アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が“ハイパフォーマンスなプロジェクトチーム”の構築法について考察する。
ハリウッド的な手法を取り入れる
かつては、企業のほぼすべてのプロジェクトが以下のような体制で遂行されてきた。
プロジェクトチームの全員が、同じマネージャーの管理下に置かれ、同じ仕事をシェアしながら働く
おそらく、今日における多くのプロジェクトも、上のような推進体制が敷かれているはずである。
ただし、最近になって、「ハリウッド的手法」をプロジェクトに取り入れる企業が増えている。ここで言う「ハリウッド的手法」とは、要するに、映画制作の手法のことだ。
ご存知のように、商業映画の制作プロジェクトでは、制作会社のプロデューサーが制作資金を確保したのちに、映画監督、脚本家、演出家、カメラマン、俳優、音楽家、衣装デザイナー、メイクアップアーチスト、CGデザイナーなど、多種多様なスキルを持った人材が集められ、クロスファンクショナルチームが組織される。
チームのメンバーは、それぞれが異なる事業体に属していたり、フリーエージェントであったりするが、プロジェクトでは互いに協業しながら、一つの目的の達成─つまりは、映画の成功に向けて全力を尽くす。
一方、企業の知識労働者(ホワイトカラー)たちは今、個々人の経験やスキルでは解決できないような複雑な課題と日々対峙している。それゆえに、企業の多くが映画制作の手法を取り入れ、特別編成のチームでプロジェクトにあたっている。
以下、こうしたトレンドを念頭に置きながら、ハリウッドの映画制作チームのような、ハイパフォーマンスのプロジェクトチームを作り上げる方法について見ていく。
役割と責任の明確化
これは、クロスファンクショナルチームに限った話ではないが、プロジェクトチームを成功に導くうえでの最初のステップは、「誰がどのような役割を担うか」を明確に定めて、メンバー全員から、それぞれの役割・責務についての了承を得ることである。
では、プロジェクトの推進に必要とされる役割にはどのようなものがあるのだろうか。以下に、ほぼすべてのプロジェクトに必要とされるであろうポジションと、その責務についてまとめたので参考にされたい。
- プロジェクトスポンサー
プロジェクトスポンサーは、プロジェクトの最上位のポジションである。プロジェクトのスケジュール、予算、チームの陣容について決定権を持つ。果たすべき責任には以下のような事項が含まれている。- プロジェクトの成否を計測するための基準とゴールに対する承認を行う
- プロジェクトの対象領域(スコープ)/予算の変更に対する承認を行う
- プロジェクトに関して、エグゼクティブチーム内の最高位を確保する
- プロジェクトの成功に対して包括的な責任を持つ
- プロジェクトマネージャー/プロジェクトリード
プロジェクトマネージャー/プロジェクトリードは、プロジェクトを主導するポジションであり、プロジェクトの成果物をスケジュールどおりにデリバーする責任を背負う。プロジェクトの計画策定、計画の進捗状況のトラッキング、作業の優先順位づけ、キャパシティプランニング(許容作業量計画)などを遂行する立場にあり、果たすべき責任には、以下のような事項が含まれている。- プロジェクトの主題に合致したサブジェクトマターエキスパート(後述)/コントリビューター(外部協力者)を確保する
- ロードマップの策定、マイルストーンの設定、週次計画の作成などを行う
- 各タスクに対して、適切なタスクオーナー(タスク遂行責任者)をアサインする
- ブレスト、振り返り、計画策定など、各種ミーティングのファシリテーターを務める
- プロジェクトスポンサー/ステークホルダーに対するプロジェクト進捗の報告・折衝を行う
- サブジェクトマターエキスパート(SME:特定分野の専門家)
サブジェクトマターエキスパートとは、プロジェクトの中で実務に当たる専門職者を指している。この役割を担う個々人は、プロジェクトの成功に資する専門スキルを有していることが前提となる。サブジェクトマターエキスパートの責務はプロジェクトごとに異なるが、一般的には、次のような任務に当たることになる。- 割り振られたタスクを実行する
- タスクを実行する過程で直面した障壁・課題を、プロジェクトマネージャーに伝える
- タスクの進捗をチームメイト全員に報告する
- チームのワークフロー/コミュニケーション改善に積極的に貢献する
- ステークホルダー(利害関係者)
ステークホルダーは、プロジェクトチームの構成メンバーではない。ただし、プロジェクトの進捗・成否によって多くの影響を受ける立場にあり、プロジェクトにかける期待は大きくなる。ステークホルダーのプロジェクトにおける責務には、次のような事項が含まれる。- プロジェクトの更新情報を把握する
