アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。アトラシアンの開発部門マネージャー、グレーム・スミス(Graeme Smith)が、生産性の低下を招く脳の「認知的過負荷」に対処する方法を説く。

本稿の要約を10秒で

  • 「認知的負荷」、ないしは「認知負荷」とは、脳のワーキングメモリが常に処理している「情報量」を指し、脳への情報のインプットが私たちの認知能力にどのような負担をかけるかを表している。その理論は1980年代に確立された。
  • 認知的負荷(認知負荷)には「課題内在性負荷(Intrinsic Cognitive Load)」と「課題外在性負荷(Extraneous Cognitive Load)」「学習関連負荷(Germane Cognitive Load)」の3タイプがある。
  • 「認知的過負荷」とは、人の認知リソースを超える大量の情報がインプットされ、学習・知識の長期記憶化が困難になった場合に発生する。
  • 本稿では、認知的過負荷を抑止し、生産性を一定に保つためのTIPSを紹介する。

認知的負荷(認知負荷)とは

「認知的負荷(認知負荷)」の理論は、オーストラリアの教育心理学者、ジョン・スウェラー(John Sweller)氏によって1980年代に開発・確立された理論だ。この論でいう認知負荷とは、脳のワーキングメモリが常に処理している「情報量」を指し、脳への情報のインプットが私たちの認知能力にどのような負担をかけるかを表している。

スウェラー氏の研究は、教育設計の手法として知られることが多く、何かを学ぼうとする人間に対し、情報をどう伝達するのが最善かを判断する材料として用いられている。

言うまでもなく、脳のワーキングメモリは有限であり、それを使い果たしてしまうと新しい知識の定着(学習)やタスクの完了が困難になる。ゆえに、インプットされる情報の量や種類が人の学習能力に影響を与えそうな場合には、認知負荷理論を活用するのが適切とされている。

認知的負荷の3つのタイプ

認知負荷理論では、この負荷を「課題内在性負荷(Intrinsic Cognitive Load)」と「課題外在性負荷(Extraneous Cognitive Load)」、そして「学習関連負荷(Germane Cognitive Load)
」の3つに分類している。

このうち課題内在性負荷とは、情報自体の難度の高さが与える負荷を意味している。要するに、情報の内容を理解するのが困難になればなるほど、認知の負荷が高まるというわけだ。

また、課題外在性負荷とは、情報自体の難度ではなく、例えば、気を散らせる情報や事象といった外的要因によって引き起こされる認知の負荷を指している。この負荷の高まりによって、記憶すべき情報を他と混同してしまうおそれが強まる。ちなみに、情報の正しい認知を阻害する外的要因としては「ネコの鳴き声」といった周囲の雑音などが挙げられるが、メールやチャットなどのコミュニケーションツールを通じて入ってくる「自分には無関係な情報」も、課題外在性負荷を高める大きな要因となる。

残る3つ目の学習関連負荷は「適切」な認知負荷であり、脳がスキーム(世界を理解するための枠組み)を構築しているときに発生する。このスキームの構築・蓄積(=学習)によって、人は同様の状況に直面した際に何をすべきかが適切に判断できるようになる。また、スキームの構築・蓄積は、のちの認知負荷の軽減につながるほか、将来的に役に立つかもしれない情報を「内面化」するうえでも役立つ。

「認知的過負荷」を引き起こす要因

上述した3タイプの認知的負荷のうち、課題内在性負荷と課題外在性負荷が人の認知能力を超えた場合に引き起こされるのが「認知的過負荷」である。この過負荷は、IT(情報技術)を使って日々の仕事をこなし、「情報過多」が日常化している現代のナレッジワーカーが頻繁に陥る状態でもある。

例えば、大半のナレッジワーカーが、一日に何十ものWebブラウザタブを開いているはずである。ゆえに大抵の場合、「どのタブが重要で、どのタブが気まぐれで開いたものか」がわからなくなり、結果として、認知的負荷が上昇してしまう。

加えて、私たちは、Webブラウザのタブを数多く開くことで、多数の情報をコントロールし、マルチタスクで仕事をこなせているような錯覚に陥る。ただし、本サイトの以前のコラムでも指摘されているとおり、人の脳には、コンピュータのように複数のCPUに情報を分散させて並列で処理するようなマルチタスク機能は備わっておらず、逐次でしか情報を処理できない。つまり、マルチタスクで仕事をこなせているように感じていても、実際には複数のジョブを細分化して入れ子にし、“並列的”に処理しているだけのことである。にもかかわらず、自分にはマルチタスクの能力あると思い込み、多様な情報、タスクを一挙に処理しようとすると、認知的過負荷の状態に陥り、生産性を犠牲にしてしまうことになる。

さらに厄介なことに、私たち人間は、新しい情報を認知することに喜びを感じる生き物でもあり、新しい情報が「報酬」として与えられると、ドーパミンが放出される。言い換えれば、私たちは「認知中毒」になっており、「コンテキストスイッチ(=あるプロジェクトにおけるタスクを中断し、別のプロジェクトで別のタスクを実行した後に、元のタスクを再開するプロセス)」が引き起こす生産性の低下という弊害を過小に評価してしまっているわけだ。それも、認知的過負荷を助長させる大きな要因といえる。

This article is a sponsored article by
''.