組織文化の変革が勝てるチームの条件となる
著者の中竹竜二氏は、早稲田大学ラグビー蹴球部で主将を務めて1996年度の全国大学選手権で惜しくも準優勝だったが、2006年に同ラグビー蹴球部の監督に就任し、2007年度から2年連続で全国大学選手権の優勝をもたらした。現在は日本ラグビーフットボール協会の理事を務めている。
本書は、「ラグビーワールドカップ2019」でラグビー日本代表がいかに“負け犬根性”から脱却したかという話から始まる。9回目となるラグビーワールドカップで日本代表は初めてベスト8入りを果たし、日本中に熱狂をもたらしたのは記憶に新しいが、それまでは日本代表のラグビーワールドカップでの戦績は惨たんたるものだった。
“負け犬根性”から脱却というと根性論だと思われそうだが、本書はそうではない。著者の主張を一言でまとめるならば、「組織文化の変革が勝てるチームの条件」ということになる。
「勝ちとは何か」「なぜ勝つのか」「どう勝つのか」「どこまで勝ち続けるのか」、そういったことを自ら問い続ける。そして、一度導き出した「解」をあえて自分で疑い、自問を繰り返し、過去の成果に甘えることなく、自分の殻を破って謙虚に学び続け、進化や成長を止めない。それが、本書のタイトルである「ウィニングカルチャー(常勝の組織文化)」の本質だ。
組織文化が明確に意識されることはまれ
どのような組織であれ、その組織が持つ暗黙の文化がある。明確になっていなくても、組織に属する人たちの持つ感情や価値観が共有されているならば、それが組織文化だ。
この組織文化が組織の競争力の源泉になる。本書は組織文化の重要性に着目し、著者の経験を元に組織文化を変革するための方法を解説している。
組織文化が明確に意識されることはまれなので、まず組織文化を知ることがポイントとなる。その1つの方法として、本書は組織文化を知る12のチェック項目を挙げている。それは「役割認識」「目標共有」「目標共感」「挑戦」「個性の発揮」「主体性」「情熱」「言える化」「見える化」「使命感」「規律性」「一体感」だが、このチェック項目に組織のメンバー全員が答えることで、組織の特徴や欠点があぶり出される。
また、次の4つの「象限」での観察をもとに組織文化を知ることができるという。
- 第1象限:株主総会・役員会議・マネージャー会議
- 第2象限:本社や本部での打ち合わせ
- 第3象限:日常の会議・顧客との接点
- 第4象限:朝会・日常的な雑談・昼食・飲み会
ただし、これらのチェックや観察の作業には手間と時間がかかるので、可能ならば、組織文化を知るためのプロジェクトチームを立ち上げることが望ましい。また心理的安全性のある環境がないと真実を明確化することが難しいので、そういった環境づくりも重要となる。
常に組織文化を見直して進化させていく
組織文化を認識化したなら、それをどのように変えていくかが次の課題になる。組織文化は組織を構成するピラミッドの根底にあるので、変えるには手間も時間もかかる。危機に直面してから組織文化の変革に乗り出しても手遅れになる可能性があるので、危機的な状況に陥る手前の段階で、速やかに組織文化を変える必要がある。
また環境など周りの状況や他の組織に変化があれば、組織文化も変えていく必要がある。常に組織文化を見直して進化させていくことが重要だ。
組織文化はその組織のメンバー全員が持つ無意識の感情なので、トップやリーダーが変わっただけでは組織文化自体は変わらない。メンバー全員が変わらなければならない。これはかなりハードルが高い目標だ。また、組織文化を変えることができたとしても、成果がでるまでにはタイムラグがあるので、性急に結果を求めてはならない。
組織文化を変えるには、そこに属する人々が無意識のうちに共有している価値観を知り、それを意識化して変え、新しい価値観を無意識化させていく作業が欠かせない。この一連の流れをより深く知り、体得するのに役立つのが、「インテグラル理論」と「成人発達理論」だ。本書の付録として、それらの理論の権威である加藤洋平氏との対談を収録している。なお、理論の詳細については、加藤洋平氏の専門サイトを参照してほしい。
具体例を交えた解説で理解しやすい
ダメな組織を変えるために、リーダーが上から理想的なスローガンを押し付ける例が多く見受けられる。しかし、それで組織文化の変革に成功したという話はあまり聞かない。本書が指摘しているように、組織文化は無意識なものだ。上からの押し付けではなく、組織のメンバー全員が組織文化を意識化し、変えようという意欲がなければ組織文化は変わらない。
本書は、現状の組織文化を知るための方法、それをもとに理想とする組織文化に近づける方法、さらに状況に合わせて組織文化をバージョンアップさせる方法について具体例を交えて解説しているので、とても理解しやすい。読者はすぐにでも自分の組織に応用させたくなるだろう。しかし成果が分からない変革に時間と手間を割くことは、実際には抵抗が多いはずだ。
また、組織文化を変えたからといって、必ず勝てる組織になるとも限らない。ただし、組織文化がいい加減なままでは勝てる組織にはなり得ないのは確かなことだ。組織文化の変革は勝つための十分条件ではないが、必要条件ではある。
本書では、スポーツチームだけでなく、企業での組織文化変革の例がいくつか紹介されている。組織に何らかの変化が必要だと感じている企業には大いに参考になるだろう。