アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。メインライターを務めるサラ・ゴフデュポン(Sarah Goff-Dupont)が、リモートワークとオフィスワークの混成モデルであるハイブリッドワークを“失敗”に導く7つの道筋について解説する。

本稿の要約を10秒で

  • コロナ禍のもとでの強制的なリモートワークを苦痛に感じた人が少なからずいた。
  • ゆえに、コロナ後の働き方としてリモートワークとオフィスワークを柔軟に組み合わせられる「ハイブリッドワーク」を求める声が大きくなった。
  • ただ、ハイブリッドワークの採用という働き方改革には“失敗”のリスクがある。
  • 本稿では、ハイブリッドワークを失敗させる7つの道筋と、失敗回避の方策について解説する。

ハイブリットワークの支持者は多いが……

周知のとおり、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行というパンデミックによって数多くのオフィスワーカーが在宅勤務(リモートワーク)を余儀なくされた。

この変化が人に与えた影響はさまざまだ。リモートワークへのシフトで従来よりも快適な暮らしを手に入れた人もいれば、「仕事場で寝起きする苦痛を1年間味わい続けた」と感じている人たちもいる。

また、2020年秋に実施されたある調査*1によると、米国人女性の4人に1人はリモートワークを続ける中で離職を考えていたという。そして多くの人が「会社へのエンゲージメント」と「家族(子どもたち)へのエンゲージメント」をともに高いレベルで維持する取り組みに失敗したことを明らかにしながら、そのチャレンジは「最高の従業員にも、最高の親にもなれずに大きなストレスを抱え込む」というリスクがあり、そのリスクを背負ってまで挑む価値はないと主張していた。

このようにコロナ禍の長期化により、リモートワークに対してネガティブな側面も多く指摘され始めた。そのため、コロナ後のニューノーマルな働き方として、リモートワーク一辺倒ではなく、リモートワークとオフィスワークを柔軟に組み合わせられるハイブリッドワークモデルを望む声が増えたのである。

例えば、アトラシアンがLinkedInで行った調査*2によるとオフィスワーカーの62%が、ハイブリッドワークモデルで働くことを望み、32%はリモートワークを、残る7%はオフィスワークに戻りたいとしたという。 また、Slack社による調査*3でも同様の傾向が見られ、ハイブリッドワークを望む回答者は全体の62%であったという。

画像: これらの3つの比率は小数点第1位以下を四捨五入しているため総和は100%にはならない。

これらの3つの比率は小数点第1位以下を四捨五入しているため総和は100%にはならない。

一方、コンサルティングファームのデロイトが2021年に企業の上席リーダー層3,500人を対象に調査*4したところ、上席リーダーの61%が働き方改革、あるいは「労働の再構想」に注力していると答えたという。

ここで言う「労働の再構想」とは、「テクノロジーと人との新しいコンビネーションによって、まったく新しい、あるいはこれまでとは異なる労働成果を手にすること」を意味する。コロナ以前の同じ調査では「労働の再構想」に力を注いていると回答したリーダーは全体の29%に過ぎなかった。さらに、コロナ以前は「労働の最適化(=労働の生産性を向上させること)」「労働の再設計(=テクノロジーと人との新しいコンビネーションによって従来と同じ労働成果を得ること)」に注力する向きがともに32%いたが、コロナ後はそれらの比率がそれぞれ10%と27%に減っているという。こうした変化は非常に素晴らしいことではないだろうか。

ハイブリッドワークがうまく機能しない原因と対処法

就業者の多くがハイブリットワークを支持するなか、多くの企業がその採用へと動き始めた。ただし、大多数の企業にとってハイブリッドワークは未知の働き方であり、世の中には、その成功事例も失敗事例もほとんどなく、成功モデルも確立されていない。ゆえに、ハイブリッドワークを働き方の標準として採用するという働き方改革には失敗のリスクがあり、そのリスクが顕在化したときには、長期的な痛手を被るおそれもある。

