アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのジュヌヴィエーヴ・マイケルズ(Genevieve Michaels)が、本音で語り合える文化「カルチャーオブボイス」を職場で醸成する方法について、この文化の提唱者であるエレイン・リン・ヘリング(Elaine Lin Hering)氏へのインタビューにもとづきながら解説する。

本稿の要約を10秒で

  • 「カルチャーオブボイス」とは、エレイン・リン・ヘリング(Elaine Lin Hering)氏が提唱し、注目を集めている新しい組織文化のモデルである。
  • この文化を構築することで、組織・チーム内の誰もが、自分の本心や意見、アイデアを安心して発信できるようになる。
  • 本稿では、へリング氏へのインタビューを通じて、カルチャーオブボイスの構築に向けたリーダーの役割について紹介する。

発言の強要は従業員の精神的な負担を伴う

チームリーダーの大多数は、心理的安全性が担保された、包容力ある職場(=インクルーシブな職場)を構築したいと望んでいる。そうすることで、チームのイノベーションが活発化したり、パフォーマンスがアップしたりする可能性があるからだ(参考文書(英語))。またそればかりではなく、メンバー各人の健康状態(ウェルビーイング)やワークライフに対する満足度も向上するとの研究報告もある(参考文書(英語))。

ただしこれまでのところ、職場(少なくとも米国企業の職場)における「ダイバーシティ&インクルージョン」の取り組みは、女性や有色人種(マイノリティ)の従業員など、歴史的に意見が圧殺されてきた人たちに対して「自分の考えを自由に述べてもらう」といった試みに焦点が絞られてきた。

そんなダイバーシティ&インクルージョンのパラダイムを再考する必要があると唱えているのが、話題の書籍「Unlearning Silence:How to Speak Your Mind, Unleash Talent, and Live More Fully」の著者エレイン・リン・ヘリング(Elaine Lin Hering)氏だ。

「働く一人一人に『声を上げさせる(=自分の意見・本音を発言させる)』というアイデアは、各人に精神的な負担を強いるものです。つまり、『もっと、あなたたちの声を聞かせ欲しい』と上司が部下に強要することは、部下の日々の仕事に対し、認知的で感情的な労働を追加することを意味するわけです」(へリング氏)

加えて言うまでもなく、職場での発言に精神的な負担を感じるような従業員たちは、本業以外のところで「周囲への気遣い」といった目に見えない労務をこなしていることが多い。

そこで、ヘリング氏は「本音の文化(カルチャーオブボイス)」という新しいモデルの構築を提案・提唱している。この文化が根づいている職場では、従業員から本音を聞き出すために特別なスペースを設ける必要がないという。

では、どうすれば本音の文化を築くことができるのか。以下、へリング氏へのインタビューにもとづきながら、組織・チームのリーダーが、組織・チームにおいてカルチャーオブボイスを構築するための6つの方法を紹介する。

方法① 部下との信頼関係を築く

自分の本心や意見を述べることは傷つきやすい行為である、と感じている人は多い。ゆえに、自分の本心や意見を述べるときは、一般的に、相手が本当の自分を知ってくれていると感じ、自分の経験、考え、アイデアを相手と共有しても「安全である(=自分が傷つけられる心配はない)」との確信が持てる場合に限られる。

したがって、カルチャーオブボイスの構築に向けては、まずは従業員たちの「職場への帰属意識」(参考文書(英語))を高めることと「心理的安全性」を確保することに取り組む必要がある。また、それに向けては職場における上司と部下との信頼関係を構築しておかなければならない。

「カルチャーオブボイスを構築するうえでは、組織・チームのリーダーが、部下たちがどのような状態にあるかを常に把握していることが大切です。ここでいう『状態』とは、仕事の進捗状況だけでなく、その部下は『どのような人か』『いま、どんな精神状態にあるのか』『どのような願望を持っているのか』といった事柄を指しています。それらを把握するには、部下との定期的なタッチポイント(例えば、1 on 1ミーティングなど)を意図的に設けなければなりません」(ヘリング氏)

