本稿の要約を10秒で
- 部下に対する「建設的な批判」(ないしは建設的批判)とは、部下の仕事についてポジティブな側面とネガティブな側面の双方を認めつつ、改善のための手順を明示しながら、批判することを指す
- 部下との対立を避ける目的で建設的批判をしないでいると、かえって組織・チーム内の精神的なストレスが大きくなり、不健全な職場環境を生んでしまうリスクがある
- 建設的な批判を行う際には、自分自身の精神状態が安定していることを確認すべきである
- 相手の心理的安全性を確保することで、批判に対する抵抗感を低減することができる
マネージャーの大多数は「建設的な批判」が苦手
仮にあなたが組織・チームのマネージャーであるとして、部下の行動を建設的に批判できる自信はあるだろうか。もし、自信がないとすれば、その善し悪しは別として、あなたは平均的なマネージャーであるといえる。というのも、組織・チームのマネージャーの多くが、建設的な批判を行うのが苦手なようであるからだ。ある調査によれば、建設的な批判が得意と感じている組織・チームのマネージャーは全体の14.5%でしかないという。
とはいえ、部下に対する建設的な批判は避けるべきではない。米国サム・ヒューストン大学の研究によると、部下との対立を回避する目的でマネージャーがフィードバックを出さないでいると、かえって組織・チーム内の精神的なストレスが大きくなり、不健全な職場環境を生んでしまう可能性が大きいという。そのリスクについて、同大学の研究者らは次のような説明を加えている。
マネージャーによる批判の回避は、従業員を疎外したり、彼らを放置したりすることにつながります。結果として、従業員たちの士気・生産性・業績を大きく引き下げてしまうリスクが高まるのです
こうしたことから、建設的な批判は人をマネージするうえで欠かせない要素であり、そのためのスキルを身に付けることには時間をかける価値があるといえる。
基本を押さえる:「建設的な批判」とはどのような批判なのか?
「建設的」とは、現状をより良くしようと物事に臨む姿勢、ないしは意志を表す言葉だ。例えば、「建設的な意見」は、単なる意見、ないしは批判とは異なり、物事をより良くしようと、改善のための具体的な道筋を示しつつ、自分の意見を述べることを意味している。それと同様に、部下に対する建設的な批判(ないしは、建設的批判)とは、部下の仕事について、ポジティブな側面とネガティブな側面の双方を認めつつ、改善のための手順を明示しながら、批判することを指している。相手の悪いところだけにスポットを当てる一般的な批判とは異なり、建設的な批判は具体的で相手の励みにもなり、かつ、実行が可能という優位性がある。以下は、その建設的な批判と単なる批判との違いを示す簡単な例である。
「単なる批判 vs. 建設的批判」の例
- 単なる批判:キミは仕事の時間管理ができていない。いつも仕事が遅れているぞ。
- 建設的な批判:キミの仕事は丁寧で良いが、過去5回、期限が守れなかったことがあるね。次の仕事は期限内に終えられるよう、スケジュールを段階的に区切った計画を立ててほしい。
また、建設的批判を「フィードバックサンドイッチ(=褒めたうえで批判し、また褒める)」のアプローチと混同しないことも大切だ。
フィードバックサンドイッチのアプローチは、従業員たちに不誠実な対応と誤解され、マネージャーへの不信感を募らせる要因となる。それに対して建設的批判は、合理的でストレートなアプローチといえる。改善が必要な部分に的(まと)を絞った批判とアドバイスを行うので相手の誤解を生む心配も少ない。
実践のテクニック:建設的批判を効果的に行う方法
次に、建設的批判を効果的に行う方法についていくつか紹介する。
ステップ1: 自分の心構えを確認する
建設的批判は、あらかじめ決められた業績評価の場で行ったり、問題発生の時点で都度行ったりすることができる。そのタイミングがどうあれ、建設的批判を行う際には、いったん立ち止まり、批判を行う自分の心構えや健全性を確認することが大切だ。
エグゼクティブコミュニケーションのコーチであり、書籍『Communicate with Confidence』の著者でもあるダイアナ・ブーハー(Dianna Booher)氏は、建設的批判を行うときの「不健全な意図」と「健全な意図」をそれぞれ次のようにリストアップしている。
