アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのカット・ブーガード(Kat Boogaard)が、果てしなく続く物事の選択にエネルギーを消耗してしまう「決断疲れ」への対処法を説く。

「決断疲れ」に打ち勝つための6つのTIPS

当然のことながら、チームのリーダーもメンバーも、常に論理的で十分な情報に基づいた決断を下したいと考えているはずだ。その理想を実現するうえでは「決断疲れ」を是が非でも抑制しなければならない。そこで以下では、個人、ないしはチームでの「決断疲れ」の抑制に有効なTIPSを6つ紹介したい。

TIPS①システムを設定する

「決断疲れ」を抑制する方法の1つは、決断すべき事柄の数、すなわち決断の回数を減らすことだ。これは不可能に感じるかもしれないが、以下に示すような日々の工夫で決断の回数を減らしていくことができる。

  • 決断を1度で済ませる
    Facebookの創始者で、Meta Platforms社の共同創業者兼CEOであるマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)氏は、日々の決断の回数を減らす目的で毎日同じグレーのTシャツを着ているという(参考文書 (英語))。また、同じ理由から、自宅で過ごす毎週火曜日を「タコス デイ」にしているという。このように、無限に近い選択肢のある毎日の決断を1度きりで済ませてしまうことで、決断における認知的負荷を減らすことができる。
  • テンプレートを使う
    「テンプレート」も目前にある多くの選択肢によって惑わされたり、消耗したりするのを避けるのに役立つ。つまり、テンプレートを通じて意思決定のプロセスを、再現可能で定型的なシステムやワークフローに転換することで、チームのリーダーやメンバーは、意図的に決断を下さずとも、次に何をすべきか、何が起こるかを理解することが可能になるのである。

以上のような手段を講じることで、決断の数、ないしは選択の数を減らせるだけではなく、それによって相応の「安らぎ」もえらる。実際、予測可能な日常やお決まりの儀式は、人々の不安を軽減することが科学的に証明されてもいる(参考文書 (英語))。

TIPS②標準的なフレームワークを活用する

意思決定のための標準的なフレームワークを使うことで、意思決定のプロセスを管理しやすく、取り組みやすくすることが可能になる。また、精神的な疲れがすでにたまっている場合でも、従うべき明確な構造、ないしはフレームワークがあれば、チームのリーダーやメンバーの状態を、理路整然としたかたちに保つことができる。ちなみに、意思決定の標準フレームワークとして人気の高いものは以下の2つだ。

  • 意思決定の標準プロセス
    意思決定のための標準プロセスは「1. 決定すべき事柄を特定する」「2. 情報を集める」「3. アイデアを出し合う」「4. 選択肢を絞り込む」「5. 決断を下す」「6. 行動を起こす」「7. 決定事項を見直す」という7つのステップから成る。これら7つのステップは、チームのリーダーとメンバーが問題を定義し、選択肢を検討して決断を下す際の指針となる。
  • DACI意思決定フレームワーク
    DACIとは、意思決定にかかわる人(メンバー)の役割を定義した「Driver(推進者)」「Approver(承認者)」「Contributor(貢献者)」「Informed(報告先)」の頭文字をとった言葉だ。このようにして意思決定にかかわる人の役割を明確にすることで、メンバー同士の衝突や衝突による精神的な疲弊を減らし、共同で意思決定を効率的、かつ効果的に行うことが可能になる。

上述した2つのフレームワークを使うにせよ、別の「発散的思考」の実践手法を使うにせよ、大切なポイントは意思決定の「青写真」があるかどうかだ。その青写真があることで、意思決定がステップバイステップのタスクのように感じられるようになり、精神的な疲弊をもたらす格闘技のようには感じられなくなる。

TIPS③メンバーの強みと専門性を考慮する

チームのリーダーにとって、何らかの決断を迫られるのはつらいことだ。特に、自分には決断する能力も資格もないと感じている場合、意思決定の最終責任を背負うのは、相当の精神的な消耗を伴う仕事といえるだろう。

そこで必要となるのは、意思決定をチームのメンバーに委ねてしまうことだ。そうすることでリーダーは「決断疲れ」をかなりのレベルまで和らげることが可能になる。

また、チームにおいては、メンバーごとに得意分野や関心分野が異なるのが通常だ。ゆえに、メンバー各人の得意分野や関心分野に合わせて、意思決定を委ねることもできる。

例えば、イベントを企画するのが好きなメンバーがいるならば、その人に次回の社外ミーティングの場を決めさせることができる。また、ITツールに詳しいメンバーが複数人いるならば、彼らはどのプロジェクト管理ツールをチームで使うかを協力して決めたいと思うはずである。

なお、誤解を避けるために言っておきたいのは、意思決定をチームのメンバーに委ねるというのは、リーダーによる「責任回避」の行動ではないという点だ。ポイントは、メンバー各人の専門知識を最大限に活用しながら、彼らにとって最も適切で有意義な決定へとつなぎ、かつ、その決定に対するオーナーシップを持たせることである。