こうした関係構築の取り組みは、組織・チームのリーダーが部下たちの話に「積極的に耳を傾ける機会(=アクティブリスニングを実践する機会)」を形づくるものでもある。

この機会を通じてリーダーは、部下たちの本音や想いを知ることができる。また併せて「部下たちの沈黙が何を意味しているのか」「自身の発言に対して否定的なフィードバックを得た際にどんな反応を示すか」といったことも感じ取れるようになれる。

「部下との信頼関係は、コミュニケーションのしっかりとしたベースライン上で築かれていきます。コミュニケーションのベースラインがない場合、リーダーは部下に対し、都度、「私を信頼して自分に何が起きているかを伝えて欲しい」と要請し、併せて、そうすることの大切さについても説明を行わなければなりません」(へリング氏)

【信頼関係構築に向けた部下へのリスニングの例】
● これまで、あなたはこの種のプロジェクトで素晴らしい仕事をしてきた。これからもこうした仕事を続けたいか。他にもっとやりたいことは何かあるか。

● いま、何が重荷になっているか。私たちの職場におけるどの方針が、その重荷を軽くしているか(あるいは、さらに困難にしているか)。

● 1 on 1ミーティングは今後も定期的に行うが、その開催を待たずにチャットツールなりを通じて必要なときに何でも共有して欲しい。

方法② チームのコミュニケーションスタイルに合わせたプロセスを構築する

「信頼関係(=誰を信頼するか)」と「サブスタンス(=何を共有するか)」は、部下の発言力を増すための2つの重要な要素だ。それに加えて「プロセス(=どのように共有するか)」も(見過ごされがちだが)重要な要素である。実際、例えば、リーダーが排他的なコミュニケーションプロセスを採用したせいで、部下が沈黙し、それに対してリーダーが「なぜ誰も発言しないのか」と不満を露わにするケースはよくあることだ。

また、組織・チームでは、言葉による同期型コミュニケーションを重視し過ぎる傾向も強い。

「同期型のコミュニケーションを大切にし過ぎると、限られた時間内で誰に何を話させるかに意識が向きがちになります。ただし、人の発言には多くの意味があり、発言のスペースに制限をかけてはなりません。したがって、同期型コミュニケーションにこだわらず、コミュニケーションの手段をさまざまに増やして『発言のスペースには限りがある』という考えから脱却したほうが賢明です」(へリング氏)

コミュニケーションの手段を増やした場合、組織・チームのメンバーがどのようなスタイルのコミュニケーションを好むかを知っておく必要がある。ちなみに、アトラシアンの「Team Playbook」にある「ユーザーマニュアル(=自分取扱説明書)」は、部下たちが好むコミュニ―ションスタイルを把握するために便利に使える素晴らしいツールだ。

こうしたツールを使いながら、部下たちの好むコミュニケーションスタイルを把握し、そのうえで多様なスタイルに対応できるような明確な規範を策定することが大切である。この規範づくりは「メールに対するレスポンスは即座に行う」といった、リーダーが自身の行動を通じて無意識のうちに確立してしまっている「暗黙のルール」に対処するうえでも有用である。

そしてリーダーは、部下たちが好むコミュニケーションスタイル──例えば、リモート型のコミュニケーションスタイルや、チャットツールを使った非同期型のコミュニケーションなど─に慣れておかなければならない。

へリング氏によれば、上述したようなリーダーの取り組みはすべて、チームのコミュニケーションスタイルに合わせたプロセスを構築するうえで必要される手順であるという。

【チームにおけるコミュニケーション規範の例】
● 私たちの会社は、悩みや経験を共有する目的で100%匿名での投稿を許容した人事アプリケーションを有している。どんなに深刻な問題でも、上司に話したくないことを共有するためにこのアプリケーションを使用して欲しい。

● ビデオ会議への出席が「任意」とされている場合、会議の主催者はあなたの出席を期待していないと認識していただきたい。議題に興味があれば参加しても良いし、後で録画を見るだけでも構わない。

● 私たちのチーム文化は、非常に率直に自分の意見を言う文化であり、それは物事に対するフィードバックを出すときも同じである。ただし、たとえ否定的なフィードバックを受け取っても、それは決して、あなたが困難に直面していることを示すものではない。

