分析麻痺に陥らないための5つのTIPS
分析麻痺はビジネスの現場でよく起きる。実際、最近実施されたある調査によると、ビジネスリーダーの85%が過去1年間において決断に悩んだ経験があるという(参考文書 (英語))。つまり、きわめて多くのビジネスリーダーが、自分の決断を後悔したり、罪悪感を抱いたり、自分の選択に疑問を持ったりしたことがあるというわけだ。
では、チームリーダーやチームが分析麻痺に陥らないようにするには、何をどうすれば良いのだろうか。この疑問への答えてとして、以下では、分析麻痺に陥らないためのTIPSを5つ紹介したい。
TIPS①重大な決断を最初に下す
幾人かの専門家は、私たちが決断を下す能力とエネルギーには限りがあると主張している。つまり、何らかの選択するたびに人の精神的なリソースが削られていき最終的には何も残らなくなるというわけだ。これが、先に触れた「決断疲れ」の状態といえる。
もちろん、決断を下す能力とエネルギーが有限かどうかについては議論の余地がある。ただし、少なくとも、目前にある最も重要な決断は、働く1日の初めにするほうが良いだろう。1日の初めであれば、日常的に行わなければならない数々の選択で疲れ果てている可能性が低くなるからだ。疲れ果てていなければ、より健全で迅速な決断を下すチャンスが大きくなる。
TIPS②決定による影響を理解する
すべての決断について同じ慎重さで臨む必要があるわけではない。決定すべき事柄には「誰を雇用するか」「チームの予算をどのように配分するか」など、十分な検討と議論が必要なものがある。一方で「チームで使うプレゼンテーションツールとして、何を選ぶか」など、それほどの精査を必要としない事柄もある(主要なプレゼンテーションツールには、さほどの機能差はなく、何を使うかは好みの問題に過ぎず、この事柄は単純な多数決で決定できる)。
したがって、決断を要する事柄については、特定の決断、ないしは選択によってどのような結果がもたらされるかを予測しておくことが必要とされる。より具体的には「この決定を誤ったときの最悪のシナリオは何だろうか」と自問し、そのシナリオを明確にすることが大切なのである。
これは、決断のミス、あるいは選択のミスへの恐怖心を煽(あお)るための行動ではなく、その決断がいかに適切で差し迫ったものかを理解するためのものだ。そして、とりうるすべての選択肢について、それを選んだときの影響がさほど大きなものでないなら、完璧主義を捨て直感に従うほうが有効だ。
TIPS③期限を決める
意思決定のプロセスは「仕事の量は与えられた時間を満たすように拡大していく」という「パーキンソンの法則」(参考文書)に陥りやすい。したがって、意思決定の期限をしっかりと設定し、その順守を徹底することが大切であり、それが分析麻痺を回避する有効な一手となる。
ただし、期限の設定を誤ると、意思決定を必要以上に急がせ、選択の品質を低下させてしまうリスクがある(参考文書 (英語))。ゆえに、あまり野心的にならず、現実的な期限を設定することが大切である。また、チームリーダーとチームの双方にとって重要な意思決定を行う際には、熟慮のために相応の時間を確保したほうが良い。
TIPS④選択肢を抑制する
先に触れたとおり、選択肢が多すぎると分析麻痺に陥りやすくなる。したがって、選択肢を適切な数に絞り込むことは分析麻痺を回避する有効な一手となる。
また、選択肢を絞り込んだ「よりシンプルで合理的な意思決定プロセス」は、チームリーダーの「認知的過負荷」を回避して「すべての石を裏返しにする時間とストレス」を減らすことにつながる。
一方で、多くのブレインストーミングや思考を必要とする意思決定については、選択肢を抑制し続けるのは難しいかもしれない。
そのような場合には「シンスライシング」と呼ばれる手法を試していただきたい。これは、意思決定に関係するすべての変数に目を向けて最も重要なものに的(まと)を絞る手法である。
ここで、本稿の冒頭部分で触れた「顧客による批判的な評価への対応をどうするか」の例を使いながら、シンスライシングについての説明を加えたい。
まず、あなたのチームはすでに顧客への対応について多数の選択肢を検討の土俵に上げているとしようと。このとき、シンスライシングの手法を使い、意思決定において最も重要なことは何かを洗い出す。具体的には、批判的な顧客に対応するうえで「チームにとって最も重要なこと」とは何か、それは「早く次に進むことなのか」「プロダクトの評判を守ることなのか」「プロダクトのブランドを守ることなのか」、それとも「プロダクトのオーナーシップを保持し続けることなのか」を検討し、決定する。このようにして「選択肢をふるいにかけるフィルター(ないしは基準)」を1つに絞り込むことで、多数の選択肢の良否を1つずつ検討するよりも簡単にチームにとって最良の策を選り抜くことが可能になる。
もちろん、選択のためのフィルター、ないしは基準を1つに絞れず、行き詰まることもある。そのようなときには「トレードオフ分析」を行うことで、チームとして何を追求すべきかの優先順位を決定するのが容易となる。
過剰な分析よりも行動を
重要な意思決定を慎重に行うのは決して悪いことではない。一般的にも、綿密な検討を重ねたうえで重要な意思決定を下すよう勧められている。
ただし、だからといって分析麻痺に陥り、意思決定のプロセスが分析や熟考のフェーズで固まってしまい、なかなか前に進めず、最終的な結論が出せないのは大きな問題である。しかも、分析麻痺は、チームリーダーやチームの生産性を低下させることにもつながる。
ゆえに、チームにおいて分析麻痺の状態が見受けられているならば、上で紹介したTIPSを実践することを検討いただきたい。もちろん、その検討に時間をかけすぎないことが大切である。変化の激しい今日では、過剰な分析よりも、すばやい決断と行動のほうが重要なのだ。