何をどう使うのが適切なのか
電子メール(以下、メール)、チャット、社内Wiki、社内ブログ、そしてビデオ会議─。今日の職場には、さまざまなコミュニケーションチャネルが存在する。これらを適切に使い分けるのはなかなか難しいが、それに成功すれば、チームの生産性を高めたり、共同作業のストレスを減らしたりすることができる。
そこで以下では、メール、チャット、社内Wiki、社内ブログ、ビデオ会議という各コミュニケーションチャネルを有効に活用するためのガイドラインを示す。ぜひ、今後の参考にしていただきたい。
チャネル1:メール
【ベストな使い方】
ベストなメールの使い方は、チームで共有すべき「コンテンツ」の在り処(ありか)をメンバーに伝えることである。また、メールで受け取った情報をチームメイトに転送したり、社外の人とコミュニケートしたりするときにも、メールを使う場合がある。
ただし、社内でのディープなディスカッションや意思決定にかかわるコミュニケーションにメールを使うのは避けるべきである。
【ベストな使い方の例(メッセージ例)】
「皆さん、先日話したプロジェクトの概略を共有フォルダ“〇△”に置きました。一両日中に目を通して、意見をください。皆さんのフィードバックをお待ちしています。宜しくお願いします」
【留意すべきこと】
上のようなメールをチームの全員に送り、そのままにしておくと、メンバーからのフィードバックで、メールのスレッドが瞬く間に長くなり、誰がどんなコメントを寄せたのか、そのコメントに対して誰がどんな反応を示したのかが、きわめて分かりづらくなる。
「チャットツール上に“〇△×”という会議室を作りました。全員を招待したので今後はこちらで意見を交わしましょう」
「皆さん、メールのスレッドが長くなりそうなので、ディスカッションの場をConfluenceに移します。すでにメールのスレッドでやり取りされたすべてのコンテンツは、Confluenceのページに移してあります」
では逆に、メールを使うべき場面にはどのようなものがあるのだろうか。それを示すのが、「どのようなメッセージを送る場合にメールを使うべきか」を表現した「ディシジョンツリー」だ(下図)。すべて英語で申し訳ないが、ぜひ、今後の参考にされたい。
チャネル2:1対1のチャット
【ベストな使い方】
チャットでの1対1の対話は、クイックなディスカッションやQ&Aに最適である。
また、相手の回答をそれほど急いでいない場合には、いつごろまでに回答が欲しいのかを明確にしておくことが大切である。これによりメッセージの受け手は、どのメッセージに対する対応を優先すべきかの順位を適切につけることができる。こうしたことは、チームのメンバーが世界各所に分散し、それぞれのワーキングタイムが異なる場合に特に有効である。
【ベストな使い方の例(メッセージ例)】
「ミーティングに出席できなそうなのですが、代わりに出てもらえますか?」
「お久しぶり!調子はどう?キミのドラ猫は元気?引っ掻かれた傷は完治した?」
【留意すべきこと】
1対1のチャットでは、相手に伝えたい内容を一気にまとめて、送るのが鉄則と言える。最初に「やあ、元気?」という挨拶を送信してから、相手のレスポンスを待ち、その後残りのメッセージを送るのは、相手の時間を無駄に消費することにつながる。挨拶を受け取った相手は、改めて残りのメッセージが来るのを待たなければならないし、それによって自分の仕事に対する集中力も奪われてしまうのである。
チャネル3:グループチャット
【ベストな使い方】
グループチャットのベストな使い方は、グループ内でのクイックなディスカッションと、メンバー全員に対する一斉通知である。グループチャットを介した一斉メッセージは、メンバー全員に通知が行く点を気をつけるべきである。したがってその機能は、メンバー全員が、いますぐ知る必要のある情報を送るときにのみ使うほうがよい。
【ベストな使い方の例(メッセージ例)】
「仕事が遅れている。解決策を誰か教えて欲しい」
「JavaScriptの新しいフレームワークを試した人はいますか?どうですか?使えそうですか?」
【留意すべきこと】
ときおり、チャットルームに対するメンバー以外の立ち入りを禁止にするグループ(つまりは、チャットルームをロックダウンする人たち)を見受ける。
チャネル4:社内Wiki
【ベストな使い方】
複数のメンバーがコラボレーションするコンテンツや変化し続けるコンテンツを共有するうえで、Confluenceのような社内Wikiの仕組みを活用するのは有用である。
例えば、あなたの仕事が初期段階にあり、周囲のフィードバックを得るレベルに達していないとしよう。このようなときは、自分のWikiページのトップに目立つ告知やバナーを掲出し、今はまだ準備中である旨を伝えればよい。そのWikiページに対してアクセス制限をかけてしまうと、周囲による情報共有のスピードはどうしても遅くなり、結果として、フィードバックを反映させるのが難しくなる。加えて、Wikiページにロックをかけることは、相互信頼の組織文化を醸成するうえでの妨げにもなる。
【ベストな使い方の例(ページタイトルの例)】
「育児休暇のポリシーについて」
「プラットフォームエンジニアリングチーム目標:FY19 Q3」
「写真集:アトラシアンの猫たち」
【留意すべきこと】