方法③ より多くの視点を呼び込むために詳細な質問をする

組織・チームのリーダーはよく、ミーティングの最後に「他にアイデアはありますか」と聞こうとする。これはカルチャーオブボイスの構築につながる行動ではない。リーダーが成すべきことは、より詳細で個別的な質問を使いながら、チーム内のユニークな視点と、その視点にもとづくアイデア、情報を引き出すことだ。以下、ヘリング氏が提案する3つの質問方式を紹介する。

質問方式① 反対意見を募る
「もし、チーム内の誰かが同僚や上司に反対意見を一度も述べたことがないとするなら、その人は職場において自分の本音を語ったことがないと見なすべきです」と、へリング氏は指摘する。このような行動を抑止するには、次のような詳細で具体的な質問を投じて「建設的な反対意見」(参考文書(英語))を皆と共有するよう促すことが大切である。

・このやり方にはどんな問題がありますか?
・何か私たちが過小評価していることはないですか?
・時間的、リソース的にこれは実現可能だと思いますか?
・この決定によって、何か不都合が生じる可能性はありますか?

質問方式② 人の経験や専門知識を活用する
会社組織では地位や年齢に応じて、発言の重みづけが行われることがよくある。ただし、ヘリング氏は、専門的な知識や経験に基づく発言も重要であるという。こうした発言を喚起するうえでは、以下のような質問を投じて、部下たちの能力の基盤を成す知識、経験を思い出させると良い。

・エンジニアの観点から見て、これはどう見えるか?
・チームに加わったばかりの者として、新鮮な意見を聞かせてくれないか?
・あなたはプライベートでこの種のサービスを利用した経験があると思う。顧客としてその経験に何を求めたか?
・技術職に就く以前は芸術関係の仕事をしていたと記憶している。その視点から見て、今回のリブランドについてどう思うかを率直に聞かせて欲しい。

質問方式③ 明確な質問を使って直接的な表現ができるようになる
人は上司などの権力を持った人と話すとき、本心をオブラートに包んで伝えようとしがちだ。ヘリング氏はこの行動を 「ミニゲートスピーチ」と呼んでいる。

例えば、ある従業員が人材採用の意思決定を巡る上司の倫理性について懸念していたとする。そのような場合も、上司に対して問題を直接提起するのではなく「当社の人事方針は確認されましたか」と、和(やわら)かに注意を喚起しようとすることが多い。以下は、本心をオブラートに包んだ部下のミニゲートスピーチに対し、リーダーが明確な質問で対応する方法である。

部下: これは法務に相談すべきでしょうか?
リーダー: それは良い考えかもしれないね。ただその前に、この件に関する非合法の可能性について、あなたの意見を聞かせて欲しい。

部下: この会議はいつごろ終わるのですか?
リーダー: 2時間はかからないと思う。休憩が必要なのかな? ならば20分ほどコーヒーでも飲みながら休もうか。

部下: 来月、私が何を担当するかご存知ですか?
リーダー: まだ何も決まっていなくて申し訳ない。あなたは何か取り組みたいことがありますか?

方法④ 自分の発言で模範を示す

健全な職場では、ときおり 「プロらしくない 」とされる感情も含めて、自分自身を素直に表現することができる。カルチャーオブボイスの構築に向けてリーダーがとれるきわめて有効な行動の1つは、自分の感情を素直に述べて周囲の規範となることだ。この点について、ヘリング氏は次のような説明を加える。

「リーダーが自分のいまの感情を素直に認めて、口にすることはカルチャーオブボイスの醸成につながる行動です。ただし、自分のネガティブな感情を口にするときは、その感情に至った責任は自分にあって部下にはないことを明確にすべきです。仮に、それが即座にできなくても、30分後でも1日後でもやり直せば良いのです」

【リーダーによる感情表現の例】
● あのクライアントとのミーティングは本当にイライラしたし、混乱もさせられた。ただし、あなたはよくやってくれたと思う。この件について手直しが必要になったのは、私たちのせいではない。

