なお、本調査では調査の設計と調査結果のレビューについて、チーム開発のプロフェッショナルであり、株式会社環(KAN)のCHO(チーフハピネスオフィサー)でもある椎野磨美氏に監修いただいている。調査結果に対する椎野氏のコメントも併せて紹介する。
働く幸せの源泉は「待遇」ではなく「仕事内容への満足度」
今回の調査は、『ITmediaビジネスオンライン』の協力により、同メディアの読者を対象にオンラインアンケート形式で実施した。実施期間は2021年3月から4月にかけての約3週間。361件の有効回答を得ている(回答者属性については稿末にまとめて記す)。
今回の調査でまず明らかにしたかったのは、調査対象者がいまの職場で働くことに幸せを感じているかどうかだ。その結果は図1に示すとおりである。
見てのとおり、回答者のおよそ7割(69.3%)が働くことに幸せを感じている。長引くコロナ禍の影響から、多くの企業が業績の悪化や働き方の大きな変更を余儀なくされた。その中で、働くことに幸せを感じている就業者が全体の約7割もいることに「多すぎではないか?」と思う人がいるかもしれない。ただし、次に示す「働くことに幸せを感じる理由」についての調査結果をご覧いただければ、上の結果に対する相応の納得感が得られるかもしれない。
図2にあるとおり、就業者(図1で「はい」と答えた回答者)の7割強(72.8%)が、働くことに幸せを感じる理由として「携わっている業務に満足」と答え、その回答比率は「給与・福利厚生が充実」(18.4%)よりも圧倒的に高くなっている。また「所属チームの人間関係が良い」という点も、多くの回答者(全体の42.8%)の働く幸せに直結しているようだ。
ここからわかることは「仕事内容に対する満足度」と「人間関係」が、給与や福利厚生といった「待遇」よりも、就業者の幸せに圧倒的に大きな影響を及ぼしているということだ。言い換えれば、仮に、コロナ禍によって企業の業績がダウンして給与のベースアップに負のインパクトがあっても、あるいは、自分の希望とは異なる働き方を余儀なくされても、自分の仕事内容に満足してやりがいを強く感じていたり、職場の人間関係がきわめて良好であったりすれば、働く幸福感は維持できる可能性があるということである。
逆に会社の知名度や規模などは働き手の幸福感とはそれほど関係がないようだ。特に企業規模については、規模の小さい企業で働く就業者のほうが、規模の大きな企業で働く就業者よりも働く幸せを感じている比率が高いという傾向も見られている(図3)。しかも、従業員数1,000名以上の企業で働く回答者になると、働くことに楽しさや幸せを感じていると答えた向きは全体の63.5%でしかなかったのである。
なお、本サイト『チームの教科書』の別コラム『不確実な時代に本当に必要なデータ活用は、「社員の幸福度の可視化と改善」にあり』によると、社内における地位・給与のアップといった待遇面での向上よりも、仕事に対して前向きでいられるかどうかのうほうが人の幸せに及ぼす影響は大きく、そのことは科学的にも証明されているという。また、仕事に前向きでいられるかどうかは、職場での人間関係の良否が大きく作用し、人間関係の悪さは人が職場を辞する大きな要因の1つであると椎野磨美氏も指摘していた(*1)。今回の結果は、そうしたことを裏づけるデータと言えるかもしれない。
ITツールの働く幸せへの貢献度
では次に、今回の調査のテーマであるITツールの働く幸せへの貢献度について見ていきたい。
前出の図2を見ると、回答者の16.0%が「IT環境が充実」していることを「(いまの職場で)働くことに幸せを感じる理由」として挙げていた。16.0%という選択率はそれほど高くないと言えるが、それでも「所属企業の知名度が高い」(選択率10.4%)という理由よりも上位にあることは興味深いポイントである。つまり、有名企業で働くことよりも、IT環境が充実している職場のほうが幸せになりやすいということである。
「ITは今日の仕事に不可欠な道具です。働く人にとってIT環境が充実しているに越したことはありません。有名企業で働いていても、仕事用として会社から提供されるIT環境が時代遅れのものであれば、ストレスがたまったり、働く意欲が下がったりします。場合によっては『デジタルの時代に、このような旧式のIT環境を従業員に使わせている会社は大丈夫なのだろうか?』と疑いたくなる可能性もあります。そう考えると、企業の知名度よりもIT環境の充実度のほうが、働く人の幸せにとっては大切と言えそうです」(椎野氏)。
では、ITツールはどの程度就業者の働く幸せ(あるいは幸福度のアップ)に貢献しているのだろうか。それを調べた結果が図4である。
見てのとおり、職場で働くことに幸せを感じている回答者の9割近く(87.6%)が、自身の幸福感の醸成にITツールが一定の貢献をしていることを認めている。
クラウドストレージ、タスク管理ツールは使ったほうがより幸せに
上記のようにITツールは、働き手の幸福感の醸成に一定の貢献をしているようだ。そこで気になるのが、今回の回答者がどのようなITツールを使用しているかである。それをまとめたのが図5だ。この図では、働くことに幸せを感じている回答者(n=250)と、そうではない回答者(n=111)の主要なITツールの使用率を示してある。
ご覧のとおり、主要なITツールの使用率について、働くことに幸せを感じている回答者と感じていない回答者との間にそれほどの違いは見られていない。ただし、クラウドストレージとタスク管理ツールについては、働くことに幸せを感じている回答者の使用率のほうが、幸せを感じていない回答者のそれよりもかなり高い。この結果からは、この2つのツールを活用したほうが幸せになれる可能性が大きいという仮説が成り立つ。
残念ながら、今回の調査ではツール単位の幸せへの貢献度を尋ねていない。そのため、上の仮説を正確に検証することはできない。ただし、これらのツールを使用している/していないによって「ITツールの働く幸せへの貢献を認めている回答者」の比率に大きな差が出ている(図6、図7)。
この結果は、クラウドストレージやタスク管理ツールを使用したほうが働く幸福度がアップする可能性が高いことを示唆するものと言える。