本稿の要約を10秒で
- 「コンパッショネイト・リーダーシップ」とは、チームの全員を思いやり、その幸福を優先しながら、ビジネス目標を達成することに重点を置くリーダーシップである。
- コンパッショネイト・リーダーシップは、困難なビジネス目標を達成するうえで効果的である。
- コンパッショネイト・リーダーシップはリーダーとチームの双方にメリットをもたらす。
- コンパッショネイト・リーダーシップは、思いやりと「知恵(ビジネス上の賢明さ)とを組み合わせることで効力が大きくなる。
- 本稿ではコンパッショネイト・リーダーシップの実践するうえで役に立つTIPSを紹介する。
「コンパッショネイト・リーダーシップ」とは何か?
「コンパッショネイト・リーダーシップ」とは、組織・チーム全体の幸福を優先しながら、ビジネス目標を達成することに重点を置くリーダーシップスタイルである。「コンパッション(思いやり)」という言葉が示すとおり、このリーダーシップは部下を思いやることを基本としている。
コンパッション(思いやり)という言葉は「シンパシー(同情)」や「エンパシー(共感)」と混同されることが多い。ただし、それらの意味するところには違いがある。
コンパッショネイト・リーダーシップの主要なリソースの1つとなっている団体「Compassionate Leaders Circle」では、これら3つの言葉の主たる違いを以下のようにシンプルに表現している(参考文書(英語))。
- シンパシー(同情)=思考
- エンパシー(共感)=思考+感情
- コンパッション(思いやり)= 思考+感情+行動
つまり、コンパッショネイト・リーダーシップのスタイルを体現するリーダー(以下、コンパッショネイトリーダー)は、部下たちの経験や感情を理解して共感するだけでなく、たとえ難しい選択をすることになっても、部下たちの現実を念頭に置きながら決断を下して行動するというわけだ。
そのことは、以下に示す「コンパッショネイト・リーダーシップにおける4つの基本行動」(参考文書(英語))にまとめて示されている。
- 注意を払う: 他の人々に注意を払い、彼らの感情の状態に気づく。
- 理解する: 当該の感情を生んでいる根本原因を理解する。
- 共感する: 同じ感情を抱けるようにする(=その人の立場になって考える)。
- 助ける、奉仕する: その感情を生んでいる問題に効果的に対処すべく行動を起こす(あるいは、その人が問題への対処法を見つけるのを助ける)。
これらの行動をとることで、コンパッショネイトリーダーは、個人を支えて励まし、モチベーションを喚起するリソースとして機能することができる。ただし、コンパッショネイト・リーダーシップが目指す最終的なゴールはチーム全体の幸福にあることを忘れてはならない。
コンパッショネイト・リーダーシップにおける7つの「C」
コンパッショネイトリーダーには、思いやりの他にも重要な資質がいくつかある(参考文書(英語))。コンパッショネイトリーダーズサークルの創設者兼CEOであるローレル・ドネラン(Laurel Donnellan)氏は、コンパッショネイトリーダーの属性として以下の7つを定義している。
- 思いやり
- 自信
- 協力的
- 思索的
- 市民的
- 好奇心旺盛
- 勇気
コンパッショネイト・リーダーシップがもたらす3大メリット
コンパッショネイト・リーダーシップは「人の心」ばかりに気を配るアプローチではない。このリーダーシップは、さまざまなメリットをリーダーとチームにもたらす。その主要なメリットを紹介しておきたい。
メリット①リーダーの仕事上のストレスを小さくする
コンパッショネイト・リーダーシップは、チームのメンバーのみならずリーダーにも大きなメリットをもたらす。書籍「Compassionate Leadership」によると、コンパッショネイトリーダーは、思いやりに欠けるリーダーに比べ仕事上のストレスが66%少なく、退職意向が200%低く、仕事上の効果が14%高いという。
なお、「Compassionate Leadership」の著者は、リーダーシップ研修のソリューションを提供するポテンシャルプロジェクト(The Potential Project)社の創設者兼CEOであるラスマス・ホウガード(Rasmus Hougaard)氏とシニアパートナーのジャクエリン・カーター(Jacqueline Carter)氏だ。ハーバードビジネスレビュー(Harvard Business Review Press)が発行元となっている。
メリット②チームをより幸せにする
当然のことながら、チームのメンバーも、コンパッショネイト・リーダーシップから多くのメリットが得られる。ある神経画像の研究によると、思いやりを示すリーダーに対して、人間の脳はよりポジティブに反応するという(参考文書(英語))。そのため、コンパッショネイトリーダーのもとで働くワーカーたちは、精神的疲労が軽減され、欠勤率が下がり、幸福度が高まるようだ。実際、米国のワーカーの実に90%が(コンパッショネイト・リーダーシップのような)共感型のリーダーシップは仕事の満足度を高めると答えている(参考文書(英語))。
メリット③思いやりは事業の収益アップにつながる
思いやりによってチームのメンバーから慕われるリーダーと、十分にサポートされたメンバーは、企業の収益にプラスの影響を直接的に与える。ある研究によれば、事業部の価値観に思いやりを意図的に取り入れるたことで、その事業部は多くの財務的成功を収め、経営幹部はその事業部がより効果的になったと評価したという。
また、コンパッショネイト・リーダーシップには、従業員の定着率を向上させ、人材の雇用・育成のコストを低減させる効果もあるようだ。
思いやりだけで十分なのか?
ポテンシャルプロジェクト社が行った調査では、思いやりは重要であるものの、それだけでは十分ではないことが明らかになった(参考文書(英語))。
この調査によれば、思いやりと「知恵(ビジネス上の賢明さ)」をバランス良く組み合わせて使うことが重要であるという。例えば、従業員から賢明さと思いやりが低いと評価されたリーダーの組織と比べた場合、思いやりのあるリーダーのもとでは燃え尽き症候群の発症率が22%低くなるが、賢明で思いやりのあるリーダーのもとでは実に64%も低くなるようだ。また、賢明で思いやりのあるリーダーのチームは、そうではないリーダーのチームに比べてパフォーマンスが20%高いという。
もっとも、思いやりと知恵のバランスをとることはなかなか難しい。例えば、思いやりには、困難な決断を下す際にチームメンバーへの共感が邪魔になるリスクがある。
他方、ビジネス上の賢明さの背後には、チームの幸福よりも結果を優先してしまう危険性がある。以下の図(マトリックス)は、そうしたリ点を踏まえながら、思いやり、ないしは知恵を使うことの利点と潜在的なリスクを示している。
このマトリックスからわかることは、思いやりの心を持つのと同時に知恵を使うテクニックを養わなければならないということだ。
知恵(ビジネス上の賢明さ)とは、現実を直視し、適切に行動することを意味している。そうした知恵は、経験によってもたらされる先見性であり、困難なことに真正面から向き合い、対処するうえでの助けとなる。そうした知恵を養うということは、他者をどのように導いていくか、あるいは、どのような目的と持続可能な方法によって事業を運営するかについて適切に判断できる力をつけるということだ ── 書籍「Compassionate Leadership:How to Do Hard Things in a Human Way」より