アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。アトラシアンのタレント&組織開発リニアリード、ジャスミン・クイン(Jasmine Quinn)が、心身の過剰反応を引き起こして仕事での成功を阻害する「偏桃体(別称:爬虫類脳)」の働きをコントロールする方法を説く。

本稿の要約を10秒で

  • 人間の脳の「扁桃体(へんとうたい)」、または「爬虫類脳」は、脅威と直面した際の人の闘争・逃走反応を司っている。
  • 偏桃体(爬虫類脳)は原始的な脳だ。偏桃体の特徴として常にサバイバルモードにあり、脅威に対して過剰に反応する点が挙げられる。
  • 脅威と直面した際の人間の過剰反応は「扁桃体ハイジャック」とも呼ばれ、直面している実際の状況とは不釣り合いな激しい身体的・精神的反応を引き起こす。
  • 新しい習慣や思考パターンを確立することで、扁桃体の働きをコントロールし、困難な状況に直面しても偏桃体による過剰反応を鎮めてベストな状態で物事に取り組むことが可能になる。

コントロールが難しい爬虫類脳「偏桃体」の厄介な働き

突然だが、あなたには以下のような経験はないだろうか。

  • 無礼な同僚との対話中に冷や汗をかく
  • 上司から悪い評価を下された際に顔面が赤くなり、硬直する
  • 人と意見が対立した際に、意図した以上に感情が高ぶり、鎮められなくなる
  • 人と意見が対立した際に、無意識のうちに心を閉ざしてしまう
    感情を鎮められなくなる

こうした無意識の「闘争・逃走反応」は「扁桃体」というアーモンド型の「脳内物質の束」によって引き起こされるものだ。

偏桃体は「爬虫類脳」とも呼ばれ、常にサバイバルモードにある原始的な脳だ。特徴として恐怖や不安といった本能的でマイナスの情動に深くかかわっているとされる。

先史時代の祖先にとって、扁桃体はサーベルタイガーなどの天敵と対決するときに威力を発揮した。しかし、現代に生きる私たちが普段の仕事で直面するような課題と向き合うときには、不必要な反応を引き起こす厄介な存在でしかない。

「扁桃体ハイジャック」が引き起こされるとき

偏桃体(爬虫類脳)によって心身の激しい反応が無意識のうちに引き起こされることを「扁桃体ハイジャック」と呼ぶ。偏桃体ハイジャックとはすなわち、生命の危険を伴うような物理的な脅威がないにもかかわらず、偏桃体があなたに「戦え!」「逃げろ!」「フリーズしろ!」といった指令を出している状態を指している。

例えば、仕事でのチームミーティングの際に同僚との議論が白熱したとしても、そこに生命の危険があるわけではない。ところが、原始的な爬虫類脳である扁桃体はそれが理解できず、例えば、仕事でのチームミーティングの際に同僚との議論が白熱したとしても、そこに生命の危険がないことは誰もが理解している。ところが扁桃体はそれが理解できず、生命を守るために必要な行動をとるよう指令を出し、それが実際の状況とは不釣り合いな激しい反応を引き起こしてしまうのである。

言うまでもなく、実際の状況と不釣り合いな反応を示してしまうと、のちに自己嫌悪に陥ったり、相手から一緒に仕事をするのが難しいと思われたりする。

しかも今日では、新型コロナウイルス感染症の影響からリモートワークやハイブリッドワークが一般化し、ともに働く全員が集まって仕事をする機会が減っている。それに伴い、チーム内・組織内での心のつながりを強めたり、お互いの状況や考え方への共感・配慮をしたりすることの重要性が以前にも増して高まっている。

そうした中で、少しの意見の食い違いや自分への多少の批判・非難に対して偏桃体ハイジャックを引き起こしてしまうこと、つまりは、過剰な反応を示してしまい、かつ、それがコントロールできない、あるいは鎮められないというのは大きな問題だ。そのような過剰反応は上司や同僚、あるいは部下たちとの関係に負の影響を与えるものでしかない。したがって、扁桃体ハイジャックの発生は、可能な限り少なく抑えることが望ましいといえる。そこで以下では、偏桃体ハイジャックを抑止するうえで有効な3つの方策を紹介する。

偏桃体を鎮める3つの方法

当然のことながら、扁桃体ハイジャックの発生は、可能な限り少なく抑えることが望ましい。そこで以下では、偏桃体ハイジャックを抑止する方法、言い換えれば偏桃体を鎮める方法を3つ紹介する。

偏桃体を鎮める方法1: 「大脳新皮質」をオンにする

扁桃体ハイジャックの発生を防ぐ最も有効な方法は、人間の合理的・分析的な思考を司る「大脳新皮質」を活性化させることだ。ただし、それは簡単なことではなく、一生を費やしても成しえない場合があるとさえいわれている。とはいえ、理性的な判断をする脳機能にチャンネルを合わせる方法はいくつかある。例えば、以下のような方法だ。

■平静を保つ:私たちは皆、脅威を感じていることを脳に意識的に伝える(警告する)ための身体的、あるいは行動的な「キュー」を持っている。このキューを使い、脅威を感じている現実を脳に伝えることで、自分の心身が偏桃体による自動操縦モードに切り換わるのを抑制すること、すなわち偏桃体ハイジャックの発生を抑制することが可能になる。

