アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。ライターのエリック・ゴールドシャイン(Eric Goldschein)が、リモートワーク、ないしはハイブリッドワークを機能させる企業文化を構築する方法について解説する。

文化醸成の5つのステップ

リモートワークは、ナレッジワーカーの生産性を向上させ、士気を高め、ストレスを軽減し、かつ、組織運営コストを削減することを可能にする働き方だ。新型コロナウイルス感染症の流行を境にリモートワークの人気が高まるにつれて、多くのビジネスパーソンがリモートワークを「未来の働き方」、ないしは「ニューノーマルの働き方」と見なすようになっている。

ところが、リモートワーカーに対する配慮が不十分である企業は依然として多いようだ。実際、Buffer社の「リモートワーク現状調査2022(State of Remote Work 2022)」によると、リモートワーク中のナレッジワーカーが直面する最大の問題は「孤独」であるという。

この問題を解決するには「リモートワーカーありき」、あるいは「リモートワークありき」の発想で企業文化(仕事のあり方、進め方)を拡張し、リモートワーカーがチームと強いつながりを保てるようにしなければならない。以下では、そのための方法について紹介する。

方法1:企業文化を見直す

リモートワーク、ないしはリモートワーカーを包含した組織文化を築こうとする前に、組織・チームのリーダーには成すべきことがある。それは、自社の企業文化(仕事の進め方、コミュニケーションスタイル、仕事に対する期待など)を改めて見つめ直し、その価値観の在り処(ありか)が、例えば「情報の透明性」なのか、「失敗を恐れないこと」なのか、「ワークライフバランス」なのか、それともまた別の何かなのかを明確にすることである。

文化の根底に流れる価値観が何であれ、大切なことは、企業文化を明確に定義して明文化し、全社的に共有化することである。ゆえに、企業部門を定義したのちには、リモートワーカーを含むすべての社員がアクセスできるよう、デジタルハンドブックにまとめておくと良いだろう。これにより、例えば、一般の社員であれば顧客との接する際に、また、リーダーは組織・チームの今後の方針を決定するときなどに適宜参照して役立てることができる。

方法2:リモートワーカーとオフィスワーカーの区別のない人材採用を心がける

当然のことながら、リモートワーカーやハイブリッドワーカーも、オフィスワーカーと同じく厳格な基準をもって採用しなければならない。そのうえで、人材の多様性(ダイバーシティ)を確保すべく、生まれ育った環境や経験、年齢が異なる人たちで構成されたバランスの良いチームを組織するのが理想だ。

リモートワーカーやハイブリッドワーカーを会社に迎え入れる際にも、オフィスワーカーと同じ手順を踏むべきである。会社全体の事業の概要とミッションを説明し、ともに働くことになるメンバー全員を紹介して、仕事で使うことのできるあらゆるツール、リソースを利用できるようにする。いすれにせよ、新人を迎え入れる段階で、リモートワーク前提で入社してくる人を、オフィスワーク前提で入社してくる人と同じように扱う必要はないと考え、つまずかないようにすることが大切である。

方法3:多彩なツールやアプリ、メディアを通じてコミュニケートする

リモートワーカー同士、あるいはリモートワーカーとオフィスワーカーとのコミュニケーション手段は多ければ多いほど良い。

幸いなことに、リモートワークが働き方の標準的な選択肢になるなか、分散型チーム(=メンバーが各所で分散して働くチーム)内でのコミュニケーションと共同作業(コラボレーション)を有効で効率的にするツールが急速に進化し、普及もしている。

いまや、分散型チームのメンバーが連絡を取り合い、コラボレートする手段は市場で豊富に提供されている。ここでは、分散型チームにおけるコミュニケーション、コラボレーションに欠かせないソリューションについてまとめておく。

■チャット

分散型チームにとってテキストベース(チャットベース)のコミュニケーションは重要な役割を担うものだ。例えば、「Slack」のようなチャットアプリケーションを使えば、分散型チームのメンバーは、仕事に関する情報だけではなく、プライベートな情報についても簡単に共有し、互いに把握することが可能だ。特にSlackの場合、オフィスにおける“ウォータークーラー”の設置場所のように、チームのメンバーが集い、雑談を交わす場所として機能することができる。その場では、メンバー各人がそれぞれの趣味や人生の一大イベント、日々の出来事などをチャットで気軽に伝え合うことができる。

こうしたコミュニケーションは、リモートワーカーに個性を発揮する機会を提供するものであり、また、そうあるべきである。ゆえに、例えば、Slack上にGIFアニメーションや絵文字を使って楽しく盛り上がるための専用チャンネルや、テレビ番組や旅行について話し合う専用チャンネルを設けて、社員が自分らしくいられる安全な空間を提供すると良いだろう。ただし、当然のことながら、これらのチャンネルと、仕事で使うメインのSlackチャンネルは明確に区分けすることが重要である。

