アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのケリー・マリア・コルダッキー(Kelli María Korducki)が「組織学習」の効果について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 「組織学習」とは、会社組織が自身をより賢くするナレッジを形成して蓄積し、共有するプロセスを指している。
  • 効果的な組織学習は、イノベーションを引き起こし、市場での競争力を高める可能性が大いにある。
  • 効果的な組織学習は「意味づけ(Meaning)」「管理(Management)」「測定(Measurement)」という3つの要素から成る。
  • 組織学習には従業員の満足度を高めたり、変化への適応力を高めたりする効果も期待できる。

「組織学習」とは何か

「組織学習」とは、会社組織が自身をより賢くするナレッジを形成して蓄積し、共有するプロセスを指している。これは、企業が成長、発展するためのメカニズムでもあり、現状の人的リソースの総和を超えた力を得て、イノベーションを引き起こし、競争力を維持・向上させるうえで欠かせない取り組みでもある。ゆえに企業は「継続的学習の文化」(参考文書)を育むことが必要となる。以下、簡単に組織学習の基本的な要素について紹介しておきたい。

◾️組織学習の4つのレベル
組織学習のプロセスには、以下の4 つのレベル(参考文書(英語))がある。

① 個人:会社組織内の個人が新しいことを学ぶ
② グループ:チームが新しいことを学ぶ
③ 組織:会社組織全体が新しいことを学び、適応する
④ 組織間:共通の関心を持った企業同士が互いに学び合う

会社組織は、従業員各人が職場で学んだことを、個人やチーム内でとどめずに、組織全体で共有し、従業員全員がのちの意思決定に役立てられるようにすることが大切だ。こうしたナレッジの共有が、企業の成長・発展へとつながっていく。

◾️「学習する組織」の5つの柱
組織学習の推進は、会社組織を「学習する組織」へと転換する取り組みでもある。学習する組織とは、上で触れた組織学習のすべてのレベルにおいて、新しい知識の獲得や共有が奨励され、実践されている組織を指している。こうした組織では「新しい何かを学ぶこと」を事業運営に組み込んでいる。

ハーバード・ビジネス・スクールのデビッド・ガーヴィン(David Garvin)教授は1993年に展開した論説(参考文書(英語))において「効果的な組織学習が行えるかどうか」は「意味づけ(Meaning)」「管理(Management)」「測定(Measurement)」という「3つのM」に取り組むかどうかに依存すると説いている。

博士の論によると、組織学習を最適化したい組織はまず「学習する組織への転換にどんな意味があるのか」「その転換で目指すビジョン(組織のありたい姿)とは何か」を明確に定義する必要があるという。そのうえで、成長に向けた学習の計画を立て、進捗を管理・測定することが重要となる。この点について、ガーヴィン教授は「測定できないものは管理できません。ゆえに、会社組織は、学習を通じて個人やチームの(物事に対する)認識力や行動力がどう変化したかを観察するだけでなく、学習による具体的な成果、改善の目標を立て、その達成度合いを適宜チェックし、学習内容を監査していく必要があります」と指摘している。

加えてガーヴィン教授によると、組織学習には以下に示す「5つの柱」(参考文書(英語))があり、これらの実践が有効な学習につながるという。

① 体系的な問題解決:問題を診断し、その解決に役立つデータを収集するための方法論を確立する。
② 新しいアプローチの実験:試行錯誤を繰り返して、新しい解決策やアイデアを見つけ出す。
③ 過去の経験から学ぶ:過去の成功や失敗から得た教訓をのちの意思決定や行動に活かす
④ 他者のベストプラクティスから学ぶ:他者の成功事例から効果的な手法を学び、取り込む。
⑤ 会社組織全体にナレッジを速やかに伝搬する:個人やチームが獲得したナレッジを、組織全体で速やかに共有するためのコミュニケーション基盤を導入する。

組織学習の推進がもたらすベネフィット

学習を通じて新しいナレッジを継続的に生み出し、全社で共有する能力は、会社組織にとって、きわめて貴重な経営資源となる。というのも、その能力は、経験や失敗、新しい情報から継続的に学び、会社組織のナレッジ(=問題をより効果的に解決したり、より優れた意思決定を行ったりするためのナレッジ)へと転換して蓄積していくための原動力であるからだ。また時間の経過とともに、そうしたナレッジの蓄積量は増えていき、洗練されていく。ゆえに、組織学習に重きを置く企業は、従業員の退職によってナレッジを失ってしまうようなことはなく、すべてのナレッジが継承され、継続的な有効活用が図られるのである。