- 可能な限り早い段階でプロジェクトに対する懸念点を指摘する(懸念点の指摘が早くなればなるほど、プロジェクトチームが懸念を解消する手間が小さくなる)
- チームのメンバーたちとの密接な関係を維持する
チームメイトとの関係構築
今日における大抵のプロジェクトは、プロジェクト期間が1年未満に設定されている。ゆえに、異なる組織のスタッフで構成されるクロスファンクショナルチームも、ハリウッド映画のクルーと同じように、短期間のうちにチーム内での良好な人間関係と規範を築き、協業による成果につなげていかなければならない。
それを実現するうえでの一つのカギは、プロジェクトとその目的に対する共通理解を確立することである。そのために私がよく使う手法は「エレベーターピッチ」だ。具体的には、チームのメンバー全員で、プロジェクトの目的を簡潔に説明する宣言文(つまりは、エレベータピッチ)を作成し、「プロジェクトにどのような固有の価値があるのか」「誰がプロジェクトの受益者なのか」を明確にするのである。以下は、その宣言書の書式サンプルである。
このプロジェクトは、[①] が抱えている [②]を満たすことを目的にし、プロジェクトによって生まれる[③]は、[④ ]の市場において唯一無二となる[⑤]を顧客にもたらす。
①ターゲット顧客のタイプ
②ターゲット顧客のニーズ/願望
③プロジェクトが生み出す成果物/価値
④ターゲット市場のタイプ
⑤プロジェクトがもたらすユニークなベネフィット
こうして“エレベーターピッチ”を作成したら広く共有する。たとえば、あなたのデスクの横に看板のように掲げるのもよいし、Slackのようなチャットツールでグループの概要に入れておいてもよい。
一方、プロジェクトチームの成功は、メンバー同士の信頼関係によって左右されるが、メンバー間で個人レベルの密接な関係が構築されるまでには相応の時間がかかる。その時間を可能な限り短縮したいと考えるのであれば、プロジェクトの初期段階においては、メンバー全員が集まり、仕事以外の会話を弾ませる機会を意図的に設けることが大切だ。また、プロジェクト会議の最初の5分間を、必ず、全員の緊張を解くための他愛のないQ&Aに費やすようにするのも効果的である。
そして、プロジェクトの始動から1週間以上が経過したのなら、30分程度の時間を割き、チーム内ルールの策定と合意形成に使うことをお勧めしたい。
具体的には、メンバー全員を招集して「お互いに何を期待しているか」といった考えやアイデアをフリーに交わさせ、チーム内の規範へと収斂(しゅうれん)していく。こうすることで、例えば、「相手の意見を聞くときには、常に前向きな意図があると仮定する」といったルールから、「“ヘッドホンの着用”は“邪魔しないで”のサインである」といった細かなルールまでが決まっていくのである。
ゴールの調整
クロスファンクショナルチームのメンバーは、それぞれが異なる部署に所属し、本来の業務も、本来の上司も、プロジェクトとは違うところにある場合が多い。そのため、メンバーが所属する各部署とプロジェクトとの間に摩擦(まさつ)や軋轢(あつれき)が生じる恐れがある。
そこで重要になるのが、メンバーの直属の上司たちに対して、プロジェクトの意義を深く理解してもらうことである。そのうえで、メンバーの仕事の優先順位に関して、しっかりとしたコンセンサスを確立しておくことが不可欠と言える。これによって、プロジェクトメンバーは、自部署の仕事とプロジェクトの仕事のどちらを優先させるかで思い悩む必要がなくなり、プロジェクトの目標達成に向けて全力を傾けられるようになる。
ちなみに、アトラシアンのプロジェクトチームは、「ゴール」「シグナル」「計測」という3つのテクニックを使い、プロジェクトの目標設定や成否を判断している。ここでの“キモ”は、「どんなタスクを遂行したか」ではなく「どんな成果を上げたか」にフォーカスを絞っていることである。
一方、プロジェクトを推進する過程では、必ず何らかの“衝突”が発生する。ヒトは“衝突”が発生すると、本能的にそれを終息させようと必死になり、妥協の道を選ぼうとする。ただし、プロジェクトのゴールやスコープに関する意見の相違や論争が、メンバー間の誤解の解消や相互理解の深化につながっていくことは珍しくない。したがって、意見の食い違いや論争が発生しても、それらが建設的で前向きなものであるならば、“発展の糧(かて)”として受け入れることが大切である。また、建設的な異論が目に見えるかたちで出されるのは、組織が健全な証拠でもある。
その逆に、物事に対する反対意見や異論がまったく聞こえてこない組織は、大勢とは異なる考え方や問題提起を抑え込もうとする圧力が働いていると考えたほうがいい。そうした圧力が強すぎる組織は、かのエンロン社のような運命をたどりかねない。
