本稿の要約を10秒で
- 調査によると、アプリケーションの切り替え後、生産的なワークフローになるまでに最大9分30秒がかかるらしい。
- 半数近くの就業者が「コンテキストスイッチ」が生産性を低下させると回答している。
- コンテキストスイッチによる負の影響は1日のうちにタスクやトピックを何度も切り替える場合に最も大きくなる可能性がある。
「コンテキストスイッチ」とは?
十分な睡眠時間と休息をとり、時間外労働もしていないにもかかわらず、金曜日の夕方にはもうクタクタで、いったん眠りについたら日曜日の朝まで、ほとんど目覚めず寝てしまう──。読者諸氏は、このような1週間を送った経験はないだろうか。仮にあるとすれば、その原因が1週間における「コンテキストスイッチ」の量に関係する可能性が高い。
コンテキストスイッチは、ソフトウェアに適用されることが多いが、人の生産性にも関係する。米国カーネギーメロン大学ソフトウェア工学研究所のブログにおいて、トッド・ワイツ(Todd Waits)氏は、コンテキストスイッチについて次のように説明している。
「人の労働に関連したワードとして『コンテキストスイッチ』という言葉を使う場合は、あるプロジェクトにおけるタスクを中断し、別のプロジェクトで別のタスクを実行した後に、元のタスクを再開するプロセスを指しています。コンピュータシステムと同様に、人間も複数のプロジェクト間でコンテキストスイッチを行うと相応のオーバーヘッドが発生することがよくあります」
時間と生産性における真のコスト
さまざまな調査・研究によってコンテキストスイッチが人間の生産性に負の影響を与えることが明らかにされている。例えば、Qatalogとコーネル大学Idea Labの共同レポートは、以下の結果を報告している。
- アプリケーションを切り替えた後、生産的なワークフローになるまでには平均9分30秒もの時間を要する。
- 45%の人がコンテキストスイッチによって生産性が下がると答えている。
- 43%の人がタスクを切り替えることで疲労を感じると答えている。
コンテキストスイッチによる疲労は、「記憶」に関する人の脳の限界に起因している可能性がある。多くのナレッジワーカーは、常に大量の情報に囲まれて仕事をしている。例えば、メールにチャット、ビデオ会議、そしてWebブラウザ上の複数のタブ──。それらを同時並行で使いながらコミュニケーションをしていると、脳の中でさまざまな情報が錯綜する。そんな中で、あるミーティングから別のミーティングへ、あるトピックから別のトピックへ、特定の深さの思考・タスクから異なる深さの思考・タスクへと奔走していると、相当の負担を脳にかけることになる。
コンテキストスイッチの負担
ということで以下では、コンテキストスイッチが私の仕事にどのような影響を与えるかについて、自分なりに分析した結果を紹介する。
まず、単一のトピック内で異なる深さの思考・タスクを行うことは、人にはそれほどの負担はかからない。例えば、単一のトピックに関して「戦略(Strategy)」と「戦術(Tactics)」の間を行き来することは、多くの人にとって、それほどの負担にはならないはずである(図1)。

図1:単一のトピックスについて「戦略(Strategy)」と「戦術(Tactics)」との間を行き来する
実際、私も、特定のトピックについて議論したり、文書化したり、遂行したりしているうちに自然に「戦略(Strategy)」と「戦術(Tactics)」の間を行き来していることが多い。これは、タスクを切り替えながら1つの大きなアイデアに集中している状態と言える。
それに対して、思考・タスクの深さ(以降、単に「深さ」と呼ぶ)が同じであっても、2つのトピックを切り替えながら思考・タスクを行うと、トピックの切り替えごとにコンテキストスイッチが発生するゆえに脳に一定の負担がかかる(図2)。この場合、トピックを切り替える回数を減らすことで脳への負担を減らすことができると言える。

図2:2つのトピックを切り替えながら同じ深さの思考・タスクにとどまる
もっとも、私の場合、チームをマネージしている関係上、1日に何度もトピックを切り替えることが多く、かつ切り替え対象のトピックの数も多くなる。言うまでもなく、トピックの切り替えが多くなればなるほど、また、切り替え対象となるトピックの数が増えれば増えるほど脳への負担は大きくなる。ただし、同じ深さの思考・タスクにとどまることで、コンテキストスイッチの負担を軽減することは可能だ。

図3:3つのトピック間を行き来しながら、同じ深さにとどまる
コンテキストスイッチによる脳への負担が非常に高まるのは、思考・タスクの深さとトピックをともに切り替えなければならないときである(図4)。私の場合、これが非常につらく、生産性に負の影響が出ることがわかった。

図4:思考・タスクの深さとトピックをともに切り替える
さらに言えば、思考・タスクの深さをさまざまに切り替えながら、3つ以上のトピックスの間を行き来していると、コンテキストスイッチによる私の脳への負担がきわめて大きくなることも判明した(図5)。この状態が数日間続くと、深刻な精神的疲労を感じるようになる。

図5:深さを変えながら3つ以上のトピックを切り替える
では、コンテキストスイッチによる負担が大きくなり過ぎているときには、どうするのが適切なのだろうか。まず行うべきは、自分の脳の疲労をすみやかにつかむことである。私の場合、脳が疲れてくると以下のような状態に陥る。
- ドキュメントの詳細に目が行き届かなくなり、ドキュメントに書いてあることや前に説明を受けたことを周囲に尋ねてしまう。
- できるはずの仕事でも、どこから手をつけていいのかわからなくなる。
- 簡単に終えられる仕事を先延ばしにする。
これらの“症状”が出た場合、私は自分の脳がリセットを要求していると見なすようにしている。あなたの場合は、どうだろうか。