地球の裏側で面接を終え、自宅から7,500マイル離れた場所で働く
ティナ・ルオ(Tina Luo)は新しい職場から7,500マイル離れた場所で入社のための面接プロセスを始動させ、1カ月後、地球の反対側にある都市でそのプロセスを終えた。入社した会社はアトラシアン。ソフトウェア開発者として採用された。採用以降、彼女はアトラシアンでともに働くチームメイトと一度も直(じか)に会っていない。
「私がアトラシアンに採用されたのは2020年8月のこと。仕事を引き受けるために米国ロサンゼルスから(アトラシアン本社のある)オーストラリアのシドニーに引っ越しましたが、パンデミックの影響で職場への出社はまだ一度もしていません。リモートで面接を行い、入社後のオリエンテーションもリモートで行われ、リモートで開発チームのメンバーとして働き始めました。オンボーティングのすべてのプロセスがリモートで行われたかたちです」
ティナの言う「オンボーディング」とは、会社を船(ないしは飛行機)に例えた表現で、入社し、その職場で働き始めることを「オンボーディング(乗船、ないしは搭乗)」という。アトラシアンではコロナ禍が深刻化し始めた2020年3月上旬から世界の全社員を対象に在宅勤務の体制を敷き、以降に入社した社員は全員がティナと同じ“リモート・オンボーディング”のプロセスを経験している。それを経験した社員数は、昨年秋の時点で、すでに全社員(約5,000人)の25%に当たる1,200人を超えている。
ゆえにアトラシアンにおいて、ティナは特別な存在ではない。とはいえ、アトラシアンで働き始めた当初、彼女は相当戸惑ったようだ。「何しろ学ぶべき情報が多く、『先輩の同僚が物理的に近くにいないと、大変なことになりそうだ』というのが正直な感想でした」とティナは明かす。
ただし、そうした戸惑いや不安は、チームのマネージャーの支援ですぐに解消されたという。
「マネージャーの計らいで、チームの全員と1対1のプライべートなZoomチャットが行えましたし、オンラインの“バディシステム”もあり、わからないことがあれば、すぐに自分のバディ(新人に対するコーチ役を務めるスタッフ)に確認できました。バディの支援によって、仕事を始めてから最初の2~3週間で相当の知識が獲得できたと思います」(ティナ)。
入社日前から関係構築を開始する
ティナのチームのマネージャーであるキー・ファム(Ky Pham)は、アトラシアンに6年近く在籍しているベテランであり、オンボーディングを成功させるために何が必要かをよく知る人物でもある。
「オンボーディングを成功させる秘訣は準備と計画の2点に集約できますが、それはリモートであっても同様です。たとえば、私はいま、積極的に『プレ・オンボーディング』の取り組みを展開しています。これは、採用した人が働き始める30日前から、SNSや個人のメールを通じて連絡を取り、歓迎されていることを実感させる活動です。入社後は、経験豊富な社員にバディ、またはコーチ役を担ってもらいますが、これはリモート・オンボーディングのプロセスをスムーズにするだけでなく、コーチ役を演じる社員のキャリア開発にも役立ちます」(ファム)。
人事の専門家によれば、リモート・オンボーディングにおいては、ファムが実践しているような取り組みが重要になるという。
「リモート環境でオンボーディングプロセスのすべてを行うということは、新入社員からの信頼を獲得し、活躍してもらうための手法として、握手やアイコンタクトといった従来手法が使えないことを意味します。ゆえに、適切な情報、適切なチームメイト、そして適切なサポートを新入社員に提供し、彼らからの共感を獲得することが重要になります」と、O.C.タナー社のマネージングディレクターで、プレミアリーグのサッカーチーム「フラム」の元人事部長であるロバート・オーディバー(Robert Ordever)氏は語る。
今回、こうした情報/サポートの提供を含めて、リモート・オンボーディングを成功に導くうえで必要とされる事柄を、アトラシアンのリモート・オンボーディングに深くかかわるマネージャーにリストアップしてもらった。以下、その内容を9つの要件としてまとめて紹介する。