出始めた週休3日制のパイオニア
週休2日という西洋社会の習慣が世界へと広がり、ビジネスの領域でも、週5日勤務がグローバルスタンダードになっている。今日では、世界のビジネスパーソンの誰もが、その働き方に違和感を抱いていないはずである。
ただし、週休2日は、絶対的なルールではなく、週休2日を3日に変更しても、それで収益が維持できるのであれば、企業としては特に問題はない。実際、週休3日制へと移行した先進企業(パイオニア)の例がいくつも出始めている。
例えば、ニュージーランドの金融サービスファーム、パーペチュアルガーディアン(Perpetual Guardian)社では、“フルタイムワーク”の社内規定を週40時間勤務から週32時間勤務へと切り替えた。社員の給与を変えずに、週休3日制へと移行したのである。
同社がこの移行に成功したポイントは2つある。1つは、社員たちが、自分の仕事を棚卸しして、価値が低いと思われる仕事をすべて切り捨てたことだ。もう一つは、社員全員が就業時間中での「無駄話」を自ら禁止にしたことである。
もちろん、パーペチュアルガーディアン社のようなケースは、あくまでも“レア”であって、決して一般的ではない。大多数の企業は伝統的な週休2日制を敷いている。また、業務内容によっては週4日勤務よりも週5日勤務のほうがいい場合もある。
とはいえ、大半のビジネスパーソンは、給与が下がらずに週休3日に移行できるなら、それに越したことはないと考えるはずである。
では、どのようにすれば、給与を下げずに週休3日を実現することができるのだろうか。また、週4日勤務にはどのような問題を内包しているのだろうか。
以下、その辺りを掘り下げていきたい。
週4日勤務は本当に正しい選択なのか?
週休3日への移行を図ろうとするとき、最初に踏むべきステップは、自分の仕事と職務、そしてライフスタイルから言って「週4日勤務が本当に正しい選択なのか」を検討することである。
例えば、そもそも毎週3日もの休暇をもらって、どう過ごすのかという問題がある。
私の同僚でアトラシアンのファイナンスチームで働くリサ(Lisa)は、週4日勤務を採用している。そんな彼女に休日の過ごし方を尋ねると、答えはこうだった。
「子供が幼稚園に上がる前は、子どもと過ごす時間に当てていて、子どもたちが全員小学校に行き始めてからは、休日1日を家事全般に当て、土日はフルエンジョイ。すばらしく快適です」
もちろん、週3日の休みがもらえれば、旅行に当てたり、趣味のプロジェクトに当てたりと、さまざまなプランを描くことができる。
いずれにせよ、働き方を週休3日にする目的や、週3日の休みをどう使うかのプランを明確にしておくことは非常に大切である。というのも、現行の給与を下げずに週休2日から週休3日(=週4日勤務)に移行しようとした場合、1日の勤務時間が8時間から10時間になるのが通常で、それを毎週4日間続けていくだけの体力と精神力を保つには、相応の目的と情熱が必要になるからである。
要するに、週休を3日にする目的が不明確で、3日間の週休について「まあ、のんびり過ごそうかな」といった程度の計画しか持っていないのであれば、週休3日への移行は考えないほうが得策と言えるのである。
なお、前出のパーペチュアルガーディアン社は週32時間勤務を標準にしたが、これはあくまでも例外的なケースと考えたほうがよい。
週休3日の働き方「圧縮された週労働時間」を知る
週休3日を実現する働き方として「圧縮された週労働時間(コンプレストワークウィーク)」というものがある。これは、上述したような週4日/1日10時間労働を指す言葉で、「4/10スケジュール」とも呼ばれている。
すでに述べたとおり、週4日/1日10時間労働を続けるのは、なかなか大変で、それに挑むには相当の覚悟がいる。また、そもそも自分の職務が何であるかも問題になってくる。
例えば、顧客サービス担当やセールスパーソンの場合、顧客の都合・勤務時間・ライフスタイル、そして顧客と交わしたSLA(サービスレベルアグリーメント)などに沿ったかたちで、自分たちが働く時間帯や曜日を調整しなければならない。そのため週4日勤務は、不可能ではないが、実現にはいくつものハードルがある。
