エンジニアの採用と評価を改革

ヴァイス・プレジデントに就任したYoulin Li氏は、エンジニアが50人程度から150人規模へと急速に増えていく中で、さまざまな改革を実行した。一つはエンジニアの採用に統一的な基準を導入したこと。グローバルな人材を採用する時に、個々の面接官の判断だけに頼っていては、人材の質にばらつきが出る。仮に今はうまく機能しても、5年後のビジネスに対応できるかどうかは分からない。

そこで、統一的な基準で採用するために始めたのが「構造化面接」と呼ばれるもの。採用面接でどんな角度で質問するのかを標準化して、フレームワークを作る。グローバルな組織を作るときに使われている手法だ。

ただ、「構造化面接」のフレームワークだけを導入したわけではなかった。スマートニュースが求める人材を採用するために、井口氏らとYoulin Li氏との間で議論をしながら、質問を練っていったという。

「フレームワークは無限の事象を有限にマッピングするものなので、こぼれ落ちてしまうものが確実にあります。今まで私たちが大事にしていた良質な情報を届けるためのエンジニアリングといった観点がこぼれ落ちる可能性があったので、そこはかなり議論を重ねて擦り合わせました。

その結果、カルチャーフィットもできて、質もそろった採用ができるようになりました。構造化面接は、トレーニングすることによって面接官の数を増やすことが可能になるので、採用活動を活発化することにもつながっています」

もう一つの改革は、エンジニアを評価するフレームワークを新たに作ったこと。従来は「あのエンジニアは頑張った」「あのシステムを直してくれた」といった評価をしていたが、エンジニアのレベルごとの責任を明確化し、文章化するレベルエクスペクテーションを作成した。そこで特に重要なのは、レベルごとの評価をグローバルスタンダードに合わせたことだ。

「スマートニュースでレベル3であれば、フェイスブックでもレベル3。スマートニュースでレベル5なら、アマゾンでもレベル5で評価されるように、評価軸を作りました。評価のあいまいな部分をなるべく減らして、どこの国籍の人でも正しく評価ができます。

業界で同じ評価軸を使うことによって、人材の流動性が高まります。この評価方法はシリコンバレーなどでも使われていて、よくできた手法だと思います。エンジニアにとっても不公平感がなく、次のレベルへと上がっていくためには何が必要なのかが明確に書かれているので、自分から成長できます。この効果は大きいですね」

また、エンジニアがプロダクトに対してアイデアを出し、エンジニア主導でプロダクトを作っていくことも、Youlin Li氏が推奨した。日本の場合は社内、社外を問わず、プロダクトのチームがエンジニアに発注することが一般的だ。エンジニアリング組織を持たなくてもプロダクトができるのは利点だが、エンジニアは自分たちのものを作っている訳ではないので、熱意が入らないというデメリットがある。スマートニュースにとっては、エンジニア主導で開発を進めることの効果は大きいという。

「エンジニアが本当にいいと思っているものを、熱意を持って作ることで、プロダクト開発にも熱量や熱狂が生まれてくると思っています。SmartNewsの開発では、多様な情報や多様なユーザーをマシンラーニングなど巨大なデータ構造で理解しなければならないので、エンジニアの力で出せる効果がすごく大きいですね」

背景の違いを乗り越えるコミュニケーション

画像: Squad体制を導入したプロダクトマネージャーのJeannie Yang氏

Squad体制を導入したプロダクトマネージャーのJeannie Yang氏

スマートニュースではエンジニアを統括するYoulin Li氏や、Squad体制を導入したプロダクトマネージャーのJeannie Yang氏など、海外で実績のあるプレーヤーを招聘することで、急成長を支えるチームマネジメントを実現している。

とはいえ、世界の6拠点に分かれて、グローバルなスタッフでプロダクトを開発していくには、円滑なコミュニケーションが必要になる。井口氏はエンジニアをマネジメントする中で、想像もしなかった文化の違いにも遭遇したという。

「インド出身のエンジニアと会話をしていると、私が話している時に首を横に振ります。なぜだろうと思って聞いてみると、どうも肯定するときに首を横に振るそうです。異なる文化圏の人から見たら、否定しているのか、もしくは首が痛いのかなと思いますよね。

