アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのケリー・マリア・コルダック(Kelli María Korduck)が識者の話をもとに生成AIの活用法について紹介する。
本稿の要約を10秒で
- 生成AIは登場後すぐにナレッジワークに不可欠なツールとして普及し始めた。
- 生成AIは、ナレッジワークにおける特定部分の生産性を劇的に向上させる可能性がある反面、間違った使い方をすると仕事の品質や評判に悪影響を及ぼすリスクがある。
- 本稿では、生成AIをどう活用すべきかについて識者の話をもとに紹介する。
ナレッジワーワに不可欠なツール
「ChatGPT」や「MicrosoftCopilot」「Gemini」といった生成AIは、登場後、瞬く間にナレッジワークに欠かせないツールとなっている。これらの革新的なツールは、ナレッジワークにおける特定部分の生産性を劇的に向上させるパワーを有している。ただし、間違った使い方をすると仕事の品質や評判に悪影響を及ぼすリスクがある。ゆえに、生成AIの活用に際しては、それを使って「すべきこと」と「すべきでないこと」の見極めが重要となる。
実際、生成AIが生成したコンテンツは、そこに著作権上のリスクや事実誤認の問題があるにせよ、ないにせよ、そのままではプロフェッショナルによる仕事の成果としては使えない。この点に関してマーケティングソリューションプロバイダー、Think Big社の広報担当副社長であるライアン・ウェイト氏は次のように指摘する。
「AIが生成したコンテンツは、顧客に提出できるような品質のものではありません。生成がうまくいった最良のケースでも人手による多少の編集・加工が必要とされますし、最悪の場合はまったく使用できないコンテンツが生成されます」
当然のことながら、ナレッジワーカーが書く文章は、読み手の心に残るように情報を組み立てる。それに対して生成AIは、事前に設定されたパターンに従って情報を構成する。ゆえに、アウトプットがありきたりなものになる可能性が大きい。
また、例えば、企業がステークホルダーに対して展開するコミュニケーションでは、市場における自分たちの権威や誠実さをしっかりと伝えなければならない。そうしたブランドコミュニケーションと、生成AIを使ったチャットボット(AIチャットボット)のぎこちない文章は相容れないものと言える。
AIの活用法を記した書籍『Prompting Originality: The A.I. Handbook for Humans』の著者で起業家でもあるノーティ・コーエン(Norty Cohen)氏は次のように述べている
「今日のAIは多くのコンテンツを生成できますが、その良否を自ら判断することはできません。その判断は、あくまでも人間の知性によって行われるものです」
アイデアのブレーンストーミングパートナーとして使う
上述したとおり、生成AIはコンテンツ創造のプロデューサーとしては機能できない。ただし「リサーチの整理」や「(原稿などの)アウトラインの作成」「アイデアのブレーンストーミング」、さらにはマーケティング施策をテストするための「プロトタイプの作成」などを行ううえでは「創造的なパートナー」(参考文書(英語))として役に立つ可能性がある。
そのため、生成AIは、プロのライターではない特定分野の専門家、ないしはリーダーが原稿の執筆を求められた際に便利なツールとして機能しうる。実際、医療業界向けのAIプラットフォーマーであるArray Insights社 CEOのアン・キム(Anne Kim)氏は、原稿の執筆時にまずは生成AIを使って大まかなドラフトを作成し、のちに内容や文法的なチェックを行っているという。
「生成AIを使うことで、原稿執筆の作業はかなり効率化されます。とはいえ、AIに原稿のアウトラインを作らせてから、原稿を完成させるまでの作業はすべて人間が行わなければなりません。私の仕事を私以上に完璧に理解し、私の原稿の読み手に対して完璧にそれを表現できるAIは、まだ見つかっていません」(キム氏)
また、米国の広告代理店Pangea Marketing Agency社(参考文書(英語))の創設者兼CEOで、IT業界で働いた経験もあるブランドン・ロリンズ(Brandon Rollins)氏は、生成AIに対し、著名なビジネス専門家や哲学者の考え方をもとにした意見を求めることで、創造力を刺激されることがあるという。
「ニーチェや老子といった偉大な思想家たちのロールプレイをChatGPTに依頼したところ、多くの素晴らしいアイデアを得ることができました。ChatGPTは彼らの哲学をまったく理解していないのですが、実に興味深い答えを返してくれたんです」(ロリンズ氏)
複雑な数学に使用してはならない