そうしたリスクを念頭に置きながら、アトラシアンでは、リスクマネジメントの手法「プレモーテム(Premortem)」を用いた演習*5を行い、ハイブリッドワークで起こりうる失敗とその可能性を割り出した。以下、この演習を通じて明らかになったハイブリッドワークを失敗への導く7つの道筋と失敗回避のアイデアを紹介する。

失敗の道筋 1:オフィスワーカー優先でコミュニケーションを設計してしまう

アトラシアンもそうだったが、米国では比較的多くの企業がコロナ以前からリモートワークを制度として取り入れていた。ただし、働き方の標準はあくまでもオフィスワークであり、チームのメンバーの大多数がオフィスに集まって仕事をし、数名がリモートで仕事をしているという状況が間々見受けられていた。これと同じ状況がハイブリッドワークを採用した企業で生まれる可能性は高い。

そのような状況でよく犯しやすい過ちが、オフィスにいるメンバーを優先するかたちでチームにおけるコミュニケーションのあり方を設計してしまうことだ。代表的な一例が、チームミーティングの際にオフィスにいる多数派が会議室に集まり、リモートにいる1~2名にWeb会議ツールなりを通じてミーティングに参加させることである。

このようなコミュニケーション設計では、会議室にいるメンバーたちにミーティングが支配され、リモートのメンバーたちは対話の内容についていけなくなったり、自分の意見を発言・表現するのが困難になったりする。最悪の場合、リモートにいるメンバーが疎外感を抱いてしまうリスクもある。

失敗回避のアイデア1
上のような失敗を回避するリスクマネジメントの方策は、チーム内での情報やアイデアの共有を常にリアルタイムに行おうとせず、非同期型のコミュニケーションを情報・アイデア共有の標準の手段として採用することである。例えば、アトラシアンのデジタルワークスペース「Confluence」を使えば、チームでの非同期コミュニケーション(あるいはコラボレーション)を通じて、互いにアイデアを共有し、熟考し、改善していく機会がメンバーの全員に均等に与えられる。

失敗の道筋 2:働く場所に柔軟性を持たせる一方で、就業時間を固定的にしてしまう

ハイブリッドワークの採用により、働く場所が自由に選べるようになったとしても、仕事とプライベートのスケジューリングが魔法のように簡単になるわけではない。

例えば、年配の親を自宅で介護しながら、子どもたちの面倒を見ている人は、親のための食事を用意しながら、子どもたちの学校への送り迎えをしなければならない。同様にメンタルヘルスや慢性的な身体的問題に苦しんでいる人たちも、定期的なヘルスケアのサービスを受け続ける必要がある。さらに、コロナ禍によるリモートワーク中に犬を飼い始めた人たち(特に一人暮らしの人たち)は、自ら“パンデミックパピー(パンデミックの子犬)問題”の加害者にならぬよう、コロナ後も散歩などの犬の世話をしっかりとこなしていくことが必要である。

こうした人たちにとって、通勤して「9時5時」のタイムフレームの中で働くこと自体が困難であり、リモートワークの制度は元来、こうした人たちに会社のチームの一員として機能してもらうためのものでもある。とはいえ、リモートワークを許可するだけですべての問題が解決されるわけではない。実際、2020年6月にアトラシアンが、リモートワーク中の5,000人のナレッジワーカーを対象に行った調査の結果*6を見ても、自宅介護を行っている人の多くが、仕事と介護の双方に完璧さを追い求めようとすると、双方がガタガタになると指摘していたのである。

失敗回避のアイデア2
この失敗を引き起こさないようにするリスクマネジメントの方策は、働く場所のみならず、働く時間帯にも柔軟性を持たせることだ。そもそも、コロナ終息後もリモートワークを選択する就業者の中には「9時5時」などの固定的なタイムフレームの中で仕事をするのが困難な人たちが多くいるはずである。したがって、ハイブリッドワークを採用しながら、就業時間を固定的にしてしまうのは、働き方改革の方向性としてナンセンスと言わざるをえない。

もちろん、就業時間に柔軟性を持たせることで、チーム全体の仕事のスケジューリングはマネージしにくくなる。そこで、チーム全体の仕事の進捗・遂行を最終確認するための“アンカーポイント”を設定して、ミーティングなどの同期的なコミュニケーションをとるようにする。そのうえで、チームのメンバー各人の自由裁量で働く時間とスケジューリングが行えるようにすることが大切となる。

