アトラシアンには、働き方改革のエキスパートが多くいる。その一人が、ワーク フューチャリストのドム・プライス(Dom Price)だ。彼は企業組織のリーダーに向けて、変革のためのメッセージをコラム形式で発信し続けている。この連載では、そのエッセンスをお伝えしていく。

こんな上司はイヤだと思ったとしても……

悪い上司は、職場において非常に面倒な存在で、あなたのキャリア形成にも悪影響を及ぼす。また、あなたを気に入っているふうを装いつつ、すぐに新たなお気に入りをつくるような「嘘つき上司」もよろしくない。さらに最悪なのは、いきなり部下たちの元にやってきて、部下の仕事のすべてを否定し、何の後始末もせずに、さっさと立ち去るような上司である。米国では、この手の悪い上司を「Pigeon Manager(ピジョンマネージャー)」、あるいは「Pigeon Boss(ピジョンボス)」と呼んでいる。

一方、あなたの上司が、「嘘つき」でなく、「ピジョンマネージャー」でもないとしても、それだけで、その上司が有能であるとはかぎらない。

私は、数百に及ぶ企業のチームと仕事をともにし、それを通じて「存在意義がほとんどないリーダー」や「効果がまるでないリーダー」と数多く出会ってきた。

こうしたリーダーがチームに与えるダメージはさまざまだが、大きくは「説明責任の欠如」「相互信頼の欠如」「目標の不明確さ」の3点に集約することができる。例えば、以下のような徴候がチームに見られたら、それは上司に問題があると考えたほうがいい。

  1. チームに、何らかの質問が投じられたときに、メンバー全員が互いの顔を見合わせて、誰かが答えてくれるのを待っている。
  2. 上司が、チーム内のすべてのメール/チャットに、自分を「cc」を入れることを望み、すべての会議に自分を参加させるよう命令する。
  3. チームのメンバーは、自分が「何をすべきか」を知っているものの、「なぜそれをしなければならないか」は分かっていない。

そしてもし、あなたの上司が本当にダメな上司であるならば、上記のような状況をあなたが正そうとすると、あなたを「無視する」か「叱りつけるか」のいずれかの反応を示すはずである。

だがもし、上司を除いて、仕事のすべてを気に入っているとすれば、どうだろうか。このような場合は、上司問題で自分のキャリアを犠牲にしたり、ほかの健康的なチームとの関係を断ち切ったりする必要はまったくない。

では、どうするのが正解なのか。答えの一つは、上司に逆らって働くのではなく、ダメ上司がもたらす災難を回避しながら働くことである。そのために役に立つ手法を紹介しよう。

建設的な意思決定を促す

「説明責任」の欠如という問題は、チームにおける意思決定の仕方に起因していることが多い。こうした問題を回避する一手は、建設的に物事を進める手法を提案することである。

例えば、「DACIフレームワーク」は 意思決定の影響範囲が広い場合に、建設的な判断を促すうえで有効なフレームワークである。それを簡単に説明すると以下のようになる。

  1. D:DACIの「D」とは、意思決定を「ドライブする人」──つまりは、意思決定の「ドライバー(Driver)」を意味する。このドライバーは、意思決定が適切なタイミングで下されることに責任を持つ。
  2. A:DACIの「A」とは、意思決定の「承認者(Approver)」を意味する。承認者の数は一人であることが望ましい。
  3. C:DACIの「C」とは、意思決定に関与する一人、あるいは複数の「コントリビューター(Contributors)」 を意味する。コントリビューターは、意思決定の主題に関する専門家として助言や提案を行う。
  4. I:DACIの「I」は、「報告先(Informed)」を意味する。意思決定の結果によって何らかの影響を受ける全員は、意思決定についての情報を均しく共有していなければならない。

多くの場合、あなたの上司が、上で言う“承認者”になるだろう。そのため、上司が悪い上司の場合、“ドライバー”の役回りを演じるのはなかなか難しい。だが、そのドライバーシートに座ることをためらってはならない。

