アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。 アトラシアン「Team Anywhere Lab(TAL)」でシニアリサーチャーの任にあるベン・オストロウスキー(Ben Ostrowski)が、生成AIの活用をどう始めるべきかについて説く。

本稿の要約を10秒で

  • 生成AIを使ったチャットボット(AIチャットボット)など、破壊的な革新技術の活用に乗り出すのは気の重い作業であり、活用に失敗することも間々ある。
  • ただし、AI活用に成功すると大きな効果がもたされることがアトラシアンの調査で明らかにされている。
  • 本稿では、AIチャットボットとのやり取りで多くの成果を得るための方法について考察する。

調査が示すAI活用の効果

生成AIを使ったチャットボット(以下、AIチャットボット)のような破壊的で複雑なテクノロジーを初めて扱うとき、大抵の人は気が重くなる。

ただ、AIチャットボットの活用になかなか踏み切れない人も、AIチャットボットとのコラボレーションに失敗した人も、そのことを気にする必要はない。似たような経験をしている人は多くいるからだ。逆に、一度や二度の失敗で活用を諦めてしまうことのほうが間違った判断といえる。

そこで私は今回、行動科学者の1人として、AIチャットボットとのやり取りを微調整しながら、より多くの成果を得るための方法について探求し、紹介することにした。ちなみに、AIの活用で一定の成果を上げることの価値は、アトラシアンの調査によってすでに明らかにされている(以下参照)。

5,000人のナレッジワーカーを対象としたアトラシアンの最近の調査(参考文書(英語))によると、業務において日常的にAIを活用しているチームは以下のような大きな効果を手にしていることが明らかになった。

  • 目標が明確になる可能性が1.8倍
  • チームワークが効果的になる可能性が1.6倍
  • 変化に適応できる可能性が1.9倍

あなたのチームがこうしたスーパーパワーを手に入れるためのカギは、考え方の切り替えにある。そのうえで粘り強くAIチャットボットの活用に取り組めば、この技術は、あなたの知識と能力を押し広げ、より迅速かつ確実に前進できるよう力を貸してくれるはずだ。

オープンマインドで生成AIに接する

AI、ないしはAIチャットボットをどう捉えるかによって、この技術との関わり方は変わってくる。つまり、AIに対する考え方次第でAIチャットボットからどれだけ有用なアウトプットが得られるかが変わってくるということだ。

例えば、AIチャットボットに初めて触れるとき、私たち人間は何らかの認知バイアスをもってそれを捉えようとする。これは人間として自然な反応だが、AIに対する認知バイアス、あるいは「先入観」が、AIチャットボットから自分の望む結果を得られない要因となりうる点を覚えておきたい。

AIチャットボットとのやり取りは人間とのコラボレーションと同種の作業であり、それを実りあるものにするには忍耐と努力が不可欠となる。言い換えれば、AIチャットボットを検索エンジンのような機能が一定の静的なツールとして扱うのではなく、思考を共有するパートナーとして業務フローに組み込むべきなのだ。AIとのやり取りを成功させるには、人間との対話のようにダイナミックな変化と進化が求められる。

画像: オープンマインドで生成AIに接する

PRO TIPS

AIチャットボットとのやり取りを始める前に「いま、どんなパートナーが必要なのか」を自問するべきである。例えば、自分がいま必要としているパートナーは、次のうちどれに該当するかを考えると良い。

  • 個人的な相談相手
  • コーディングアシスタント
  • 合理的なオブザーバー
  • 型破りの思考者
  • 反対論者
  • 特定分野のエキスパート

そこでまずは、AIチャットボットに明確な指示を与え、指示の遂行結果に対してフィードバックを提供し、望ましい結果が得られまでそれを繰り返し行うことから始めてみると良い。このとき、すぐに完璧な回答が得られるとは思わないことが大切だ。何度も質問を投じたり、反対意見を述べたり、新しい情報を追加したり、AIチャットボットが何か間違ったことをした場合に2回目のチャンスを与えるなどしてフォローアップを行うようにする。