また、チームの全員で意思決定を行う必要がある場合には「シックスハット法(6つの帽子思考法)」などを用いるのも有効である。シックスハット法とは、色の異なる帽子を使いながら、物事を「事実(情報)」「直感・感情」「創造性」によってとらえたり、「リスク」「ベネフィット」の側面からとらえたりして、思考を押し広げていく手法である。

この手法を実践することで、さまざまな角度から意思決定を検討し、意思決定が「ゼロサムゲーム」ではなく、効果的なコラボレーションになるようにすることができる。

TIPS④ストレスをマネージする

繰り返すようだが、多くの決断を迫られることは、ストレスのレベルを高める。実際、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が大流行していたとき、私たちは日常的に下すべき意思決定の数が増え、自宅近くの食料品店に買い出しにいくかどうかを決めるのですら、さまざまなリスクを勘案せねばならなかった。結果として、日常生活におけるストレスのレベルは高止まりしていたといえるだろう。

もちろん、コロナ禍は終息したといえるが、あらゆる物事の不確実性は依然として高い。そうした物事の不確実性は、日々の生活の中で適切な選択を行う難度を高め、決断に伴うストレスを激増させる。結果として、私たちの意思決定の能力が最低レベルにダウンしてしまうことが往々にしてある。

だからこそ、チームのリーダーは、チームの不安感やプレッシャーを最小限に抑えるための特別な施策を講じなければならない。具体的には、メンバー各人に対して適度な仕事量を確保したうえで、彼らが決断しなければならない事柄を少なくし、適切なリソースやガイダンスを提供することが必要とされるのである。こうすることで、チームの全員がサポートされていると感じてストレスを減らし、適切な選択をする能力を保つことができるのである。

TIPS⑤優先順位をつける

決断すべき事柄にはそれぞれ「重み」がある。一方で、決断を行うたびに精神的エネルギーが消耗していき、最終的に「決断疲れ」が引き起こされ、人の意思決定能力は低くなる。したがって、決断すべき事柄の「重み」に応じて優先順位を決め、重大な意思決定については「決断疲れ」が引き起こされる前に行うのが適切といえる。

例えば、1日の中で最も重要な意思決定とは何か、あるいは最も複雑性の高い意思決定とは何かを洗い出す。そして、その意思決定を下すために必要な作業を、精神的なエネルギーがほとんど消耗されていない1日の始まり、ないしは1日の早いタイミングで行うのがベストといえる。

こうすることで1日の早い段階で相応のエネルギーが消費されることになる。ただし、残っているのは、さほど重要ではなく、かつ単純な意思決定となる。これらの意思決定は、より少ないエネルギーで対処することができるはずである。

1日の早い段階で重要な意思決定を集中的に行うというのは、1日における「80%の成果」は「20%の努力」から生まれるという「80/20の法則」に沿ったタイムマネジメントの手法ともいえる。いずれにせよ、ここでの目標は、最も重要な意思決定とは何かを見定め、精神的なエネルギーが満タンのときに、その決断を下すことにある。

もちろん、それが常に可能なわけではない。日々の仕事の中では、大小さまざまな決断を下さなければならない場面に、何の前触れもなく突き当たることがよくある。とはいえ、前もって決めておくことができる事柄については、その意思決定を行うタイミングを戦略的に決めておくことが賢明なやり方なのである。

TIPS⑥休息を取る

意思決定を巡る「苛立ち」や「先延ばし」「疲労感」「衝動的な判断」はすべて「決断疲れ」の兆候である。仮に、自分自身やチームでそのような兆候が見受けられたら、ブレーキをかけることが良策といえる。

そのブレーキのかけかたはさまざまだが、有効で簡単な一手はチームに休息を与えることだ。例えば、その日のミーティングでなかなか意思決定に至らず、かつ、意思決定の時間に相応のゆとりがあるとしよう。その場合には、ミーティングの参加者のリフレッシュのために、翌日に決断を持ち越したほうが賢明だ。また、決断を翌日に持ち越すことができない場合でも、ミーティングを一時中断し、ちょっとした休息(散歩をしたり、軽食をとったりする数分程度の休息)をとることで、精神的なエネルギーを充電したり、モヤモヤを振り払ったりして、より明晰な状態で決断の場に臨むことが可能になるとの研究結果もある(参考文書 (英語))。

「決断疲れ」からの脱却を

自覚があろうとなかろうと、私たちビジネスパーソンは、1日に膨大な数の決断を下している。決断における取捨選択は、待ったなしの容赦のないゲームといえ、それをこなすたびに私たちは集中力やエネルギーを失っていく。

ただし幸いなことに「決断疲れ」が慢性化することはなく、上に示したとおり、終わりのない選択の重荷を軽減するための手法もいくつか存在している。つまり、「決断疲れ」に打ち勝つための施策はすでにあり、すべては、あなたの判断と努力に委ねられているということだ。

This article is a sponsored article by
''.