問題の根本原因を分析する

何らかの問題が発生したときに、常に問題の根本原因を分析するようにすれば、悪い上司による“スケープゴート探し”に待ったをかけることができる。

問題の根本原因の分析には、「なぜ」のテクニックを使うのが有効である。

このテクニックはシンプルで、関係者全員を集めて、「なぜ、それが起きたのか」のブレストを行うだけである。ポイントは、「なぜ、それが起きたのか」の答えに対して、再度、「なぜ、そうなのか」を繰り返すことだ。その作業を、最初の「なぜ」を含めて5回ほど繰り返せば、関係者全員が問題の根本原因を理解するようになる。ゆえに、このテクニックは、「5回のなぜ(Why 5)」の技法とも呼ばれる。

このとき、絶対に排除しなければならないのは、人の失敗を攻めるばかりで、問題発生の根本原因を突き止めようとしない状況である。例えば、あなたの会社のWebサイトがダウンしたとする。そして、そのダウンの原因が、ある技術者によるバグコードのアップロードだったとしよう。このとき、その技術者を攻めたてたところで何も生まれない。チームでなすべきことは、そのようなミスを引き起こした根本原因がどこにあるかを突き止め、同じ問題が二度と起こらないような対策を講じることである。

プロジェクトのオーナーシップを確立する

チームの中には、プロジェクトのオーナーやヘッドを指名する習慣を持たないところがある。もし、あなたのチームがそうならば、即刻、プロジェクトのオーナー/ヘッドを必ず立てる習慣を身につけるべきである。もちろん、プロジェクトオーナーはあなたの上司である必要はない。

プロジェクトのオーナーやヘッドを立てることで、プロジェクトはスケジュールどおり、予算どおりに進むようになる。そして、プロジェクトの成果についても、期待どおりのものとなる可能性が高まる。

もちろん、プロジェクトオーナー/ヘッドは、ソリューションの設計に関して重要な役割を演じなければならず、また、プロジェクトに関する日々の意思決定について大きな権限を持っていなければならない。

信頼の置けるブレーンを獲得する

悪い上司は、部下であるあなたのアイデアを信用しない。また、オープンなマインドで、あなたのアイデアに耳を傾けようともしないだろう。

ただし、あなたの周囲には、あなたに信頼を寄せ、アイデアに協力してくれる人がいるかもしれない。したがって、何らかのアイデアを想起したならば、悪い上司に直接相談するようなことはせず、ピクサー・アニメーション・スタジオ社(ピクサー)の成功で有名になった、あるテクニックを使うことをおすすめしたい。このテクニックもシンプルで、アイデアを数多くの同僚やリーダーたちに伝え、フィードバックを請う(アイデアを共有するリーダーたちの中には、悪い上司も必ず含ませておき、不要な波風を立たせないようにする)。

アイデアを共有した同僚やリーダーたちは、アイデアの実行には直接的なかかわりを持たないかもしれない。それでも、アイデアに対する彼らの意見を常に尊重すること、そして、アイデアの実行プロジェクトを通じて、ブレーンとして機能して欲しいことをしっかりと伝えれば、さまざまなフィードバックや協力が得られる可能性が大きくある。

なお、ピクサーは「悪い上司対策」として、このテクニックを使っているわけではない。ただ、このテクニックは、上司との信頼関係のない部下が、アイデアを洗練させ、実行に移すためのテクニックとして有効なのである。

1対1のスパーリングを行う

ここで言う「 スパーリング」とは、「戦い」を意味しているわけではなく、訓練──つまりは、プラクティスを意味している。信頼の置ける「スパーリングパートナー」を見つけて、あなたのアイデアや現在進めている仕事に対して建設的なフィードバックをもらう。

ここで言う「スパーリング」とは、「戦い」を意味しているわけではなく、訓練──つまりは、プラクティスを意味している。信頼の置ける「スパーリングパートナー」を見つけて、あなたのアイデアや現在進めている仕事に対して建設的なフィードバックをもらう。