さらに、組織学習に力を注ぐことは、以下のようなメリットも会社組織にもたらす。

◾️従業員満足度の向上
2021に公表された、ある研究(参考文書(英語))によると、組織学習と従業員満足度には正の相関関係があり、従業員満足度を成す要素の約39%(38.6%)は、組織学習に起因しているという。また、2023年のSHRM調査(参考文書(英語))によれば、学習などのポジティブな職務経験は、従業員が離職を検討する可能性を68%低下させるようだ。

◾️生産性の向上とイノベーションの発揚
従業員エンゲージメントによる多様なパフォーマンス関連のメリットに加え、学習を優先する組織は、一般的により効果的に活動できる体制が整っている。実際、Gallupの報告書によると、チームの学習に投資する企業は、投資しない企業に比べて11%高い利益率を報告している。

◾️適応力のアップ
ある研究(参考文書(英語))によると、組織学習は従業員やチームが不測の事態に対応したり、新しい技術を取り込んだりする能力(=変化への適応力)を向上させるという。この研究結果は、スペインにあるサービス会社343社の分析によってもたされたものだ。その分析を通じて研究者らは、市場の変化に応じて自分たちの戦略を調整する能力と、市場からの強い圧力に耐える能力との間に明確な関係性があることを突き止めた。そして、強い圧力のもとでも迅速に学び、変革を引き起こせるチームは、会社組織が困難な状況から立ち直るレジリエンシー(=しなやかな回復力)を向上させるという。それに対して、変化に適応できないチームは、会社組織を不利な状況に追い込む可能性が大きくあるという。

組織学習の3タイプ

1978年、米国ハーバード大学のクリス・アージリス(Chris Argyris)教授とドナルド・シェーン(Donald Schön)教授は、組織学習は、会社組織が自分たちのビジネスプロセスや業務手順の間違いに気づき、それを修正するプロセスから生まれるとの説を唱えた(参考文書(英語))。その理論のよると、組織学習のプロセスは(大抵の場合)、以下に示す3つのタイプに分類できるという。

① シングルループ学習
「シングルループ学習」とは、既存のビジネスプロセスにおける間違いや市場ニーズへの不適合に気づき、それを修正するプロセスを指している。この組織学習は通常、顧客ニーズの変化や市場トレンドの変化、法的な規則・規制の変化といった外的な要因によって引き起こされる。この組織学習のプロセスは、例えば、室温の温度変化への対策として、なぜ室温が変化したかの根本原因を考慮せずに、エアコンの設定温度を変えようとすることに類似している。

② ダブルループ学習
「ダブルループ学習」は、表面化した誤りを正すだけではなく、誤りの根本原因である会社組織の仮説や方針を疑問視することから始まる。ここで検証の対象となる事柄には、組織の目標、戦略、ビジネスプロセスなどが含まれる。このタイプの組織学習は、より大きな視点から物事をとらえて評価し、会社組織がその適応力や柔軟性を高めるのを助ける。また、ダブルループ学習は、市場の変化といった外的な事象や「対立」「困難な決定」といった内的な事象によって始まる。

③ トリプルループ学習
「トリプルループ学習」は、誤りを正したり、仮定・方針を疑問視したりするだけでなく、組織が「どのように学ぶべきか」も学んでいく。このタイプの学習は、従業員各人が学習について異なる視点で検討し、現状の思考パターンを打破するのを助ける。また、異なる部門間、ないしはチーム間でお互いのナレッジを共有し、学ぶうえでもトリプルループ学習は有効だ。さらに、従業員は、このタイプの学習通じて、有効な学びを促進する要因や阻害する要因、そして、自身の成長に向けて、どのように学習の戦略や計画を立てれば良いかがが理解できるようになる。

組織学習を強化するリーダーシップ

組織学習は「学習を支援する環境」(参考文書(英語))を整備することから始めなければならない。その整備とは、従業員各人が周囲からの批判を恐れずに発言できたり、異なる視点を尊重したりする文化を築くことだ。また、日々の業務のなかで新しいアイデアを常に探求したり、内省のための時間的なゆとりを確保したりすることも重要となる。

そうした学習支援の環境を整えたうえで、ナレッジを体系的に収集して他者と共有し、業務に適用するための具体的な学習プロセスを導入することも必要とされる。加えて必要なのは、上で触れた学習支援の環境づくりから学習プロセスの導入に至るまで、組織学習のあらゆるステップを主導できるリーダーシップだ。言い換えれば、学習を後押しするリーダーシップと環境、そしてプロセスが一体となることで、組織学習が促進され、従業員各人の学びをイノベーションへとつなげる文化が醸成されていくのである。

繰り返すようだが、組織学習の文化は、従業員の満足度を高めてコラボレーションを強化し、会社組織のサステナビリティを向上させる。逆に、組織学習を軽視する企業は、学習を重視する競合他社に遅れをとり、後塵を拝することになる可能性が高いのである。

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