【不健全な意図】
- 自分の行動を擁護したり、言い訳したりするため
- 機嫌が悪いため
- 第三者をなだめるため
- 権力を誇示するため
【健全な意図】
- 本当に心配していることを示すため
- チームをより良い方向へと導くため
- メンバーを支援するため
- 責任や使命感を感じるため
もし、建設的な批判をする意図の中に、上記の「不健全な意図」が一つでも含まれているのなら、そのフィードバックを行うのは延期したほうが良い。
ステップ2: 心理的な安全性を確保する
ネガティブなフィードバックを上司から受けるのは、それが善意によるものであっても、決して愉快なことではない。ただし、心理的安全性を感じている状態であれば、自分に対する建設的批判を生産的に処理できる可能性が高い。
書籍「Crucial Conversations」の著者であるジョセフ・グレニー(Joseph Grenny)氏は、自分の率直な意見を相手に伝える際には、相手に批判に備える時間を与えることが重要であり、それによって適切な状況を作り出すことができると述べている。ちなみに、そのための方法としては、次のようなものがある。
- 自分の意図を確認する: 方法は上記のとおり。
- 相手の許可を得る: グレニー氏は「Harvard Business Review (以下、HBR)」誌への寄稿記事の中でこう述べている。
物事を自分でコントロールできるという意識は、心理的安全性の中心を成すものです。ゆえに、相手に対するネガティブなフィードバックを出す際には、相手がそれを受け取る準備ができたと感じるまで待つことが重要です。また、例えば『あなたのプレゼンについて意見を述べても良いですか』といった具合に、フィードバックに対する相手の許可をとるようにすれば、フィードバックの受け手は、批判に対する心の準備をすることと、批判を受けた際の心の健全性を保つのは自分でコントールすべき事柄であると認識することができます。
- 自分の意図を正確に伝える: グレニー氏によれば、フィードバックを受ける側はフィードバックの意図がわからないと防衛的になり、かつ、批判の動機を曲解しがちにもなるという。ゆえに、建設的な批判を行いたいときには、その意図を正確に相手に伝えることが大切であるとグレニー氏は指摘する。また、その具体例も以下のように示している。
例: 時間があるときに、例の出張の成果について話せますか?私は、今回の出張があなたにとって最高の経験になるようベストを尽くしたいと考えているし、私にとっても、より良いものにできるような方法を模索したいと考えています。
ステップ3: 率直さと相手への敬意を両立させる
先に触れたとおり、フィードバックサンドイッチのアプローチのように、相手に対する批判をオブラートに包み過ぎると、相手からの信頼を損なうばかりか、フィードバックの要点が不明瞭になり、それを受け取った当人は何をどうすれば良いかがわからなくなる。
このような事態に陥るのを避ける方策として、リーダーシップコンサルタントのデイン・ジェンセン(Dane Jensen)氏とペギー・バウムガートナー(Peggy Baumgartner)氏は、HBRの記事の中で、建設的な批判を可能な限りストレートに、かつ効果的に行うための3ステップのアプローチを次のように紹介している。
- 相手のどの行動を改善したいのかを率直に伝える
メッセージ例:「製品説明の際にあなたが引用した調査データは、私たちがこの種のレポートに通常期待するレベルに達していませんでした」 - その行動の影響範囲を明確に伝える
メッセージ例:「私たちの顧客が、当社の推奨する製品への信頼感を増せるよう、引用するデータの情報源はより適切な資格と社会的信頼性を有していなければなりません」 - 相手に何を変えて欲しいかを明確に伝える
メッセージ例:「次回は、引用するデータが過去5年以内のものであること、引用元がその分野のエキスパートであることを確認してください」
近年における組織・チームのマネージャーは、従業員から「いい人」と思われたいという意識が以前にも増しているように思える。ただし、そのために多くのエネルギーを浪費するのはもうやめにしたほうが賢明だ。代わりに、自分の意見や考え方、アドバイスを自分がマネージする部下たちにストレートに伝えることで、誰もがベネフィットを得られるようになるのである。