ちなみに、アトラシアンの場合、チームのメンバーが互いの仕事の進捗や成果を確認するためのアンカーポイントを特定の就業日に設定し、そこで4時間のオーバーラップミーティングを行っている。

失敗の道筋 3:個人の要望だけですべてを決めてしまう

働く場所としてどこを選ぶかの判断は、就業者各人の好みや性格、事情と密接にリンクしている。例えば、オフィスワークを選択する人は「自宅では気が散る」「1人で仕事をするのは寂しい」「キッチンのテーブルに設(しつら)えた仕事場がお粗末すぎる」といった事情を抱えているかもしれない。反対に「自宅のほうが集中できる」「とにかく通勤したくない」といった理由から、リモートワークの継続を希望する向きもいるはずである。

ハイブリッドワークは、こうした個々人の事情・ニーズを柔軟に吸収できるというメリットがある。ただし、個人の要求を満たすことだけを優先させてメンバーの働く時間・場所を決めるのでは、チームとしてのパフォーマンスに悪い影響を及ぼす可能性がある。

失敗回避のアイデア3
ハイブリットワークでは働く場所を選ぶ理由がチームのメンバー各人で異なってくる。したがって、メンバーの働く場所、あるいは働き方についてチーム内で十分に協議しながら、それぞれが当該の働く場所を選択した理由についての相互理解を深め、メンバー同士がわだかまりなくサポートし合えるようにすることが大切である。

失敗の道筋 4:人間関係の構築を軽視する

企業のチームには陣容の変更がつきものであり、メンバーの構成が1年前とは大きく違っていることがよくある。また昨今は、オフィスへの出勤経験をほとんど持たない人や同僚と直接会った経験のない新人がチームのメンバーであることも多い。ゆえに、チーム内での人間関係の構築に力を注がないと、チームの共同作業は無味乾燥な流れ作業的になり、チームの士気と生産性の低下へとつながっていくことになる。

失敗回避のアイデア4
リモートワーク一辺倒からハイブリッドワークへと切り替わり、オフィスワークが再開されたからといって、チームにおける人間関係がコロナ以前の状態に自動的に戻るわけではない。ゆえに、一から人間関係を再構築することが大切となる。例えば、チームの全員がオフィスに集まる日を選び、ディナーやアクティビティなどを催すのも良いかもしれない。

失敗の道筋 5:既存のプラクティスが新しい環境でも有効であると思い込む

アトラシアンには、リモートワークに関して失敗事例が1つある。それは、コロナ禍対策としてリモートワーク中心の働き方へと切り替えたとき、オフィススペースで行っていたチームの慣行が、リモートワーク体制下でも同じように有効であると想定してしまったことだ。これと同様に、チームの全員がリモートで働いていたときの慣行を、そのままハイブリッドワークに適用してもうまく機能しない可能性が大きい。

失敗回避のアイデア5
チームにおけるミーティング、ワークフロー、メンバー各人の責任の持ち方、作業の進捗確認、働きぶりの点検、評価のあり方など、すべてについてハイブリッドワークに適合するように調整することが大切である。調整ののちには定期的に問題点を洗い出し、継続的に最適化を図っていくことも忘れないでいただきたい。

失敗の道筋 6:2重構造のパフォーマンス評価を行ってしまう

従業員に対する伝統的な業績評価は、「成果」と目視で確認される「働きぶり」をベースにしていた。こうした2重構造の評価をハイブリッドワークのチームに持ち込むのは不公平を生む原因となる。

例えば、チームの一人(仮にメンバーAと呼ぶ)は、リーダーとともにオフィスで働いており、その真面目な働きぶりによって献身的な従業員としての印象をリーダーに与えることができるとしよう。それに対して、もう一人のメンバー(メンバーB)は、リモートワークを中心にした働き方を選択しており、リーダーは日々の働きぶりを目視で確認することがほとんどできないとする。そのような状況において、2重構造の評価スキームでメンバーAとメンバーBの業績評価を行った場合、たとえ2人の成果が同レベルであっても、メンバーAの評価のほうが高くなるのが通常である。というのも、人は目視で確認できるものを好む認知バイアスを持っているからである。

