初めの一歩は退職原因の洗い出し
ステイインタビューを実施するに当り、最初に成すべきことは、従業員たちが何を叶えるために退職(あるいは転職)を選ぶのかを洗い出すことである。一般的には、従業員が会社を辞める理由は、次のような望みを叶えるためと見なすことができる。
- より多くの成長機会を得たい。
- 自分の仕事に対してより大きな情熱と興奮を感じたい。
- ワークライフバランスを改善したい。
- ダイバーシティ&インクルージョンの効いた組織文化の中で働きたい。
- 自分のマネージャーからより注目され、大切にされたい。
アトラシアンの場合、こうした従業員たちの望みを叶えるために「TEAM Anywhere」や「ダイバーシティ&インクルージョン」「キャリア開発支援」といった全社的な取り組みを推進してきた。ただし、いまの仕事を続けるのか、それとも新天地を求めるかの選択は、あくまでも個々人の動機づけや価値観にもとづくパーソナルな意思決定だ。それに対して全社共通の取り組みが与える影響にはどうしても限界がある。そこで必要になるのが、ステイインタビューの遂行となる。
ステイインタビューの基本構成
改めて説明するが、ステイインタビューとは、従業員が「なぜいまの会社・チームで働いているのか」「会社・チームを辞めたくなる理由は何か」といったインサイト(洞察)を得るためのコミュニケーションである。例えば、従業員各人(ないしは、チームのメンバー各人)について以下のような事柄を知るために行うと考えれば良い。
- 働く動機は何なのか。
- 毎朝仕事に向かうにあたり何を楽しみにしているのか。
- 最後に会社を辞めることを考えたのはいつか。
- 会社にとどまっている理由は何なのか。
- 将来に向けてどのような手助けを必要としているのか。
これらはあくまでも、ステイインタビューで把握すべき基本的な事柄にすぎず、実際のインタビューではマネージャーの目的に応じて、さまざまなQ&Aが交わされるはずである。ただし、ステイインタビューで重要なのは、Q&Aの絶対量ではなく、従業員各人との間でいかに強いつながりと信頼関係を築くこと、あるいは、従業員各人の現在と将来のために継続的な対話の場を設けることである。
もっとも、あなたはこう思うかもしれない。
「自分のチームはすべてがうまく回っている。ステイインタビューは不要である」
「チーム内からは何の不満も聞こえてこないし、誰かが会社を辞めるような気配もない。ステイインタビューを実施することで、かえってメンバーの不満や退職を煽(あお)るようなことにはならないのか」
こうした考えや懸念のそもそもの間違いは「自分のチームがうまく機能している」ということが「自分の思い込みに過ぎない可能性がある」という点を無視していることだ。
真実は追求しなければ、突き止めることはできない。しかも今日は、何事も不確実で変化が激しい。そのような時代ではチームのメンバーの意識にどのような変化が、いつ起きても不思議はない。加えて、退職を本気で考えている人は、それをマネージャーに事前に伝えようとはあまり考えないのである。したがって、いかなるチームであっても、ステイインタビューによるメンバーの状況確認が必要とされるのである。
好きなことを与え、嫌いなことを取り除く
ステイインタビューは、自分の組織・チームのメンバーが好むことと嫌いなことを見出す作業でもある。その作業の結果として、マネージャーがチームのメンバー各人が好むことより多く提供することができれば、メンバーが会社を辞めてしまうリスクを大きく引き下げることが可能になる。また併せて、チームのメンバーが嫌うことを可能な限り取り除いていけば、仕事に対する彼らのエネルギーが無駄に消費されることも回避できるようになる。
仕事に対するエネルギーが枯渇した場合、人は必ずその仕事から離れようとする。ゆえにマネージャーは、自分の組織・チームのメンバー各人に与える役割が、彼らにエネルギーを与えるものなのか、それとも枯渇させるものなのかを入念にチェックする必要がある。言い換えれば、チームのメンバーに与えるべき役割は、単なる「ROLE(役割)」ではなく「Return On Life’s Energy」の略語であるととらえるべきなのである。
そうした観点も交えながら、ステイインタビューを構成する5つの基本的な質問と、フォローアップの質問を下表にまとめて示す。
質問項目 | フォローアップ質問 |
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いまの仕事で何を学んでいるか。 また、いま学びたいことは何か。 |
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なぜ、いまの業務を続けているのか。 |
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何を楽しみに毎日の仕事に向かっているか。 |
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いまの会社(ないしは、チーム)を辞めたいと最後に考えたのはいつか。何がきっかけで、そう考えたのか。 |
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あなたの「働く体験」をより良質なものにするために、私にできることは何か。 |
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このうち、フォローアップの質問についてはすべてを1度に行う必要はない。テクニックとしては、インタビューの次のステップと質問のフォローアップを勘案しながら、定期的にステイインタビューを繰り返していくことが効果的だ。さらに、ステイインタビューは、すでに定期的に展開している1 on 1ミーティングや四半期ごとの業績評価の面談に組み込むことが可能であるほか、それらとは別ミーティングとしてセッティングするのでも構わない。ぜひ、採用を検討されたい。