アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。ライターのジェフ・ジェントリー(Geoff Gentry)氏が「状況対応型リーダーシップ」の有効性について概説する。

本稿の要約を10秒で

  • 「状況対応型リーダーシップ」とは、状況に応じてリーダーシップのスタイルを変化させるマネジメントアプローチを指している。
  • このリーダーシップでは、リーダーは、組織の人員の能力にもとづいてマネジメントのスタイルを変化させる。
  • 状況対応型リーダーシップでは、状況に応じて指示・指導型のアプローチをとることもあれば、援助型のアプローチをとることもある。

「状況対応型リーダーシップ」とは?

「自分はどのようなタイプのリーダーになるべきか」──。
最近、こうした自問自答を繰り返している組織のリーダーをよく見かける。

ただし、例えば、「援助型のリーダーシップ(Supportive Leadership)が正しいのか、それとも指示型のリーダーシップ(Directive Leadership)が正しいのか」など、「リーダーシップスタイルの正解」を過度に追い求めていると、いつかは行き詰る。というのも、世の中には、あらゆる状況に対応できる万能のリーダーシップスタイルは存在しないからである。

そこで必要とされるのが「状況対応型リーダーシップ」となる。これは、組織やその構成員(以下、メンバー)の課題や状況に応じてリーダーシップスタイルを変えるマネジメントのアプローチを指している。

状況対応型リーダーシップの理論では、リーダーの考えるべきことが「自分は誰で、どのようにリーダーシップを発揮すべきか」から「自分の目の前にいる人たちは誰で、それぞれの成功のために自分は何を成すべきか」へと変容する。

この理論は、ケン・ブランチャード(Ken Blanchard) とポール・ハーシー(Paul Hersey)氏が著書『入門から応用へ 行動科学の展開』の中で展開したものだ。両氏は組織のリーダーに対し、リーダーとしての「柔軟性」や「適応力」、さらには「組織の人員(以下、メンバー)の成長に何が必要かの分析」をベースにしたフレームワークを活用するようアドバイスしている。そのうえで、状況対応型リーダーシップにより、個々のメンバーに対するアプローチを細かく調整することが可能になると指摘している。

メンバーの4つの発達段階とリーダーの対応

状況対応型リーダーシップは、組織のメンバーには「S1」から「S4」までの4つの発達段階があり、それぞれの段階に合わせてリーダーがとるべき行動を定義していく方式を採用している(下図参照)。

図:組織を構成するメンバーの発達段階の4象限

以下、上図にあるS1からS4までの概略と、各段階にあるメンバーに対してどのような行動をとるべきかを簡単にまとめておく。

S1: 熱心な初心者(Enthusiastic beginner)

組織において新しい役割を担い、新しいスキルを身につけようとするメンバーは、ほとんどがこの発達段階にあると言える。

この段階にあるメンバーは、当該の役割を担う中で課題に直面したことがないので、仕事への情熱やコミットメントのレベルが高い。ただし、当該職務の“ビギナー”であるので、職務をこなす能力(=コンピテンシー)は低い。ゆえに、S1の段階にあるメンバーに適したリーダーシップは「指示・指導型」となる。要するに、この段階にあるメンバーに対しては、「キミならできる」と励ますよりも「何をどうすれば良いか」の具体的な指示・指導を行うことが重要であるということだ。

S2:幻滅したした学習者(Disillusioned learner)

この発達段階は、メンバーが学習によるスキルアップの低速さや能力不足、ないしは能力不足による失敗を経験し、仕事に対する意欲を減退させている状況を指す。

人は、自分の能力不足を痛感すると落ち込むのが一般的である。したがって、組織のメンバーにそのような兆候が見られた際には、指示・指導と支援の双方に力を注がなければならない。ちなみに、S2段階にあるメンバーへの対応でリーダーが犯しやすい間違いは「スキルの習得に一定のときをかけてきたのだから、細かな指示・指導は必要ではない」と思い込んでしまうことだ。実のとこと、この段階にあるメンバーにこそ、より具体的で丁寧な指示・指導を行うべきなのである。

S3:有能だが慎重な実践者(Capable-but-cautious performer)

この段階のメンバーは、職務遂行の能力が相当の水準に達し、職務へのコミットメントレベルが再び上昇し始める「重要な転換期」にさしかかっている。ゆえに、この段階のメンバーには、支援を手厚くし、指示・指導のレベルを下げ、さらなる自立を促すことが重要となる。

S4:自立した達成者(Self-reliant achiever)

S4段階のメンバーは、職務遂行に必要なスキルをマスターし、リーダーによる具体的な指示・指導がなくても高いレベルのパフォーマンスを発揮することができる。そのため、組織に対する自分の貢献度についても相当の自信を有している。

この段階にあるメンバーに対し、ことあるごとに指示・指導を行ったり、業務の進捗を細かく点検したり、手厚い支援を行おうとするのは、リーダーにとって時間の無駄でしかない。そのようなリーダーの行動は、彼らに息苦しさを感じさせ、職務に対するモチベーションや組織への貢献意欲を低下させかねないからだ。また、得意なことへのメンバーの集中も阻害してしまう可能性もある。

S4段階にあるメンバーのリーダーは、メンバーの仕事をサポートするのではなく、一任することに重点を置くべきと言える。


以上のように、組織のメンバーの発達段階に応じて適切なリーダーシップスタイル(ないしは、マネジメントスタイル)をとることは、優れたリーダーの要件とも言える。その理由はシンプルであり、(繰り返すようだが)組織のメンバーの発達段階はさまざまであり、それを適切にマネージする、あるいは率いる万能の手法は存在しないためだ。

メンバーの現状を直視し、組織が行き詰っている領域に焦点を絞ったサポートを柔軟に提供できるリーダーこそが、ハイパフォーマンスな組織を形成し、支えうると言える。言い換えれば、賢明なマネージャーとは、状況対応型リーダーシップを通じて組織のメンバーが必要とするものを、必要なときに提供する人を指しているのである。

This article is a sponsored article by
''.