もちろん、チームメイト同士の衝突が、チームから生産性を奪うまでに発展した場合には、マネージャーに事態の収拾を任せるしか手の施しようがなくなる。またそれは、あなたがチーム内でハラスメントを受けたり、不当な扱いを受けたりした場合も同様である。このような問題が起きるのは、チームではなく、人事のあり方に原因があると考えるべきである。
プロジェクトチームの内外と密接に対話する
社会的な規範に従うための一環として、プロジェクトチーム外のスタッフともプロジェクトに関して意見を交わす機会を設けることが重要である。
こうした社内の対話/意思疎通の手段として、メールを一切使わず、チャットやドキュメント共有、そして超高速リアルタイムコミュニケーション手法(つまりは対面での対話)を活用しているチームがある。一方で、チームドメインのメールのインボックスをプロジェクトのオフィシャル情報の収集・格納場所として使っているチームもある。
いずれにせよ、クロスファンクショナルチームではメンバーが複数のオフィスや遠隔地に分散している場合がある。そのようなチームには、グループチャットを使い、メンバーに対する情報伝達に漏れがないようにすることを強くお勧めしたい。
また、日々のチーム活動の同期性を重視するのであれば、毎日の「スタンドアップミーティング」をお勧めする。チームのメンバーで輪を作り、遠隔にいるメンバーは、Web会議のツールを通じて参加させる。そして直近の進捗について報告し合えば、極めて効率的に日々の情報が共有できる。というのも、立ったままでの会議では、誰もが自分の情報を簡潔に伝えようとするからだ。おそらく日々の状況報告だけであれば、10分以内にミーティングの目的が果たせるはずである。
コミュニケーションをとる相手としては、ステークホルダーの存在も忘れてはならない。プロジェクトが長くなればなるほど、あるいは高度になればなるほど、ステークホルダーとどのようにコミュニケーションをとるかの計画が重要になってくる。この計画をしっかりと立てることで、ステークホルダーに不必要な不安を与えずにすむようになる。また、ステークホルダーに進捗を報告できる機会を得ることは、チームのメンバーにとっても歓迎すべきことと言えるのである。
継続的な改善努力を払う
ときとして、プロジェクトに大きな問題に発生する場合がある。そのような場合も、パニックを引き起こすことなく、チームの全員を集めてプロジェクトを振り返り、問題原因を突き止め、改善の方法を探し当てることが重要である。
このような場面では、問題がなぜ発生したかをメンバー全員で自問することから始める。
例えば、発生した問題が、「設定したマイルストーンに計画どおりにたどりつけなかった」というものだったとしよう。その場合には、「なぜ、そのような事態に陥ったのか」を自問する。結果として、他チームである「チームX」から素材が提出されなかったせいであることが判明したならば、今度は、「なぜ、チームXは提出できなかったか」をを考える。
このようにして、「なぜ」の自問を5回ほど繰り返していけば、大抵の問題は、その根本原因を突き止めることができ、問題解決の適切な方法を導き出すことができるのである(これは、『5 Whys』の手法と呼ばれる)。
ここで留意すべきは、問題の根本原因を突き止めることを、責任転嫁の相手(スケープゴート)探しにすり替えないことだ。上の例で言えば、「チームX」をスケープゴートにしてしまう恐れがある。ただしそれは、チームとして絶対にしてはならない過ちと言える。問題の根本原因の究明は、あくまでもプロジェクトの改革/改善のためにあるのである。
また、作業の振り返りは、アドホックに組織されたプロジェクトチームにとって失敗予防の妙薬となりうる。例えば、2~3週間に1回の頻度で振り返りを行えば、深刻な事態に発展する前に問題の存在に気づき、解決の一手を早期に講じられるようになる。
望まれるリーダーになる
すべてのプロジェクトチームは、チームの“トーン”を定めて、優れた文化を根づかせ、かつ、メンバーを信頼して、すべて任せてくれるようなリーダーを望んでいる。あなたに、プロジェクトマネージャーになる意志があるかどうかは分からない。ただし、その意志がどうあれ、あなたが、プロジェクトを実質的に、かつ精神的に牽引する立場へとステップアップしたならば、プロジェクトにおけるすべてのメンバーの作業は、よりスムーズで心地のよいものになるはずである。また、そうなれば、あなたの将来的なリーダーとしての地位は約束されたのと同然と言える。
ともすれば、あなたは明日にでも、何らかのプロジェクトチームに組み入れられるかもしれない。そのときに、自分にアサインされたタスクや締切りだけに気をとられるのではなく、メンバーたちの人間的な側面に目を向けてみてはいかがだろうか。そうすることで、チームのパフォーマンスを最大化する方法が見えてくる可能性が高いのである。