アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。コーチングの専門家であるパトリシア・オモクイが、チームでの心理的安全性を確保するための術について説く。

部下たちの沈黙をどう打ち破るか

「みんなの率直な意見を聞きたいのだが」──。
このようにチームのメンバーにフィードバックを求めたとき、あなたのチームのメンバーはどのような反応を示すだろうか。あなたの批判につながるような意見でも、正直に、率先して話そうとするだろうか。

おそらく多くのチームリーダーが、自分の判断や決定に対するフィードバックをメンバーたちに求めた際に、メンバーたちの「沈黙」に直面しているはずである。そのようなとき、最悪の行動は、自分の意見を口にしない部下たちに怒りをぶつけてしまうことだ。この行動は問題の解決につながらないばかりか、状況を悪化させ、のちにメンバーたちにフィードバックを求めても、押し黙り、何も語ろうとしなくなる。

私は、チーム開発のスペシャリストとしてキャリアを積む中で、幾度となく上のような最悪の状態に陥っているチームを目の当たりにしてきた。そうしたチームに共通して見られる特性が「心理的安全性」の欠如である。言うまでもなく、心理的な安全性が確保されていないチーム・組織ではリーダー(ないしは上司)に対して、メンバー(ないしは部下)たちは、自分の意見を自由に発言することはできないし、しようともしないのである。

職場に潜在する恐怖とは

日々の仕事をこなす中で、人は不安や恐れを感じるのが通常だ。実際、私がこれまでコーチングしたチーム(特に、柔軟性に欠けると思えたチーム)のメンバーから収集した話を総合すると、彼らの多くが以下のような恐怖心・不安を抱いていた。

  • 上司が不快に感じる意見を具申すると、のちの仕返しが恐い。
  • 自分の日々の努力や働きぶりは周囲から評価されているし、自分自身でも評価に値する努力・働きはしていると自負しているが、自分の本音を言うことでチームに波風は立たせたくない。
  • 上司の不興をかう意見を言うと、昇進の道が閉ざされたり、レイオフの対象リストに入れられるのではないか心配である。
  • 言いづらい内容をどう伝えるべきか、またそうしたを発しようとしていることで批判されるのではないかと苦慮している。
  • とにかく、チームメイトや上司から嫌われたり、仲間外れにされるのではないか心配である。

このようなメンバーの恐怖心や不安を解消し、心理的安全性が確保された健全なチーム・組織を築くうえでは、チーム・組織のリーダー層・マネジメント層が神経科学に対する理解を深めることが大切である。

例えば、脳科学を応用したリーダーシップ開発の研究機関でコンサルティングファームの米国Neuroleadership InstituteのCEO、デイビット・ロック(David Rock)博士が作成した「SCARF モデル」は、チーム内になぜ不安や恐怖を引き起こす関係が生まれるかの洞察を得るうえで有効だ。「SCARF」は「Status(状態)」「Certainty(確かさ)」「Autonomy(自律性)」「Relatedness(関係性)」「Fairness(公平性)」の頭文字から成る言葉で、これらは、脳内で「恐怖」「報酬」の両反応を引き起こす可能性のある5つの要素を表している。それぞれの要点は下記のとおりだ。

  • Status:グループ(チーム・組織)内における自分の状態に対する自己認識を指す。自分の所属グループにおいて、自分が尊重され、重要であると見なされていると感じているかどうかで自己評価できる。
  • Certainty:自分の未来を予測できるようにしたいという脳の欲求を指す。この欲求がどの程度の満たされているかは、グループにおいて自分の身に次に何が起こるかを予測できているかどうかで判定できる。
  • Autonomy:生活や仕事がどの程度まで自分でコントロールできていると感じているかを表す。生活や仕事において自分で何をコントロールできるかを明らかにすることで自己評価できる。
  • Relatedness:他者との関係において、どの程度の安心感、信頼感を抱いているかを表す。自分の所属するグループ、ないしはコミュニティに属していることに、どの程度の心地良さを感じているか、あるいは、自分は自分の周囲にどの程度支えられているかを分析することで自己評価できる。
  • Fairness:自分の置かれた状況に公平性と正義を求める人の欲求を指す。自分は周囲から公平に扱われていると感じているかどうかで自己評価できる。

チーム・組織のメンバーについて、上記5つの要素がすべて良好な状態にあれば、メンバー各人の脳は報酬反応を引き起こし、心理的に安心した状態が保てることになる。言い換えれば、チーム・組織の心理的な安全性が確保されるというわけだ。

逆に、上記5つの要素の状態が悪く、脳が恐怖を感じると、感情の中枢である扁桃体が身体を支配してしまう。結果として、心臓の鼓動が速くなり、手のひらに汗をかき始め、逃避の衝動にかられる。論理的な思考を司る脳の機能はダウンし、感情的な脳だけが働き続ける。チーム・組織のメンバーの脳がこのような状態に陥ると、イノベーションや変革を引き起こしたり、生産性を高めたりするチーム・組織の能力は大幅に低下することになる。

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