アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。アトラシアンのコンテンツマーケター、ハイメ・ネッツァー(Jaime Netzer)が、非同期コミュニケーションの効率性と効果を高めて、分散型チームのパフォーマンス向上につなげる方法を説く。

本稿の要約を10秒で

  • 世界のナレッジワーカーの5割近くがフルタイムのリモートワーク、ないしはハイブリッドワークを行っている。
  • リモートワーク、あるいはハイブリッドワークへの移行でパフォーマンスが低下してしまう大きな要因の1つは非同期コミュニケーションがうまく行えていないことにある。
  • 非同期コミュニケーションの効率性や効果を高めるうえでは、そのためのノウハウを知っておく必要がある。

非同期コミュニケーションが柔軟な働き方を支える

アトラシアンのマーケティングチームはフルタイムのリモートワーカーで構成された典型的な分散型のチームだ。こうしたチームでは、リアルタイムに顔を合わせることなく協働作業を進めることが多くなる。要するに、分散型チームのコラボレーションとコミュニケーションは、多くの場合、非同期で行われるわけだ。

新型コロナウイルス感染症の世界的流行というパンデミックの発生以降、世界中の企業は優秀な人材を確保するためにリモートワークを標準的な働き方として取り入れてきた。調査会社のガートナーによれば、2023年の労働人口に占めるハイブリッドワーカーとフルタイムのリモートワーカーの占める割合は、米国の場合で71%に上り、全世界でも48%に達するという。

とはいえ、リモートワークが一般化してからそれほどの歳月は経過しておらず、ビジネスパーソンの多くが分散型チームで働くことに馴れていない。つまり、多くのビジネスパーソンが、ハイブリッドワーカーとしての“筋肉”を鍛えなければならない段階にあるといえる。

実際、アトラシアンとウェイクフィールド・リサーチ社が米国とオーストラリアのナレッジワーカー1,000人を対象に調査したところ、ナレッジワーカーの多くが、分散型チームへの移行によってチームパフォーマンスが落ちたと感じていることが明らかになった。ただし、その要因を分析すると、チームメンバーがリモートに分散したことが問題なのではなく、旧来からのツールや仕事上のルール(慣習)を変更していないことにパフォーマンス低下の要因があることが判明した(参考文書)。要するに、分散型チームへの移行後にパフォーマンスを落としたチームの多くが、同期コミュニケーションや同期(リアルタイム)コラボレーションを中心にした旧来型の働き方や慣習を継続させており、非同期コミュニケーションのツールを有効に活用できていなかったのである。

この結果からは、分散型チームのパフォーマンスを高めるうえでは、非同期コミュニケーションをいかに適切に、かつ有効に行えるかどうかが要点の1であることがわかる。

ナレッジワークのおよそ半分はコミュニケーション

非同期コミュニケーションとは、メールやチャットツールを通じた情報交換や意見交換など「リアルタイムのやり取りが行われないコミュニケーション」を指している。例えば、チャットツールの「Slack」を使ったテキストチャットでは、いくら手早くタイピングを行っても、電話やビデオ会議を使用した対話(同期コミュニケーション)のように、自分の意思やフィードバックを瞬時に相手に伝えることはできない。

それでも、非同期コミュニケーションが重宝されてきたのは、ビジネスパーソン(特にナレッジワーカー)による日々の仕事において、コミュニケーションが実に大きな割合を占めているからだ。Loomの2023年5月調査(参考文書(英語))によれば、ナレッジワーカーは「1日平均3時間43分(=1日の労働時間の約半分)」をメールやチャットツール、ビデオ会議、電話などを使ったコミュニケーションに費やしているという。ゆえに、同期、非同期のコミュニケーションの効率性、有効性を高められれば、日々のナレッジワークのパフォーマンスを大幅に向上できる可能性がある。

では、何をどうすれば同期、非同期コミュニケーションの効率性、有効性を高められるのだろうか。以下、その点について少し深く掘り下げていきたい。

同期と非同期のコミュニケーションを適切に使い分ける

同期、非同期のコミュニケーションをより効率的で有効にするうえでまず大切なのは、両者を適切に使い分けることである。

先に触れたパンデミックの発生以降、ナレッジワーカーで構成されるチームの多くが、メンバーの働き方をフルタイムのリモートワーク、あるいは、ハイブリッドワークへと移行させた。ところが「ミーティングは対面で行う」という慣習を、チームのメンバーがリモートに分散した新しい世界にもそのまま持ち込み、結果として、ビデオ会議を使ったミーティングを頻繁に催すようになっている。