同様に、複数のプロジェクトを横断的に見ているディレクターや会社の上層部にとっても、移行は難しいと感じるだろう。というのも、彼らが週4日勤務へと移行することで、各種の承認ごとやミーティングの開催が滞り、会社の動きが鈍る恐れがあるためだ。したがって、少なくとも、社外からの承認や会議への参加が電子的に行えるような仕組みを整えておく必要がある。
さらに、週4日/1日10時間労働への移行によって、以下のような問題も頭をもたげてくる。
- 毎日の子どもの送り迎えが難しくなる。
- 自宅における家族との毎日の夕食がとりにくくなる。
- 営業日におけるリフレッシュの時間が短くなる。
週4日/1日10時間労働への移行は、こうした問題を乗り越えながら、週3日の休みを定常化させる取り組みなのである。
上司の承認を得るカギは「Win-Win」
実を言えば、週休3日への移行をスムーズに行う究極的な方法は、自分の仕事を変えてしまい、それと連動させたかたちで週4日/1日10時間労働のスケジューリングを行うことである。この点に関して、前出のリサはこう話す。
「私が週4日勤務を上申したとき、仕事を辞める覚悟で、『私が週4日勤務に切り替えることで、会社のビジネスに悪い影響が出ると思うなら、申請を却下してもらって構いません』と言ったんです。結局、上司は、『いや、大丈夫。週4日で行こう』って言ってくれましたけど」
もし、仕事を変えることなく、週4日勤務を望んでいるのであれば、自分の上司とチームの同僚との良好な関係を築いておくことが何よりも重要だろう。たとえ、上司が週4日勤務を認めたとしても、チームの同僚たちが、それをサポートしてくれなければ、週4日勤務がうまく回ることはまずありえないからだ。
「週休3日に対する真の支持を獲得するには、週4日勤務への移行後も、最低1年間はこれまでと同じ仕事を続け、周囲の期待を上回るパフォーマンスを発揮し続けることが大切です」と語るのは、ワークオプション(WorkOptions)社の創業者、パット・ケイトポー(Pat Katepoo)氏だ。
同氏によれば、週休3日を上司や周囲に認めさせるには、力強い提案が不可欠であるという。
「要するに、週休3日への移行後も、自分のパフォーマンスを落とさないこと、そして、パフォーマンスを維持・向上させる意志があることを、提案書で明確に示す必要があるということです。それを実践した私の顧客は、90%が上司からの承認を得ることに成功しています」
では具体的に、週休3日の提案書には、どのような項目を盛り込むべきなのだろうか。以下はその項目である。
- 働く曜日と時間帯
- 休暇時/災害時の緊急連絡先
- チームメイトとの仕事のシェアリングや組み替えに関するビジョン
- チームに与える効果
上記の項目のうち、最も重要なのは「4」である。ここで言う「効果」としては、例えば、「自分がアドホックに休暇を取る回数が減り、チームメイトと自分とのコラボレーションがより円滑になる」「仕事に対する自分の集中度や意欲、創造性が増し、チームにより大きく貢献できる」「チームメイトとの仕事のシェアリングによって、新しいスキルが習得できる機会や仕事に対する責任感が増す」といったことが考えられる。
このように、週休3日の提案書には、自分にとってのメリットだけではなく、チームにとってのメリットを明確に示すことが大切である。
かつてないハードさで仕事に取り組む
週4日/1日10時間労働の実践では、よりスマートな働き方が求められ、かつ、かなりハードな働き方も必要になってくる。この「スマートさ」と「ハードさ」を維持しながら、週4日間、従来よりも2時間長く働き続けるというのは簡単なことではない。仕事の優先順位づけをすばやく行い、自分の時間をしっかりと管理して、仕事のペースを守っていく──。想像しただけでも冷や汗が出そうである。
