アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのシャイナ・ローゼン(Shaina Rozen)が、書籍「Teamwork Makes the Dream Work(チームワークが夢を叶える)」の内容を参考にしながら「ドリームワーク」を実現するための方法について考察する。
本稿の要約を10秒で
- 効果的で良質なチームワークが「ドリームワーク(=夢)」を実現するという考え方は、比較的新しいものである。
- ドリームワークを成し遂げるチームには共通した特性がある。
- 書籍「Teamwork Makes the Dream Work(チームワークが夢を叶える)」の著者、ジョン・C・マクスウェル(John C. Maxwell)氏は、「チーム」の概念は仕事を超越したものであり、チームの「夢(ドリーム)」は仕事上の短期的な成果・成功を超えたものであるとしている。
- マクスウェル氏をはじめとする多くの有識者や研究者、ビジネスリーダーは、優れたチームワークは事業の成功に不可欠であり、メンバーが互いに協力し合うことで競争優位性がもたらされると見ている。
「チームワークが夢を叶える」というフレーズの起源
アトラシアンは「チームワークの力」を信じており、同じ考えを持つ人々を常に探している。ゆえに、アトラシアンのオウンドメディアに寄稿している私も、ジョン・C・マクスウェル(John C. Maxwell)氏の著書「Teamwork Makes the Dream Work(チームワークが夢を叶える) 」(英語)を発見したとき、すぐさま購読したいと考えた。
本書の刊行は2002年と古く、そのためか、この書籍ではコラボレーションに関するありきたりの解説が多く、全体としては退屈な内容だった。
とはいえ、マクスウェル氏が真摯に説く「チームワークが夢を叶える(=ドリームワークを実現する)」という可能性は、アトラシアンの従業員のみならず、組織運営に携わるすべてのビジネスパーソンが情熱をもって追求しているテーマといえる。そこで本稿では、本書のエッセンスを交えながら、チームワークによってドリームワークをいかに実現するかについて見ていきたい。
まず、「チームワークが夢を叶える(Teamwork Makes the Dream Work)」という文言を見て、これが何世代にもわたって組織文化の基礎を成してきたフレーズのように感じたかもしれない。ところが実際には、これは比較的新しいフレーズだ。それが米国で初めて使われたのは、1986年のMLB(メジャーリーグベースボール)でニューヨーク・メッツがワールドシリーズを制覇したときのこと。この制覇を記念したチャンピオンシップソングの中で「We got the teamwork…that makes the dream work !(僕らは、チームワークで夢を叶えた!)」という文言が使われ、それが、このフレーズの起源といえる。
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youtu.beそして、のちの2002年に刊行されたマクスウェル氏の著書が人気を博したことで「チームワークが夢を叶える」という文言が、コラボレーションのモットーとして世の中に広く定着した。いまでは、コラボレーションの理想を示す、米国ではお馴染みの(少し使い古された感もある)キャッチフレーズとして「ウォールステッカー」や「コーヒーカップ」「Tシャツ」「コースター」など、さまざまなアイテムで一般的に使われている。
「ドリームワーク」を成し遂げられるチームの特性
マクスウェル氏は著書を通じて、優れたチームにおける「無形の特徴」を明確にしている。また併せて、チームの概念そのものに疑問を投げかけてもいる。例えば、私たちの多くは、チームという単語から職場やスポーツ競技を思い浮かべる。それに対してマクスウェル氏は、以下のようにチームの概念を押し広げている。
■ 書籍「Teamwork Makes the Dream Work」より引用(訳文)
「チームにはさまざまな形態・規模がある。結婚していれば、あなたと配偶者はチームであるし、組織に雇用されていれば、あなたと同僚はチームとなり、ボランティア活動に参加していれば、あなたと仲間はチームとなる。このように、日々の生活の中で、我々は何らかのチームに属し、その一員として機能している。ここで大切になるのは『他者がかかわる何かに参加すること』ではなく『他者とのかかわりをいかにして成功させるか』である」
