは、新しい言葉だが、忙しさの偽装行動は古くからある職場の問題だ。その問題が改めて話題になっている要因の1つは、企業における働き方の変化にある。

実際、近年においては多くの企業がナレッジワーカーの働き方を(新型コロナウイルス感染症の流行をきっかに定着した)リモートワーク中心型から、出勤中心のスタイル(参考文書(英語))へと変化させ始めている。これにより、ナレッジワーカーの多くが、自身の仕事ぶりや生産性の高さを同僚たちやリーダーに常にアピールしなければならないと感じるようになった。それが結果的に、タスクマスキングの蔓延を招いていると見なすことができる。

ちなみに、人材管理用のSaaSアプリケーションを提供しているWorkhuman社が2024年に実施した調査(参考文書(英語))によれば、企業のマネージャー(管理職者)の69% が「生産性を偽装する行動(=タスクマスキング)」はチームに共通して見られる一般的な課題になっていると答え、従業員(非管理職者)の32% が、そうした偽装行動をしていると認めているという。

作業の可視性と生産性には関係性はない

今日では、デジタルテクノロジーの発達により、たとえチームのメンバーがリモートに分散していても、効率的、かつ効果的に仕事がこなせるようになっている。その意味で、チームのメンバーを1つの場所に集めようとしたり、働く姿の可視性を重視したりするのは前近代的な考え方といわざるを得ない。

しかも、働く姿の可視性と生産性との間には関係性はない。例えば、アトラシアンでは2020年にリモートワークを中心とする完全分散型の働き方へとシフトした。以来、従業員各人の生産性は上がり続けている。また、アトラシアン従業員の92%は、会社の分散ワークポリシーによって最高のパフォーマンスを発揮できているとしており、彼らの仕事への集中力も以前に比べて32%向上している(参考文書(英語))。

可視性の追求が「燃え尽き症候群」を引き起こす

もちろん、どの働き方にも一長一短がある。また、リモートワーク中心の働き方を採用したとしても、従業員各人の生産性にフォーカスしたマネジメントを行っていると、彼らのエンゲージメント(組織への貢献意欲)や士気を大幅に引き下げてしまうリスクがある。

加えて、従業員各人の生産性の可視化やモニタリングは、彼らの疲弊につながる。その点について、組織文化の変革や行動変容を促す研修サービスを提供しているCulture Partners社のチーフストラテジーオフィサーであるジェシカ・クリーゲル(Jessica Kriegel)氏は、LinkedInへの投稿(参考文書(英語))のなかで次のように、述べている。

「ナレッジワーカーにとって、自分の仕事について常に可視化を追求することや可視性を要求されるのは疲れるものだ。そうした要求は、自身のディープな仕事、つまりは、数時間の集中を要し、かつ、その仕事を完遂するまで誰にも見えないような(あるいは内容がわからないような)仕事を妨げるものでもあります」

さらに、クリーゲル氏は「会社組織が生産性の可視性を追求していると、従業員たちは自分の価値を証明するために常に何かをしているように見せなければならないと感じるようになります。その結果、彼らは実際の生産性ではなく手早く何かを処理することに多くの時間を費やすようになります。それは、燃え尽き症候群を引き起こす大きな要因となるのです」と指摘している。

コラボレーションとイノベーションの文化を育むために

燃え尽き症候群の発症を防いだり、タスクマスキングを一掃したりするためには、タスク重視の文化、あるいは生産性重視の組織文化を改めて、コラボレーションとイノベーションを重視する文化への転換を急ぐ必要がある。

それにはまず、組織・チームのリーダーが、変化の激しい不確実な時代に勝ち残るうえでは新しい組織戦略が必要であることを受け入れなければならない。そのうえで、個々の従業員の生産性やアウトプットを計測・評価し、改善を図るという旧来型のループから抜け出し、チームの長期的な成長・発展のための方策を練り上げて遂行することが大切になる。

変革のためのアジャイルなアプローチ

アジャイル開発の手法を使いながら、ビジネス変革のコーチングを展開しているAgile Socks LLC 社の創設者兼 CEO であるステファニー・オックマン(Stephanie Ockman)氏は、コラボレーションとイノベーションを重視する組織へと転換するための指針として、以下の 4点を提案している。

①多様なアプローチを試す:多様なアプローチを試し、その結果から学ぶことで、組織・チームとしての目標と目標達成に向けた道筋を明確にすることが可能になる。こうした仮説・検証の反復と柔軟なマインドセットは、不確実な時代を生き抜くうえでは重要となる。

②成果に焦点を当てる:目標を達成する過程ではなく成果に焦点を当てる。そうすることで、組織・チームの努力を実際の成果につなげられる可能性が高まる。

③成果の測定結果はナビゲーションの情報と見なす:チームのパフォーマンスや成果の測定結果は、業績評価やプロジェクトの成功・失敗を判断するための材料として扱ってはならず、会社組織の目標達成に向けたチームの現在地や方向性に関するフィードバックとしてとらえるべきである。言い換えれば、チームのパフォーマンス、成果の測定結果は、会社全体の目標達成に向けた各チームの道筋をナビゲートするGPSのようなものと見なすべきである。

④価値を測定するための多様な視点を検討する:組織・チームの能力や価値を評価する基準に多様な視点を取り入れる。その際には、組織・チームが現在提供できる価値、能力と、将来にわたって提供可能な能力、価値の双方を念頭に置くことが大切である。

さらに、オックマン氏は「(イノベーティブな組織・チームへの転換を図るうえでは)短期的な計画をベースにした働き方やリーダーシップではなく、価値主導の働き方やリーダーシップを取り入れるべきです」と指摘している。

いずれにせよ、よりイノベーティブで意欲的、かつ、アイデアに富んだ人材は、組織・チームのリーダーが「単純によく働く個人」を評価することでは生まれない。そうした人材を育むには、リーダーが旧態依然とした人材評価のあり方から脱却し、共通の目標に向かってコラボレートしながら働く文化を築くことが必須となる。

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