ただしこれは、コミュニケーションのベストプラクティスとは言いがたい。実際、企業の従業員の76%が、ビデオ会議を使ったミーティングは物理オフィスでのミーティングに比べて注意力が散漫になると報告している(参考文書(英語))。

したがって、フルタイムのリモートワーク、ないしはハイブリッドワークを今後も継続するのであれば、ミーティングの頻度ややり方を見直すべきである。その際には、どういったタスクに同期コミュニケーションが適しているのか、あるいは、非同期コミュニケーションが適しているのかを見定めることが大切だ。それによって、同期、非同期コミュニケーションの効率性と効果を高めて、チームにおける共通理解と生産性の最大化につなげることが可能になる。

以下、同期か非同期かの判断を下すうえでの一助とすべく、一般的には同期コミュニケーションのほうが適していると思われているが、実のところ、非同期コミュニケーションを採用したほうが良い作業を3つ紹介しよう。

①ブレーンストーミング

ブレーンストーミングには同期コミュニケーションが適用されるのが一般的だ。ただし、関係者を集めたミーティングの場で行うと、場合によっては、話が発散したり、参加者の全員がアイデアの洪水に巻き込まれたり、人前で発言するのが苦手な人が発言の機会を奪われたりする。それに対し、チャットツールなどを使いながら非同期方式で行うことで、話の発散を防いだり、すべての関係者に等しく発言の機会を提供したりすることが可能になる。

例えば、チャットツールを使ったブレーンストーミングでは、参加者は自分のペースでアイデアを練ることができ、発言する前に内省の時間をより多く確保することができる。

また、ハーバード ビジネス レビュー誌によれば、女性や社会的なマイノリティはアイデア出しやブレーンストーミングの場に貢献する機会が総じて少なく、また、同期的な仕事の場で自分の意見を言った場合、より厳しく批判される傾向があるという(参考文書(英語))。

それに対して、非同期コミュニケーションの場では、女性であれ、社会的なマイノリティであれ、組織・チーム内の誰もが、それぞれのペースで自分の意見を述べやすい。そのため、組織内・チーム内の全員の創造性が刺激され、かつ生かされるようになり、結果として集まったアイデアが多様性に富んだものとなる。

②作業計画

ブレーンストーミングで何らかのアイデアが生まれたならば、そのアイデアを実現するための作業計画を立てなければならない。このようなときに重宝するのが分散型チームのコラボレーションを支援したり、プロジェクトを管理したりするためのツール(例えば、アトラシアン製品のようなツール)だ。こうしたツールを使うことで、チームのメンバーを1か所に集めて対面ミーティングを行わずとも、適切な作業計画が立てられるようになる。

また、近年のコミュニケーションツールやプロジェクト管理ツールは、分散型チームのコラボレーションを支援する優れた機能が実装されている。しかも、チャットツールなどを介した非同期コミュニケーションでは、メールよりもフランクに、かつ効率的に意見・情報がやり取りできる。しかも、コミュニケーションツールの1つである「Slack」の場合、メッセージに優先順位を割り当てる仕組みはない。ゆえに、その場の切迫感に駆られて業務上の優先順位がないがしろにされる心配もない。

③進捗確認ミーティング

チームにおける仕事の進捗を確認するミーティングでも、同期コミュニケーションを適用するのが適切と思われている。

ただし、進捗確認ミーティングの主眼は、チームの仕事の調整・見直し(アラインメント)にある。実のところ、その目的を果たすうえでミーティングを行う必要は特になく、必要なのはステークホルダー全員に仕事の進捗・状況(=ステータス)を伝えるだけ(あるいは、進捗・状況を示す情報を共有するだけ)で良いのである。

アトラシアンのチームでは、組織・チーム内でのタスクのアラインメントのためにチームワークディレクトリ「Atlas」を使っている。Atlas を使うことで、組織・チームは、取り組んでいるプロジェクトとその目標を明確にし、同じ目標に取り組んでいる他のチームと連携しやすくなる。

世の中には、進捗確認ミーティングの代替として機能しうるコラボレーションツールが数多くある。これらのツールを使えば、進捗確認ミーティングを行わずとも、チームの仕事の見直し・調整を適宜行ったり、仕事の進捗・状況を関係者全員に伝えたりすることが可能になる。

同期コミュニケーションが本当に必要な場面とは?