マクスウェル氏が指摘するとおり、チームの形態・規模はさまざまだ。ただし、高い成果を上げるチームには共通の特性がある(参考文書(英語))。マクスウェル氏は著書の中で、それらの特性を「10のC」として定義している。以下がその定義だ。
①成果を生む「Commitment(コミットメント)」
②違いを生み出す「Contribution(貢献)」
③基準を引き上げる「Competency(能力)」
④効果の高い「Communication(コミュニケーション)」(参考文書(英語))
⑤調和を生み出す「Cooperation(相互協力)」
⑥個人的なつながりを深める「Chemistry(相性)」
⑦チームの潜在能力を引き出す「Creativity(創造性)」
⑧緊張を素早く取り除く「Conflict management(コンフリクト マネージメント)」(参考文書(英語))
⑨迅速な変化を可能にする「Cohesiveness(結束力)」
⑩チームの旅路を楽しくする「Community(コミュニティ)」
アトラシアンを含む、ほとんどすべての会社の事業では、製品・サービスの「完成形」はなく、あらゆるものが継続的な改善サイクルの中にある。
それは、チームについても同様であり、仮にチームが上述した「10のC」をすべて体現できているとしても、パフォーマンスをさらに向上させるべく、チーム内での一層強固なつながりを育みながら、メンバー各人が単独で取り組むよりも、はるかに高い成果をチームで達成できるよう改善を続けなければならない。
チームにおける「夢(ドリーム)」とは何か
上で触れたとおり、優れたチーム、ないしはチームワーク(参考文書(英語))を形づくる要素として、マクスウェル氏は「10のC」を定義した。では、同氏の定義するチームの「夢(ドリーム)」とは、どのようなものなのだろうか。
その答えから先にいえば、それは通常の「成果・成功」の概念を超越した、より大きくて野心的、そして大胆な目標(ないしはパーパス)となる。さらに、マクスウェル氏は「チームは、そうした夢の実現に優先して取り組むべき」と唱えている。
この考え方は、アトラシアンの考え方とまったく同じである。アトラシアンのチームでは、マクスウェル氏が提唱するのと同じアプローチを通じて、自身の目標を設定している。より具体的にいえば、アトラシアンのチームでは、OKR(Objectives and Key Results)やKPI(参考文書(英語))によってチームやメンバー各人が達成すべき数値目標を定めるだけでなく、「BHAG(Big, Hairly, Audacious Goal:大胆な目標)」(参考文書(英語))といった、より高次元のチームのゴール、あるいはパーパスを定めるようにしているのである。これにより、チームのメンバーは、自分たちの仕事が会社や社会に与える影響について、より広い視点でとらえられるようになる。
デロイトの研究(参考文書(英語))をはじめとする数多くの調査・研究は、こうした「パーパス志向」の企業は、市場シェアを拡大し、成長するスピードが相対的に速く、かつ、従業員と顧客の双方をより幸せにできる可能性が高いとの結論を出している。
さらに、マクスウェル氏は、個人がチームの一員になることで、一人で活動するよりも、はるかに大きな夢が描けるようになるとしている。この点について、同氏は書籍の中で次のように述べている。
「誰かとともに大きな夢を達成しようとした場合、自分の小さな夢を犠牲にしなければならないこともある。その決断には勇気と謙虚さが必要だが、決断による見返りは非常に大きい」
差し迫った問題への対処に追われている場合、大きな夢を描いたり、追い求めたりすることは非現実的で非生産的に感じられるのが通常だ。ただし、大きな夢、あるいは大胆な目標を定義して掲げることは、チームの力を共通のビジョンに結集させるだけでなく、差し迫った問題への対処が、チームの夢を叶えるための最善の策であるかどうかを見定めるうえでも有効となる。
効果的なチームワークが生む能力
マクスウェル氏が自身の研究を通じて出した結論は、アトラシアンを含む多くの企業が「真実」として受け入れていることでもある。
