アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。アトラシアンのシニア クオンティタティブ リサーチャーであるマリーン・カーン(Mahreen Khan)博士が、チームにおける「集団思考(グループシンク)」を回避する方策について説く。

本稿の要約を10秒で

  • チームの結束力は高いパフォーマンスを発揮するチームの重要な要素だが、一方で、結束力の強いチームには「集団思考(グループシンク)」を引き起こしやすいというリスクがある。
  • グループシンクに陥ったチームでは、メンバー各人は最善のアイデアを見つけることよりも、合意を形成することのほうに集中するようになる。
  • チームの結束力を維持しながらグループシンクを回避するには「建設的な反対意見」を安心して言える文化を醸成することが重要となる。

チームの強い結束力が生む「集団思考(グループシンク)」というリスク

チームの結束力が強いことは一般的に良いこととされており、実際にも、そうであることが多い。例えば、あるメタ分析(英語)(複数の独立した科学的研究の統計的分析)によって、チームの結束力とパフォーマンスが正の相関関係にあることが実証されている。

なぜ、このような結果が出るのかと言えば、チームの全員が強くつながっていると、メンバー各人がより良いパフォーマンスを発揮しようと思うからである。また、チームの結束力が強いと、チーム内のコミュニケーションとコラボレーションもより容易になる。ある調査(英語)によると、バーチャルな職場環境ではリアルなオフィスよりもコミュニケーションがとりにくくなるため、チームの結束力がより重要になるという。

ところが、チームの結束力が強すぎると物事が悪い方向へと転じるリスクが強まる。

例えば、チームメンバーがお互いに好意を持ちすぎていると、その場に溶け込むための規範のようなものがグループ内で生まれる。それが新メンバーに対する同調圧力になる可能性がある。その可能性は、ジェームズ・クリアー氏の書籍「Atomic Habits」/邦訳版「ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣」(発行:パンローリング)の中でも言及されている。

本書の中で紹介されている研究結果によると、チンパンジーは所属するグループの習慣に従うかたちでナッツの割り方を変化させるという。しかも、あるグループで巧みにナッツを割っていたチンパンジーが、あまり効果的ではない方法でナッツを割っている別グループに所属を切り替えたとたん、そのグループに溶け込むために、より効果的にナッツを割ろうとはしなくなるようだ。

それと同様に、非常に結束力の強いチームのメンバーは、チームの結束を揺るがしかねないアイデアを口にするのをためらう可能性がある。というのも、結束力が非常に強いチームでは、メンバー同士の摩擦を避けたいがために、自分たちが取り組んでいる仕事に関する「建設的な対立」を避けようとする(英語)傾向があるからだ。

また、一般的なチームは、ブレインストーミングによって最も効果的なアイデアや独創的なアイデアを見出そうとするが、結束力が過度に強いチームの場合、チームから出されたランダムなアイデア(英語)をすぐに受け入れてしまう傾向も見受けられている。

このように、チームのメンバーがより良い選択肢を提示することを避け、周囲を動揺させるようなアイデアを口にしたり、既存のアイデアを批評したり、グループの規範に単純に従おうとする現象は「集団思考(グループシンク)」として知られている。グループシンクは、心理学者のアーヴィング・ジャニス氏(英語)が生み出した言葉だ。それは、集団が合理的な意思決定を放棄し、合意を優先させたときに生じる思考を指している。この思考に陥っているチームでは、個人が集団に合わせるために自分の信念を捨ててしまうことがよくある。

加えて重要なのは、結束力の強いチームほど、グループシンクに陥るリスクが高い点である。では、どうすればこの重大なリスクを低減できるのか。以下、その方策について考えていきたい。

健全で建設的な反対意見を受け入れる

グループシンクを回避する良策の一つは、大勢の見解・意見に対して健全で建設的な反対意見を述べる文化をチーム内に醸成することである。これによって、グループシンクによって劣悪な意思決定を下してしまうリスクを軽減することができる。

