アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのケリー・マリア・コーダッキ(Kelli María Korducki)が、ナレッジワーカーが劇的な進化を続けるAIとどう向き合うべきかについて論じる。

本稿の要約を10秒で

  • 「ChatGPT」などの生成AIの登場により、AIによってナレッジワーカーの仕事が奪われる可能性が一挙に高まっている。
  • AIの進化と普及によって仕事を奪われるリスクが最も高いのは「高給・高学歴」のナレッジワークであるとの予測が現実味を帯びてきている。
  • ただし、AIはナレッジワーカーの仕事を完璧にこなせるわけではなく「成長型マインドセット」をもってAIの有効活用に取り組むことが、チームや個人の成功につながる。

力をつけるナレッジワーカーのライバル

OpenAIの「ChatGPT」や「DALL-E」のような生成AI系のボットの登場により「AI(人工知能)」に対する注目度がかつてないほどに高まっている。

ほんの10年前まで、ナレッジワーカーの仕事がAIに奪われるような事態が起こるのは相当先の未来であると考えられていた。ただし、そうした予測、あるいは期待はChatGPTやDALL-Eの登場によって完全に打ち壊されつつある。そう遠くない将来、私たちの多くが、生成AIで作られたコンテンツを当たり前のように消費するようになるかもしれない。

AIが、あなたの仕事を奪いにくるかどうかはわからない。ただし、AIによってナレッジワークの多くが淘汰される可能性が大いにある。ゆえに、ナレッジワーカーやナレッジワーカーで構成される組織は、AIによる世の中の変化に柔軟に適応していかなければならないのである。

予測と現実

研究者たちはかねてから、デジタルテクノロジーによる自動化が雇用に与える影響についてさまざまな予測を立ててきた。それらの予測もAIの劇的な進化と普及によって変更を余儀なくされていると言ってよい。

例えば、オックスフォード大学の研究者らが2013年に発表した仕事の未来に関する論文(英語)がある。

この論文で研究者らは、反復的で再現が容易な作業を中心に自動化が進むと論じ、自動化によって消滅するリスクの高い仕事として「テレマーケティング」「皿洗い」「裁判所書記官」などを挙げていた。その一方で「リアルタイムに知覚して適切な操作を行うタスク」「クリエイティブで知的なタスク」「社会的知性が要求されるタスク」を中心とする仕事は自動化の影響を受けにくいとしていた。

また、マッキンゼー・アンド・カンパニーの最近の研究(英語)でも、2030年までに機械に取って代わられると推定される世界の労働者8億人のうち、圧倒的多数は低賃金・低スキル分野の従事者であり、専門的でアイデア駆動型のナレッジワークは自動化されないと指摘されていた。

ところが、生成AIの登場でこれらの予測が根底から覆されようとしている。

ちなみに、ブルッキングス研究所が2019年に発表した論文(英語)では、他の予測に反し、AIの発展と普及によって高給・高学歴のナレッジワーカーが余剰人員になる可能性が最も高いと指摘していた。理由は、高給・高学歴のナレッジワーカーはAIに触れる機会が最も多くなり、結果として、AIを使ったハイテクツールの発展と普及によって不要の存在になる可能性が高いというものだ。

実際、AIは、私たちが一般的に「創造性や専門知識が要求される」と見なす領域のタスクを再現することに長じている。AIを用いることで、プランニング、学習、推論、課題解決、知覚、予測など、人が行う場合に「知性」が必要と思われるようなタスクを機械(コンピュータ)に実行させることができる。ブルッキングス研究所以外の研究者らは、こうしたタスクを遂行するうえでの人間の必要性を過大に評価していたのかもしれない。

ニューヨーク大学のComputation and Psycholinguistics Lab所長で、計算言語学(自然言語処理)アプリケーション研究の第一人者であるタル・リンゼン(Tal Linzen)氏は次のように語っている(参考文書 (英語))。

例えば、法的な契約書やユーザーマニュアルの文章が斬新で美的である必要は特にありません。正しい情報を伝えればそれで良いと言えます。

ただし、その「正しい情報」の正しさは、資格を持った人間によって検証される必要がある。

ゆえに、生成AIによって、他の契約書からテキストをコピー&ペーストして新しい法的契約書を作成する人の必要性は減るかもしれませんが、そのプロセスを監督してAIシステムが微妙なミスを犯していないことを確認する弁護士は依然として必要とされるはずです。

その一方で、リーダーシップでさえAIの侵食を免れないようだ。Washington Center for Equitable Growthのシニア労働市場政策アナリスト、キャサリン・ジッカー(Kathryn Zickuhr)氏は次のように指摘する(参考文書 (英語))。

企業・組織のマネジメント職には、鋭い洞察力や非常に多くの意思決定、高い判断力が必要とされるため、自動化される最後の仕事だと考える人もいます。ただし、すでに多くの企業が、自動化された、あるいはアルゴリズム駆動型の管理ソフトウェアやサービスを利用しているのです。

成長型マインドセットの時代

以上のとおり、AIによって少なくともナレッジワーカーの一部の仕事が不要になることは間違いない。ただし、それは必ずしも悪いことではない。リンゼン氏などが示唆するように、AIがナレッジワークを完璧にこなせるわけではなく、AIによって自動化したプロセスには依然として専門知識を持った人間の監督が必要とされる。ゆえに、組織・チームが、そうしたAIの限界に対応する準備ができているならば、AIを使ってより大きな、より野心的な試みを追求するも可能になるはずである(参考情報 (英語))。

その意味では、AIのような革新的なテクノロジーを自分たちの競争優位に役立てようとする「成長型マインドセット」持った組織・チームが黄金時代を迎えることになるかもしれない。

成長型マインドセット(Growth Mindset)とは、心理学者のキャロル・ドウェック(Carol Dweck)氏が生んだ言葉だ。このマインドセットを持った組織・チームは、リスクを恐れず、大きな目標を受け入れ、スキルを伸ばし、自分自身を証明する機会を受け入れ、古いプロセスやワークスタイルに固執せず、新しいツールを使って新しいやり方を試すことに熱心に取り組むとされる。そして、その新しいツールにはAIも含まれる。

「ChatGPTのようなAIツールは有能なアシスタントと見なして活用するのがベストです」とリンゼン氏は語り、こう続ける。

AIツールをアシスタントとして使う以上、それが生成した文を編集したり、その文章があなたの意図したこと、あるいはアイデアを正しく表現できているかどうかを確認したりするのは、当然、あなたの責任となります。このように、生成AIなどの新しいテクノロジーを敵視せず、組織・チームのツールボックスを充実させる仕組みの1つに過ぎないととらえることで、チームも個人も、エキサイティングな未来の仕事のやり方を抵抗なく受け入れ、その威力を最大限に活用できるようになるのです。

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