アトラシアンには、働き方改革のエキスパートが多くいる。その一人が、ワーク フューチャリストのドム・プライス(Dom Price)だ。彼は企業組織のリーダーに向けて、変革のためのメッセージをコラム形式で発信し続けている。この連載では、そのエッセンスをお伝えしていく。

人生最悪のとき

2020年は私にとってまさしく人生最悪の1年だった。新型コロナウイルス感染症の流行だけが理由ではない。この年、親友でもある姉をがんで失った。加えて、自分自身も初期の腸がんを患っていることが判明し、早急なる手術が必須との宣告を医師から受けた。

この最悪のときは、「人の幸福とは何から生まれるのか」を改めて考えさせる機会を私に与えた。「このようなつらい時期に、幸せを取り戻すにはどうすればよいのか。そもそも人の幸せの源はどこにあるのか」──。そんなふうに考え込むことが多くなった。

結果として、人の幸せの源に対する私の理解は確実に深まったと言い切れる。おそらく、その理解は読者諸氏にとっても有益な情報になりうると確信している。

仕事は幸せのカギではない

ブロニー・ウェア(Bronnie Ware)氏の有名な著書『The Top Five Regrets of the Dying/邦題:死ぬ瞬間の5つの後悔』(邦訳版出版:新潮社)では、後悔トップ5の2番目に、オフィスで多くの時間を過ごしたことが挙げられている。

しかし、この後悔は今日の私たちには当てはまらないかもしれない。

コロナ禍の影響もあり、多くのビジネスパーソンが自宅で仕事をこなすようになり、家族との生活を以前にも増して重視するようになった。そして、友人・家族とのつながりを強めたり、遺産を残したりすることが、自分の幸せにつながるという原理を、相当数の方がすでに理解しているはずである。

ところが、そうしたいまの生活が、自分の生きたい生き方であると、心の底から言い切れる人は少ないのが現実である。理由の一つは仕事への不満があるためだ。

例えば、今日の仕事は300年前の産業革命に端を発している。300年前の産業革命期は、私たち労働者が機械、ないしはロボットとして扱われていた時代である。私たちは生産ラインを構成する歯車として作業をこなし、決められた時間の中でいかに多くの作業をこなすかで能力が計測されていた。そして、私たち労働者は、組織の上司や経営者をより豊かにするために存在していた。

それから300年の歳月が流れたいま、「成功」「経済成長」「生産性」といった指標はほとんど機能しなくなっている。私たち労働者の生産性の伸びも停滞し、ある調査によれば、労働者の労働時間が短いことで有名(「悪名が高い」と言ったほうが適切かもしれない)オーストラリアにおいても、仕事のやり方に自由を感じている労働者は全体の10%にも満たないのが現実である。また、自社の成功・成長に自発的に貢献している──つまり、自社にエンゲージされている労働者も全体の20%程度でしかないという。

要するに、私たち労働者の大多数は、いまの仕事に満足していないというわけだ。ゆえに、生産性をどう高めるつもりかと尋ねられても、まともな答えが返せずにいるのである。

加えて奇妙なデータもある。コロナ禍というパンデミックの時期は、労働者の「メンタルヘルス」や「ウェルネス」が重視されるはずだが、コロナ禍が世界的に深刻化した2020年3月以降、生産性の追求を理由に労働者の平均労働時間が1日平均40分も伸びていることが調査によって判明したのである。

家にいる時間は長くなり、人生の時間は短くなる

仕事は、私たち労働者の生活の一部であり、活動時間の3分の1を費やしているものである。ところが、2020年にアトラシアンが実施した調査では、オーストラリア、米国、日本、フランス、ドイツの5,000人の労働者が、リモートワーク(テレワーク)への移行で通勤が不要になったにもかかわらず、自分の仕事について「可もなく不可もない」と感じていることがわかった。しかも、調査回答者の半数近くが、個人的な目的のために使う時間が少なくなったとしていた。言い換えれば、通勤時間がなくなっても、幸せの源泉と言えるワークライフバランスは一向に改善されておらず、逆に悪化していた可能性もあったということである。

この結果を見て、私は、生産性を絶え間なく追求した結果、企業も、私を含むすべての労働者も、本当に重要なことを見失っていたのではないかと考えた。実際、私自身もかつて、仕事でうまくいかないことすべてに夢中になり、それらが自分にはコントロールできないと認めることができなかったのである。

2020年3月以降、私は5kgほど体重が増えた。以前よりも酒量が増え、睡眠時間が短くなったせいである。そうなった要因が、コロナ禍のせいなのか、それとも私個人が不幸なせいなのかは分からない。ただし、自分が幸せではないのは確かであり、なぜそうなのかを調べるために、自分が不幸だと感じる部分、あるいは無力だと感じる部分を書き出していた。その中で、不幸な部分や無力を感じる部分をすべて特定するよりも、幸せになるために行動することのほうが大切であるとの考えに至った。

そこで私が用いた手法が、「Personal Moral Inventory™」という指標によって自己を評価し、自分の幸せに向けた行動をとることだった。

This article is a sponsored article by
''.