アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)とワーク フューチャリストのドム・プライス(Dom Price)が、雇用を守る方策について概説する。

不確かな雇用

雇用契約、終身雇用、組合、仕事に関する豊富な知識─。これらはかつて、私たち労働者の雇用をしっかりと守ってくれていた。しかし今日、これらの守りは、どれも衰退している。加えて、不況にレイオフ、自動化の波がさまざまに入り乱れ、私たちの「雇用の安全(*1)」を巡る状況は、ますます不確かになっている。

*1 ここで言う「雇用の安全」とは、解雇されそうにない状態を指す。

例えば、テクノロジーは、一つの仕事を自動化するごとに、新しい仕事を一つ生み出しているように見える。ただし、自動化された仕事に就いていたすべてのワーカーが、新しく生まれた仕事に就ける保証はなく、逆に、そうできる可能性は低いと言える。

また、米国では過去数10年間、サービス産業が多くの雇用を生んできたが、この産業でのサラリーは総じて低い。ゆえに、近年の米国では、新しい職には比較的容易に就けるものの、それで暮らしが保証されるとはいいがたい状況が続いている。

とはいえ、あなたが現在の自分の仕事を愛していて、それを続けたいと強く願っているならば、自分のキャリアを守り抜く手だてがないわけではない(レイオフなどの制御不能の事態が発生した場合を除き)。その手だての一つは、「自分の雇用は自分で保全する以外に方法はない」という認識の下、将来のキャリアを守るための行動に打って出ることである。

雇用の安全はマインドセットの変革から

自分の雇用を守るうえで重要な行動とは、目前にある課題から目をそらさないようにすることである。起こりうる未来をしっかりと見据えて、キャリアの軌道修正に役立つ新しい行動に打って出ること─。それが重要と言える。

以下、そうした行動をいくつか紹介する。

行動1: ルールに従うのではなく、自らイニシアチブを取る

かつて、組織のルールを順守したり、ポリシーを継承したりすることは、社内での信頼を獲得するうえで有効な手段だった。しかし現在、そのような行動をとる人は、批判の精神や改革に挑む勇気に欠ける人物と判断される。

もちろん、陶器店に放たれた闘牛のように“はた迷惑な乱暴者”になれと言っているのではない。

だが、組織やチームが機能していないと感じたならば、同僚たちとともに改革・改善の行動に率先して打って出るべきである。またそれは、自分たちの勇気と問題解決の能力、スキル、そしてチームワークの良さを、周囲にアピールすることにもつながる。

今日、こうした行動をとることの重要性が、以前にも増して高まっている。また仮に、あなたがチームのリーダー、あるいは会社組織のリーダーであるならば、メンバーが自律して動けるようにすることが大切である。部下たちの行動を管理するのではなくガードする立場になることが大切だ。

ちなみに、インドの偉大な指導者、マハトマ・ガンジー氏はこう述べている。「Be the change you wish to see in the world」──。そう、自分が見たいと望む変革は、自ら引き起こすべきなのである。

行動2: 変化に抗うのではなく活用する

テクノロジーによる変化には恐怖を感じることが多い。

「ロボットに自分の仕事が奪われるのではないか」─。今を生きるビジネスパーソンは、そんな恐怖と常に向き合っている。

しかし、テクノロジーが人から奪う仕事はルーティンワークに過ぎず、テクノロジーの働きによって、人はより興味深く、達成感の味わえる仕事に力を注ぐことが可能になる。

例えば、かつてのITエンジニアは、ソフトウェアのテストを手作業で行っていたが、今日ではほとんどの作業が自動化され、旧来は1週間をかけていたテストを1時間程度で終えられるようになっている。結果として、エンジニアは、リスクの特定や問題点の分析など、より価値の高い作業に多くの時間を使えるようになった。

このように、テクノロジーによる変化を敵視するのではなく、その変化によって自分を利する方法を見出すことが大切である。言い換えれば、テクノロジーによってもたらされる時間のゆとりをどう使うかを考え抜かなければならないということだ。理想を言えば、現在の自分の仕事を、よりイノベーティブで深みのあるものへと変化させることに、より多くの時間を割くべきである。

行動3: 尊大な態度を改めて謙虚な姿勢で学ぶ

かつて、会社組織の中で最も権威ある人物の発言は、尊敬の念をもって周囲に受け止められていた。ただし、歴史のページを読み返すと、いわゆる“裸の王様”が、そこかしこに存在していたことも分かる。

