子育て世代を中心にハイペースで人口を増やしている千葉県流山市。2009年(4月時点で15万8,426人)からの15年間を見ても、5万人強の人口増が見られている(2023年4月時点の人口20万9,935人)。この人口増に貢献してきた1人が、国内基礎自治体初のマーケティング組織である流山市のマーケティング課で2009年から地域マーケティング、ブランディングに力を注いできた河尻 和佳子氏(現マーケティング課 課長)だ。自治体マーケティングという前例のない職務に挑み、実績を上げてきた同氏と、アトラシアン エバンジェリストの野崎が、変化の時代にあるべき仕事の進め方、組織のあり方について意見を交わす。

市政も「世の中は目まぐるしく変化する」という前提に立つ

野崎:河尻さんの先ほどのお話から、アジャイル手法の活用は日本の民間企業だけでなく、自治体でも進むのでないかとの印象も受けました。
アジャイル手法では、現場で働くチームの俊敏性を確保するために、チームが自走する自律分散型の組織構造をとることが提唱されています。ところが、ピラミッド構造の組織の場合、トップダウン方式で全体を運営しようという考えから抜け出せないケースがあるんです。

画像5: 自治体がアジャイルであることの意義 ~ 人口大幅増で注目の流山市のマーケティングリーダー 河尻氏とアトラシアン エバンジェリストが意見を交わす

河尻:なるほど、これまでの体制を維持しようとすると、顧客や市場の変化に俊敏に対応するのが困難になりますね。当市の市長はかねてより、アジャイル的に仕事を進めるよう ──それがアジャイル手法であるとの認識があったかどうかはわかりませんが── 市の職員たちに言っていた気がします。

例えば、何らかの施策、ないしは事業を提案する際も、時間をかけて分厚い提案書・企画書を作成するのではなく、もちろん下調べは十分したうえでA4判用紙1枚程度に提案をまとめて承認をとり、実行して課題が見つかれば改善するように言われていました。

野崎:先進的ですね。

河尻:そうだと思います。当市では「世の中は目まぐるしく変化する」という前提に立つ意識が醸成されたかもしれませんね。

例えば、多くの日本の自治体は行政運営の指針となる総合計画を策定して公表していますが、基本計画は10年間の計画で分厚い資料になりがちです。それに対して当市の総合計画は薄いほうだと思います。分厚い資料は読み切るのも大変だし、不確実性が高く変化の激しい今日ではそれに対応するため、実施計画は3年間とし、毎年見直しします。

野崎:それはすばらしいですね。

河尻:加えて年間予算の策定時には、データに基づき事業の説明をするよう市長から求められます。ですので「前年これをやったので今年もやります」「これは他の自治体もやっているのでやります」「これは、それほどコストがかからないのでやります」といった予算策定は通りません。つまり、「なぜ、その事業をやるべきなのか」の根拠をしっかりと示すことが求められるということです。かなり厳しいですよ。

野崎:ヒリヒリするような厳しさですね。そこからは、世の中の変化に合わせて、自分たちを絶えず変化させなければ、時代に取り残されて、組織としての存続が危うくなるといったレベルの危機感が伝わってきます。

河尻:当市は「住宅都市」なので歳入の中で個人住民税の割合が比較的高く、「少子高齢化」がリスクなんです。今後、日本は人口減少となります。ゆえに、サステナビリティに関する危機感は強くあるといえます。その中で、人の生活様式や価値観は、さまざまに変化しますから、その変化に俊敏に対応していくことが重要課題になってくるでしょう。

画像6: 自治体がアジャイルであることの意義 ~ 人口大幅増で注目の流山市のマーケティングリーダー 河尻氏とアトラシアン エバンジェリストが意見を交わす

野崎:なるほど。自治体に「俊敏」というイメージを持つ人は少ないと思いますが、それはもう過去の話かもしれませんね。河尻さんのお話によって、自治体も、民間の企業と同じ、むしろそれ以上の危機感をもって変化への即応力を高めようとしていることが理解できました。

メンバーの自律を育むマネジメントスタイルへ

野崎:最後に河尻さんの今後について確認させてください。課長として、これからもマーケティング課を率いていくことになりますが、新たに成し遂げたことなど、思い描いていることが何かありましたらお聞かせください。

河尻:これからも結果は出していかなければなりません。その結果を出すうえでは、これまでどおり、自分がチームをグイグイ引っ張っていくのが最も効率的です。とはいえ、そのようなリーダーシップを続けるのは、チームとしてのサステナビリティを損なうことになるのではないかと最近思うようになりました。ですので、これからはチームのメンバー各人が自分の担当する仕事でリーダーシップをとり、ことを進めていければと考えています。それによってチームのパフォーマンスは一時的に落ちるかもしれません。それでも、中長期的には大きな成果につながると確信しています。

野崎:つまり、メンバー各人が自律的に動きながら、チームとして機能するようなマネジメントスタイルを確立していくということですね。

河尻:はい。一見マーケティングとは関係なさそうな部門をはじめ、自治体が展開する施策には、選ばれるための仕組みを考えていくマーケティングのスキルが絶対に必要であり、有効だと、いろいろなところで話しています。そのことをメンバーたちにしっかりと伝え、市の置かれている状況と自分のミッションを紐づけられるようになることで、相応のスキルを身に付け、チャレンジ精神を発揮しながら活躍してくれればと思います。

それよりもむしろ、私が黙っていられずに口を出してしまわないかのほうが心配ですね。でも、チームのために頑張りますが。

野崎:マーケティングのスキルは、自治体のすべてのサービス、あるいは組織で効力を発揮するんですね。とすると、国内の全自治体にマーケティング課が置かれるとすごい変化が起きそうですね。本日は長時間、対談にお付き合いいただき、ありがとうございました。

河尻:こちらこそ、私の仕事やプロジェクトの進め方がアジャイルであると気づけて良かったです。ありがとうございました。

画像: メンバーの自律を育むマネジメントスタイルへ

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