アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのジュヌヴィエーヴ・マイケルズ(Genevieve Michaels)が、組織・チームの変化への適応力を高める「アダプティブリーダーシップ」について概説する。

本稿の要約を10秒で

  • 従来の「トップダウン型リーダーシップ」は、急速な変化や複雑な課題に対処・対応するためのスピード感や柔軟性に欠けている
  • 「アダプティブリーダーシップ」は、組織・チーム、さらには企業の持続的成長のために仕事のやり方を周囲の変化に合わせて都度調整するリーダーシップを指している
  • アダプティブリーダーシップを発揮するうえでは、リーダーの「エモーショナルインテリジェンス(EQ)」「組織的公正(Organizational Justice)性」「継続的な能力開発」、そして「高い信頼性」が重要なカギとなる

VUCA時代のリーダーシップ

いきなりだが、100年前のオフィスに足を踏み入れたときのことを想像していただきたい。この時代、オフィスで働く多くがタイプライターで仕事をし、ファイリングキャビネットに書類(データ)を保存していた。それから50年後の1970年代のオフィスも、働く人たちの髪型や服装が少し変化しただけで、基本的には100年前と何も変わっていないように見えるはずである。

ところが、それから50年の歳月が流れた今日、職場の風景は一変している。働く全員がPCやスマートフォンを使いながら仕事をこなし、リモートで働く同僚たちとビデオ会議を通じて対話している。そして仕事のデータは、ほぼすべてをクラウドと呼ばれる仕組みを使って出し入れしている。

言うまでもなく、50年前に比べたこの劇的な変化はデジタルテクノロジー(ないしはIT)の進化と発展が引き起こしたものだ。そして今もなお、デジタルテクノロジーは進化を続けている。ゆえに、ChatGPTのように大きなインパクトを及ぼすようなテクノロジーが、今後もさまざまに登場してくるはずだ。

そんなデジタルテクノロジーの進化と、新型コロナウイルス感染症の流行といった不測の大規模自然災害、そして地政学的な不安定さが絡まり、私たちは毎日のように不測の変化、課題と対峙している。

こうした現代はVUCA時代と呼ばれているが、まさに、すべての物事の「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」が高まり、少し先の未来も見通せないような状況が続いている。

このように変化が激しく、変化の方向性すら読めない時代には、過去の成功体験や実績、あるいは権威をベースにしたトップダウン型のリーダーシップは適合しない。言い換えれば、従来のトップダウン型リーダーシップは、激しい変化や不測の変化に対応するためのスピードや柔軟性に欠けているわけだ。その中で、現代にふさわしいリーダーシップのあり方として注目を集めているのが「アダプティブリーダーシップ」である。これは、協調的で変化への適応性が高いリーダーシップだ。企業で働く個々人の能力を最大限に引き出し、複雑で多面的な問題に対する組織・チームの対応力を高めるためのマネジメントのあり方でもある。

アダプティブリーダーシップの起源

アダプティブリーダーシップの考え方は、1990年代から2000年代初頭にかけて確立された。考案したのはロナルド・ハイフェッツ(Ronald Heifetz)氏とマーティ・リンスキー(Marty Linksy)氏、そしてアレクサンダー・グラショー(Alexander Grashow)氏の3氏であり、彼らは共著書「Leadership Without Easy Answers」、ならびに「Leadership on the Line」の中でアダプティブリーダーシップの基本原則を確立させた。

従来のリーダーシップモデルは、個人の権威とピラミッド型のヒエラルキーに基づくものであり、1人または数人の責任者が組織・チームの全員を束ねることを前提にしている。

それに対して、アダプティブリーダーシップは、組織・チームのリーダーだけではなく、すべての社員の信念やアイデアを活用して組織・チームを率いていくことを前提にしている。

上で触れたとおり、このアダプティブリーダーシップの基本原則が確立された時代は少し古い。ただし、世の中の複雑性が増し、変化のスピードも速くなっている今日、アダプティブリーダーシップはこれまで以上に重要な意味を持つようになったと言える。

実際、組織論の研究者であるニック・オボレンスキー(Nick Obolensky)氏は、アダプティブリーダーシップは企業が急速に変化し、混沌とする今日のビジネス界に適応するための唯一の方法であると主張している。また、同氏と同様の見解を示す研究者は多い。

アダプティブリーダーシップの原理原則

アダプティブリーダーシップのフレームワークでは、個人と組織がともに変化に適応することを求めている。そして、リーダーの役割は、変化に適応するために組織・チームがどのように行動すべきかを権威的に決定することではなく、変化への適応という集団的プロセスの遂行を支援することに置かれている。また、アダプティブリーダーシップの定義では「協調的」であることをリーダーシップの基本としている。ゆえに、アダプティブリーダーシップにおけるリーダー(以下、「アダプティブリーダー」と呼ぶ)が自身の考えやアイデアを組織に押し付けるようなことはない。

こうしたアダプティブリーダーシップの原理原則として、アダプティブリーダーには以下の要件を満たすことが必要とされている。

● 高いエモーショナルインテリジェンス
アダプティブリーダーは他者の個人的な信念や価値観、才能、希望、夢などを理解し、共感できる能力が必要とされる。個人の信念、価値観、才能、希望、そして夢は、論理だけでは理解できない人間的で不定形なものであるがゆえに、アダプティブリーダーシップを支えるリーダーには、高いエモーショナルインテリジェンスが必要とされる。

● 組織的公正性
アダプティブリーダーシップの考え方に基づくと、組織・チームが未知の課題に直面した際には、組織・チームで働くすべての社員の声を課題解決のソリューションに反映させなければならない。その取り組みへの社員の能動的な貢献意欲を高めるうえでは、アダプティブリーダーは、誰もが自分の意見を聞いてもらえたと実感できるようにする「組織的公正性」を確保することが重要となる。そのうえで、自分が主導する変革がもたらすプラスとマイナスの両方の影響に関して責任を持つことが求められる。

● 継続的な能力開発
アダプティブリーダーシップでは、リーダーが新しいことに挑戦し、自分の専門外のことにも踏み出すことが奨励されている。ゆえに、アダプティブリーダーは、自分が間違っていること、あるいは知らないことを認めたうえで、自身のリーダーシップスキルの向上や能力開発に力を注がなければならない。加えて、アダプティブリーダーは、組織・チームの変化への適応力を高めるための個々人へのトレーニング、能力開発もサポートしていかなければならない。

● 高い信頼性
困難な時代を企業が乗り切るためには、組織・チームのリーダーが部下からの信頼を得られているかどうかが重要となる。ゆえに、アダプティブリーダーは、自身の選択と行動を通じて部下たちに誠実さを示し、かつ、自身の価値観を貫くことが必要とされる。そして、リーダーの任に当たる前も、そのあとも、自身の同僚たちの利益のために行動しなければならない。

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