なお、本調査では調査の設計と調査結果のレビューについて、チーム開発のプロフェッショナルであり、株式会社環(KAN)のCHO(チーフハピネスオフィサー)でもある椎野磨美氏に監修いただいている。調査結果に対する椎野氏のコメントも併せて紹介する。
チャットツールを正しく使えば働く幸福度は一層アップ
もう一つ、前出の図5に示した結果で気になる点がチャットツールの使用率がそれほど高くない点だ。ご承知のとおり、コロナ禍を境にしたリモートワークの活性化によって、ビデオ会議とチャットの各ツールの普及が急速に進んだとされている。このうち、ビデオ会議ツールについては、今回の調査でも回答者のおよそ9割が使用していることが確認できたが、チャットツールの使用率は7割程度である(前出の図5参照)。この結果によって、チャットツールはチーム・組織内のコミュニケーション手段として、メールやビデオ会議ほどの市民権をまだ得ていないことがわかる。
とはいえ、チャットツールは就労者の働く幸せには相応の貢献をしているようだ。図8は、図6・7と同じ集計をチャットツールに関して行った結果である。
この結果は、前述したクラウドストレージやタスク管理ツールの場合と同様に、チャットツールを使用したほうが働く幸福度がアップする可能性が高いことを示唆している。
その点を踏まえながら、椎野氏はチャットツールについて「ツールの特性を理解し、組織やチームで『グランドルール』を決めておくことで、コミュニケーションの効率化や生産性、そして働く幸福度のアップに確実に貢献できる」と指摘し、次のように使い方を指南してくれた。
「チャットのコミュニケーショントラブルの原因の1つに、チャットでの対話は電話のように即時的でなければならないという思い込みがあります。
その思い込みがあると『チャットでメッセージを送りたいものの、それによって相手に迷惑がかかるのではないか』『チャットでメッセージを送ったのに、すぐに返事が来ない。自分は相手に軽んじられているのではないか』といった不安や考えが頭をもたげてきます。
相手がオンラインの状況であっても、必ずしも、すぐにレス(応答)できる状態とは限りません。大切なのは『メッセージに対するレスを急いで欲しい場合は、いつまでにレスが欲しいかを必ず明記する』『自分が即時的な対話(チャット)に対応可能なときには、それを明示する』といったグランドルールを策定してチーム内で順守することと、チャットに即時性を求め過ぎないことです。それがチャットツールを有効活用するうえでのカギと言えます。
また、メールほどかしこまった書き方ではなく、カジュアルなコミュニケーションで『OK』とする組織文化を醸成することも重要なカギになります。例えば、リアクション機能があるチャットツールであれば、チャットの投稿に『いいね』マークを付けたら、それは『承認(了承)した』というグランドルールを決めておけば、『承知しました』と書く必要はなくなります。
弊社では、業務指示を読んだら『いいね』マーク、業務が完了したら『すてき(ハート)』マークに変えるというルールにしています。こうすることで、チャットのスレッドに『承知しました』『完了しました』といったコメントが続いてしまうことを防ぐことができます。また、リアクション数やリアクションしたメンバーの確認が容易におこなえるので、効率よく、業務の進捗を確認することができます。」
ITツールを気に入る理由
今回の調査では、回答者に「最も気に入っているITツールは何か」も訪ねている。回答の形式は自由筆記で、最も気に入っているITツールを1つだけ挙げてもらった。結果としては、回答者各人が各様のITツールを挙げ、その種類は数十種に及んだ。これを言い換えれば、回答者の多くが、自分の仕事を効率化する“こだわりのITツール”を有しているということである。
また今回は、最も気に入っているITツールについて「なぜそれがお気に入りなのか」の理由も聞いている。その集計結果が図9である。
図9を見てのとおり「使いやすさ」「機能(が豊富/秀逸)」「コストパフォーマンス」「デザイン/ユーザーインタフェース(UI)」が、お気に入りの理由の上位を占めている。
使いやすさや機能、コストパフォーマンス、デザイン/UIの優秀性は、優れたITツールの要件と言えるが、これらの要件をすべて満たし、お気に入りのITツールとして今回挙げられたツールは「Microsoft Excel」のみとなる。
ただし、回答者がお気に入りのITツールを「使いやすさと機能」「コストパフォーマンス」「デザイン/UI」で分けてとらえると、さまざまなITツールが名を連ねる。参考までにそれらを列記しておきたい。
■「使いやすさと機能」で人気(順不同)
Microsoft Excel、Microsoft OneNote、Microsoft Teams、Microsoft Visual Studio、VBA、Parallels Desktop、Evernote、Tableau、Adobe Creative Cloud、Knowledge Suite、秀丸、Python、Redmine、Chrome、Google Calendar、Webex、Eclipse、Notion、Google Apps、Trello
■「コストパフォーマンス」で人気(順不同)
Microsoft Teams、Microsoft Excel、Microsoft Access、Microsoft OneNote、Microsoft Expression Web 4、Parallels Desktop、Google Classroom、Kintone、RECEPTIONIST、StiLL、Desknet's NEO、PyScripter、秀丸、FileMaker Pro、Sparkle、UiPath、Redmine、HCL Notes/Domino、Google Script、Google Calendar、MAMP、Zoom、Eclipse、Adobe Illustrator、dBASE、Google Apps、Splashtop
■「デザイン/UI」で人気(順不同)
Microsoft Excel、VBA、Microsfot Expression Web 4、Evernote、HCL Notes/Domino、Firefox、Desknet's NEO、PyScripter、Anaconda3、Sparkle、Garoon、oVice、Asana、Slack、Chatwork、Trello、Confluence
一方、上述した使いやすさや機能、コストパフォーマンス、デザイン/UIについては、ITツール間の激しい競争の中で優秀性が変動し、ユーザーによるお気に入りの序列が変化する可能性がある。それに対して「設計思想に共感」「開発元が好き」といった理由でITツールを気に入った場合、ユーザーのお気に入りはなかなか変化しない可能性が大きくなると言える。その観点から今回の回答者が最もお気に入りのITツールとして挙げたプロダクトも列挙しておきたい。
■「設計思想に共感」で人気(順不同)
Parallels Desktop、Microsoft Excel、Microsoft Teams、RECEPTIONIST、Sparkle、UiPath、Python、Kintone、MAMP、Firefox、Confluence
■「開発元が好き」で人気(順不同)
Garoon、delphij、Microsoft Excel、RECEPTIONIST、Garoon、Sparkle、resharpe、Microsoft Teams、Asana、Microsoft Visual Studio
以上、今回の調査についてエッセンスを報告した。その調査結果を見るかぎり、ITツールは就業者の働く幸せの醸成に相応の影響を与えており、その良否によって働き手の幸福度が上下する可能性が大きくあると言えそうだ。ゆえにチーム・組織のリーダーは、チーム・組織にとって最適なIT環境を整えることに力を注ぐことが重要であり、それがチームの幸福度を上げ、ひいてはチーム・組織のパフォーマンスを上げることにつながるのではないだろうか。少なくとも、チームのメンバーから「このITツールは使い難いです」といった不満の声が上がった際には、それに真剣に耳を傾けて解決策を検討することが不可欠と言える。
参考データ:回答者の属性
本調査に協力してくれた回答者の属性は以下のとおりである。