■コラボレーションツール

今日では、分散型チームのメンバーが一体となって仕事を成し遂げるうえで有用なコラボレーションツールがさまざまに市場に投入されている。例えば、アトラシアンのタスク管理ツール「Trello」やデジタルワークスペースの「Confluence」は、分散型チームのメンバーが協力しながらプロジェクトを進め、進捗を確認・管理し、締め切りを守るのに役立つ。

また、こうしたコラボレーションツールは、企業文化をかたちづくる要素の一つでもあり、仕事に関する情報の透明性を担保し、メンバー各人に責任感を持たせることを可能にする。結果として、マネージャーによるマイクロマネジメントが不要になるほか、リモートワーカーを孤立させずに自律させることができる。ちなにに、自律的に仕事がこなせることは、仕事に対する働き手の満足度を高める効果があるとの研究結果もある。

■ビデオ会議

分散型チームであっても、ビデオ会議などを通じて定期的に顔を合わせることは大切だ。例えば、「Zoom」などのビデオ会議ツールを使えば、きわめて簡単に“Face to Face(フェース・トゥ・フェース)”での会議を定期的に催すことができる。こうしたツールを使い、毎週、ないしは隔週でチームミーティングを行うことで、メンバー各人の仕事の状況や健康状態、日々の生活の状況を把握することができ、そうすることでメンバー間の距離を縮め、チームの仕事に積極的にかかろうとする各人の意欲を高く保つことができる。

方法4:メンバーのチームへのエンゲージメントを定期的に測定する

会社やチームに対する社員のエンゲージメント(自発的な貢献意欲)や働く幸福度を定期的に測定することは企業文化を良好に保つうえで不可欠な取り組みといえる。

そして、エンゲージメントと幸福度の計測の結果、企業文化や価値観に混乱が見られたのであれば、それを正すのはマネージャーの仕事である。

エンゲージメントの測定手法はさまざまに存在するが、匿名でフィードバックを収集できるツールを使い、社員たちが安心して自分の本音を話せるようにするのは有効な手法といえる。また、こうしたツールを使えば、社員全員参加型の会議などの公の場でフィードバックを募り、会社の方向性や仕事の進め方について率直な意見を求めることもできます。さらに、ハイブリッド型の働き方を採用している場合には、自社の運営方法に対するリモートワーカーたちの評価や考え方を収集することは、ビジネスの持続可能性(サステナビリティ)を高める方策を練るうえで、非常に生産的なアプローチといえる。

方法5:健康的でやりがいを生む習慣をリモートワーカーに身につけさせる

例えば、リモートワーカーの新入社員が入社した早い段階で、ともに働くチームメンバーとの交流を持たせることをお勧めする。そのうえで、見当ハズレの質問や意見をチーム内の誰かに投じても、決して非難されたり、嘲笑されたりすることはなく、安心して自分の疑問や意見をメンバー全員に話していいこと、また、そうすべきであることを伝えるようにしていただきたい。さらに、そうした自由な発言を習慣化させるために、新人に声をかけたり、その人の意見にポジティブなメッセージを送ったりすることが大切である。

加えて、チーム内のコミュニケーションルールを伝え、場面に応じて適切なコミュニケーション手段を用いるよう指導することも忘れてはならない。例えば、「それほどレスポンスを急がない連絡についてはSlackチャンネルに書き込むようする」「顧客サービスの問題やセキュリティ上の問題、その他、深刻な問題に突き当たった際には、所定のルールに従ってすみやかに問題を他のメンバーやリーダーにエスカレーションする」といったルールを伝え、守ってもらうようにするのである。

さらに、新人のリモートワーカーは、働く適切なリズムを会得していない可能性がある。したがって、ワークデイの1日のうち数時間は、特定のコミュニケーションチャンネルをオフにしてでも目前にある自分の仕事だけに集中するようにし、必要に応じて休憩を取るように勧めていただきたい。仕事中に「フロー状態(=何らかの作業に没入している状態)」になれて、かつ、予定された休憩もしっかりと取れるワーカーは、常に外部とつながり「ON(オン)」状態にあるワーカーよりもはるかに効果的な仕事できるはずである。

方法6:チームに投資する

最後になったが、チームや社員に対する投資を惜しまないようにするのは何よりも重要なことだ。

例えば、あなたの会社は、社員たちにリモートで働いてもらうことで、オフィスの賃料(スペースコスト)や光熱費を大きく節約できる可能性はないだろうか。

仮に節約できるとすれば、それによって生まれた資金を、リモートで働く社員たちが一つの場所に集り、直接顔を合わせる機会を設けるために使うべきである。その機会は、年1回の社員旅行でも構わないし、全社集会であっても構わない。全員が集まる機会が年に1回あるだけで、分散型チームのチームビルディングにプラスの効果があり、企業文化の長期的な維持にもつながっていく。ゆえに、そのための費用を惜しんではならず、ましてや、コスト削減だけを目的にリモートワークを社内標準の働き方にする、ないしは分散型チームを作ろうとしては絶対にならないのである。

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