■呼吸に注意を払う:脅威を感じるような状況に直面した際に、ゆっくりと均等に呼吸をするよう心がける。呼吸のスピードとリズムに注意を払いながら、息を吸って吐くときに、身体の中で何が起きているかに意識を集中させる。

■マインドフルネス、ないしは瞑想を実践する:マインドフルネス(=目の前のことにだけ集中する状態)を維持したり、瞑想を行ったりする習慣を身に付けることで、偏桃体(爬虫類脳)の発動をコントロールして抑制することが可能になる。また、仕事中に5分間程度の散歩に出たり、友人と雑談し、笑ったりするだけでも、扁桃体ハイジャックの抑止につながる視点が得られる。

■自分の身体に何が起きているかを自問する:原始的な爬虫類脳である偏桃体の特徴として、質問に答える能力がない点が挙げられる。したがって、自分の身体に何が起きているかを自問によって探ると、脳の他の部分(すなわち、大脳新皮質)のスイッチが入り、偏桃体が引き起こしているストレス反応から、人を引き離そうとしてくれるのである。

偏桃体を鎮める方法2: 自分の思考を確認する

「私が自分に語りかけているストーリーはどういうものだ」といったフレーズを使い、直面している現実を自分がどう解釈し、どのように思考しているかを確認する。こうすることで、精神的なショックを受けた際も、ショックからの立ち直りを早めて、偏桃体の活動を抑制することが可能になる。

人は、直面した脅威に関するデータがない場合、その脅威を自分なりに解釈し、ストーリーを作り上げます。それは自己防衛のためのサバイバルスキルといえるものですが、そのスキルによって作られたストーリーは、しばしば、自身の恐れや不安を増幅させます。したがって、自分の作り上げたストーリーが本当に正しいかどうかを確認することが重要であり、その方法を学ぶことで、私たちは自身の回復力を強化し、失敗・挫折・失望の後(のち)の心身のリセットを早めることが可能になります

──ブレーン・ブラウン氏

また、他者を理解する意識を高めることも大切だ。他者の視点(特に敵対する相手の視点)は自分と大きく異なるのが通常であり。ゆえに「なぜ、その人はそう考えるのか」を、可能なかぎり正しくとらえる努力を払わなければならない。

また、人と人とが、お互いのことをより深く理解する努力を続けることで、互いの相違点を調整しながら、解決策を見出す作業が容易になる。これにより、意見の対立によるストレスを感じなくてすむようになる。

偏桃体を鎮める方法3: 「コンシャス・コミュニケーション」を実践する

「コンシャス・コミュニケーション(Conscious Communication)」とは、良好な人間関係を維持・向上させるうえで有効、かつ不可欠なコミュニケーション手法、ないしは、スキルとされている。これは、コミュニケーションをとる人同士が、敬意と誠意、そして共感の意欲をもって対話することを意味している。その手法を成す特徴的な要素は以下のとおりだ。

【コンシャス・コミュニケーション手法の主な要素】

  • 共感の意欲をもって相手の話に耳を傾ける:互いの経験・体験を完全にオープンなかたちで共有し合い、相手がどのようなニーズを持っているのか、また、特定の経験・体験がその人にとってどのような意味を持っているかを理解し、共感する。
  • 人は傷つきやすいという前提で相手と話す:人は傷つきやすいという前提のもとで相手と対話し、自分の中にある暗黙のルールや自分の考え方のベースとなっている価値観を互いに共有する。
  • 自分にとっての真実を完全にオープンにする:自分にとって何が真実なのかを、お互いに包み隠さず話し、相手への敬意と配慮、関心をもって共有する。

「思考」のハックを試す

「思考」をハックすると、対話中の相手に対して「何を、どのように言うべきか」を決定するのに際に役に立つ。以下のような自問を行うことで、相手に言うべきことや言い方を決めていく。

■自問1: 自分の発言は真実か?
── 自分の言おうとしていることは事実なのか、それとも単なる憶測なのか、仮に憶測だとすれば、その発言は周囲のパニックや混乱、誤解を招かないか、といった点を確認する。

■自問2: 自分の発言は相手の役に立つのか?
── 自分の発言が、相手がより良い判断を下したり、課題を解決したり、より良い仕事するうえで役立つかどうかを確認する。

■自問3: 自分の発言は相手の意欲を高めているか?
── 自分の言葉は相手のモチベーションを高めているのか、それとも下げているのか、相手を力づけようとしているのか、それとも批判しようとしているかを確認する。

■自問4: それは必要なことなのか?
── あなたの発言や言い方は、本当に必要なものなのか、仮に発言しなかったとすればどのようなことが起きるのかを確認する。

■自問5: その発言は本当に親切心によるものなのか?
── その言葉を相手がどう受け止めるかを真剣に考えたか、その言葉を自分は人から受け取りたいのか、といった点を確認する。

■自問6: 公の場でも同じ言葉を相手に投じられるか?
── 仮にオフィスなどの公の場で、その言葉を相手に投げかけた場合、相手を貶(おとし)め、同僚たちの面前で恥をかかせることにならないかを確認する。

以上に示したコンシャス・コミュニケーションの実践は、結果的に大脳新皮質を活性化させることにつながる。そして、コンシャス・コミュニケーションの取り組みと、マインドフルネス・瞑想とを併せて実践することで、私たちはプライベートでも、仕事でも良好で健全な人間関係を築き、維持することが可能になる。これにより、偏桃体ハイジャックが起こるリスクを引き下げていくことができるのである。

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