日本にとっての多様性(ダイバーシティ)の大切さを訴える
本書は、日本における多様性の現状分析に始まり、日本に必要とされる真のダイバーシティとそれを実現する道筋を説いた一冊である。
著者の鈴木雄二氏は、ダイバーシティとインクルージョンを力に変えてきた人だ。
日本人の両親のもとでブラジルに生まれ、米国で大学から大学院へと進み数学を研究、のちにアフロアメリカンの女性と結婚している。最初に就職した米国の重量物段ボールメーカーでは、日本における合併相手を探すために日本に派遣された。
合併成立後は、日本の米国側責任者として経営に携わり、のちに米国側との合併を解消して独自資本で事業を再起動させる。会社の再起動後は中国、東南アジア、ヨーロッパ、中東などに進出し、世界各国にグループ会社100社を展開するに至っている。
もはやこの時点で、著者の文化的な背景や本来的な気質がどこの国のものであるかは分からない。ネイティブの言語、あるいは最も得意な言語がブラジル語なのか、日本語なのか、英語なのかも不明である。言い換えれば、筆者は生粋の“国際人”である。そう言えるのかもしれない。
本書は、そんな国際人の筆者が、日本のビジネスパーソンに向けて、ダイバーシティとインクルージョンを自らの力に変えていく大切さを訴えた書籍であるとも言える。本書の全体は以下に示す6つの章と2つの対談で構成されている。
- 第1章 なぜ世界で日本人は活躍できないのか
- 第2章 社会構造、偏見、教育制度・・・グローバル化を阻む日本特有の問題点
- 第3章 欧州諸国から学ぶ、日本に必要な「真の多様性」
- 第4章 世界のトップ企業が行う「ダイバーシティ経営」多様な人材を集めれば、個人・組織が成長できる
- 第5章 日本を愛せば多様性への理解はさらに深まる-グローバル社会で “日本人の強み”を活かせ
- 第6章 「真の多様性」を受け入れて、世界をリードする国となれ
- 特典対談1 坂東眞理子×鈴木雄二:危機のなかにある日本――居心地の良さを脱することから (昭和女子大学理事長・総長の坂東氏との対談)
- 特典対談2 広中平祐×鈴木雄二:間違えない人間はいない。その経験が人を新たなスタート台に立たせる (フィールズ賞受賞の世界的数学者広中氏との対談)
日本の凋落はダイバーシティの欠如にあり
上記の章立ての中で、筆者がまず訴えようとしているのは、日本の企業が国際競争力を失い、凋落の一途をたどった理由が、ダイバーシティの欠如にあるという点だ。一般論としてもよく指摘されるように、本書でも多様性に欠ける組織からはイノベーティブな発想は生まれず、それがダイバーシティを重視するGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)と日本企業との圧倒的な差となって表れているとする。
本書ではまた、日本企業におけるダイバーシティの欠如を生んだ要因についても触れている。その要因とは、例外を認めず横並びを是とする考え方が、教育から企業経営、スポーツにまで蔓延しているからだという。
例えば、日本の教育は、新たな価値の源泉とも言える「異質なもの」を排除し、偏差値でしか人を評価しようとしない傾向が強く、ダイバーシティを組織の力にしたいのであれば、こうした教育のあり方を抜本的に変革する必要があると本書は訴える。
もう一つ、日本では均質な社会を作るという圧力が強いことから、組織におけるインクルージョンが働いておらず、ダイバーシティがかけ声倒れに終わっているケースも多いと本書は指摘している。
本書によれば、ダイバーシティはインクルージョンがあって初めて意味を成すものであるという。そして、“ダイバーシティ&インクルージョン”とは、ジグソーパズルの世界地図のようなもので、多様なピースを集めるだけでは意味はなく、各ピースを適切な位置に収めなければ世界地図としての機能は発揮されないとする。さらに、米国が活力を保てているのは“ダイバーシティ&インクルージョン”を基礎にした移民の国だからであり、そうした活力は互いの違いを確認し合い、違いに学ぶところからしか生まれないという。