だからこそ重要になってくるのが、月ごと、四半期ごとの目標を明確に定めることであり、そのときに便利に使えるのが目標設定のフレームワーク「OKRs(Objective and Key Results)」である。
この手法を用いて自分の目標と、目標達成の進捗度合いを測る指標を明確にしておくことによって、すでに計画済みの仕事や、自分が「やります」と答えた未計画の仕事について、正しい優先順位をつけていくことが容易になる。
仕事の優先順位づけを終えたのちには、カレンダー(スケジュール)を整理し、その“衛生状態”を正しく保っていかなければならない。
例えば、週5日勤務から4日勤務に変更すれば、おそらく、会議予定を週当たり1つか2つは変更する必要が出てくるはずである。
この変更は少し面倒な作業だが、見方を変えれば、無意味な会議をスケジュールから追い出す好機とも言える。そのチャンスを活かして、スケジュールから不要な会議を削除してしまえば、その分の時間を、長期的に取り組む、より重要でディープな仕事に振り向けられるようになる。
おそらく、そうした仕事に取り組む時間として1日のうち90分~2時間は確保しておきたいと考えるはずである。その貴重な時間が、都度発生するアドホックなミーティングで壊されないよう、いったん時間を確保したら、それをブロックしてしまうのが得策だ。
また、週4日のスケジュールを立てるうえでは、同僚とのカジュアルなチャットやコーヒーブレイク、ランチに割いている時間がどの程度かも気にとめる必要がある。
繰り返すようだが、週4日/1日10時間労働においては、1週間分の総労働時間は、週5日勤務のときと変わらない。ただし、毎週の休日が1日増えた分、仕事のデッドラインまでに“職場で働ける日数”は確実に少なくなる。それだけに、1日の勤務時間は、以前とは比べものにならないほど貴重になると言える。
とはいえ、自分の仕事ばかりに集中しすぎても身が持たず、そのような働き方は周囲との良好な関係を維持するうえでも問題がある。結局は、心構えの問題で、時間管理の意識を強く持ち、職場においてもオン/オフのほどよいバランスを見出すのが大切である。この点に関して、前出のリサはこう話してくれた。
「週5日勤務のときとは違い、今では、ひたすら仕事に集中していますね。でも、チームで仕事をしている以上、人との関係を保つことも大切で、そのための時間もちゃんと確保しています。いくら仕事が忙しいと言っても、超多忙なせいで、まったく身動きが取れず、同僚と雑談をしたり、コーヒーを飲みに行ったりすることが一切できない、なんて状態ではないですから」
ダメだとわかったから迷わず元に戻す
以上のとおり、週休3日への移行は簡単なことではない。もし、あなたが、会社の中で、挑戦者の最初の一人になろうとしているならば、成功への道のりはなかなか険しいと言えるかもしれない。
その困難を乗り越えるうえでは、上司との「1 on 1(1対1)」のミーティングが有効なはずである。最近になって、数カ月に1度のサイクルで、上司と部下が1 on 1ミーティングを行う会社が増えているが、こうした機会を活用し、オープンに問題解決のすべを上司と探していけば、適切な答えが見つけられる可能性がある。
またもう一つ、週休3日を実践する中で大切なのは、自己評価である。
まずは、自分の仕事について、週休3日への移行前と移行後を見比べながら、良くなっているかどうかを自問する。と同時に、週1日の休暇の延長が、自分にどんな価値をもたらしているかを吟味する。さらには、自分の社会生活や家族生活に、マイナスの影響が出ていないかどうかを確認する──。そのひとつひとつが大切である。
そしてもし、週休3日が、あなたの夢の達成に貢献しえないことが判明したときには元の標準的な勤務形態に戻すことをお勧めしたい。
週休3日そのものには価値はなく、人がそれを実践し、何らかの結果を手にして初めて価値が生まれる。その意味で、週休3日で成功しても、失敗しても、そこから学び、その学びを同僚たちと共有することが大切で、それによって、あなたの挑戦はチームの財産となりうるのである。