その真実とは「効果的なチームワークは、個人的な成功にとっても不可欠な要素である」ということだ。また、優れたチームワークは、企業が市場での競争優位を確立するうえでも必須となる。というのも、優れたチームワークは、いくつかの重要な能力を組織にもたらす可能性が大きいからである。その能力とは以下に示すような能力である。
① 優れた問題解決能力
■ 書籍「Teamwork Makes the Dream Work」より引用(訳文)
「どんな問題も乗り越えられないものはない。少しの勇気とチームワーク、そして決意があれば、人はどんなことでも乗り越えられる」
これまで数々の調査・研究を通じて「複雑な問題を解決するうえでは、単一の優れた頭脳よりも、複数の頭脳を使ったほうが効果的である」ということが、科学的に証明されてきた(参考文書)。
例えば、米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のパトリック・ラフリン(Patrick Laughlin)博士は、研究レポートの中で「私たちは、3~5人のグループのほうが、最高の頭脳を持った個人よりも優れた成果を上げることを突き止めました。この結果は、他者と相互に協力することで、より効果的に情報を処理できるようになる人間の能力によるもので、この能力によって私たちは、正しいレスポンスを生み出して採用し、誤ったレスポンスを排除することが可能になるのです」と述べている(参考文書(英語))。
② 成長と革新の機会を創出する能力
■ 書籍「Teamwork Makes the Dream Work」より引用(訳文)
「力を与えられたチームメンバーは、より多くのことを達成し、チームの継続的な改善に貢献する」
革新的なアイデアや進歩は、異なる人々のアイデアがぶつかり合うことで生まれることが多い。この点について、書籍「The Medici Effect(メディチ効果)」の著者であるフランシス・ヨハンソン(Frans Johansson)氏は「大抵の人は、成功は自分と似た人たちに囲まれることでもたらされると考えますが、真の成功やイノベーションは、自分とはまったく異なる意見やアイデアを取り入れるという不快感を伴うものです」と指摘し、こう続けている。
「その不快感こそが、自身の成長を促す原動力です。そこで重要になるのは、経験、意見、視点の異なる人たちと仕事をするダイバーシティ&インクルージョンです。この取り組みを推進することは、新たな機会を押し広げ、新たな課題を克服し、新たな洞察を得るための有効な手法です」
また、ギャラップ(Gallup)社のワークプレイスマネジメント主任研究員、ベン・ウィガート(Ben Wigert)氏は、チーム内コミュニケーションがオープンで協力的な場合にのみ、真のイノベーションが起こり得ると指摘している。つまり、チーム内において「たとえ的外れの質問を投じても誰からも避難されることはない」「どんなアイデアを提案しても建設的なフィードバックが得られる」といった心理的安全性が確保されているときに最も創造的なソリューションが生まれるというわけだ。
③ チームのメンバーを幸せにする能力
■ 書籍「Teamwork Makes the Dream Work」より引用(訳文)
「チームは、あなたの心の願いを叶える手助けをしてくれる」
上のマクスウェル氏の言葉は少し情緒的過ぎるといえる。ただ、アトラシアンの独自調査でも、チーム内で「正直なフィードバック」や「相互の尊重」「個人の率直さ」が奨励される場合、メンバー各人が自身のウェルビーイング(心身の良好な健康状態)がしっかりと保たれていると感じる可能性が80%高められることが明らかにされている。つまり、人は、健全なチームの一員である場合、働く幸福感や充実感を強く感じられる可能性が高いということだ。
このように従業員を幸せにすることは、ビジネスにとっても良いことだ。英国ウォーリック大学の研究(参考文書(英語))によれば、幸せな社員は不幸せな社員よりも最大20%生産性が高いという。
良質なチームワークは、私生活の満足度も高める可能性がある。例えば、米国UCLAの研究によれば「それぞれの役割を明確にし、家事を分担することに同意しているカップルは、より幸せである可能性が高い」という。
④「燃え尽き症候群」のリスクを低減させる能力
■ 書籍「Teamwork Makes the Dream Work」より引用(訳文)
