調査結果3: リモートワークは女性に予想外のメリットをもたらす
今回の調査に関して、リモートワークに対する回答者の評価を男女に分けて調べていくと、女性が想定外のメリットを感じていることが判明した。
リモートワーク環境という“デジタルオフィス”では、自分の会社での地位や特権を示す方法はほとんどない。例えば、Web会議の参加者全員の映像が、画面上の「タイル」として均等サイズで表示され、参加者全員の発言権を平等にする効果がある。加えて、Web会議では、他者の発言中に何かを言おうとすると、リアルな会議の場以上に混乱を招くことになる。そのため、誰もが自ずと他者の発言が終わるまで自分の発言を控えようとし、聞き上手になる。さらに言えば、会議における誰かの発言の音量調節も参加者各人が自由に行うことができる。
こうしたWeb会議の特性をまとめると、「会議中、もっとも声が大きく、断定的な発言を繰り返しがちな職位の上位者(多くの場合、年配の男性マネージャー)が、議論を支配することが困難な環境」と言うことができる。
また、女性のマネージャーの中には、周囲が自分に気遣いして率直な意見を言ってくれていないのではないかという不安をデジタルオフィスが払拭してくれたと喜んでいる向きも少なからずいる。以下は、そのことを示す調査回答者からのコメントである。
コロナ以前、私はオフィスで窮屈さを感じることがありました。自分よりも職位が上の人と会議に参加する際、萎縮してしまうのです。コロナ禍以降、Web会議になったことによって、以前よりも落ち着き、心を開いて会議に参加できるようになりました。
加えて、リモートワークの長期化によって、勤務時の「身だしなみ」に対するルール(昔から厳格なルールがあったわけではないが社会のコンセンサスとして存在していた)も緩和の方向に向かっている。リモートワークによって、マニュキアやハイヒールから開放され、身だしなみにかける時間を最小限にして仕事に振り向けられるようになったメリットは大きく、それは仕事に対する女性の能力アップにつながるものとも言える。
実際、今回の調査でも、女性の半数近く(45%)が「(リモートワークにより)目的達成に向けた自分の能力に対する自信が高まった」と答え、そう答えた男性の比率(約40%)を上回っていた(下図参照)。
ここで問題になるのは、コロナが終息して再びオフィスワークが始まったときのことである。その際にかつての「身だしなみ」ルールが復活してしまうと、また多くの時間をルール順守のために奪われてしまうことになる。加えて、Web会議が創出した“フラットで平等な意見交換の場”も瓦解しかねない。
したがって、仮にオフィスワークを復活させるとしても、リモートワーク時の“緩めでリラックスしたドレスコード”をオフィスワークにも適用し、会議についても原則、Web会議を通じて行うようにするのはどうだろう。
実際、会議について言えば、オフィスワークの再開後も、参加者の誰かがリモートから会議に加わるようになる可能性は大きくある。というのも、多くの企業が、コロナ禍を契機にリモートワークを働き方の標準的な選択肢として採用しようとしているほか、会議の参加者の誰かが、何らかの事情でオフィスにいけなくなるケースは多々起こりうるからである。
Web会議を会議の標準として選択していれば、そのような事態が発生しても問題なく関係者全員で会議が行える。しかも、会議室の場所を確保する手間もなく、参加全員がフラットな立場で意見を出し合うことができる。
調査結果4: リモートワークは潜在的な不平等性を表面化させる
リモートワークは、すべての従業員に対して平等に働く環境とスペースを提供するオフィスワークとは異なり、家庭環境や自宅のある場所、報酬などによって働き手の生産性を上下させてしまうという“不平等性”を潜在させている。
例えば、一部の人は、仕事のために快適なスペースを家庭内に確保し、それらのスペースをパーソナライズしてオフィス以上の“快適な職場”を作り上げている。一方で、人口密度の高い地域に住む人や平均的な若者たちは、狭い自宅の小さな一角にPCを設置して、オフィスにいるときと同じ仕事をこなしたり、創造性を発揮したりするよう求められている。これはなかなか厳しい要求と言わざるをえない。
また、都会から離れた場所に住む人たちは、比較的広い家に住み、働くスペースを確保するのにそれほど苦労をしていないが、地域によってはネットワーク環境が整備されておらず、インターネット接続のスピードと品質の悪さに苦しめられる場合もある。さらに報酬の高い業界に身を置く人にかぎって、雇用主からリモートワーク用の机や椅子を購入するための給付金を受け取るなど、格差の拡大につながるような事象も見受けられている。
このような不平等性を是正しないまま企業がテレワークを推進し続けると、例えば、広い家に住み、自宅に自分専用のワーキングスペースを持つ人だけが出世をしたり、能力を高めたりしていき、家庭の事情などによって仕事専用のスペースを自宅に持てない人が、自分の能力を発揮できずに出世コースから脱落したり、キャリアアップが望めなくなったりするような事態に陥りかねない。このような事態が起きることは、企業としては避けるべきで、また、回避したいと考えるはずである。
【問題解決のヒント】
上述したような事態を回避する一手は、自宅に仕事用のスペースを設けるのが困難な従業員に対して、コワーキングスペースで机を借りるのを支援する給付金を提供することだ。また、雇用主が事務所を再開させた際には、狭い家に住む従業員から優先してオフィスに戻すようにするのも一策と言える。
従業員の中には、住環境や家庭内事情などによって仕事に適した環境を自宅内に用意できず、大変な思いをしている向きがいることを、企業の経営層もミドルマネージャーも、そして従業員も決して忘れてはならないのである。
にもかかわらず、Web会議を巡り、「ビジネスミーティングで仮想背景を使うのは不誠実である」といった心ない発言を目にすることがあった。たとえ、気心の知れた同僚であっても、他者には見られたくない自宅の風景を背負いながら仕事をしなければならない人がいることを理解する心を持ったほうがいい。