チームの仕事の効果を高く保つうえでは健全で建設的な反対意見、ないしは意見の対立が不可欠との考え方はよく知られている。チームは、少数派の反対意見に触れることで、より創造的な思考をするようになるとの調査結果(英語)もある。

また、多くの調査結果が、イノベーションを重視して新しいアイデアを奨励し、サポートする文化をチーム内に築くことの利点を明らかにしている。

例えば、あるメタ分析(英語)によって、イノベーションを支援するチーム文化(つまり、反対意見や新しいアイデアを取り入れるチーム文化)は革新的な成果を生む最も強力な原動力の1つであることが証明されている。

そうしたチーム文化を育むうえでは、以下のことを確実に遂行する必要がある。

  • ブレインストーミングのための時間を定期的に確保する
  • いかに奇抜なアイデアでも、時間をかけて検討する。
  • ベストなアイデアを実際に実行に移す。

もっとも、この行動についても“やり過ぎ”は禁物であり、これをやり過ぎるとチームのパフォーマンスにマイナスの影響が出てしまうので留意されたい。

TIPS

アトラシアン『Team Playbook』の「受容的なミーティング」を活用すれば、ブレインストーミングセッションで、参加者全員の声をしっかりと拾えるようになる。

チーム内での反対意見は適切な条件下でのみ機能する

ここで仮に、あなたが「新しいアイデア」や「ブレインストーミング」「多様な視点」「反対意見」を本当に大切にしているチームにいると想像していただきたい。このようなチームでは当然、物事を行う最良の方法やアイデアについて多くの意見の相違があるはずである。こうした意見の相違や対立が良い結果を生むのは、ある条件下においてのみだ。

例えば、ある研究(英語)によれば、117チームの学部生のプロジェクトチームを調べたところ、仕事に関する対立は、チーム内に心理的安全性が確保されている場合にのみ、良いパフォーマンスをもたらすことが判明したという。

また、別の研究(英語)では、チームがブレインストーミングを行っている際に、建設的な批評によってアイデアの量と質が向上するのは、メンバーが心理的に安全であり、協力的な環境にいると感じている場合に限定されることが明らかにされている。

一方で、チーム内が競争的な環境にある場合には、建設的な批評はアイデアの質と量を低下させることになるという。このような結果が出る理由は、チームメンバーが心理的な安心感を抱いていると、自分のアイデアに対する批判についても建設的なものとしてとらえられるためだ。加えて、チームの目標をメンバー全員が共有していると感じている場合、自分のアイデアが批判されたとしても、それは「より大きな利益を生むためのもの」と理解する。それに対して、チーム内が競争的な環境にある場合(ないしは、メンバーがそう感じている場合)、自分に対する批判を「チームが目標を達成するためのもの」とは信用できなくなる。結果として、批判はメンバー間の不信感や摩擦を助長し、チームの創造性や革新性を損なわせることになる。

要はバランスが大切

以上の記述からも分かるとおり、チーム運営においては、健全で建設的な反対意見を出す文化やイノベーションをサポートする文化、そして心理的な安全性、さらには結束力をバランス良く保つことが重要であり、それができて初めてチームを効果的に機能させることが可能になると言える。

繰り返すようだが、チームメイトが大好きであるがゆえに、自分の考えを言いたがらないようなチームは効果的に機能することはできない。一方で、メンバー間に信頼関係がなく、心理的安全性が確保されていないようなチームで意見を戦わせても、相互の不信感を助長し、パフォーマンスを低下させるだけで終わることになる。

素晴らしいチームとは、メンバー同士が互いに強いつながりを感じながら、異なるアイデアや視点を安心して口にすることができる組織である。優れた料理が素材の絶妙なバランスの上で成り立っているのと同じく「結束」「意見対立」「心理的安全性」といった要素の適切なバランシングが、ハイレベルで効果的なチームを生み出すのである。

TIPS

アトラシアンの調査レポート「The state of teams(英語)」をお読みいただくと、世の中のチームがいまどのような状況にあるかがつぶさにとらえられる。チームをより健全に、生産的に、そして革新的にするための参考資料としてご活用いただきたい。

This article is a sponsored article by
''.