生成AIの仕組みを理解する

AIチャットボット(生成AI)の基本的な仕組みを理解することで、この技術を使用することへの自信につながる。

生成AIのLLM(大規模言語モデル/参考文書(英語))はAIモデルの1つであり、アトラシアンのAIチャットボット製品「Rovo」などでも使用されている。

LLMは、数百万カテゴリーにわたる膨大なデータセットから、ユーザーのインプット内容(プロンプトの内容)に基づいて、ユーザーがどのような出力結果を望むかを予測する。より具体的には、AIチャットボットに質問を投じると、LLMはあなたが入力した文章(プロンプト内容)を解釈し、そのうえでLLM用にエンコードされたルールに基づいて意思決定を下して、質問者に返す出力結果を生成するのである。この一連のプロセスでは、テキスト・音声などの言語データを分析・処理する「自然言語処理(NLP)」の技術が使われている(下図1参照)。

画像: 図1:生成AIの処理プロセス

図1:生成AIの処理プロセス

インプット処理
AIチャットボットは、NLP(自然語言語処理)の技術を使ってユーザーがインプットした文言を解釈し、関連する情報を抽出する。

意思決定
AIチャットボットは、ユーザーから受け取ったインプットの内容と、あらかじめ定義されたルールに基づいて適切なレスポンスの内容を決定する。

アウトプットの生成
AIチャットボットは、ユーザーへのレスポンスを形成して、対話形式の作法に則って出力する。

膨大なデータにアクセスできるということは、AIチャットボットはありとあらゆる話題について議論することができ、概ねうまく対応できることを意味する。

例えば、統計に関する質問でも、メールから専門用語を削除する手伝いを請う場合でも、予期せぬエラーメッセージへの対処方法に関してアドバイスが欲しい場合でも、AIチャットボットは対応してくれる(下図2参照)。

画像: 図2:AIチャットボットとのやり取りの例~調査結果をもとにした適切な長さのステークホルダー向けのマーケティングメッセージをAIチャットボットに生成させた例

図2:AIチャットボットとのやり取りの例~調査結果をもとにした適切な長さのステークホルダー向けのマーケティングメッセージをAIチャットボットに生成させた例

こうしたAIチャットボットのレスポンスの背後で、どのようなプロセスが動いているかを理解することは大切だ。これにより、優れたプロンプトを作成して、AIとのやり取りに「現実的な期待値」を設定することが可能になるからである。

もちろん、AIチャットボットのアウトプットは完璧ではない。だが、AIチャットボットの潜在能力は計り知れず、その能力を最大限に引き出せるかどうかは、AIチャットボットとやり取りする人間の能力にかかっている。要するに、生成AIのアウトプットは人間が作成するインプットによって形成され、プロンプト作成のベストプラクティス(参考文書(英語))を学ぶことが、活用を成功へと導くカギといえるのである(下図3参照)。

画像: 図3:AIチャットボットから適切なレスポンスを得るためのプロンプトの例~「R」言語のコーディングに向けたアドバイスをAIチャットボットに求めた例

図3:AIチャットボットから適切なレスポンスを得るためのプロンプトの例~「R」言語のコーディングに向けたアドバイスをAIチャットボットに求めた例

AIチャットボットが「0」から「1」をより早く生み出すかを特定する

「メール」の作成から「調査報告書」の作成、「プレゼンテーション資料」の作成、さらにはソフトウェアのコーディングに至るまで、どのような作業であっても、AIチャットボットを使えば、最初のアイデア出しから最終的な成果物の作成までに要する時間を短縮することが可能になる(下図4参照)。

画像: 図4:AIチャットボットにプレゼンテーション資料のアウトラインを生成させた例

図4:AIチャットボットにプレゼンテーション資料のアウトラインを生成させた例

この効率化を実現するうえで重要になるのは、AIチャットボットが、ユーザーの業務や専門知識、スキルセットにどのような恩恵をもたらすかを特定することだ。

例えば、毎日、あるいは毎週繰り返し行う定型的なタスクをリストアップして、それらをAIチャットボットで効率化してみるのは良いアイデアだ。そうしたタスクを効率化しても、それほど大きなメリットは得られないかもしれない。ただし、活用のスタート時点で重要なことは、得られる効果の大小ではない。大切なのは、AIチャットボットが自分の仕事をよりスピーディーに、かつ、より良くしてくれるかどうか、あるいはその両方で役立つかを判断するために時間をかけることである。

