画像: 著者   :市谷聡啓 出版社  :翔泳社 出版年月日:2020/2/17

著者   :市谷聡啓
出版社  :翔泳社
出版年月日:2020/2/17

筆者のアジャイル開発での経験がベースに

企業にとって、チームが機能し、効率的に成果を出していけることが望ましいのは言うまでもない。では、よいチームを生み出すために何をすればよいのだろうか。

本書は、よいチームを生み出すための方策をわかりやすく解説している。方策のベースとなっているのは、著者のアジャイル開発での経験だ。それを基に、グループがチームとして機能していくために、どのようなことが必要なのかを明らかにしている。一人では成し遂げられない成果を生み出すために、他者を通じて自分が拡張され、「新しい自分」を手に入れることで、もっとよいものを生み出せる。そのことを、チームの形成過程を通じて描いているのである。

本書は、ストーリー形式でチームづくりの要点がわかりやすく解説されている。ストーリーは全部で16話あり、それぞれは、どのような状況のもとでどんな問題が起きるのかという“問題編”と、それをどのように解決するのかという“解決編”という構成になっている。さらに、ストーリーの後に解決策の詳しい説明が用意されている。

また、全16話は、2部に分けられ、前半8話の第1部は単一チームの状況について、後半8話の第2部は複数チームでの状況を対象としている。各部の8話のうち、前半4話は基本編、後半4話は応用編という位置づけになっている。

「仮説を立てて検証する」というアプローチ

本書の主な読者ターゲットは、これからチームのリーダーになる人、なりたい人、あるいは、すでにリーダーを担っている人、となるだろう。それ以外にも今後、複数のチームをマネジメントする人や、チームのリーダーを支援する立場の人、チームメンバー/プロダクトの企画者(プロダクトオーナー)で、開発チームと一緒にプロダクトづくりを行っている人なども読者として考えられる。本書の内容は主にソフトウェア開発を想定しているが、チームで活動するような業務であれば、業種を問わず適用できる工夫もされている。

プロダクト開発での不確実性と、それに対して、チームの適応力と機動力をどのようにして高めていくかが、本書のテーマだ。第1部では個人の集まりでしかなかったグループがチームとなり、さらには、あたかも一人の人間のようなチームとなるまでを、第2部ではより大きなプロダクトを開発するために、複数のチームが連携・協働化し、そしてチームから「ユーザ―へ」と越境するまでを描いている。

誰もつくるべきもののイメージができていないというプロダクト開発が増えているが、そうなると不確実性が高まってしまう。本書では、不確実性への適応のために、「仮説を立てて検証する」というアプローチが使われる。仮説の検証とは、想定しているユーザ―の状況や課題、フィットするソリューションの機能性や形態など、何一つわかっていない状況から、わかることを増やしていく活動のことである。

平易でとっつきやすいが、奥の深い一冊

チームには、状況に対する機動性が求められる。機動性の高いチームは、状況の把握から理解、必要な行動の合意形成、実施にあたっての分担と協働が限りなくなめらかにできる状態にある。本書ではこれを「一人の人間のようなチーム」と呼ぶ。

「一人の人間のようなチーム」をつくることは理想ではあるものの、一足飛びに到達できるものではない。そこで、「段階の設計」が必要になる。理想的な状態へとチームがたどり着くために、ジャーニー(段階)というタイムボックスを導入する。段階に到達していけば、やがて理想とする状態にたどり着けるという構図が明らかにされる。「チーム・ジャーニー」という書名は、まさにこれを表している。

本書の物語仕立てで、さまざまなシーンにおける課題とその解決法を解説する書き方は、読者にわかりやすいというメリットがある。とはいっても、実際に読者の現場でこれと同じシーンが起きる可能性は非常に低いので、本書に書かれたことをそのまま適用するのは困難だろう。

だからといって、本書の価値は損なわれない。本書に書かれている内容を“原理”にまでさかのぼって理解すれば、違った現場での応用が可能になる。そのための理論的な解説も用意されており、じっくりと読むことで理解が深まるだろう。具体的なストーリーを用いているので平易でとっつきやすいけれども、“原理”まで理解するのは意外に大変で、奥の深い一冊だと言える。

This article is a sponsored article by
''.