「悪いニュースは、60歳になると、20歳の頃に比べて個人的に多くのことをするエネルギーが残っていないことだ。良いニュースは、もしあなたがチームの一員であれば、60歳でも20歳の頃よりも多くのことを集団で成し遂げられる可能性があることである」
私たちの「世代間の差違」(参考文書)に対する考え方は、この20年間で大きく変化した。そして、年齢がどうあれ、働く誰もが「燃え尽き症候群」になる可能性があることを認めれば、チームワークがそのリスクを低減させる解決策であることに同意できるはずである。
チームにおいて燃え尽き症候群のリスクを軽減させる方法はさまざまにある。例えば「ポジティブで協力的なチーム文化を築く」「メンバー各自に明確で適切な期待値を設定する」「メンバーのストレスを軽減する施策を可能な限り講じる」「効果的なコミュニケーションを心がけ、意思疎通の障害を取り除く」といった方法が、それに当たる(加えて、上述した「10のC」を体現することも忘れてはならない)。
ちなみに、前出のギャラップ社は、燃え尽き症候群に関するレポートの中で「人々が協力し合い、互いに支え合うことで、仕事量は軽減され、課題も小さく感じられるようになる」と指摘している(参考文書(英語))。
⑤ 生産性を高める能力
■ 書籍「Teamwork Makes the Dream Work」より引用(訳文)
「チームは、あなたの価値を何倍にもする。また、あなたはチームメイトが最善を尽くせるよう手助けをすることもできる」
組織・チームにおいて、個々人の価値をしっかりと認め合う、あるいは承認し合う環境(参考文書(英語))の構築は、生産性の向上に直結する。実際、自分の上司や経験豊富な人から褒められると、誰でもやる気がアップする。また、自分の同僚や他のチームメンバーから称賛されると、働く意欲がさらに増すかもしれない。ちなみに、20万人以上のワーカーを対象にした調査「TINYpulse Employee Engagement and Organizational Culture Report」によれば「同僚から尊敬されること」が仕事で期待以上の成果を上げようと努力する最大の理由であるという。
⑥ 賢明なリスクテイクとミス低減の能力
■ 書籍「Teamwork Makes the Dream Work」より引用(訳文)
「夢を見るだけで満足するのか、それともリスクを負って夢を実現しようとするのか」
自分一人でいると、夢を追い求めることにためらいがちになる。ただし、職場や家庭でチームメイトによるサポートがある場合、失敗しても立ち直れると感じることができる。こうした心理的な安心感は、リスクを背負うことへの怖れを和らげ、リスクテイクによる大きな見返り(報酬)が得られる可能性を広げるものだ。
同様に、良質なチームワークは、メンバー各人の疲弊を抑え、疲弊によるミスを低減させる効果も期待できる。この辺りの効果は、米国民(生産年齢にある米国民)の61%が大きなストレスの源(みなもと)として「仕事」を挙げている点(参考文書(英語))を加味すると、特に留意すべき事柄といえる。
才能は試合での勝利をもたらし、チームワークと知性は優勝をもたらす
私たちは誰もが一人では生きていけず、常に互いを必要としている(参考文書(英語))。ゆえに、個人のエゴが前面に出てしまうような場面においても、常に「自分」よりも「自分たち」を優先する努力が必要とされる。
この努力は、自分の夢を諦めてしまうことと同義ではない。むしろ、その反対であることのほうが多い。言い換えれば、チームワークの力を活用することで、個人はより大きな夢を実現できる可能性を広げられるのである。
そうした可能性を示すべく、マックスウェル氏は書籍の中で、米国NBA(National Basketball Association)のレジェンド、マイケル・ジョーダン氏の次のような言葉を引用している。
「私が心から信じていることの1つは、チームとして考え、チームとして目標を達成すれば、個人への称賛は自然とついてくるということだ。試合に勝つには才能が必要だが、チームワークと知性がなければ優勝はできない」
チームワークは、プロフェッショナルとしての自分の大きな目標を達成することから、パートナーと素晴らしい人生をともに歩むことまで、さまざまなフィールドで夢を描き、それを追い求めるよう、私たちを促す。そしてもちろん、効果的なチームワークは、自分の夢の実現を手助けしてもくれる。本稿の内容が、最高のチームワーク、あるいはドリームワークの実現に向けた一助になれば幸いである。