Wikiページには、コンテキストが伝えられるタイトルをつける。例えば、「プロジェクト計画」というタイトルは、特定のページの中、あるいは、階層構造を成すフォルダの名称としては有効かもしれないが、Wikiページのタイトルとしては適切とはいえない。というのも、「プロジェクト計画」というタイトルには、当該ページを誰かと共有し、共同で編集しようとしたときに、コンテキストを共同編集者たちに伝える情報が含まれないからである。したがって、親ページからコンテキストを引き継いだ子ページを作る場合にも、コンテキストが明確に分かるタイトルを子ページにも付けるようにする。
チャネル5:社内ブログ
【ベストな使い方】
社内ブログは、あとから内容が変更されることのない、特定の事象・実績を広くアナウンスするときに便利に活用できる。こうした情報は、メールでも伝えられるが、それをイントラネット上のブログとして公開することで、関係者全員がコメントを寄せやすくなり、そのコメントを全員で共有するのも楽になる。これがメールになると、メッセージへのコメント(返信)でスレッドが長くなり、誰が、どのようなコメントを寄せたかが把握しづらくなる。また、誰もが、「すごい!」「いいね!」としか書いていないメールを何通も読みたくないはずである。
【ベストな使い方の例(メッセージの例)】
「マリアがプリンシパルエンジニアに昇格したことをお祝いします!」
「猫愛好家クラブは今週の土曜日に会合を開きます(レーザーポインタを持参のこと)」
「Jira 9.0が出荷されました!」
【留意すべきこと】
社内ブログを通じて情報を共有するときには、当該のブログが、情報の受け手にとってどのような意味を持つものなのかを明確に示すことが大切である。例えば、単に「このブログをご覧ください」ではなく、「このブログは、チーム研修の結果をまとめて報告したもので、他のチームが研修を組むうえでの参考になります」といった情報を伝えるようにする。
チャネル6:ビデオ会議
【ベストな使い方】
対話の中で相手の細かな感情の動きをとらえるうえでは、直接会って対話をしたり、ビデオ会議で対話したりすることが最良の方法と言える。だからこそ、このチャネルを使ったコミュニケーションでは、相手の姿勢や表情など、言葉では表現されない信号を見逃さないようにすることが大切である。
【ベストな使い方の例(メッセージの例)】
「いま、2~3分時間ある?プロジェクトのスコープについて少し確認したいんだけど。チャットで対話したけど、何となく互いの認識にズレがあるような気がして」
「ちょっと、ちょっと。昨日、あんなことがあったんだから、もう、キミの飼い猫はオフィスに連れてこないほうがいいと思うよ」
【留意すべきこと】
遠隔にいるチームメイトと急いでビデオ会議を行いたいなら、自分のデスクで行うのが合的で最も手っ取り早い方法と言える。遠隔にいるチームメイトとビデオ会議がいきなり必要になった場合、急いで個室や会議室を確保しようとしても空きがなく、場所を探す時間のほうが、会話自体よりも長くなる可能性があるからである。
自席でテレビ会議をすると、会話の声で周囲に迷惑がかかると心配する方がよくいるが、オフィス内では、あなたの自席の周辺で、チームメイト同士の対話が普通に行われているはずである。テレビ会議を通じたチームメイトとの対話もそれと変わりはないと考えれば、周囲に気を使う必要は特にないと言えるのではないだろうか。もっとも、周囲への配慮として、ヘッドフォンを着用し、相手の言葉を何度も聞き直したり、大声で話す必要がないようにしたりする必要はあるかもしれない。
以上、6つのコミュニケーションチャネルについて、それぞれの活用法を駆け足で紹介してきた。これらのガイドラインは、オープンでフラットなコミュニケーションを指向するアトラシアンの実践と経験に基づくもので、このガイドラインに沿って各チャネルを適切に使い分けてきたことが、チームの生産性の向上につながってきたと言い切れる。
実際、本稿を共同で執筆した私たち(サラとペニー)は、アトラシアンが従業員数200人程度の企業だったころからこの会社で働き、オープンでスマートなコミュニケーションが、組織の発展・成長に大きく貢献するところを目の当たりにしてきた。
現在、アトラシアンの従業員数は数千人規模に拡大しているが、オープンでスマートな情報共有・コミュニケーションを追求する姿勢は当時からまったく変化していない。そのため、社内のすべてのチームが上述したガイドラインに沿ったかたちで、コミュニケーションの各チャネルを適切に使い分けていくことは大切であり、組織が大きくなった分、ガイドラインを明確に定めて、使い分けを徹底させることは以前にも増して重要になっていると言える。
企業ごと、あるいは組織ごとに、情報共有のあり方やコミュニケーションスタイルは異なるはずで、今回示したガイドラインがすべてにおいて有効であるとは言い切れない。
ただし、少なくとも、オープンでフラット、かつ、有効な情報共有/コミュニケーションを指向するのであれば、ここで示したガイドラインは、必ず皆さんの一助になると確信している。このガイドラインを社内コミュニケーションの効率化、ないしは変革の出発点としてご活用いただき、職場のコミュニケーションをより生産的で有効なものへと発展させていただければ幸甚である。