とりわけ今日では、あらゆる物事が猛烈な勢いで変化している。したがって、特定の分野、あるいは事柄に関する「エキスパートとしての地位」に安住してはならない。過去の知識や経験がまったく役に立たなくなることが、十分に起こりえるからである。

そこで必要とされるのが、常に謙虚な姿勢で学び続けることである。

例えば、相手の考えを正すために人の話を聞くのではなく、学ぶために、あるいは理解するために、人の話に耳を傾けることが大切と言える。

またときには、他部門で働く、自分よりも社歴が浅く、世代も下の人間から意見を言われることがあるかもしれない。そのようなときにも、「キミに何が分かるんだ」といった尊大な姿勢で対話に臨んではならない。実際、そうした人間は、自分とはまったく別の角度から物事をとらえ、自分には見えていなかったことに気づかせてくれる可能性が大いにあるのである。

高度なソフトスキルを身に着ける

「世界経済フォーラム」のレポートによれば、 今日、資格や技術など、学習や訓練によって身に着けられる専門的なスキル─つまりは、「ハードスキル」は、テクノロジーの発展によって、その価値を低下させつつあるという。

それに対して、「コミュニケーション能力」や「問題解決能力」といった「ソフトスキル」の価値は、以前にも増して高まっているようだ。

したがって、あなたが属する産業や組織における地位がどうあれ、高度なソフトスキルを獲得することは、変化に適応したり、キャリアを軌道修正したりするうえできわめて重要になると言える。以下では、そうしたソフトスキルをいくつか紹介する。

(1)意思決定のスキル

かつて、仕事における意思決定の権限は、組織の“ボス”たちが握っていた。しかし、一部の賢明なボスたちは、現場で働く部下たちに意思決定の権限を委譲し始めている。

実際、仕事に関することは、その仕事に実際に携わっている人間が、最もよく知っている。したがって、仕事上の意思決定を現場に委ねるのは合理的な方法と言え、またそうすることで、職場での政治的な思惑が、意思決定に与える影響を小さく抑えることが可能になる。

アトラシアンが行った調査の結果として、ハイパフォーマンスなチームは、非政治的な意思決定を下すことが一般的であり、パフォーマンスの悪いチームは、総じて政治的な意思決定を下すことが多いことが分かっている。たしかに、政治的でずる賢い思惑は、大抵の場合、賢明で効果的な判断を鈍らせるのである。

(2)集中するスキル

メールにチャット、肩をたたく同僚たち─。
21世紀のビジネスパーソンは、「一人で仕事に集中する」ということが非常に困難な状況に置かれている。しかも、いまどきのオフィスレイアウトは、間仕切りやパーティションのない“オープン設計”が流行(はや)りだ。そうしたオフィスで働く場合、集中を保つ難度はさらに上がることになる。

とはいえ、自分にとって最高の仕事をするには、集中が不可欠である。それは、工場のラインで商品を組み立てるときも、救急患者を搬送する場合でも、入り組んだ問題を解決する際にも、すべてにおいて同様に言えることである。したがって、物事に集中するスキルを身に着けておくことはとても重要である。

(3)心の知性

「心の知性(エモーショナルインテリジェンス)」とは、自分や他者の感情を理解したり、適切に制御したりするための知的な能力を表している。これは、顧客満足度を高めるうえでも、同僚たちにとっての最高のパートナーになるうえでも、カギとなる能力である。

例えば、顧客の課題や悩みに共感したり、同僚たちとの意見の不一致を建設的に解消したり、誰もが帰属意識が持てて、自分が必要とされていると感じられる環境を築くことができれば、より良い仕事ができるようになる。心の知性と共感の力は、人を優れたコミュニケーターへと成長させる原動力と言えるのである。

(4)実験するスキル

仮説/検証は、白衣を着た研究者だけの取り組みではない。顧客エンゲージメントの獲得・向上に向けた改革の取り組みにおいても、仮設/検証のスキルが重要な役割を演じることになる。

このスキルを高めるうえでは、調査に関する専門的な知識や技能を身に着ける必要は特にない。例えば、自分の仕事(あるいは、私生活)をより快適にするための新しいアプローチをさまざまに試してみて、一つの試みから学んだことを次の試みに活かす習慣を身に着けていけばよいのである。

日々正しく行動する

言うまでもなく、仕事の中で日々どのような行動を取るかも、自分の雇用を守るうえでは大切である。

もちろんここで、「仕事中に大音量で音楽を聴いてはならない」であるとか、「会社の流し台(シンク)にある汚れた皿を、そのまま放置してはならない」といった話をするつもりはない(とはいえ、この2つの行動はしてはならないのだが)。

