本書の主張をビジネスに当てはると……

おそらく、医療、経済、司法の権威者のみならず、有能で豊富な経験と相応の成功体験を持つビジネスリーダーが、自分の専門領域に関する他者の意見を聞き入れようとしなかったり、自分の判断ミスを認めようとせず、なぜ、そのようなミスをしてしまったのかを追求しようとしなかったりするのはよくあることと言える。本書の記述に従うと、そうしたリーダーは自らの成長と発展を止めてしまった人であり、そのような人が組織を率いて支配力を振るうと、組織の成長・発展が止まるおそれが強まることになる。

実際、例えば、自分の判断と能力に自信を持つリーダーは、自分の考えにそぐわない部下の判断や試みをなかなか認めようとせず、自分の判断に従わせようとすることが多い。こうしたリーダーの行動によって部下は無難な成果を上げられるかもしれない。ただし、失敗して学び、成長する機会が奪われる。また、部下の判断のほうがより良い成果につながった可能性もあるが、自分が正しいと信じるリーダーは、その検証を行うこともしないはずである。このようなことでは、組織がリーダーの能力を超えて大きく成長・発展を遂げることは難しくなる。

さらに、特定領域に関する優秀な専門家は、現実世界の複雑性を軽視しがちで、失敗しない完璧なモノを生み出そうとする傾向にあると本書は指摘する。そのため、専門家たちが生むモノは、長い時間をかけたわりに役に立たないケースが多く、専門外の人たちが短サイクルで実験・失敗・改善を繰り返したほうが、より早く目的のモノを生み出せる可能性が大きいという。これは要するに、何か新しいことを始める際には、とにかくすばやくかたちあるモノを実世界(あるいは市場)に投入し、失敗して学び、改善を繰り返すことが大切であり、それが目的の成果を手にする早道でもあるということである。

日本は失敗をおそれる国のナンバーワン!?

本書によれば、国の中には失敗を「不名誉」と見なし、ビジネスで失敗することを極度におそれたり、ビジネス上の失敗に不寛容であったりするところがあり、その筆頭が日本であるらしい。ゆえに、日本ではベンチャーが育まれず、それが長期にわたる日本の経済停滞を招いた一因であると本書は説く。日本におけるベンチャー投資の消極性を裏づけるデータは本書で多く引用されているが、2014年におけるある調査では、企業の失敗する恐怖心の強さは調査対象70か国中、日本がナンバーワンであったようだ。

ちなみに、本書によれば、知性・才能を固定的と見なす「固定型マインドセット」を持つ人は、学習に消極的で失敗をおそれる傾向があり、それに対して、知性・才能は努力・学習によって伸びると考える「成長型マインドセット」の人は、失敗をおそれずに学習する意欲が高く、また、成長型マインドを持つ組織はリスクを冒すことを純粋に奨励して創造力が歓迎され、失敗が非難されたりしないという。とすると、日本の企業は成長型マインドセットが世界の中で最も不足している組織ということにもなる。

そうした組織に向けて、本書は、失敗に対する安易な非難を止めて失敗の報告を促すオープンな文化を構築することを勧めつつ、哲学者カール・ポパー氏の次の言葉を紹介する。

真の無知とは知識の欠如ではない。学習の拒絶である

いかがだろうか。おそらく多くの人がこの言葉に共感でき、自分と自分の組織はどうなのかと思いを巡らすに違いない。仮にあなたもそうであれば、本書に目を通して本書に登場する人・組織の事例やメカニズムを参考にしながら、自分と自分の組織の失敗との向き合い方を見直してみてはいかがだろうか。

著者:マシュー・サイド、有枝 春 (翻訳)
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
出版年月日:2016/12/23

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