アトラシアンは現在「Team Anywhere」という指針を掲げている。これは同期ミーティングを完全に否定するものではない。可能な時にチームの全員が物理的に1つの場所に集まり、対面でコミュニケーションをとることは「メンバー同士の絆(きずな)を深めて信頼関係を構築するうえで必要不可欠な活動」である。

非同期コミュニケーションでもチーム内の信頼関係を構築することは可能だ。ただし、非同期のコミュニケーションだけに頼っていると、メンバー間の人間関係の構築に相当の苦労を強いられる。

ゆえにアトラシアンでは、オンライン上でつながるだけではなく、同僚たちと直接会って、互いを深く知り合うことを奨励している。したがって、もし可能であるならば、メンバー同士の強いつながりを育み、心理的安全性を高めるための術(すべ)として、同期コミュニケーションに一定の予算と時間を確保しておくことをお勧めしたい。

非同期コミュニケーションの効率性と効果を高める7つのTIPS

アトラシアンでは分散型チームによる非同期コミュニケーションの実践を通じて、非同期コミュニケーションの効率性と効果を高めるためのノウハウやテクニックを蓄積してきた。以下、それらを7つのTIPSにまとめて紹介したい。

TIPS① 緩やかに始める

仕事のやり方の小さな変化は、想像以上に大きな影響をチームに与える。ゆえに、同期コミュニケーションから非同期コミュニケーションへのシフトは緩やかに始めることが重要だ。

例えば、来週のカレンダーをご覧いただきたい。その中に非同期コミュニケーションに移行できそうなミーティングはないだろうか。もしいくつかあるのなら、その中の1つを選んで非同期コミュニケーションへと変更してみていただきたい。それだけで、ミーティングに費やすはずだった30分~60分の時間を節約することが可能になる。

TIPS② ベストプラクティスを共有する

チームにおける非同期コミュニケーションを機能させるうえでは、メンバー全員にベストプラクティスを共有してもらうことが大切である。そのようにして非同期コミュニケーションにメンバーを巻き込めば巻き込むほど、同期コミュニケーションから非同期コミュニケーションへのチェンジマネジメントが容易になる。

TIPS③ ワーキングアグリーメントを作成する

ワーキングアグリーメント」を作成することで、それまで「暗黙の了解」だったコミュニケーションやコラボレーションに関するチームとしてのルール、ないしは嗜好を明確にできる。これによって、どのような場面、タイミングで同期、ないしは非同期コミュニケーションをとるべきかのコンセンサスをチーム内で確立でき、コミュニケーション全体の効率性と効果を高めることが可能になる。

TIPS④ 事前準備をする

ここで言う「事前準備」とは、対面でのミーティングを催す際に非同期コミュニケーションのツールを使って事前の準備を行うことを指している。

オフィスでの対面会議に向けたアジェンダを設定するにしても、ブレーンストーミングを行う前のアイデア募集を行うにしても、非同期コミュニケーションを通じて同期コミュニケーションの準備を行うことは、同期コミュニケーションの成功確率を高める。

TIPS⑤ ツールをどのように使うかを定める

チャットツールなど、非同期コミュニケーションを支えるツールの助けを借りることは、コミュニケーションの効率性や効果を高めるうえで必須の取り組みと言える。このとき、ツールに支配されるのではなく、ツールが持つ潜在パワーを有効に活用することを念頭に置くことが大切である。

TIPS⑥ ツールを意図的に使う

仕事に熱心なビジネスパーソンは、Slackやメールを通じて寄せられたメッセージに対して常に即答しようとしがちだ。ただし、そうしたツールの使い方は仕事への集中を散漫にするものであり、避けたほうが無難だ。したがって、特定の時間帯はメッセージを一切読まない、ないしは返信をしないといったルールを自分の中で定め、大切な仕事に集中して取り組める状態を意図的につくり上げることが重要となる。

TIPS⑦ 燃え尽き症候群を回避する

分散型チームでは、メンバー各人が仕事のスケジューリングを自らコントロールすることができる。ただし、そうした自由度の高さは、プライベートの時間と仕事の時間との境目を曖昧にし、「燃え尽き症候群」を発症させやすくする。そうしたリスクを低減させる一手は、メールやチャット(のメッセージ)に返信するタイミングについて、チーム内での合意を形成しておくことである。これにより「あらゆるメッセージに即答しなければ、サボっていると思われる」といった強迫観念から脱することが可能になる。

以上、非同期コミュニケーションを効率的、かつ効果的に行う方法について駆け足で見てきた。企業の間では、働き方をパンデミック前のオフィスワーク中心のスタイルに戻そうとする動きが見られている。

とはいえ、働く場所と時間に制約のない(あるいは、制約の少ない)柔軟な働き方を望む声は、ナレッジワーカー(特に若手のナレッジワーカー)の間で依然として大きい。そのため、優秀な人材を確保するうえではリモートワークやハイブリッドワークを継続させることが必要だ。ゆえに、非同期コミュニケーションの効率性や効果を最大限に高めることが求められている。本コラムがそのための取り組みの一助となれば幸いである。

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