ここで言及したいのは、コラボレーションにかかわる行動である。

おそらく企業の90%は、複雑な課題と日々対峙しており、多彩なスキルセットと経験を持つチームの働きに依存しているはずである。その中で、ロボットによる自動化の波をうまく乗りこなしながら、ビジネスの世界を生き抜いていくためには、自分とは異なる視点や思考、価値観を持った人間たちと、密接にコミュニケートし、コラボレートし、ときには建設的な対立をしていくことが必要とされる。以下、そのための行動について少し説明を加えよう。

行動1: 情報をオープンにする

21世紀の今日においても、情報や知見を抱え込むことで、組織内での自分の価値が高められると考える人がいる。だが、そのような考えは即刻捨てたほうがよく、仕事にかかわる情報や知見、アイデアはすべて社内で共有すべきである。たとえ、それによって直接的なベネフィットをすぐには得られないとしても、である。

このように、自分のプロジェクトや仕事に関する情報をオープンにすることで、周囲の同僚たちの仕事のやりやすさは高まり、より多くの成果を生み出すことが可能になる。と同時に、あなたの仕事や状況に対する周囲の理解が深まり、仕事の邪魔をされるケースが減る。その結果として、あなたも、より多くのことを達成できるようになるのである。

行動2: フィードバックを出す、受ける

小説家のキム・スコット氏によれば、効果的なフィードバックを出す秘訣は、「個人への気遣い」と「率直さ」を巧みにブレンドし、かつ、タイミングを逸しないことであるという。

また、同僚からフィードバックを受け取ったときには、たとえそれが辛辣な批判であっても、すべては善意からの言葉であるととらえることが重要である。そして、批判への感情の高ぶりが静まったときにフィードバックを改めて見直す。これによっておそらくは、同僚の指摘が正しい思える個所が必ず見つかるはずである。

行動3: ミスを素直に認める

あなたが何らかのミスをしたとき、周囲から指摘される前に、自分のミスをミスとして即座に認めたならば、周囲の尊敬を集めることができる。そして、ミスのいきさつについても開示して、どうすればミスが回避できたかを情報として提供する。これにより、同様のミスを周囲がしてしまうリスクを大きく引き下げることができる。

行動4: 人の話を聞く

繰り返すようだが、人の話を聞くときには、常に謙虚な姿勢で、真摯に耳を傾けることが重要である。対面で会話をしているときに、メールやチャットの確認のためだけにスマートフォンの画面を覗き込んだり、ラップトップを開いたりしてはいけない。先にも触れたとおり、社内の誰との対話でも、自分では到底思いつかないようなアイデアが得られるチャンスがあるからである。

行動5: 弱みを隠さない

あなたが、個人的な問題で悩んでいて、職場において、いつもどおりのパフォーマンスが発揮できていないとする。このような場合、パフォーマンスが落ちている理由を同僚たちに隠す必要はない。

また、明らかに自分のキャパシティを超える仕事を引き受けてしまったときも、素直に同僚に助けを求めるべきである。こうすることで、同僚たちも、自分が同じ立場になったときにあなたに助けを求めやすくなる。これにより、チームの仕事の品質が担保されるとともに、チーム内での心理的な安全性も向上することになる。

「安全」と「安定」は同義ではない

私たちの日々の生活においては、他者と協力して道を切り開いていく能力のことを「社会的通貨(social currency)」で表現することがある。この能力は通常、人としての信頼性や寛容さ、ジョークのセンスなどが土台を成しているが、なかには、恐怖や脅迫によって欲しいものを手に入れようとする向きもいる。

これと同様のコンセプトは、私たちのキャリアにも適用できる。会社組織における旧来の社会的“通貨”は、コンプライアンスだった。しかし新しい通貨は、勇気であり、好奇心であり、創造性である。

仕事を得て、引退の日が来るまで惰性で走り続けるような働き方はもはや通用しない。例えば、自分の周囲をぐるりと見まわして、最も成功を収めている人が何をしているかを確認していただきたい。おそらく、その人たちは、古い慣習や行動規範を学びながらも、それにとらわれることなく、新しいことにチャレンジし続けているはずである。

人生の最後まで学び続け、変化に適応し続ける─。それこそが、21世紀の雇用保障と言えるのである。

This article is a sponsored article by
''.