売り上げよりもブランド

とはいえ、店舗の販売スタッフが同社のコアコンピタンスであることは変わりない。そうした営業現場を統括するリーダー社員へのマネジメントにおいて、野並社長が心掛けているのは何か。それは売り上げよりもブランドを重視することだという。

「営業というと、とかく数字に走りがち。そこで注意しないといけないのは、一番大事なのは売り上げではなく、ブランド価値だということです。ブランド価値とは、長年のお客さまからの信頼の積み重ね。それが崎陽軒の一番の財産です。これを維持させるだけでなく、いかに磨きをかけていくかを、会社としては常日ごろから考えなければなりません」

ブランドを守るための一例として、崎陽軒ではその場しのぎの値下げをしないという掟(おきて)がある。

「よくデパ地下で閉店間際に値下げするでしょ。お弁当や総菜など、日持ちしないものは廃棄処分しないといけないから。でも、うちは一切やりません。値下げしたものを買ったお客さまは得した気分になるかもしれませんが、定価で買ったお客さまは逆に損した気分になってしまいます。崎陽軒は常に同じ価格なので、お客さまも安心します。歯を食いしばってでもそれを守り抜くことが、ブランド価値につながっていくのだと思います」

野並社長が売り上げよりもブランドだと考えるに至った背景には、過去の失敗もある。

画像: 「真空パックシウマイ」 (写真提供:崎陽軒)

「真空パックシウマイ」
(写真提供:崎陽軒)

崎陽軒はかつて、「真空パックシウマイ」を全国の百貨店やスーパーで販売していた。しかし、売り上げ拡大を重視するあまり、商品の販売管理にまで行き届かず、例えば、シウマイが総菜コーナーに乱雑に置かれていたり、トイレの前の商品棚に山積みになっていたりといった様子を、野並社長自身も目の当たりにした。

「シウマイがかわいそうな売られ方をしていました。これはブランド毀損になると思い、すぐに全国展開をやめることを決意しました。お客さまのためにも、崎陽軒というブランドをもっと大事にしていかねばいけないなと実感しました」

決して売らんかなではない。ここにも、顧客を最優先に考えるという同社の原理原則が生きている。

社長自らがコミットしてCIを管理

ブランドを守り、その価値を高めることが、崎陽軒に対する顧客の信頼につながっていることは分かった。では、そうした理念や考えをどうやって末端の社員にまで浸透させているのだろうか。これが非常に難しいと野並社長は言う。

そのため、崎陽軒ではこれまで野並社長がCI(コーポレートアイデンティティ)を全て担当してきた。CIに関するものは、たとえ費用がゼロ円でも社長決裁が必要だという仕組みにしている。つまり社長の許可が下りなければ、ロゴやパッケージなどのデザインはもとより、店舗の演出や商品陳列などを進めることはできない。

画像: 崎陽軒のグッズ

崎陽軒のグッズ

当然のように、野並社長が考えるブランドイメージの全てを、社員が一朝一夕に理解できるわけがない。当初は社員がやっている仕事を追いかけ回しては、「あれがだめ、これがだめ」と指摘していたこともあった。ただし、何度もやり取りを重ねるうちに、社員も自然と学んでいき、今では野並社長が口を出すことはあまりない。これは崎陽軒のブランドに対する共通認識が社内に浸透した証左と言える。

また、ブランドが持つ世界観がブレないようにするために、崎陽軒は社内にデザイナーを抱えて、意識の統一を常に図っていることも大きいだろう。

社員の自立で、成熟した組織に

このように、さまざまな社内改革に取り組んできた野並社長だが、社長に就任してから30年が過ぎた。長きにわたって経営トップを務めることで、社員に甘えや慣れが生まれてしまうといったマネジメント上の課題はないのだろうか。

この点に関して、野並社長はキッパリと否定する。

「むしろ逆で、私がだんだん甘えるようになっています。以前は社員の仕事に対して細かいことを言っていましたが、今はある程度任せても問題はありません。長い年月が社員の自立を促したのです。組織が成熟して、自分の思い通りの会社になってきたなという実感があります」

崎陽軒がここまでの企業に育ったのは、ひとえにブランド価値を守り抜いてきた結果だと野並社長は考える。

「社会に出て、いろいろな人と交流する中で、自分が考えている以上に、崎陽軒という会社は存在感があることを知りました。例えば、『天下の崎陽軒』などという言われ方をされることもあるのですが、われわれはそんなコマーシャルを打ったわけでもありません(笑)。まさにブランド価値の大きさがそうしたイメージを形作ってきたのでしょう」

ただし、これは決して経営トップ個人の力によってなし得たことではない。社長のリーダーシップと、社員一人ひとりの自立。これらがうまく噛み合って崎陽軒のブランドを築き上げたのである。どれか一つが欠けていても成立しない。崎陽軒の成功は、まさにチームの力だということを証明してみせたのだ。

画像: 崎陽軒の経営理念

崎陽軒の経営理念

画像: 崎陽軒本社

崎陽軒本社

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