このスパーリングを行う際には、数名のスパーリングパートナーを指名して集めてセッションを行う。スパーリングパートナーに指名した相手には、あなたの仕事やアイデアを率直に批評ししたり、より良い方向へ導く建設的な意見を出したりすることを強く求めることが肝心である。

また、スパークリングはプロジェクトの早い段階で行うほうがよい。そうすることで、フィードバックの取り込みが容易になり、プロジェクトの見直しによって多くの手戻りが発生するリスクも回避できる。

OKR」を取り入れる

四半期ごとに、1つ、ないしは2つの高次な目標を定めて、計測可能な指標によってその成果を確認するのも、自らのパフォーマンスを自ら高める効果的な手法だ。これは、「 OKR (Objective Key Results)」のテクニックと言えるもので、例えば、「顧客ロイヤルティを改善する」という目標を定めたのであれば、その成果を「自社ブランドに対するソーシャルメディアでの肯定発言数5%増やす」や「顧客の解約率を10%下げる」といった指標によって計測していく。

OKRは、あなたが仕事をしていくうえでの指針となるものだが、目標と成果に対する承認は上司から得なければならない。その承認を得る際には、以下のようなメモを付記したうえで、自分のOKRを上司と共有するとよい。

──もし、あなた(=上司)が、私に他の目標を課すことを考えていないのであれば、この目標の達成が、私の最優先事項となります。

「トレードオフスライダー」を取り入れる

「トレードオフスライダー」とは、単一のプロジェクトにおいて、成すべきことの優先順位を決めるための手法である。

まず、あなたのチームメイトとともに、プロジェクトのコスト、対象範囲(スコープ)、タイミング、品質、セキュリティ、ユーザー満足度など、最適化が可能と思われるものをすべて洗い出す。そのうえで、各事項に関して「スライディングスケール」を描き、それぞれの改善の柔軟性について確認していく。

こうすることで、プロジェクトの何と何が、どのようなトレードオフの関係にあるかが明確になる。例えば、商品の納期を短くすればするほど、スコープが狭められ、品質も犠牲になるといった具合である。

こうしたトレードオフの関係が把握できると、プロジェクトにおいて何を優先すべきかの合意形成がしやすくなる。その合意が形成できると、チームの各メンバーはプロジェクトに関する日々の意思決定を、自信を持って下せるにようになり、ほかのメンバーとの歩みもより力強いものとなる。

悪い上司があなたのキャリアを台無しにする前に

悪い上司というのは、チームやあなたの健全性(健康状態)に害を及ぼす、とても危険な存在であり、あなたのキャリアが台無しになる恐れすらある。

悪い上司がいるチームでは、あなたを正しい道に導いてくれる指導者は存在せず、あなたが、自分の能力をフルに活かすチャンスを得ることも、そのための信用を勝ち取ることも難しい。そして、あなたが成長を止めている間に、世界がどんどん成長していき、時代から置き去りにされてしまうリスクもある。

加えて言えば、悪い上司のいるチームは、当然、メンバーの士気が低下する。仕事の優先順位についても矛盾が多くなり、それによって各メンバーの仕事の進捗は負の影響を多く受ける。また、間違った情報や不正確な情報をもとに仕事をさせられることが増え、フラストレーションをためたチームのメンバーたちは、そのはけ口を互いに求めるようになる。

この問題の行き着く先は、結局のところ、上司に対する憤懣をより上位のマネジメントや人事にぶつけるかどうか、ということになるだろう。ただし、企業の文化・状況は各社各様で異なるので、どちらを選ぶのが正解かの画一的な答えはない。また、そもそも、あなたには悪い上司からチームを救う義務もない。

とはいえ、少なくとも、悪い上司の下で蓄積されたフラストレーションを解消したり、ねじ曲げられそうになっている自分のキャリアの軌道を修正したりする必要はあるだろう。それを可能にするのが、上に述べたテクニックであり、手法である。ぜひ、参考にされたい。

This article is a sponsored article by
''.