ある研究(参考文書(英語))によると、大抵の人間は、いくつかのことに関して「非常に得意」、ないしは「得意」だが、多くのことについては「経験不足」であるという。ゆえに、私たちは通常、いくつかの分野で専門知識を身につけ、キャリアの大半をその分野に費やす。ここで問題になるのは、自分の能力を超える仕事に突き当たり、仕事を前に進められなくなることだ(参考文書(英語))。

例えば、あなたが製品マーケティングの担当者であり、マーケティング用のデータ分析についてはいつも協力会社による支援を求めていたとする。そんな中で、協力会社のデータ分析担当者が多忙となり、あなたをタイムリーに手助けできなくなったとすればどうだろうか。そのようなときにAIチャットボットの助けがあれば、社内の知識ベースを包括的に活用しながら、簡単な分析を自分自身で行うことが可能になる。これにより、自分の仕事を妨げている要因を取り除けるだけではなく、協力会社の業務負担も低減することができるのである。

以上のようにAIチャットボットを使うことで、あなたは自身の能力の幅を押し広げ、他者の専門知識に頼らずとも前進できるようになる。また、この能力の拡張により、あなたは長年にわたって積み上げてきた専門知識を最大限に活用できるようにもなる(下図5参照)。

画像: 図5:AIチャットボットにデータ分析のアドバイスを求めた例 ~表計算ソフト「Google Sheets」で管理しているデータをもとに、5人以上のチームのほうが5人未満のチームよりも効果的であることを証明する方法について、AIチャットボットにアドバイスを求めた例

図5:AIチャットボットにデータ分析のアドバイスを求めた例 ~表計算ソフト「Google Sheets」で管理しているデータをもとに、5人以上のチームのほうが5人未満のチームよりも効果的であることを証明する方法について、AIチャットボットにアドバイスを求めた例

このようなAIチャットボットとのやり取りを業務フローに統合することで、プロジェクトが停滞する時間を短縮することが可能となる。と同時に、あなたを「唯一無二の存在にする専門知識」(参考文書(英語))もしっかりと確保できるのである。

非技術的な役割と技術的な役割との境がなくなる

AIチャットボットによる人間の能力の拡張は、以下の2つの理由からチーム全体のコラボレーションを改善するうえでも役に立つ。

① AIチャットボットの活用により、技術を専門としていないワーカー(非技術要員)が、技術を専門とする要員(技術要員)の協力を仰がずに自ら技術的なタスクをこなせるようになる。結果として、非技術要員は、仕事をこなすうえでの待ちの時間を減らすことができ、それによって生まれた時間を他の重要なタスクに振り向けられるようになる。

② 非技術要員の能力拡張は、その人員を技術面でサポートしてきた技術要員の業務負担の低減につながる。これにより、技術要員もより多くの時間を重要な業務に費やせるようになる。

③ AIチャットボットによって、より多くのプロジェクトや意思決定にデータをより有効に活用できるようになる。

AIチャットボットにチャンスを

AIチャットボットを怖がらずに、まずは小さなことから始めてみよう。簡単に管理できるタスクに焦点を絞りながら、AIと最も効果的にやり取りする方法を学ぶことが大切である。その実践を通じて、いずれはAIチャットボットとのやり取りを日常的なワークフローに組み込み、より複雑なプロジェクトの効率化へと活用が進展していくはずだ。

そして、この取り組みを進めるうえで大切なことは、AIチャットボットを使う目的を、あなたの能力を拡張してスキルを強化し、アイデアを具現化するスピードを加速させることに絞り込むことである。是非、その要点を忘れないようにしたい。

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