これは意外なことかもしれないが、生成AIは数学が苦手である。
「ChatGPTのようなLLM(大規模言語モデル)ベースのAIに複雑な数学の方程式を解かせようとするのは悪い使い方です」と、ロリンズ氏は指摘する。
では、なぜそうなのか? 理由はシンプルで、複雑な数学の問題を解くうえでは生成AIの言語モデルがプロンプトにどう反応するかを決定づける確率ベースのパターンマッチング能力を超えるものが必要だからだ。
AIが数学の複雑な方程式を解くためには、より高度な推論能力と人間のような論理能力の双方が必要とされる。そのような能力を機械学習のシステムに組み込む方法はまだ確立されていない。ただし、それが実現されれば、超インテリジェントなAIの新時代が到来するとされている(参考文書(英語))。
コーディングアシスタントとして活用する
上で触れたとおり、生成AIは数学の複雑な方程式を確実に解くことはできない(参考文書(英語))。ただし、大量のデータを非常に迅速に処理することはできる。また、ロリンズ氏は、ChatGPTとGeminiを使用してExcelの数式を書き、Excelマクロ用の複雑な「Visual Basic for Applications(VBA)」コードを生成することに成功している。
「そのVBAコードは最終的に私のビジネスにおける『銀行残高予測』を立てるのに役立っています。しかも、その残高予測はここ数カ月間、かなり良い成績を残しています。ただし、そうしたVBAコードが生成できた背景には、私の技術的ノウハウがあったともいえます」(ロリンズ氏)
ロリンズ氏がVBAコードの生成に生成AIを役立てたのと同じように、ソフトウェアのプログラマーも「GitHub Copilot」や「Claude」といったAIチャットボットをコーディングアシスタントとして使うことで、コーディングに要する時間を低減させることが可能だ。
GitHub Copilotを活用している、とあるプログラマーはその効果と使用上の留意点について次のように話す。
「GitHub Copilotは、コードの要約や文書化、テストケースの作成、システム構築用のスターターコードの生成など、さまざまな面で私をサポートしてくれます。ただ、AIをどのように活用するにせよ、最も注意しなければならないのは、AIが生成した洞察を検証して、それが本当に正しいか否かを必ず確認することです。なぜならば、AIは不正確な情報を生成することがよくあるからです」
学習を補うことの大切さを無視しない
目まぐるしく変化する世界でプロフェッショナルとして活躍し続けるためには、生涯学習が欠かせない。近年では、その学習の一環としてAIに代表される新しいデジタル技術に慣れ親しむことも必要とされている。そして、AIを活用することは、AIに対する学習を行うことでもある点も忘れてはならない。
今日のナレッジワーカーは、機械学習を含む、複雑なタスクを支援するために設計されたAI製品のスイートにアクセスすることができる。この機械学習は、アトラシアンが提供するAI製品の一つ「Rovo」の柱でもある。本製品では、ユーザー組織からのデータに加えて、アトラシアン独自のデータを活用しながら、重要な情報をより見つけやすく、理解しやすいように自らを進化させていく。これは、AI ツールが学習によって個人やチームの成功に必要な知識を与えられるようになることを示す好例と言えるだろう。
AI に関する知識を深める
生涯学習の目標として AI ツールの習得を加えるのは良い考えだ。 すでに世の中にはAIツールの使い方を学ぶための無料のオンラインコースは数多く存在している。また、組織・チームのリーダーが自分たちのAI 戦略を策定するのに役立つブログ(参考文書(英語))やリソースも豊富にある。
とはいえ、AI活用のスキルを真に向上させるうえでは実践に勝るものはない。その重要性を強調するのは、Perigon社 製品担当副社長のジョシュア・リッケル(Joshua Rickel)氏だ。Perigon社は、膨大な量の情報と最新ニュースとの関連性を分析・抽出・結合するAIプラットフォームのプロバイダーだ。
「AIの使用は非常に経験的、かつ個人的なものです。ゆえに生成AIの活用スキルを向上させるには、それを試してみる意欲が必須です。要するに生成AIで何ができて何ができないのかを自ら確かめることが大切ということです」と、リッケル氏は指摘する。さらに同氏は、生成AIの活用の仕方についてこうアドバイスしている。
「生成AIは、あなたを個人的にサポートしてくれる他の従業員やアシスタントと同じように扱ってください。つまり、自分が生成AIにしてもらいたい作業の手順を書き出し、それがどのように機能するかを確認していくわけです。そのようにして少し時間をかけて生成AIを試していくと、驚くようなことができることがわかるはずです」