ナレッジワーカーの多くがオフィスワークを望んでいない
先の共同調査を見ると、ナレッジワーカーの82%が何らかのかたちでオフィスへの出勤を義務づけられていることがわかる。また、そうしたワーカーの半数近く(46%)が「義務」としてオフィスに出勤しているに過ぎず、出勤したいから出勤しているわけではないようだ。
加えて言えば、働く場所が柔軟に選べるナレッジワーカーもその25%が「オフィスに出勤しなければならないというプレッシャーを感じている」と答え、10%が「在宅勤務をすると生産性が下がる、ないしは仕事に熱心ではないと見なされるのではないか」と懸念している。
アトラシアンでは、組織・チームのリーダーが社員たちにオフィスワークを強制するのは「新しい働き方に対して自信・確信が持てないためである」と見ている。ただし、理由はどうあれ、オフィスワークを義務化したところで、組織・チームにおけるパフォーマンス上の問題は解決されないはずである。今日において効率的で効果的な働き方を追求するのであれば、分散型ワークのあり方を適切にデザインして検証を重ね、理想に近づけていく必要がある。
アトラシアンのオフィスが活気に溢れる理由
現在、アトラシアン社員の77%が四半期ごとにオフィスに集まり、リアルな場で対面し、お互いのつながりを強めている。また、社員の約半数は月1回の頻度でオフィスに出勤している。ただし、それは義務ではなく、社員たちがそうしたいと望んでいるから、そうしているに過ぎない。つまり、アトラシアン社員にとって、オフィスはともに働くチームのメンバー全員とのつながりを強めてコラボレートし、問題を解決するのに最適な場所であるというわけだ。
また、アトラシアンの経営陣は、オフィスへの出勤についてのプレッシャーを社員たちに与えるのを回避する目的で各拠点に散らばって働いている。また、社員各人にとって最適な場所を選んで働くよう奨励しているほか、社員が経営陣とオフィスで遭遇することでプレッシャーを感じてしまうこと避けるために、多くの時間を在宅勤務にあてている。
とはいえ、アトラシアンでは同僚やリーダーとの対面でのつながりを軽視しているわけではない。それどころか、対面での人同士の交流にも大きなメリットがあると信じている。
働く場所の柔軟性は生活の質を向上させる
働く場所を柔軟に選択できる働き方は、通勤時間の低減につながるだけではなく、人生で優先すべき事柄の順位を適正化することにもつながる。
例えば、前出の共同調査の結果を見ると、ナレッジワーカーがリモートワーク(在宅勤務)を好む理由として最も多かった回答は「オフィスで働くよりも、自宅で働くほうが幸せだから」というものだ。回答者全体の47%が、Z世代の場合で50%が、ミレニアル世代の場合は49%が、オフィスワークよりも在宅勤務のほうが幸せであると答えている。
また、オフィスワークが義務づけられていないナレッジワーカーの間では、以下に示すような生活の変化も見られている。
- 56%が、友人や家族と過ごす時間を増やした
- 49%が、フィットネスやメンタルヘルスケアに費やす時間を増やした
- 37%が、新しい趣味、興味関心事を見つけた
- 20%が、住む場所を変えている
- 19%が、愛する人・モノをケアする時間を増やした
- 12%が、新たに家庭を持った
- 16%が、新たに自宅を購入した
こうした変化は、人生の根本を成す部分の変化であり、人にとっては労働生産性を上げることよりも重要な変化である。もちろん、リモートワークやハイブリッドワークの採用は労働時間の短縮には直結しない。ただし、働く場所の柔軟性が確保されることで、ナレッジワーカーたちは人生にとって大切な部分を強化できるのである。
Team Anywhereのアプローチを採用しているアトラシアンの場合、社員はその日に働く場所を任意に選ぶことができ、社員のおよそ40%はオフィスから2時間以上離れた場所で暮らしている。つまり、働く場所が柔軟に決められる分散型ワークによって、アトラシアン社員の暮らし方は大きく変化したということだ。
Team Anywhereのアプローチのもと、分散型ワークを推進しているアトラシアンは数多くの製品を市場に送り出し、業績を伸ばしてきた。つまり、この働き方によってアトラシアン社員の生産性が低下したという事実は認められていないわけだ。また、Team Anywhereの採用以降、アトラシアン社員の仕事量は増えても減ってもいないが、以前よりも柔軟に時間が使えるようになった。結果として、仕事以外の優先すべき事柄により多くの時間を振り向けられるようになっている。
これにより、社員たちの幸福度やウェルビーイング、あるいは生活の質は確実にアップしていると言える。また、その裏づけとなるような調査データもある。アトラシアンが世界各国の「チームの状態」を調べるために毎年実施している調査プロジェクト「State of Teams」の2022年調査の結果(英語)がそれである。そのレポートからは、自分の好きな場所で働けているナレッジワーカーやチームは、よりイノベーティブになり、幸福度を増し、燃え尽き症候群の発症リスクを減らし、組織の文化に対する好感度をアップさせていることがわかる。つまり、ナレッジワーカーは自分の好きな場所で働けるという選択肢を持つことで、自分の人生をより豊かにするパワーを手にできるのである。それによって社員たちの幸福度が増せば、仕事上のコラボレーションの質も上がっていくはずである。
また、チームをマネージする大多数のリーダーは、自分のチームが革新的で効果的であることを望み、かつ、組織の文化に対して肯定的な感情を抱いてもらいたいと願っている。働く場所の柔軟性は、リーダーのこうした望み、願いを叶えてくれる可能性もあるのだ。
多くの企業では、すでに分散型ワークのスタイルで仕事をしている。いまこそこのスキルを高めるときである。
走りながら学ぶ
実のところ、アトラシアンでも、どうすれば理想的な分散型ワークが実現できるのかについて解明し切れていない。ただしこれまでも、チームの声に耳を傾け、分散型ワークのやり方を適宜アップデートすることでほとんどの問題に対処・対応してきた。また、分散型ワークを巡る問題をオフィスワークの義務化によって解決しようとしたことは過去に一度もない。
繰り返すようだが、今日における大多数の企業は分散型ワークを行っており、ほとんどのナレッジワーカーが、働く場所を柔軟に選べることを望んでいる。そう考えれば、時代はすでにこのスタイルを採用するか否かではなく、分散型ワークをいかに効率的で効果的なものにするかという段階に至っていると言えるだろう。したがって、あらゆる企業が適切なツールを導入し、どこからでも良い仕事ができるスタイルを確立しなければならない。
そうした新し働き方の導入でいきなり成果を上げるのは難しく、分散型ワークの試みは何らかの問題に突き当たるのが通常だ。ただし、その問題解決を図っていく中で、分散型の働き方に対する理解を深めていくことができる。そして、分散型ワークを正しく理解した企業のチームは、この新しい働き方がもたらす恩恵を最大限に享受できるようになり、より質の高い仕事を行い、より複雑な問題を解決し、よりスピーディに物事を前進させられるようになるのである。
どのような人、チームにとっても、これまで慣れ親しんだ仕事のやり方を変えるのは苦痛を伴う作業だ。また、理想的な分散型ワークを実現するのは決して簡単ではない。ただし、それを成したとき、それまでの苦労を補って余りあるベネフィットが会社とチーム、そして社員たちにもたらされる可能性は高いのである。