こうした文化や人間の活動は明文化されていないことがほとんどなので、社内では何をやって、何をやらないかを、なるべくグローバルな言語である英語で文章にしています。『きっとやってくれると思っていた』といった諍(いさか)いはなくさないと、文化や宗教など多様なバックグラウンドを持つ人たちとはうまく働けません。文脈に依存した情報はなるべく捨てるようにしています」

また、コミュニケーションを図るときに、どうしても埋めることができないのが時差の問題だ。日本、米国、中国の各拠点のスタッフがリモートワークを進めるにしても、一緒に働ける時間が少ない。

そこでスマートニュースでは、いくつかの工夫をしている。一つはコミュニケーションの非同期化。大陸をまたぐミーティングはなるべく減らして、必要なことは文書にしてコミュニケーションをとっている。文書にする必要がない場合は、チャットツールのSlackを使って文字で伝えている。

とはいえ、全て文書というわけにはいかない。対面の方がいいと考える打ち合わせについては、リモートで実施しているという。

「人間が会話しているときに得られる情報は、7割が非言語的な情報だといわれています。にっこり笑っている表情を見せた方が、ニュアンスが伝わりますよね。この部分を捨てたくはないので、泥臭いやり方ですけど、チームビルディングのミーティングについては、みんな早起きや夜更かしをしながら実施しています。

無駄なミーティングはやめて文書でコミュニケーションをとる一方で、毎日のプロジェクトの確認は、頑張って早起きして行っています。私の上司のYoulin Liはサンフランシスコにいますが、日本との時差が16時間もあるので、現地で朝6時や夜11時でもリモートで会議に参加してくれていますね」

「同時通訳」でコミュニケーションに投資する

このリモートでのコミュニケーションを支えるために、スマートニュースが導入しているのが同時通訳だ。一般的な通訳と言えば、誰かが話した後でひと呼吸置いて通訳する逐次通訳だが、スマートニュースでは通訳の専門スタッフをチームとして置いて、同時通訳で会議や打ち合わせをサポートしている。

画像: スマートニュースの通訳チーム

スマートニュースの通訳チーム

「当社の通訳スタッフは、かなりレベルが高いです。しかも、単に英語を日本語、日本語を英語に通訳するだけではなく、通訳チームはスマートニュースにおいて異文化交流を促進し、組織全体の文化を形づくる手助けになっている組織でもあります。

つまり、通訳はあくまで手段で、コミュニケーションの活性化や意図を明確にして、会社全体の文化の統一感を醸成し、意思疎通を高めるのが目的です。そのために、英語や中国語の高い同時通訳能力を持っているスタッフを採用しています」

「プロダクト開発はグローバルに最適化する部分もあれば、ユーザーインタフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)、機械学習のアルゴリズムなど、ローカルで最適化すべきことが絶対にあると思います。

米国にはないけれども、日本市場に特有な部分については日本語でコミュニケーションをする。ある特定の地域やマーケットに対して、一番優れた効果がある自然言語を使うべき局面が出てきます。そのときにカルチャーや情報の交換をスムーズにするために同時通訳が必要だと考えています」

 同時通訳は「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」ミッションや、スマートニュースの社内文化を、世界の各拠点で働くエンジニアに浸透させることに力点が置かれている。つまり、同時通訳はコミュニケーションに対する投資ともいえる。

スマートニュースがチームビルディングやコミュニケーションに力点を置いているのは、エンジニアの成長がそのまま会社の成長につながると考えているからではないだろうか。スマートニュースが目指す今後について、井口氏は次のように答えた。

「拡大のための拡大はしないと考えています。米国では政治的分断の緩和に貢献するようなプロダクトを提供できつつありますが、まだ全米で使われているわけではなく、米国が地球上の全てでもありません。ミッションはまだ達成できていなくて、やることはこれからもたくさんあります。そう考えたときに、現状ではスタッフは足りないと感じています。

プロダクトのことだけを考えると、とにかく成功すればいいじゃないかと思うかもしれません。でも、プロダクトを切り離して1人のエンジニアとして考えると、技術力が高まっているとか、社会に貢献できているとか、新しい価値観を知ることができたというところに、充実感を感じます。

スマートニュースにいる間にいい経験ができて、スキルが上がったと感じることができるような、エンジニアにとってもいい組織にしたい。エンジニアが歯車の一部になるのではなく、新しい領域にチャレンジすることが許される、風通しがいい組織にできればいいですね」

画像: スマートニュースのオフィス

スマートニュースのオフィス

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