● 申し訳ない。実のところ、今日はベストな状態ではないんだ。ちょっと気が散ってしまっていてね。

● 少し話す時間はあるかな? 実は、あなたのフィードバックに対する私の反応について謝りたいんだ。

方法⑤ 部下の心理的安全性を担保できるリアクションを心がける

部下たちが声を上げたときにリーダーがどのように反応するかは、カルチャーオブボイスを築くうえでの重要なポイントとなる。

「組織・チームのリーダーはよくポーカーフェイスを保つよう勧められます。ただ、いくらそうしようとしても感情の動きは顔に漏れ出てしまうものです。リーダーにとって大切なのは、自分の感情を読み取られないようにすることではありません。むしろ、自分の人間性を職場でも素直に表現したほうが良いといえます。とはいえ、自己保身に走ったり、部下たちに自分の能力や正当性を証明するよう求めたり、部下たちが経験したことに疑問を持ったりすることは是が非でも避けなければなりません」(へリング氏)

【部下を安心させるリアクションの例】
● あなたの他チームでの経験は素晴らしい。あなたの話をもっとよく聞いて対応したいので、この件の処理にはもう少し時間をかけさせて欲しい。

● この件について教えてくれてありがとう。ただ、あなたの話をより深く理解したいので、何が起きたのかをもう少し詳しく説明してもらいたい。

● うーん、それは私がチームに求めている価値観に反するものだね。この問題を解決するために、何をすれば良いかについて、あなたの考えを聞かせて欲しい。

方法⑥ 部下からの問題提起に頼らず自発的に動く

カルチャーオブボイスの構築に向けては、組織・チームのリーダーは部下からの問題提起や手助けを待つのではなく、自身に対する教育からことを始めるのが大切だ。

もちろん、カルチャーオブボイスの文化づくりに関して部下たちに相談を持ちかけることは可能で、そうすべきでもある。とはいえ、部下たちは彼らの属するコミュニティや組織の専門家ではない。したがって、あくまでも個人の相談事として部下に話を持ちかけるのが無難である。

「組織・チーム内の個人が自発的に発言するようになると期待するのは、リーダーが自らの責任を放棄しているのと同じです。私はよく、組織・チームのリーダーに米国企業でのアジア系女性の扱いについて質問をされます。しかしそうした問いへの答えは、インターネットを検索すればすぐに見つけられるのです」(へリング氏)

例えば、家族の介護に追われる部下(以下、介護者)に優しい職場を作りたいとする。そのようなときでも組織・チームのリーダーは、介護者に直接「どうするのが適切か」を聞かずとも、関連の書籍を読んだり、ポッドキャストを視聴したり、あるいはSNSでコミュニティのインフルエンサーをフォローしたりすることで、自分の知りたい情報を入手できる。そうすることで、その部下と話をする前に、組織。チームの文化やプロセスをどう改善できるかのアイデアを得ることが可能となるのだ。

【介護者サポートに向けたリーダーの行動例】
● 介護者をサポートするために、より柔軟でハイブリッドなワーキングポリシーを導入する。

● 介護で欠勤した部下に対して、介護休暇には自身のメンタルヘルスケアのための休暇や子供の看護休暇も含まれることを明確に伝え、欠勤に関する詳細な説明を求めない。

● 非同期型のコミュニケーションツールを使いこなしながら、メンバーがリモートに分散して働くチームを適切にマネージできるよう自身のスキルセットを更新する。

以上の内容を踏まえつつ、ヘリング氏は話の最後をこう締めくくる。

「リーダーの役割には責任が伴います。部下たちの自主性にすべてを委ね、彼らが声を上げるのを待つのではなく、沈黙する部下が組織・チーム内で果たしている役割をしっかりと認識し、リーダーである自分の行動・言動が、彼らを沈黙させていまっている可能性を調査して突き止めなければなりません。そうすることで、組織・チームに潜在する才能を解き放ち、リーダーが望む職場を創り出すことができるのです。」

なお、ヘリング氏についてさらに知りたい方は、同氏と LinkedIn(参考文書(英語))でつながるか、同氏のWebサイト(参考文書(英語))にアクセスされたい。

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