コロナ禍の下でチーム全員がリモートで働いているときには、2重構造の評価スキーム自体が機能せず、上述した認知バイアスが評価に影響を与えるようなことはなかったはずである。しかし、ハイブリッドワークの体制下では、認知バイアスによって不公平な評価が行われてしまうおそれが強まるのである。

失敗回避のアイデア6
ハイブリッドワークを推進するなかで、上述したような評価の不公平を生まないようにするリスクマネジメントの方策は、純粋な成果だけを評価指標とすることである。要するに、成果に至るまでの個々人の努力については考慮せず、「会社の大目標の達成にどの程度貢献したのか」「会社のコアバリューに則った行動によって、チームをどの程度効果的にしたのか」といった成果だけを根拠に個々人の業績を評価するということだ。そうすることで、チームのメンバーがどこで、いつ働いているかとは関係なく、公平・公正な評価を下すことが可能になる。

失敗の道筋 7:片方向のコミュニケーションで満足してしまう

コロナ禍によるリモートワーク体制が長期化するなかで、企業の経営幹部がメールやチャット、ビデオ会議を通じて自分の状況や会社の状況、さらにはメッセージをブロードキャストするスタイルが世界的に定着した。こうした片方向型のコミュニケーションで犯しやすい間違いは、自分の送ったメッセージが相手にアクセスされたかどうかだけを計測の対象とすることである。

そもそもコミュニケーションにおける大切なポイントは、自分のメッセージが相手にしっかりと伝わったかどうか、あるいは、相手が自分の話を理解したかどうかである。それを確認せずにメールやチャットメッセージ、ビデオメッセージへのアクセス数だけをカウントしても、ほとんど意味を成さないのである。

失敗回避のアイデア7
従業員に対して同報でメッセージを送るにしても、それを一方通行のコミュニケーションで終わらせないようにすることが大切である。すなわち、従業員にメッセージを送ったのちには、望んだ効果がしっかりと発揮されているかどうかを確認する必要があるということだ。それを確認するために全従業員対象のアンケート調査を行うのは一手だが、そこまでの手間をかける必要は実のところない、時宜に応じて、数名をランダムで選び、スポットでチェックを行うだけで十分と言える。

少しの謙虚さとチャレンジ精神

ハイブリッドワークの失敗を回避するうえではもう一つ大切なことがある。それはリーダーの謙虚さだ。

コロナ禍という未曾有のパンデミックをきっかけに、人々の暮らし方や働き方は大きく変化し、テクノロジーへの依存度が急激に高まった。そのテクノロジーの発達により、世の中が変化するスピードは猛烈に速くなっている。しかも現代は、あらゆる物事の不確実性が高まっており、社会や経済に大きなインパクトを及ぼす不測の事態がいつ起きても不思議はない状況が続いている。

にもかかわらず、チーム・組織のリーダーが、あたかも自分は将来を予測できるような不遜な態度で行動すれば、メンバーからの信頼は得られず、ハイブリッドワークは間違いなく失敗に終わる。実際、現代のリーダーに必要とされているのはメンバーの共感を得る力であり、失敗をおそれない勇気である。したがって、例えば、何らかのアイデアをチームに推進させたいと感じたときには率先して手を挙げて、こう発言するのが適切と言える。

「私には未来は予測できない。しかし、このアイデアは試してみる見るべきだと思う。私と一緒にこのアイデアを実践し、何が機能して、何が機能していないかを互いにオープンにしながら前に進めてくれないだろうか」

こうした発言はリスキーなものである。ただし、チームが予測しうる直近の未来を生き抜くうえでは必要不可欠なものと言える。

働く場所の調整によって、テクノロジーとプラクティス、人との強固なつながりを築くことができる。古い手法の反復はそうしたつながりを断ち切るものではないが、私たちが必要としているのは、労働を再構想することだ。そでによって私たちがどこに到達できるかはわからない。わかっているのは、それが重要であるということである。

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